霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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お昼休みに間に合った―!


第44話

口の中が一瞬で乾燥していくのを感じる。霊夢の異様な雰囲気に誰もが声を出せないでいる。俺や妖夢は勿論、幽々子さんですら、その表情を硬直させて、微動だにできずにいる。

 

異様な雰囲気の中、霊夢だけが一歩一歩玉石を踏み鳴らし、着実に近づいている。左手に持っている魔理沙は道中で倒したのか、それとも道半ばで倒れたのを無理やり連れてきているのか、はたまた無理やり拉致って右手に持ったお祓い棒のように振り回して使っていたのか。

 

ついに霊夢の足が止まる。いまだ俯いている霊夢の表情はうかがえない。

 

「……………………れ……」

 

霊夢が何かつぶやいているが声が小さすぎて聞こえない。

 

「白鹿を連れてったのは誰?って聞いてんだけど?」

 

今度は聞き取れるほどの声量になったが、誰も答えることができない。しかしそれも意に介していないのかお祓い棒で妖夢を指して再度尋ねてくる。

 

「あんた?」

「違います!!」

「じゃああんた?」

「ちがうわ」

「間違いないわね?」

「はい、この人たちではありません」

 

次いで幽々子さんに尋ね俺に確認を求めてくる。あまりの緊張につい英語を直訳したみたいな言葉になってしまった。

というか終始俯いたままなのにどうやってこちらの立ち位置を把握しているのか意味わからないんだが。お得意の直感だろうか。

 

「まあいいわ。白鹿を攫ったのがあんたたちじゃなかろうと、この異変の主犯格っぽいし一先ず倒して、攫った犯人見つけるわ」

「そう簡単に――――――」(「魔理沙、やりなさい」)

 

妖夢ちゃんが強がって話そうとしている最中に、霊夢が魔理沙を向ける。魔理沙はゆっくりとミニ八卦炉を妖夢に向け、そしてマスタースパークを放つ。等々に起きた出来事にまた思考停止する俺と幽々子さんを他所に、ついに顔をあげる霊夢。

霊夢の表情は完全なる無。この異変の道中で疲労を溜めた訳でも、俺を拉致られて焦った訳でも見つけて嬉しい訳でもなく、面倒が起こった事実に怒りを感じている訳でもなく、ごっそりと感情を削ぎ落としたかのような無だった。

 

「あんたも来なさい。こんな異変さっさと解決するわ」

「あら?私たちの二人がかりでいいのかしら?それとも二対二でやるのかしら?そんな余裕で大丈夫かしら?」

「問題ないわ。あんたもさっきの半霊もさっさとシバイて、そいつ連れてった奴森の獣たちの餌になるくらい挽肉にして、そいつも連れ帰って、温かいご飯食べたいの」

「私はさっき温かい物食べたばかりだから、次は別系統の物よろしくね」

「そこで俺に話振らんでくださいよ」

「帰ったらこいつに出したものと同じもの作りなさい」

「夕食には合わないから、明日の朝飯に作るから許して」

「じゃあ新作」

「はいよ、じゃあ頑張って来いよ」

「ん」

「ゴフッ!」

 

霊夢と幽々子さんが飛び去りひと段落着いたとと思って油断した。和やかに送り出そうとしたのに、怒りが収まってない霊夢に何か投げつけられて、それが鳩尾に直撃した。ていうか会話の節々に怒りが感じられるし。幽々子さんに飯作ったことを察したのか同じもの作らせようとするし。お握り茶漬けは夕飯のメニューにしては貧相すぎるからなあ。代わりに新作作ることになったし。紅魔館組来たから、洋食関係の具材は手に入ってるし、そっちで考えるか。というか何投げつけられたんだ?

 

「うぅ……」

 

飛んできたのはボロボロの魔理沙と褞袍でした。服装はところどころ擦り切れ、汚れもいたるところに付いている。反対に霊夢が着ていた褞袍は汚れ一つ見当たらないきれいな状態だ。というか魔理沙は箒すら持ってないから、全力出せないんじゃ?前に箒がなくても飛べるとか、あった方が楽みたいなこと言ってたと思うし。

 

とりあえず縁側に魔理沙を負ぶって移動して横にならせる。持ってる手拭いで顔の汚れを拭いてやって、俺の膝に手拭いを裏返して敷いて魔理沙の枕にする。枕になりそうなものがないから俺の膝で許しておくれよ。厚手のタオルとかあったらよかったんだけど、幻想郷では流通してないからなあ。あ、褞袍を枕にはしません。今の霊夢にあんまりアクションを起こしたくないし、衣類を枕にするのはなんか嫌だし。ついでに魔理沙の帽子もとって何となくかぶってみる。魔法とか使えるかな?マヌーサとかカーズとかシレンシオとか。

 

「さて、何を作ろうかな?洋食で冬で新作か。サンドイッチは夕飯向きじゃないし、パスタ系統は麺作れないし、ピザとかミートパイなんて失敗しやすそうだしなぁ。無難に牛肉を赤ワインでフランベしながら焼くか?でも臭みとか結構あるし、やるなら一回生姜刷り込んで湯がいて臭み落とさなきゃならんしなぁ。シンプルすぎると素材の味がダイレクトで来るから焼くのはなしだな。となると蒸す、煮る、揚げる、のどれかか」

 

何作ろうか。今まで和食ばっかり作ってきたから、発想が出てこない。転生前は何食ってたっけ?チャーハン……、いやないな。簡単だし普段ならいいけど、冬の料理としては正直微妙……。となるとスープ系か。お米かパンにあうスープ系で冬にあうものか。

 

「カレー、いやシチューか」

「あら、夕飯の献立かしら?」

 

突然現れたのは紫。スキマを介してこちらに来たようだ。扇で口元を隠しいつものように胡散臭い笑みを浮かべて、頭の中は幻想郷のことについて今も頭を回しているのだろう。

 

「そうだけど、こんなところにいていいの?今出てくるのやばいと思うけど?」

「どういうことk―――」

 

会話の途中で紫の顔の横を何かが横切り、トンと音を立てて部屋の隅に突き刺さる。紫の頬には一筋の傷ができており、部屋の端に刺さったそれは大きな針、霊夢が使っている封魔針だ。咄嗟に上空に目を向けると、霊夢がこちらを見下ろしており口パクで何か言っている。

 

「み・つ・け・た……って言ってるのかな?これ紫のことじゃん。霊夢の直感で完全に俺を攫った犯人が紫ってばれてるやつじゃん」

「ふふ、知ってるかしら?世の中には逃げるが勝ちって言葉が―――」

 

再度部屋の隅に二つと俺の前に一つ突き刺さる封魔針だったが、紫には当たるような距離ではなかった。というか俺にも当たらないような距離だ。なに?霊夢コントロールミスったのか?

 

「あっ、無理。終わったわ……」

「どしたの?」

「結界を張られたのよ。外界との接続を絶たれたわ」

「どういうことよ?」

「そこの針四つともお札貼ってあるでしょ?それで結界を張られたのよ。外界との接続を切って、私がスキマで逃げれないようにしたんでしょ。ほら、また霊夢がこっち向いてるわよ」

「うわっ、本当だ。えっと……つ・ぎ・は・お・ま・え・だ。……なんかあれだな。ここまでくると殺人予告みたいだな。ご愁傷様」

 

または彼氏の浮気を見つけたヤンデレの彼女とか、かな?霊夢に彼氏いないし、病むような気質じゃないけど。

 

「……どうにかならないかしら?」

「えー、無理じゃない?諦めて制裁受けたら?」

「そこを何とか!」

「まあ、飯作ってやるって言ってるしそれでさっさと帰るように促してみるわ。それで怪我の量が減るかは微妙だけど」

「ないよりかはマシよ!頼むわよ!」

「はいはい」

 

さて、シチューの具材はどうしようか?ニンジン、ジャガイモ、タマネギくらいは絶対入れるとして、後はシメジとかキノコとパセリ、お肉は鶏肉かな。生姜刷り込んで、もみながら洗って、湯煎して、バターと小麦粉を炒めて、溶け込んだらルウができたはず。具材は塩胡椒で味付けながら火を通して、チーズ入れて黒コショウとかも入れて、隠し味に白みそでも入れてみるかな。あとは適当にゆで卵と葉野菜でサラダでも作って、ドレッシングは醤油と油、胡麻あたりで作れば様にはなるかな?

霊夢は洋食なんてそこまで食べた経験なんてないし、食べたとしても俺の作ったモノくらいだから、ある程度和食テイストにした方が受けがいいはず。これでなんとかできるだろう。

 

「お待たせ、紫。()くわよ」

「……はい」

 

即行で勝負をつけたのか、すでに霊夢は幽々子さんと妖夢を持って戻ってきた。そしてすぐに結界を解くと紫の首根っこを掴んでまた飛んで行った。

 

「霊夢、早く料理の仕込みしたいからなるべく早めに終わらせてね」

「任せて」

 

結果、五分とかからず霊夢は戻ってきた。衣類の汚れはなく、かすり(グレイズ)すらしてないっぽいわ。うちの子の本気って、本当にやばいのね。

 

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