霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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二次のみのランキングでぎりぎり入っていたので調子に乗って連日投稿です。
こんな稚拙な作品がランキングに載って吃驚です。


第40話

「御馳走様でした」

「お粗末様でした。どうでした味の方は?」

「とても美味しい、というわけではないけれど、優しくて、なんだかほっとする味だったわ」

 

前に何度か食べていたからかしら、という幽々子さんには申し訳ないが、たぶん違う。このお茶漬けが優しいとか落ち着くと感じる味だったのは、幽々子さんが慣れ親しんでいた料理を作っていた妖忌さんと一緒に調理していたからとか、妖忌さんに料理を教わったからとか、俺の料理が幽々子さんの舌に運命的に合致したとかでは断じてない。

今回作ったお茶漬けも浅漬けも生姜湯も特にこれといって複雑な工程を踏んでいない、いたって単純な味付けの料理で、調味料は味噌と醤油、お酢のみで香辛料といえば生姜が含まれるかどうかといったところ。加えて浅漬け以外温かい物で、特に生姜は体温を上げるとか、血行を良くする効果があったはずだ。寒い時期の朝なんかには胃と体を温めてくれるものだ。嫌でもほっとする料理となっている。

幽々子さんは幽霊だから体温上昇とかシンプルな味付けとかは一切関係ないのかもしれない。前に何度も作った俺の料理を思い出しているのかもしれない。でもそのことを聞く気はない。こういった感傷は口にすればするほど薄っぺらくなるもんだから。昔を懐かしんで思い出してくれたら上々、くらいでいい。

 

食事も片付けも終わり一息ついたところでお互いにどんな風に過ごしていたのか、過去話に花を咲かすことになったのだが、ただ話すだけでは面白くないからと、幽々子さんがお酒とお猪口を持ち出し、縁側で過去話を肴に小さな宴会を開くことになった。

お酒とは会話の潤滑油のようなもので、お互いに昔話なんてできる相手が少ないために気分が高揚してしまい、様々なことを口走ってしまっていた。

やれ、家事に疲れたとか、今年の旬物の野菜は出来が悪いとか、霊夢の将来の結婚相手がどうなるかとか、紫は全然顔を出さないとか、藍が来ると抜け毛が衣類に付着しているとか、等々。愚痴なんて言うつもりはないのに堰を切ったかのように溢れ出てくる。

 

「昔の霊夢は可愛かったなあ……。「お兄ちゃん」「お母さん」とか言ってくれてた時期が懐かしい……。いや、今も十分に可愛らしいんですけどね」

「わかるわー。「ゆーこしゃま、ゆーこしゃま」って言いながら私の後ろを雛鳥みたいに付いてくるのが妙に可愛らしいのよねえ。今でも十分可愛らしいのだけれど」

「幼い頃は幼い頃で特別可愛いんですよね。あの純粋さは守護らねば!と思いますよね。今のあいつは可愛さ六割、美しさ四割って感じで、可愛さ十割だった昔を思い出すと成長を実感して感動するやら寂しいやらで……」

「妖夢は可愛さ七割美しさ三割ってところかしら。確かに昔と比べると可愛いと思うことは減ったけれど、でもそれは貴方が言った通り成長しているからであって、今は今の良さを探していくべきではないかしら?過去は懐かしみこそすれど羨むべきものではないわ。そんな事ばかりしていると今が退屈になるだけよ?日々の些細な変化を楽しむことの方が人生を色鮮やかにしてくれるわ」

 

過去を羨まずに今を楽しめか……。幽霊のクセして、いや幽霊だからこそ、変化のない自分と違って変わっていく物事に楽しみを見出しているのだろう。際限なき不生の死を過ごす者の過ごし方のコツみたいなものなのだろう。

 

「ま、程々に精進しますよ」

「程々?必死になるつもりはないのかしら?」

「ないですね。生き方過ごし方なんてそれぞれの人生を生きるための最適解として出来たものだと思ってますから、影響を受けても丸っと全部置き換わるなんてことないですよ」

「残念。他者に啓発を促す指導者になれると思ったのに」

「そういうのは大衆の前で演説でもして、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるの精神でやって、強く影響を受ける奴が一人でもいれば儲けもの、くらいで考えないと────」

「──てっぽう?」

 

───しくじったな。鉄砲のニュアンスがおかしいから、幽々子さんが生きているときも死んでからも鉄砲・銃について見聞きしたことがない可能性が高い。いくら白玉楼に引き籠っていても幻想郷の情報は入ってくるし、俺も幻想郷で銃の類は見たことがないし、銃に関連した言葉も聞いたことがない。火器の存在すら幻想入りしていない可能性もある。

さてどうやって誤魔化すか。

 

「てっぽうて何かしら?」

「武器ですよ、外界の。で、さっきのやつは鉄砲を使った諺です。馴染みないなら弓矢に置き換えてもいいかもしれませんね。弓も構えて適当に射てればいつかは目標に当たるでしょう?それと同じ感じです」

「成程ね。言葉の出所は分からないけれど、一応は納得しておいてあげましょうか。人間秘密の一つや二つあった方が面白味があるもの」

「それも人生を楽しく生きるコツですか?」

「そういうこと」

 

何とか誤魔化せた、いや気にしないでくれたと解釈するほうが正しいか。今生最大の失敗だから冷や汗と苦笑いが止まらない。今の下手したら俺が転生者だってことだけじゃなくて東方projectとかそこら辺の話も芋蔓式で引き出されそうだった。

銃については香霖堂や鈴奈庵といった幻想郷でも数少ない書籍を取り扱う店で現代の諺か銃を題材とした本を手にした、ないしは外来の本を拾ったと言ったとしても、一時しのぎにしかならない。今後は幻想郷の各地へ赴くであろう彼女たちには結局嘘を吐いた事がすぐにばれるだけ。比較的最近できた、というか現れた紅魔館の大図書館はもっと駄目だ。確認されたら俺について変に思う輩が増えるだけになる。

 

「……助かります」

「ふふっ、まだまだ詰めが甘いわねえ。可愛げがあって私としては嬉しいけれど」

「男に可愛いなんて言っても喜びませんよ。妖夢ちゃんに言ってあげればいいのに。喜びますよ?」

「それがね?聞いて下さる?妖夢ったら可愛いなんて言ったら顔を真っ赤にして照れ隠しで怒ってくるのよ。子供じゃないんですから、って。そこも可愛いんだけれど」

「それ、言ってて怒られません?」

「怒られたわよ?ついつい可愛い可愛いって無意識に呟いちゃってて。もう烈火のごとく身振り手振り全身で怒りを表現して、それでも自分の主だからって私に手をあげる気は全くないのよ?そういう律儀なところも可愛くって。ほら言うじゃない?好きな子ほど虐めたくなるって。意地悪したくはないのだけれど、体が言うことを聞かなくって」

「愛想尽かされても知りませんよ?」

「大丈夫よ、私たち主従ですから嫌いになったところで離れられないわ」

「理不尽だ……。で、その妖夢ちゃんはどこなんです?ここに来てから一度も見てないですけど。もしかして家出したんですか?」

「違うわよ。ただのお遣いに行ってもらってるだけ。そろそろ帰ってくる頃かしら」

 

立ち上がる幽々子さんを見て、妖夢ちゃんを出迎える準備でもするのかと思いきや片手には空になった一升瓶。ついでに片付けてくれるらしい。ていうか俺そこまで飲んでないはずなんだけど、もしかして幽々子さんが一人でこの一升瓶のほとんどを飲んだんじゃないか?だとしたらザル、蟒蛇すぎる。全然顔が火照ってるように見えないし、足取りもしっかりしている。

 

「お酒のお代わり持ってくるわ」

 

妖夢ちゃんのお迎えじゃないのね。なんだかんだで仲良いみたいな状況になるのかと思ったのに、別にそんなことはなかった。

歩く幽々子さんの背を見送り、いまだお酒が残っているお猪口を呷りながら庭を眺める。この屋敷でおそらく二番目に俺が多くの時間を過ごした場所だ。昔はこの庭で妖忌さん相手に木刀を振っていたものだ。あの爺さんは達人クラスの人だから、目を瞑っていても避けられるし当ててくる。音を立てずに近づいても目潰しのために砂をかけても全部避けたりした後に反撃してくるから、毎日痣だらけになってたっけ。どうしても歯が立たなくて最終的には神風特攻してたような気がする。で、後から習い始めた妖夢ちゃんにやすやすと技量が抜かれて、実年齢も精神年齢も一回り以上違う相手に負けるっていう散々な結末を迎えたんだ。あれから久しく木刀は振ってないなあ。今度帰ったら素振りくらいはしようか。

 

「幽々子様ー。ただいま戻りましたよー」

 

がらがらと玄関の引き戸が引かれそんな声が不意に聞こえる。幽々子さんが見つからないのか間延びした声を出しながら探しているようだ。足音が徐々に近づいているのがわかる。

 

「幽々子さ……ま……?」

「おかえり」

 

久々の再会か、予想外の人物に出会ったせいか妖夢ちゃんは固まってしまっている。さあ感激のあまり泣き出したり抱き着いてもかまわないのだよ?

……いやないな。別に感動のシチュエーションでもないし、泣き別れたとかもないし、第一泣かれると対処に困るだけだわ。抱き着かれるとかも絶対ない。抱き着かれるほど仲良かったわけでもないし。知人以上友人未満もしくは他人以上知人未満の顔と名前だけは知っているくらいの関係性だったような気がする。楽しくお喋りする程の仲ではないけど、顔を合わせたら挨拶と気が向いたら世間話くらいはするみたいな、中途半端な仲だったはず。

だからこの場合は「お久しぶりですね。なんで白玉楼にいるんですか?」くらいが妖夢ちゃんの反応だろうか?

 

「誰ですかあなたは?」

「白鹿だよ。憶えてない?一緒に妖忌さんの稽古受けてたんだけど」

「知りません。おじいさまとは常に一対一で稽古を受けていましたので。にしても奇怪なやつですね。他人の家で堂々と茶、いえお酒を飲むとは。貴様もはや異変を解決しに来た博麗の巫女か!?しかし貴様はどう見ても男。もしや衆目の中では女に扮しているのか!?そもそも何故ここが発見された?痕跡は何も残していないはず。まて、あの酒はどこの物だ?もしや我が家の酒か!?巫女が押し入りかつ窃盗とは世も末だな。────」

 

始めは会話していたはずなのに、すぐに自問し始めた。妖夢ちゃんは自分の世界に入って俺のこと忘れてるし、どうしたらいいんだろ?

 

「──数々の疑問はありますが、良いでしょう」

「あ、やっと会話してくれる気になってくれた?」

「斬れば何か分かるはずです」

 

寒気を感じ、本能のままにその場で寝そべる。先程まで座っていたのでこんな間抜けな態勢になってしまったがすぐに正しかったと知る。頭上を一閃過ぎる。妖夢ちゃんを見れば刀を振りぬいて残心しているところ。斬ろうとした位置は間違いでなければ俺の首辺りの高さ。完全に殺す気ですね。せめて口火を切ってくれたら多少なりとも時間稼ぎをして幽々子さんが来るまで粘れたかもしれないのに口は一文字、沈黙状態だ。

 

もう無理、死んだかも。

 

 

 

 

 

 

 




飯の話が多いのでタグに「飯テロ」を追加しました。
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