小説内だと真冬も真っただ中ですけど。現実と小説の季節のラグがすごいことになってますが気にせず投稿です。
幼少の頃に通っていた懐かしい場所、白玉楼は昔の記憶通りの陰気臭い場所のままだ。目の前の女性、西行寺幽々子も昔と姿は変わらない。彼女は白玉楼にて幽霊を管理する立場にいるが、管理する彼女自身も幽霊なのだから姿形が変わらないのは当たり前ではあるけど。彼女自身はこの陰気な白玉楼とは真反対の性格で、陽気で気まま、大食いという生命力にあふれた幽霊だ。
昔はことあるごとに空腹を訴え、俺と妖忌さんをいつも困らせていた。和食のレパートリーが豊富なのはその時のおかげではあるのだが、感謝はすることはあってもあの頃に戻りたいとは思わない。料理のし過ぎ包丁の握りすぎでマメはできるし腱鞘炎にもなりかけたからな。もうあんな四六時中料理漬けの毎日はこりごりだ。
とりあえず先程のお腹すいた発言は無視しておこう。俺の精神衛生上大量の料理を作るのは本当にやめていただきたい。あの頃は妖忌さんもいて二人でやれていたが、ここにいるのは周囲を見渡しても俺と幽々子さんだけ。成長しているとはいえ俺一人ではとても幽々子さんを満足させることはできないだろう。
「お久しぶりですね、本当。お元気でしたか?」
「お気遣いどうもありがとう。私は相も変わらず、といったところかしら?妖夢は成長して沢山のモノを身に着けるようになったけれど、何かを失うほど変わったわけではないわ。貴方もお変わりなかったかしら?」
「見ての通り、身長は伸びましたけど、性格はそれほど変わってないと思います。元気にやってますよ」
再開の挨拶もそこそこに白玉楼、お屋敷の中にお邪魔する。今までいた外も懐かしいが屋敷内はさらに懐かしい。玄関も、そこから続く幅広い廊下も、庭を一望できる縁側も、幽々子さんが良くお食事なさる広間も、柱の一本一本でさえ懐かしい。
だが昔を懐かしんでばかりもいられない。
「で、なんで俺はここに連れてこられたんですか?」
「ここって?白玉楼のこと?それとも台所のこと?」
「白玉楼の方ですよ。台所に連れてこられる意味くらいは察することはできます」
そう、突然何の脈絡もなく、本人や周囲の人の了承もなく連れ出されたのは紫や幽々子に何らかの原因や思惑があってのことだ。おそらく今回の異変が関係していることだろう。春の到来が遅いだけ、西行寺幽々子と再会させたかった、または博麗白鹿と再会したかっただけだとは思わない。寧ろそんな理由はないだろう。俺の誘拐を決行した紫は意味もなく俺達が嫌がるようなことはしない人だ。ここに連れてこられたのは何か意味があるはずだ。
「さあ?私は何も知らないわよ?」
「さあって……。紫から何も聞いてないですか?」
「うーん……「預かってて」くらいは言われたけど、それくらいよ?」
「何もわからないわ、それだけじゃ…………」
手がかりが何一つ出てこない。まあ探偵でもなくおつむの回転もそこまでよろしくない俺が手がかりを見つけようとするのは、世の中の探偵業務に勤しむ方々には稚拙に見えるだろうし、なんなら手がかりがあっても見落としてそうだけどな。
どうやら俺にシャーロックホームズ役は大役すぎたらしい。ホームズ役は直感で真相を導き出す霊夢に任せるとして、暇人な俺は何をするべきだろうか?特殊な能力も技能も持たない俺にとってできることと言ったら家事全般くらいだろう。掃除は見た限り行き届いてるし、洗濯も問題なさそう。台所周りもきれいだし、どうしたものか。勝手知ったるといっても他人の家だから、頼まれてもいないのに家のあれこれをするのは今現在この屋敷を切り盛りしている妖夢に申し訳ない気がする。いや、頼まれたら張り切ってやるんですけどね?
「さてどうしたもんか………」
「あら、暇になったのかしら?それなら一皿お出ししていただけないかしら?」
「一皿って言っても大皿ででしょう?それでも満足しなさそうですけど?」
食事をする所作は貴族の美しさを醸し出しているものの、食べる量は
「全く失礼しちゃうわね。お腹がすいたから作ってほしいのではないわ。ただ貴方の腕前がどれほど上達したのか確認してみたいじゃない?」
「上達って言われましても、俺が作るのは家庭料理が主で、料亭で出てくるような繊細な味付けはできないですよ?精々が大衆居酒屋の一品料理ですね」
ちなみに最近作った大衆料理は甘酒とお汁粉。毎年博麗神社に態々お参りに訪れてくれる参拝客にお気持ち程度のお値段で振舞っているのだ。霊夢の方はお守りやお札、破魔矢などを売りながら俺が作ったモノを口にするのが毎年恒例となってきている。
「お上品な物ばかり口にしているわけではないことは知っているでしょう?何ならお味噌汁でも構わないわ。家庭の味ってやっぱり色々と差があるもの」
「そう言って普通のご飯が出てきてもがっかりしないでくださいよ?何年も料理しているからといっても、上達するのは味じゃなく、調理の速さとか献立を考える能力だとか、栄養がきちんと摂れるかを考える能力なんですから。味は好き嫌いがありますし、万人受けにするのなら努力と人員が必要でしょうし」
「そんなに身構えなくても、命なんて取らないんだから、気軽に手軽に作ってくださいな」
気軽にと言われても、調理中も待ってるのは暇だからと、後ろで調理風景を眺めながらお喋りに興じる気だろう。霊夢とか魔理沙に見られながら作ることには慣れているため緊張することはないのだが、幽々子さんに見られながらとなると若干だが緊張…………しないわ。思い返してみれば、昔もよく台所に俺たちを覗きに来てたし、居座って煎餅食べて茶しばいてたこともあったから、緊張するのも馬鹿らしく感じるようになってったんだわ。
「材料と道具はどこにあります?」
「少しは変わってると思うけれど、基本的な場所は昔と大きくは変わってないはずよ。妖夢にとっても使いやすい配置だったんだと思うわ。あの子思い出や気持ちよりも実用性に重きを置いているから」
「了解です。それならやりやすそうです」
それなら助かる。ここで調理することなんてもう十年近くしてないけど、幼少期の濃密な時間をここで過ごしていたため、ほぼ完璧に覚えている。思い出せないことも調理を始めれば体が勝手に動き出すだろう。
料理は何を出すか、となると幽々子さんの要望は特にないそうで、肉でも魚でも、こってり系でもあっさり系でも本当に何でもいいようである。好き嫌いがないのはいいことだけど、こういう時何も要望が出ないと困るんだよなあ。
「なんでもいい」系の料理のお題はとにかく面倒臭い。適当な料理を出しても「美味しいけど別のものが食べたかった」とかな。前半だけでいいのに後半も言うもんだから悲しくなるんだよ。何が食べたかったのか聞いても、特に食べたいものはないなんて回答が返ってくるもんだから、本当にどうしようもない。お前の直感でもっと詳細を感じ取れるようにしてもらいたいとあの時は切に思ったな。
うん、なんかもうどうでもよくなってきた。簡単だしアレンジもしやすい、お茶っ葉もそれなりのものを常備しているだろうし、何よりそろそろお天道様も天辺から西に傾き始めているから、手短にかつ俺も片手間に食べれそうなものだし。
まずはお米を研いで炊く。炊いてる間に浅漬けを置いてあった大根で作る。漬けてる間に水を弱火でじっくり沸騰させる。お米は火加減を時々見るが、時間が空いたのでもう一品追加、まあ一品てほどでもないけど。お米が炊き終わり追加の一品とお茶漬け用のお茶も問題なし。手を冷水で冷やした後に片手に乗る量の米を手に取り握る。所謂ただのおにぎりである。
「幽々子さんも作ります?おにぎり」
「んー、楽しそうではあるのだけれど、今回は久々の貴方の料理だし、邪魔せず眺めてるだけにするわ」
「わかりました」
二つ三つ四つと炊いたご飯がなくなるまでお握りを量産する。作り終わったら次は鉄板に気持ち多めに油を敷いておにぎりを並べて焼く。ほんの少し焼けたところで醤油を隙間を埋めるようにかけて、裏面も同様に焼く。おにぎりを半分くらい焼いたところで、今度は焼く前におにぎりの表面を味噌で薄く色がつくくらいに塗って先程と同じように焼いていく。
醤油と味噌の焼けた香ばしい匂いが食欲を刺激するがまだ完成していない。同じ味のおにぎりを二つお椀に入れてお茶で浸す。小鉢には浅漬け、湯飲みには摩り下ろした生姜と一匙の蜂蜜を入れて、お湯を注げば、焼きおにぎりのお茶漬けに季節野菜の浅漬け、生姜湯の完成だ。朝一で体温が低下しているときでも今みたいに小腹が空いているときでも、米が炊けていたら結構すぐに作れてお薦めだ。
「お待たせしました」
「お待ちしてました。……これお茶漬けよね?早く帰らせろっていう意思表示なのかしら?再会を喜んでいたのは実は私だけだったのかしら?」
「いやいやそんな意味は含んでないですよ。思い浮かんだのがこのお茶漬けってだけです」
「よかったわ。私の小さなお友達が大きくなって厭味ったらしい人に成長しちゃったんじゃないかって思ったけど、可愛いお友達のままだったわ」
「男に可愛いは誉め言葉じゃないらしいですよ」
「あら、貴方は今も昔も可愛らしいままよ?格好いいなんて思われたいのなら、妖忌くらい剣の腕がたたないと」
「無理言わないでくださいよ。人外の身体能力に普通の人間が努力で追いつくはずがないじゃないですか」
じゃあ貴方の一生じゃあずっと私にとっては可愛いままね、と笑いながら言う幽々子さんに俺はどうすることもできずにただ一緒に食事をしながら項垂れるしかなかった。
ああ、早くおうちに帰りてえ。霊夢はまだかな…………。
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……なんでいっつも飯の話になるんだろうか?