密と疎を操る程度の能力。
指定したものを集めたり、散らせたりする密度を操る能力で、集めれるものは広範囲にわたり、例えば食べ物だとかお金など物質だけではなく、霊気や気持ちといった概念的な物、非物質的な物も集めることができるそういった能力だ。
鬼。
妖怪の一種であり、見た目は頭に角が生えている。怪力を有しており、その歴史は古い。そもそも鬼とは妖怪の起源とも云われており、隠れ潜むものという意味を込めて、
しかしそんな残忍な性質を持っているとされている鬼ではあるが、幻想郷にいる名前持ちの鬼は残忍と言われてはいない。もちろん妖怪としての一面として名前を持っていない鬼は残忍なやつもいるかもしれない。だがそれも鬼として絶対数が足りない。妖怪と言えば鬼と言っていいものの、この幻想郷では鬼は人間の前に姿を現すのは稀で、鬼自体を忘れている人も多い。
そんな忘れられた者たちが行きつく場所である幻想郷でも忘れられた存在である鬼の一角である伊吹萃香が俺の隣に腰を下ろしている。明るい茶髪に日に透かしたような琥珀色の瞳。身長は俺よりも低く、霊夢よりもさらに低いが、内包されている力は俺とは雲泥の差がある。
先程言った通り、幻想郷での鬼と言う存在は忘れられた存在であるが決して弱いなんてことはない。むしろ強いくらいで、その怪力で山一つの形を変えるくらいどうってことはないだろう。そして何より難しいのがその気質だ。
幻想郷の鬼は噓を嫌う。
嘘を吐かれることも、嘘を吐くことも、幻想郷の鬼は嫌う性質を有している。
嘘を言えば怒りのままに人里を更地にしてしまう可能性があり、ちょっとした冗談ですら許さない。そこに情なんて挟み込む余地はないし、卑しく命乞いをすれば機嫌は悪くなる一方だろう。
ちなみに今飲んでいる瓢箪から出た酒はマジで度数がきつい。それに加えて何やら妖気が浸透している可能性すらあるのだが、幻想郷の鬼は豪快な性格をしており、戦うのなら正々堂々真正面から、例え企みがあったとして、それを暴かれれば姿を現すような性格のはず。だからこそ人間が飲めばヤバいと言われる伊吹瓢の酒を飲ませては来ないはず。
こくり、とほんの一口の酒を飲み込む。
途端に広がる芳醇な味。吟醸酒独特のフルーティな味わいが口の中に広がるが嫌味なく後味はすっきりとしている。しかし一拍二拍と待てば、胃液とアルコールが化学変化でも起こして発火でもしたかのように、胃の中が急激に熱を持ち出し、思わず咳き込んでしまう。
「ゴホッ!なんだこれ!キッツ!」
「はっはっはっは!小僧にはちょっと強すぎたか!」
「あーでもこれ美味しいわ。後から殴りこむように酒の味がするけど、それもなんか癖になりそうな……」
「おっ、言ったね?じゃあもう一杯どうだい?」
「ありがたいんですけどね、まだ残ってるんで」
「おや、そうかい。でもね私たち乾杯したよね?」
「そうですね」
「乾杯って漢字でどう書くか知ってるね?」
「…………」
「さあ、男なら女の前でくらい男気見せな!それにそこまで注いでないんだから、それくらいじゃつぶれやしないよ!」
「あー!もう!!」
伊吹萃香に煽られて、アルコール度数が絶対キツい酒を飲み干す。芳醇な味の後すぐにアルコール特有の味と熱が胃から食道を駆け巡る。酒が通った個所全てに熱を持ったかのようだ。
アルコールが体中を駆け巡り、体温が急上昇していくのを感じる。頬は上気し、瞼は限界まで徹夜したかのように重たくなる。
「いい飲みっぷりだ」
「……どうも。褒めてくれるのはいいんだけど、水持ってきてくれない?歩けるか不安だわ」
「私に丁稚の真似をさせるのかい?」
「分かりましたよ、自分で行きますよ……」
「ついでにつまみでも貰って来ておくれ」
「はいはい」
立ち上がり、ふらふらと歩き水をもらいに行く。
「(あっっっっっぶねぇぇぇぇ!一瞬で酔いが醒めたわ!気が緩んでた!酒を飲まされたっていうのもあるけど、それでも気が緩み過ぎだ!相手は鬼だぞ!?下手したら次の瞬間には地面に俺産の赤いシミができる!)」
今まで出会って来た人外は、人外の中でも弱小か、強大な力を持っていたとしても俺に友好的な人外が多かった。幽々子さんは紫の旧友、レミリアは理性をもって行動しているし、ルーミアやチルノとかは食い物をやればなんとかなる程度の知性しかないし、会話が成立して身の危険を感じることは最近ではほとんどなかった。
いや、よく考えたら最近妖夢ちゃんに刀振り回しながら追いかけられたわ。
あのときは何を言っても聞き耳持ってくれなかったし、それに比べれば今の状況は幾分マシではなかろうか?そう考えれば別に震えて怖がることはないな。それに伊吹萃香も紫の旧友だったはずだし。嘘は吐かないように注意して、あまり不敬なことは言わないようにしていれば何も問題ないだろう。最悪紫呼び出せばいいし。
「妹紅さん、焼き鳥適当に頂戴」
「おかしいなあ?私ばかり働いてお前は呑気に酒飲んで飯食っていいご身分だなあ。ええ?」
「もしかして飲みながら焼いてる?俺の顔を見て酒飲んで酔っ払ってると思うか?」
「多少はな。だけど酒臭いぞ、お前。なんでそんな状態で酔ってないんだよ」
「こっちはこっちで変なのに絡まれて殺気か怒気に中てられたせいで酔いが一気に吹き飛んだんだよ」
「お前って殺気とか感じれたか?そういうのに鈍感だった覚えがあるんだけど?」
「そんな鈍感野郎も感じ取れるほどの殺気に中てられたんだって」
「……異変案件か?」
「いや、まだそこまで大事にはなってない」
「『まだ』ってことは、今後そうなる可能性があるってことか?」
「……多分。でもまだ確定したわけじゃないし、なったとしても人里には危険性はないと思う。人間を襲って食べる奴には見えなかったし」
「わかった、これ以上は聴かない。はいこれ焼き鳥。何かあったら相談しろよ?」
「わかったよ。後焼き鳥もありがと」
妹紅と別れて、再び伊吹萃香の下へ戻る。彼女は瓢箪から大きな盃に酒を注いで、水でも飲むかのようにゴクゴクと酒を飲み干している。酒が入っている瓢箪は俺に注いでくれた瓢箪とは別物で、色は紫色だし札はしているし見るからに怪しいが見て見ぬふりをして隣に腰掛ける。
「はい、お待たせ。つまみの焼き鳥」
「いやあ酒だけでもいいけど、やっぱり何かあった方が酒も美味しくなるよ。あ、このお酒はあげないからね」
「いいですよ別に。なんか如何にも怪しい見た目だし、君子危うきに近寄らずって言うし」
「ならいいんだけどさ。あんたはこっちの酒でも飲んでなよ」
「いやそれ結構美味しかったけど、あんたみたいにがぶがぶ飲めないぞ」
「いいよ、隣で話でもしてくれれば」
「えー、なんだよそれ。せめてなんか話題をくれよ」
「なら自己紹介から普段やってることでも語ってくれればいいさ」
「まあ、それくらいならいいか」
そこからは俺が話して、彼女が相槌を打ち、ときたま俺がつまみを取りに立つぐらいのなんとも平和な席だった。いや、平和というほど平和ではなかったか。話しながら飲んで、酒がなくなれば彼女に注がれ、断ろうとすれば強制的に飲まされ、最終的に寝ぼけながら話していたが、話していた内容も霊夢についてか料理についてか、それくらいだった。博麗としての仕事は口にはしていないし、先代のことも、親についても一般人には聞かせられないことも話してはいないはず。もともと酒を飲んでも意識が朦朧としたことがないから、無意識に変なことは話していないはずだ。
「おーい、起きなさいったら」
「んあ?」
「おはよ。よくこんなところでぐっすり眠れたわね」
「……霊夢か。もう帰る時間か……」
「ちょっと、大丈夫?」
いつからか眠っていたようで、あのどんちゃん騒いでいた連中も、慧音先生や妹紅さんもすでに帰ってしまっていた。伊吹萃香も姿を消している。
「ああ、あんたの先生から伝言。今日は誘ったのに相手をしてやれなくてすまなかった。今度は互いに酒を酌み交わそう。だってさ。私が来るまであんたを見ててくれてたわ」
「マジか」
「あんた、あの人にいつまで経っても頭が上がらなくなるわよ」
「ホントそれな。お礼にまた臨時教師でもしようか」
「やってもいいけど、ちゃんとその日のお昼ご飯作っといてよ?」
「わかってるって」
「で、その瓢箪は何?」
「え?」
霊夢に指摘されて初めて気が付いた。霊夢の視線の先、俺の脇に置かれていたのは、俺が飲んでいたお酒が入っていた瓢箪だ。瓢箪を軽く振ってみれば中身が入っているのがわかる。どうやら俺が気に入ったと思ったのか、ありがたいことに置いて行ってくれたみたいだ。
しかしその瓢箪を錘にして紙が一枚置いてあった。
『また一緒に飲もうね』
端的にそう書かれた紙を見て、嫌な予感がする。
これから何度もあいつのペースで酒を飲まされては、その都度つぶされる可能性は非常に高い。相手は正体を明かさなかったが、鬼の伊吹萃香で間違いない。あいつはいつも酒を飲んでいるし、宴会も開こうと思えばいつでも開くことができる能力を持っている。
つまり高頻度で宴会が開かれ、その都度大量に酒を飲まされることになるわけだ。
俺、いつか急性アルコール中毒か脂肪肝か、とにかく酒で体壊しそう。
お酒は二十歳になってから。酒は飲んでも飲まれるな。などを守って楽しく飲酒しましょう。