霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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序盤「(思考停止中)……」
中盤「やべ、軌道修正せな」
終盤「なんとかなった……」


第48話

宴会を約束してから数日が経ち、早くも宴会当日。朝から掃除に洗濯を済ませて、夕飯の準備も粗方済ませておいた。今日ばかりは霊夢に朝から手伝ってもらい、俺は飯を担当し、霊夢は掃除を担当、洗濯は二人でやって干しておいた。雨が降ったら困るが、霊夢が大丈夫と言っていたので雨は降らないだろう。

 

「じゃあ、夕方には迎えに行くから、人里からは出ないでよね」

「わかった。霊夢も楽しんで来いよ」

 

霊夢に人里まで送ってもらって、手を振って別れる。あっちは完全に女子会だ。集まってるのは吸血鬼や魔法使いといった物騒な連中だが、それら全てを倒せる物騒な巫女の心配はいらないだろう。

 

さて、宴会会場に直接向かいたいところだが、まだ宴会が始まる時間には少しばかり早い。さてどうしようか、と考えたところで思い直す。そもそも少し早いくらいなら問題ないのではないだろうか。古株の連中も集まるくらいなら早く行っとかないと失礼かも知れない。年寄りは待たせるもんじゃないってよく言うしな。こんなこと本人たちに行ったら怒られるけど、爺婆には優しくしないとな。人里の爺婆は元気な連中が多く、認知症を患っている人は極々少数だ。みんな元気に働いて、ある日パタリと床に臥せて、数日でぽっくりだ。

 

といかんいかん、今日はハレの日だ。湿っぽいのは無しにして、ちゃっちゃと会場に向かうとしよう。

 

人里は自営業で成り立っているため、祝日だからと店をいっせいに休むなんてことはない。むしろお前ら何連勤してるの?と聞きたいくらいには何日も店を開けている人たちの方が圧倒的に多い。とはいっても、そのほとんどは気ままに開いているだけで、いつも全力で働いているわけではないようだ。お店を開けながら煙草を吹かしたり、豪胆な旦那たちは酒を飲みながらだったり、近所同士で賭け事をして遊びながらしている人もいるほどだ。そういった人たちは、よく奥さんにどやされるのを見かけるけどな。

そんなわけで人里は日中はよく喧騒に包まれて賑やかなのだが、今日は異様に静かだ。訳は一目瞭然で、どこの通りの店も、寂れた商店街のシャッター街のようにそのほとんどが閉められているのだ。先程も言ったように、こんなにいっぺんにみんなが店を閉めるのはおかしい。

 

とにかく急いで人がいるであろう宴会会場に向かう。原作には人里そのものが消える現象はあったが、それは時期的に今ではないし、そもそも人里ではなく、人が消える、という現象は俺が記憶している限りなかったはずだ。もしかしたら忘れているだけとか、神主が続編でそんなシナリオを描いたのかもしれないが、俺は少なくとも記憶にない。

 

団子屋も、魚屋も、八百屋も、餅屋も、雑貨屋も、金物屋も、どこも開いていない。

 

どこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこもどこも!

 

妖怪が人里に侵入して、人を丸呑みしてしまったのか。ハーメルンの笛吹のように里の人々を連れ去ってしまったのか、原作には出てきていなかった大物の妖怪が能力を使って人々を隠してしまったのか、正解なんて今の俺にはわかるわけがないが、嫌な想像が頭を廻る。

 

通りを抜け、別の通りに入る。約束の場所の近くまで来た俺は、嫌な想像と走ったことによる疲労で息を切らしてしまったために、膝に手をつき、下を向いて呼吸を整える。ここにも誰一人いないのかもしれないと想像して口の中に酸味が広がるが、意を決して視線を上げると、そこには予想を裏切られる光景が広がっていた。

 

人がたくさんいたのだ。それも人里のほとんどの人が集まっているように思われる。

 

 

 

 

みんな呑気に花見してやがる。

 

 

 

 

「えぇー…………」

「おうおう、どうしたどうした!焦燥しきった顔しやがって!」

「何これ」

「何って、どう見ても花見だろ?」

「そりゃ見ればわかるけど、にしたって人数多すぎないか?」

 

どこを見ても人、人、人。(´∀`)人(´∀`)人(´∀`)人(´∀`)ってか!?人里の総人口くらいいそうなんだけど!?

 

「ああ、なんか初めは寺子屋所の同窓会って話だったんだ。あの先生も方々に来れたら来てくれくらいの軽い気持ちで人数を集めてたみたいなんだけど、元生徒ってだけでも結構な人数だろ?そのほとんどが先生の頼みならってことで声をかけられた全員が参加。それを知った他のやつも集まってきて参加したいと言い出して、人里の各所でその話が回って、こりゃ店を開けてる場合じゃねぇってな具合で人里のほとんど全員が参加してんのさ」

「わけがわからないよ」

 

安堵のあまり膝から崩れ倒れてうつ伏せになり、ごろりと転がり仰向けになり考える。

 

マジで人里の総人口のほとんどが来てんのかよ。お前ら豪胆すぎやしねえか?こういうのが江戸っ子とか言われるものなのか?それともノリで生きてるパーリーピーポーなのか?江戸っ子とパリピは紙一重なの?表裏一体の存在なの?江戸っ子が時代を経るとパリピになるの?江戸っ子とパリピは同義だった?江戸っ子とは……。パリピとは……。

 

「おーい、大丈夫か?」

「はっ!ああ、大丈夫だ問題ない。ちょっと宇宙の真理を理解しそうになっただけだ」

「うちゅう?まあいいや。お前も飲んでけよ。今日は祭りだ。色んな奴が飯やら酒やら振舞ってくれるぜ」

「元からそのつもりだったんだがな……。とりあえず酒とつまみをもらいに行こうかな」

 

会話していた人物と別れ、酒とつまみをもらう。酒は日本酒だけでなく一般家庭で作られた梅酒をいただいて、つまみには炒り豆とお塩をいただいた。休憩したいがためにゆっくりと飲みながら待つ。俺の本来の役割はただのお客ではなく、妹紅さんのサポートだ。流石に来て早々に飲み過ぎて酔いつぶれることはできない。

 

そうやってちびちび飲んだり、今の寺子屋の生徒たちに誘われ酔った大人と元気な子供たちによる鬼ごっこをしたり、他の人と話して時間をつぶしていると、ようやく慧音先生と妹紅さんが来た。二人の顔もこの人数に相当驚いているのだろう。目が点になっている。

 

「これはお前の仕業か、白鹿?」

「なんで俺の仕業にしているんですか慧音先生。俺なんてこの光景見た瞬間、驚きすぎてうつ伏せに倒れましたからね」

「そこまでか。で?この状況はどういうことだ?里もここ以外閑散としているし」

「先生の人望の厚さと、里の人間の心意気?みたいなもんですよ。宴会の話が広がって、じゃあ里のみんなでやるか、みたいな感じだそうです。俺もここに来て聞いただけですけど。強いて犯人を上げるなら慧音先生か里の人間全員ですね」

「とんだ集団犯行だな」

 

慧音先生はその後、挨拶回りがあるためいったん別れたが、この人数だと戻ってこれるかわからないな。

 

「あんたはどこか行かなくていいのかい?」

「いや、二人が来るまで酒の入った状態で子どもたちと鬼ごっこしたし、さっき倒れたって言ったろ?とりあえず休みたいから、しばらくはこのままだ」

「倒れたって、お前も一応博麗の人間なんだろ?鍛え方が足りないんじゃない?」

「あー、例えばの話なんだけどな?ある日狩人が弓と小刀を携えて山に狩りに出かけた。数日かかる狩りだった。で、狩りが終わって帰ったら家には誰もいない。近隣にも人はいない。探し回った。野盗か獣か妖か、何かに襲われたのではないかと不安に駆られた狩人はついに見つけたが、見た光景は近隣住民が盛大にどんちゃん騒いでいる光景だった。最悪を想定していた狩人は安堵のあまり倒れてしまったとさ」

「つまり、お前が狩人で、近隣がこの里ってことか?」

「理解が早くて助かるよ」

「ハハハハハハッ!馬鹿だ!里に人がいないからってそんなこと考えたのかよ!」

「普段と違ったから不気味に思ったんだよ……」

「胆がちっさいなぁ」

「うっせえわ。不気味なのにはあんまり慣れてないんだよ。というか妹紅さんはいつまで手ぶらなんだよ。そこら辺の人に声かけて酒とつまみ貰って来いよ」

 

人と関わることを促せば、途端に表情に影を落とす妹紅さん。お前こそ胆が小さいと言ってやりたいが、まあいいだろう。竹でできた湯飲みから酒を一気に飲み切り、立ち上がる。

 

「まあいいや。俺もちょうど空になったしついでに取ってきてやんよ。適当に持ってくるがいいか?」

「ああ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

さて、では日本酒を一本と焼き鳥でいいか。先程から香ばしい良い匂いが俺の鼻をくすぐるのだ。

 

「どうも、おっちゃん。焼き鳥何本かくださいな」

「おう!好きなだけ持っていけ!と言いたいんだがな、炭がきれちまいそうなんだ。白鹿、何とかなんねえか?」

「俺は相談役じゃねえぞ……。つっても炭なんてそこいらで調達できないのかよ?」

「それがここで屋台出したはいいが、みんな遠慮なく持って行くもんだからみんな早々に炭がなくなっちまって店たたんで飲み始めやがったんだ。俺もそうしてぇところなんだが、ここにあるのが生焼けでな。とりあえずこれだけは作り終えたいんだ」

「なるほど、それならちょうどいい人材がいやすぜ、旦那。ちょっと待っててくれれば問題解決するよ」

「おう!じゃあ頼んだ!」

 

「というわけで、妹紅さんお仕事です」

「いや、どういうわけだ。開口一番に何言ってんだ。というかここに来て仕事とか、お前は仕事してないと落ち着かない人種なのか?」

「焼き鳥屋の炭がなくなったらしくてな。炭の代わりになりそうな妹紅さんに手伝ってほしいんだけど」

「人を炭の代わりとは、お前は私を怒らせたいのか?」

「でもよく燃えてるって慧音先生から俺聞いてるぞ。とりあえず手伝って」

 

妹紅さんを連れて焼き鳥の屋台に戻る。

 

「旦那お待たせいたしやした。炭の代わりになって疲れ知らずの働き者、ついでに美人だ。今買っとかないと損するぜ?」

「買った!」

「まいど!」

「勝手に人身売買するな!お前も即決で買おうとするな!」

 

いいツッコミだわ。さっきからボケ全部拾ってくれてないか?こりゃお笑い芸人としても売れるかもしれないな、にっしっし……。

 

「気色悪い笑いすんなよ。なに?お前酔っぱらってんの?」

「まあ、多少は?飲酒した状態で走り回ると酔いの周りが早いわ。で?火を出すだけの簡単な仕事だけどやる?」

「なあ、あんた竹炭のねーちゃんだろ?頼むよ」

「人を即決で買おうとした人はちょっと……」

「おい、白鹿。お前の話に付き合ってたから、竹炭のねーちゃんが手伝ってくれなくなったじゃねえか」

「ちなみに、炭代わり、働き者、美人のどの売り文句が良かった?」

「美人!」

「おいあんた、もう竹炭売らないぞ?というかこんな気色悪い髪色の女捕まえて美人はないだろ?」

 

おっちゃんが目を見開いて驚いている。こっちを見るが俺は呆れて首を振る。妹紅さんは本心から自分のことを気味悪いと思われていると思い込んでいるのだ。

 

「その髪色のことを言っているが、別に気にならないな。ジーさんバーさんだって同じ髪色だし、それを言ったら寺子屋の先生の髪色はなんであんな色になったのかよくわからん。あと最近幻想郷に来た吸血鬼たちは髪色が空色だったり黄金色だったりするんだろ?そっちの方がよくわからん。まあ、髪色のことは置いといて手伝ってくれるとありがたい。なんせここにある肉は廃棄間近に迫った肉ばっかりだから、ここで使い切りたいんだ」

「最後のがなけりゃ、おっちゃんの嫁さんは今目の前にいる人になったろうに、残念だったね」

「えっ」

「ごめんなさい。告白はもっと真摯にしてもらいたいのでお断りします」

「おいぃ!告白してないのになんか振られたぞ!?というか俺にはかみさんがいるんだから、変なことぬかすなよ!まあいいや。で?手伝ってくれんのか?」

「…………いいよ」

「おし!じゃあ、どんどん焼いてくぞ!」

「任しとけ!」

 

さて、俺は一休みしますかね。妹紅ももともとコミュニケーションに難がある性格じゃないし、ここからは放置しておいて大丈夫だろう。俺は問題がひと段落したと人心地ついて、適当な木陰に腰掛けて休んでいると、目の前に盃が差し出される。差し出してきた奴は明るい茶髪の女だった。

 

「どうだいお兄さん、一杯」

「お、こりゃどうも」

「お兄さんもついでよ」

「子どもにお酒飲ませたくないんだけど」

「あたしゃ、これでもあんたよりも年上のお姉さんだよ」

 

どう見ても子供だ。身長も俺の腰くらいしかないだろう。だがその雰囲気は確かに妙齢の女性というか強者が醸し出す凄みみたいなのを感じる。

 

うん。

 

 

うん。

 

 

相手から瓢箪を受け取った俺は、その女性の赤漆の盃に並々と酒を注ぐ。

 

「私たちの出会いに」

「今後の平和を願って」

 

「「乾杯」」

 

 

 

伊吹萃香だ、こいつ。




本能「(シリアスを)書かせろ」
理性「貴方っていつもそうですよね!」
  「いつもいつも話を暗くして!」
  「この小説をなんだと思ってるんですか!」


大体作者の脳内は本能(シリアス)と理性(日常系・ギャグ)が争ってます。
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