残暑というにはまだまだ高い気温の中、日中霊夢は札や針の準備をしていた。汗をかいているのにもかかわらず、床に滴る汗を気にしていないのかそれとも気づいていないのか、すさまじい集中力だ。話しかけても何も反応がないので今は放っておいたほうがよさそうだ。
霊夢が作業しているうちに昼食を作ってしまおう。
用意するのはこの前霊夢が仕留めたイノシシ肉と卵、トマトときゅうり、あとはいろいろな調味料。
イノシシ肉は1cmくらいの厚さに切って、切れ込みを複数入れた後に叩いて伸ばす。塩コショウをふってちょっとの間放置。その間にトマトを8等分に切って、きゅうりは細切りに、器に醤油と植物性の油、砂糖とお酢を混ぜて白ごまをすり鉢ですりつぶして調味料に混ぜて、これでドレッシングは完成。切った野菜を盛り付けて、ドレッシングは食べる直前にかけよう。
卵を溶き卵にしておき、お肉には小麦粉を薄くまぶして溶き卵にくぐらせて、焼く。焼いたお肉の香りが食欲をそそる。サラダにドレッシングをかけてご飯をよそって、料理終了だ。
居間に食事を運べばいつの間にか霊夢が待機していた。静かに待っている様は、待てをしている犬のようで、少し笑ってしまう。今は汗をかいていないようで、どうやら汗は手ぬぐいで拭いたのだろう。傍らに手ぬぐいが置いてある。
「いつの間に……」
「お肉の焼ける匂いがしたくらいから」
「お前はわんこかよ」
「ならあんたの肉も食べるわよ、獣みたいに遠慮なく」
「やめろやめろ」
雑談を交わしながら食事を済ませると霊夢はまた札やら針の準備をしに行ってしまった。これだけ準備するということは、今日の夜か明日には異変が起こるのだろう。今は邪魔はしないでおこう。
ここで原作のおさらいをしておこう。霊夢が初めて携わる異変の紅霧異変、次に霊夢の背景が少しだけ窺える春雪異変、鬼という妖怪の立場を明確にした萃夢想。
では次に起こる異変とは何かと問われれば、人里で生きる人間の生活を垣間見れる永夜抄だ。
ざっくりと永夜抄について説明すると、逃亡者のかぐや姫が月の住人に見つからないように起こした夜が明けないようになる異変だ。
今回の異変は基本的に二人組で行動する異変だ。例えば霊夢であれば紫母さんと、魔理沙であればアリスと組むようになっている。他にも咲夜さんはレミリアと、妖夢は幽々子さんと組む。ちなみに藍お母さんと橙は紫母さんと一緒に霊夢についていくようになっている。
俺はいつも通り後始末をしに行くのだろうが、他の人達と同じように二人組で行くのなら、俺も誰かと組まないといけないだろう。今回の舞台は幻想郷の竹林、今までの異変と違い道中に妖怪はたくさんいる。それは俺の身の危険を表す。そうなれば紫母さんもバディを推奨するか、そもそも行かせようとはしないだろう。もし誰かと組むならば誰と組むかという問題が出てくるが、博麗組、魔法使い組、紅魔館組、白玉楼組、俺と縁深い人達は皆もうペアを組んでしまっているので、誰か組める人を探さないといけない。さてどうするか……。
「どうしたらいい?」
「もしかして私に聞いてるのかしら?」
隣でぬるりと
「そうだよ。どうせ見てると思ったからな」
「そうねぇ……。霊夢も準備しているみたいだし、近々異変は起きるでしょうね。今不穏な動きをしているのは……ああ、いるわね。竹林の方。これじゃああなた一人で向かわせるのは荷が重いわね。どうする?藍や橙は私が連れて行くから、萃香を連れていく?」
萃香、鬼の四天王で陽気で呑兵衛どこにでもいるしどこにもいない妖怪だ。
いいかもしれいないが、どうしても俺の言うことを聞いてくれる気がしない。紫母さんが提案してくれているからある程度は話を聞いてくれるかもしれないが、予測不能な萃香を俺が制御できるとは思えない。
却下するにしても、他にあてがあるのかと言われればわからない。
ルーミアやチルノといった妖精や弱小妖怪はもしものことがあった場合対処できない。強大な妖怪はその役割があったり性格に難がある、またはそもそも異変解決に動いているため誘えない。
紅霧異変、春雪異変、萃夢想関係で俺と付き合いのある相手はこれで全部没案となる。それ以外だと天狗関連で
ああ、慧音先生で思い出した。適役が一人いるじゃん。
力は強くて、竹林に住んでて、性格も悪くないし、俺とも知り合い。
藤原妹紅、不老不死である元人間。かぐや姫である蓬莱山輝夜との因縁があるためそこはどうなるかわからないが道中の俺の安全は保障されるだろう。
だがそれまで倒された妖怪たちの救助もしなければならないため、霊夢や魔理沙たちの痕跡をたどる必要があるが、妹紅さんだけ連れていく場合難しいだろう。
「紫母さん、ちょっと人里まで連れて行ってくれる?」
「あら、もしかして先生に力添えしてもらおうと思っているのかしら?」
「今回は慧音先生の力は借りないよ。目的地は一緒だけど」
「じゃあ寺子屋前まで送ればいいのかしら?」
「うん、寺子屋までよろしく」
「任せなさい」
玄関に移動しながら紫母さんにお願いして、草履を履いたところでスキマを通って移動させてもらう。早ければ今夜にでも異変は起こってしまうため、今のうちに事前の打ち合わせは終わらせておきたい。それに妹紅さんは別に慧音先生の家に住んでいるわけではないので、もしいなければ妹紅さんの家、竹林の中を捜索する必要があるので、今のうちに見つけておきたい。
「すいませーん、
戸を叩いて誰かいないか確認すると、家の中からこちらに近づいてくる足音が聞こえるので、慧音先生か妹紅さんのどちらかはいるだろう。
「すまない、待たせたな。私に何か用か?」
「こんにちは慧音先生。今日は慧音先生に用件があって来たわけじゃないんですよ」
玄関に現れたのは慧音先生だ。慧音先生と妹紅さんの二人がいた場合は家人の慧音先生が出るのが普通であるためいいのだが、今は少しもどかしい。
「もしかして妹紅に用件か」
「そうなんですよ。今妹紅さんはいますか?」
「ああ、いるぞ。呼んでこようか?」
「申し訳ないのですが、ちょっと往来では話しにくい内容でして。できれば家に上げてくれると助かるのですが」
「むっ、まあいいだろう。上がりなさい」
「ありがとうございます」
許可が出たので慧音先生の家に入らせてもらう。居間にはちゃぶ台に肘をついて胡坐をかいて座っている妹紅さんがいた。
「こんにちは妹紅さん」
「こんにちは白鹿。私に何か用なんだろう?玄関先での会話、聞こえてたよ」
「話が早くて助かります。実は今度起こる異変に付いて来てほしくて、お願いに来ました」
「へえ、なんで私なの?お前なら人も妖も知り合いはごまんといるだろうに」
「あー……、口外しないでほしいんですけどいいです?」
「もちろん」
妹紅さんは言いたいことはズバズバと言ってくれるので話し合いはスムーズに進み、異変に同行してくれることとなった。ついでに少し頼みごとをしてお暇し、紫母さんにお願いして寄り道させてもらい、準備は整った。
さあいつでも異変よかかってこい!
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