その後というか後日談、なんて某吸血鬼のなりそこないの人間擬きのエピローグの模倣から入るが、結局のところいつも通りというかいつもの如くというか、霊夢の勝ちという形で今回の異変は幕を閉じた。ただし霊夢は疲労困憊、伊吹萃香は余裕綽々といった様子で、伊吹萃香の計らいによって霊夢は結果的に勝利したに過ぎない。
これは決して霊夢が伊吹萃香という
言い訳に聞こえてしまうだろうが、今回の異変解決法は基本的に肉弾戦だ。弾幕を主軸として戦う霊夢と、肉弾戦を主に戦う種族である鬼の伊吹萃香では、いくら才能溢れる霊夢でも終始押され気味になってしまっていた。霊夢が程度の能力を使えば、と思ってしまうが、それは伊吹萃香も同じことだ。浮く程度の能力を持つ霊夢と密と疎を操る程度の能力を持つ伊吹萃香では互いに直接的かつ攻撃的な能力ではないため戦闘が千日手になりかねない。
異変を解決しなければならない霊夢と、異変を起こすだけで特に主張するための物じゃない。ぶっちゃけ酒が飲みたい、宴会したいだけの伊吹萃香では、覚悟の差というか意志の差があったために、年長者である伊吹萃香が引き下がったのだろう。しかしただで引きがるのも鬼の品格に関わるから博麗の者と交渉してイーブンにした、というのが内情だろう。
もしかしたら、紫と伊吹萃香の間で何かしらの取引があったのかもしれないが、それは何の能力も持たない
……ただ目の前で隠し事をされている気分なので、知ることが可能なら知りたいと思うのは人として至極まっとうな感性だろう。霊夢はその辺は結構ドライなので、知る必要がないのならどうでもいいとでも思っているようで、表情や仕草、雰囲気には不満を表すことはない。
今回も異変を解決した霊夢と、異変を起こした当事者の伊吹萃香は今は忙しなく動いている。
「はい、お酒とおつまみ」
「ありがとう。何か手伝おうか?」
「いらないわよ。あんたは連日働きづめだったんだから、今くらいはゆっくりしときなさい」
今霊夢と萃香は俺や藍、
で、お休みしている従者組の俺たちはというと、伸び伸びと羽目を外している、なんてことはできていなかった。
何か仕事をしているというわけではないのだが、普段していることを他人に任せてしまうと、そちらが気になって仕方ないのだ。霊夢は調味料の位置は把握しているだろうし使い慣れているだろう。魔理沙やアリスだって何度か我が家で料理したことがあるので戸惑うことはないだろう。しかし、美鈴さんや小悪魔はもともと文化圏の違う地域の生まれのため、我が家の台所は扱いが難しいだろう。
調味料や食器の位置、調理器具の場所、火力を維持するための薪の場所、水瓶と水瓶用の柄杓の位置など考えるだけでキリがない。変に扱われていないかとか、場所を移動されていないかなど心配事は絶えず頭の中で浮き上がってくる。
他のみんなも同様で、頻りに台所に続く場所を見やってしまう。心配事があるために酒も進まず、箸も進まない。結果盛り上がれない。宴会に来ている妖精たちはそんなこと気にせずはしゃいでいるし、それぞれの主も従者には何も言うことなく飲み食いしているので今の俺たちに関わるつもりはないのだろう。
「なにやってんだい」
ため息でもつきそうな雰囲気の場所に、そんな一言と一緒に頭に拳骨が落ちて来た。
落とした本人は腰に手を当ててあきれ顔だ。
「大方向こうのやつらが心配で酒が進まないんだろう?」
「別に心配って程では……」
「鬼の前でくだらない嘘はおやめよ。お前も、そこのメイドも剣士もチラチラとあっちの方を見て、今日は久方ぶりの暇なんだろう。なら楽しみなよ、今をさ」
優しく微笑む鬼にどう答えればいいのか迷ってしまうが、こいつに関しては遠慮する必要がないと思い返す。
「いいこと言ってる所悪いけど、元凶お前だからな?俺たちを疲労困憊まで追い込んだのお前だからな?」
「疲労困憊まで追い込まれたのは貴方だけでは?」
「駄目ですよ咲夜さん。この人自分が一番体力ないの、結構気にしているんですから」
「寧ろ良く、只人であそこまで持ち堪えたと褒めてやるところではないか?」
「外野うるさい!身体的に疲れてなくても、精神的に疲れてたでしょうが!」
例え大妖怪である九尾の狐であろうとも、時を操れるメイドでも、半分幽霊である剣士でも、疲れるときは疲れる。
「その辺は今はどうだっていいだろう?鬼は嘘を嫌う、って今言ったろ?それは誰が誰に吐いた嘘でも関係ないんだ。私は私に嘘を吐けない、嘘になることはできない」
「話が見えてこないんだけど?」
「この前約束したじゃんか、また一緒に飲もうってさ。盛り上がってない、酒も進んでない、約束もはたしていないんじゃ、宴会の席じゃあ無粋も無粋。酔って笑って踊って歌う、ってのが正しい宴会ってもんだし、私たちは約束を守れる。まさに一石二鳥とくれば飲まないわけにはいかないだろう?」
「お前が飲みたいだけだろ……」
「それもある!建前なんかは気にする必要はないよ。あんたは私に酌して、私はあんたに酌して、乾杯して飲む。それを繰り返すだけさ。酔ってくれば楽しくなるし、料理にも手が伸びる。会話も弾む。何も悪いことなんてないだろう?だからさっさと器を出しな。私のお酌なんて幻想郷でも貴重だよ?」
「はいはい分かりました分かりました。もう諦めますよ、はい」
近くに置いてあった枡を差し出し、瓢箪から酒が並々と注がれる。枡を置いて瓢箪を受け取り差し出された赤漆の盃に酒を注ぐ。どう見ても萃香の方が酒の量が多いが気にする必要はない。
「これ、妖怪用とか人間が飲んだら駄目な酒じゃないよな?」
「大丈夫、人間に害があるもんは入ってないよ。キツイかもしれないけどね」
俺は顔をしかめて、萃香は面白そうに笑いながら互いの器を打ち付ける。
「あの日の約束に」
「今日という日に」
「「乾杯!」」
この後萃香にしこたま飲まされて、次の日は二日酔いで動けなくなって霊夢に一日世話してもらいました。
萃香は気ままに縁側で酒飲みながら大笑いしていた。