霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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第52話

 

唐突だが、エアコン等電気的冷房器具のないこの幻想郷で現代から転生した人間は、夏は暑すぎて生きづらいと思われるかもしれないが、全くそんなことはない。

現代日本の最高気温はときたま40度を超えることがあるが、幻想郷ではそこまで超えることがない。温度計がないから正確な温度は分からないが、一番高い気温でも30度超えるか超えないかくらいしかない。

もっとも、博麗神社は山の上にあるし、周りに木々に囲まれているため、木々の陰で冷えた空気を風が運んでくれるから、体感温度もそこまで高くはない。家の中も風通しはいいし、家の中にいて蒸し暑いという心配もほとんどない。

 

だがそれは現代人が幻想郷に転移して1度目や2度目の夏な場合だけだ。

 

経験すれば慣れが生じる。慣れが生じればそれまでの経験が上書きされ、以前の経験を忘却してしまう。

 

つまりは何を言いたいのかというと……

 

 

「あちぃ~。何もしたくねえ」

「そんなこと言ったって仕方ないじゃない。さっさと洗濯物干して買い物に行ってよ。家の中と庭の掃除はやっておくから」

「そこは買い物に行ってくれよ……。霊夢の方が簡単に行き来できるんだからさ」

「私だって暑いわよ」

「でも空の方が風はあるし、涼しいだろ?」

「確かにそうだけど、その分日差しが強いのよ。暑いっていうより日差しが痛いのよ」

 

幻想郷にはまだ日焼け止めクリームとか、化学製のスキンケア用品なんてないからシミになるかもしれないから、食生活や生活リズムや運動など気を付けなければならない。こういったものは若いときは大丈夫、なんてものはまやかしだ。ちゃんと若い時から規則正しい生活と栄養のある食事があればある程度健康な生活を送れることができるものだ。

 

「ほらこれ」

「これって、麦わら帽子じゃない。髪型変えないといけないじゃない」

「それくらいやったるから。なるべく体にかからないようにした方がいいから、低い位置にお団子でも作るか」

「リボンは付けてよね」

「うーん、前髪あげてリボンで巻いて後ろで結ぶか、単純にお団子に巻くのどっちがいい?」

「後の方。前の方は絶対格好悪いから嫌」

「そこは女の子してるのね。あとこれも四半刻に1回うなじとか顎下とかに塗っとけ」

「何よこれ?」

「薄荷水。この前花屋で薄荷が大量に売れ残ってたから、格安で買って作ってみた。作り方は藍が知ってるみたいだったから教えてもらった。スッとして風に当たったら涼しいぞ。しかも虫除けにもなる」

「なんかあんた……」

「なんだよ。そんな呆れた顔して。便利ないいものだろ」

「いや、なんというかあんた、所帯じみたというよりも年寄り臭くなったというか、端的に言って婆臭い」

「BBA!?」

「なんていうか、日常のちょっとした小技が生活にまつわるものばっかりだから……」

「あ、別に老けて見えるとかじゃないのか……。なら良し!」

「いいの……?」

 

そりゃあいいに決まってる。年寄りとは知識と知恵の宝庫。それに近づけているというのなら、悪口になるはずもない。むしろ誉め言葉だろう。

出来れば薄荷水はスプレータイプにしたかったがそこまで工作能力はないから無理。精々数滴ずつ垂れるようにするのが精一杯だ。

 

「ほれ、髪梳かしてやるから櫛と髪紐、あとお団子の覆いが櫛と同じところに入ってたはずだから取って来い」

「はいはい」

 

霊夢が櫛とか用意しているうちに俺は買い物籠と汗拭き用の手拭いを用意しておこう。ついでに俺も外で庭掃除するから俺の分の手拭いと帽子を用意しておこう。庭掃除の前に風呂の用意もある程度済ませておくか。汗をかいたまま家の中をうろつきたくはないし、汗をかいた状態で台所には立ちたくはない。火を使う関係で食事を作った後はまた汗をかいてしまうけどそれはまた心情的には別問題だ。外で汗をかいて家に入ったならば、すぐさま汗を洗い流す。変にうろつくのは家を汚す行為だからな。

 

「持って来たわよ」

「じゃあ、結ってやるからそこに座って」

「ん、お願い」

 

まずは髪の毛全体を櫛に抵抗がなくなるまで梳かしていく。今回は帽子をかぶるのでうなじに近い位置に一束にまとめる。髪紐でまとめたら半分に分けて半分は三つ編みにして、もう半分を先に巻き付けて団子状にしていく。ある程度巻いて団子状になったら先程の三つ編みを団子の根本に巻き付けて、毛先は団子の中に入れ込んでおく。団子だけならこれで完成ではあるが、最後に仕上げとして霊夢のトレードマークであるリボンを団子の根元部分に2回程巻き付けて結んであげれば完成。ついでに先程の薄荷水を数滴手にふりかけてうなじに塗って終わり。

 

「ほい完成」

「ありがと。確かにいいわねこれ(薄荷水)。匂いもそこまで強くないし、すっきりして涼しいわ」

「お褒めにあずかり恐悦至極。もし花屋でまた安く売られてたら買っといてくれ。防虫とかにも効果あるらしいから」

「着る物全部がこの匂いは嫌なんだけど?」

「大丈夫。時たまふりかけるくらいで染みつかせる気はないよ」

「ならいいわ。じゃあ行ってくるから」

「はい、いってらっしゃい」

 

麦わら帽子をかぶった霊夢が空を飛んで買い物に出かけて行くのを見送る。今日も日差しが強いが風はある。山の空気を屋内に運ぶためにもまずは戸を全開にしよう。風鈴も出しておこう。チルノが来てくれたら何かしらもてなして、氷を出してもらおう。

 

昼と夜はどうしようか。素麺にしてもいいけど質素すぎるしそれは夜だな。薬味とかの用意して素麺茹でるだけで簡単だし、金平くらいは用意しよう。昼はもう少し質素じゃないようにしたい。きゅうりにトマトや茄子と旬の野菜が夏は多い。豚に近い猪の肉を薄くスライスして適当に作ったサラダの上に乗っけてゴマダレ……はないから適当にドレッシング作ってかけるか。ついでに紅魔館組から頂いたチーズと里の猟師のおっちゃんからもらった干し肉を細かく刻んでふりかければ立派な主菜になるだろう。味噌を使ったドレッシングならお米にも合う。

 

まずは家の戸を開けていき、蔵も風鈴を出すために開けておく。

 

「去年はどこにしまったっけ……」

 

確か季節ものはここら辺にしまったはず、と去年の記憶と毎年の習慣を頼りに探していく。埃も少しかぶっているため家から手拭いを持ち出して口元を覆い風鈴を引き出す。10分もあれば目的の風鈴は見つけれたし、蔵の中は涼しく汗をかくこともなく、体を冷やすことができた。もっと蔵の中にいたいが、開けっ放しにしていると、鼠が入り込んで色んな物を齧って被害を受けてしまうため、用事も済んだことだし、さっさと蔵から出る。薪を台所と風呂の所に持って行き、庭掃除を始める。日差しが強いため小まめに水分補給を摂る。水は昨日のうちに煮沸消毒した井戸水を使用したものだ。

 

まったく、良い天気だ(ああ……クッソ暑ぃ)

「全くもって同感だぜぇ……」

 

独り言に返事、熱中症かと思ったが、小まめに水分は摂取しているし、日頃から塩分は摂取しているからそこまで不足しているわけではないだろう。つまりこれは幻聴ではなく実際に発せられた言葉。声の主を探していると見つけたのは夏用の衣装に身を包んだ魔理沙が箒に乗ってやって来ていた。

 

「なんの用だ―――ってすごい汗じゃないか!?ふらふらしてるし、ちょっと来い!」

「うぉ…さーらーわーれーるー」

「ああもう!汗でびしょびしょだし脱水症とか熱中症になってやがるな!家に上げるぞ!」

 

クソが!陰になる場所に魔理沙を連れて行き、枕と団扇を用意してとにかく魔理沙の体を冷やす。俺が先程飲んでた水も飲ませて介抱する。衣類も首元や袖口などを緩めて呼吸を楽にできるようにする。

 

これは昼と夜の献立は交換だ。この状態じゃ魔理沙も帰せないし、魔理沙の泊りの準備もしておかないと。

 

「はぁ……、魔理沙、大丈夫か?」

 

魔理沙を団扇で仰ぎながら、今日組み立てた予定が崩れてしまったことにため息を吐いた。

風鈴が俺の心情を現しているかのように一度だけ涼しげに鳴った。

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