霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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今日から毎日投稿しようと思います。
ストック?そんな物ねえよ…………


第6話

スキマを通ってたどり着いた場所は陽の光はないのに、どこか明るいが、その明るさも、ほの暗いという表現が適切なほどどこか不気味な気分になる。草木も枯れている物が多く、生きている植物もどこか弱弱しく、景色全体を見てももの悲しさしか感じない。

 

「さあ早く行きましょう?ここにいても幽霊が寄ってくるだけで、面白いことなんて何もないわよ」

 

紫母さんはそう言って、俺の手を引いて歩いて行く。初めは突然歩き出したことで足がもつれて転びそうになったが、紫母さんが上手くコントロールしてくれたおかげで何とか転ばずに歩くことができた。上手くコントロールできるのなら、そもそも転ばないようにしてほしかったが、そういった加減ができないところが紫母さんらしいところだ。能力ならかなり細かい制御もできるのになあ。

 

「ねえ、かあ()さん。なんでかいだん(階段)のぼ()ってるの?かあさんののうりょく(能力)ならすぐにかあ()さんのともだち(友達)のところまで()けるのに。どうして?」

「それはね、突然お邪魔したら失礼じゃない。だからちゃんと階段を上って門をくぐって、ちゃんとお客としていかなきゃいけないの」

「ならもん()しょうめん(正面)にスキマで()ればよくなかった?」

「……もしかしたら門番に切られちゃうかもしれないじゃない」

 

なんか言い訳が苦しく感じるのは気のせいだろうか?ここからではまだ門番を目視することはできないが、そもそも門番なんていただろうか?庭師なら確か魂魄妖夢がいるはずだけどまだ生まれて間もないみたいなことを藍お母さんが言っていた気がするし。

 

もんばん(門番)なんてほんとにいるの?」

「それはいるわよ。だってかなりの豪邸よ?いない方がおかしいじゃない?」

 

そう言われるとそうかもしれないと思ってしまうのは、俺が単にチョロイだけなのか、それとも紫母さんの説得が上手いだけなのか。

 

「さっさと上ってしまいましょう。いつまでもこんな所にいたらついた頃には陽が暮れちゃうわ」

「ん、わかった」

 

ここでうだうだと考えていてもどうしようもない。とにかく上ろう。上りながらでも会話はできるのだし。

 

「そういえば、きょう(今日)らん()かあ()さんはいっしょ(一緒)()なかったね。どーして?」

「今日は完全にプライベートだからよ。ほらたまには藍にも別行動をさせてリラックスさせたいじゃない。いつも上司()と一緒だと心労も溜まる一方だから、ガス抜きがどこかで必要なのよ。あと、霊夢のお世話もしなくちゃいけないしね」

 

それで休暇になるのだろうか?正直俺からするとかなりの重労働ではあるけれど、やはり妖怪と人間では体力の差が出てしまうものなのだろう。

 

かあ()さん、ゼエ……もうむり(無理)…ゼエ………」

「何?もう疲れちゃったの?だらしがないのねぇ」

()ども、ゼエ……なめんなッ!」

「日本語間違ってない?」

「そもそも……なんで………()んで…………いか……ないの?」

 

そうだ、母さんは飛ぶことができるのに、なんで飛ぼうとしないのだろう。幽々子の家に行くだけなのにこんな回りくどいことしなくても、我が家と幽々子の家をスキマで繋げれば楽なのに。まるでここから歩いて行くこと自体に目的を見出しているみたいだ。

 

「ふふ、だってそっちの方が風情があるでしょう?」

 

ちくしょう、涼しい顔しやがって!こちとら母さんより身長も足の長さも短いっていうのに、得意気に鼻鳴らしやて!こうなったら意地でも一人で上りきってやる!

 

一歩一歩ゆっくりと、しかし確実に歩んでいく。その一歩は蟻のように小さいものだが、象のように確かな一歩だ。

 

「ああ、もう!まどろっこしいわね!そんなに遅かったら冗談じゃなくて本当に日が暮れちゃうじゃない!」

 

母さんが急にキレた。だってしょうがないじょないこ。

 

()って……かあ()さん!…このたいせい(態勢)はやだ!」

「文句言わないの!」

「せめて…おんぶして!この……たいせい(態勢)…つら()いんだって!」

 

流石に激しい運動の後にこんな態勢にさせられると本当に辛い。こんな、俵抱きの恰好は。腹部を紫母さんの肩が直接圧迫してくるから、胃の内容物が喉をせり上がっていくのを感じるのだ。このままいけばまず間違いなく、階段を上りきってしまう前に嘔吐してしまうだろう。よしんば我慢できたとしても、瀕死に近い状態だろうことは火を見るよりも明らかだ。

 

「だから、文句言うんじゃありません」

()くよ」

「…………」

「…………」

 

紫母さんはゆっくりと、それはもう丁寧に重傷の兵士を扱うかのようにゆっくりと俺を地面に降ろした。

 

「……そんなに危なかった?」

「あのままだとかあ()さんのふく()よご()れてたかもしれないよ?」

「そうだったのね。…………ごめんなさいね」

 

申し訳なさそうな顔で謝っているのだし、何も悲劇は起こらなかったのでよしとするとしよう。

 

「でもたわらだ(俵抱)きはありえないよ。ちからも(力持)ちなおばさんとかじゃないんだから。おかあ()さんらしくおんぶとか、そういうのにしてよ……」

「うぐっ、そうね。今度機会があったらそうするわ」

 

その後、紫母さんは俺をおんぶして階段を上って行った。途中何度か「いい負荷だわ」とか「これで痩せられるかしら」とか呟いていたが、最近太ったのだろう。今回の事の真相はダイエットによるものみたいだ。しかしここで「太ったの?」「ダイエットしてるの?」とかは聞いてはいけない。どうせ叩かれるのは分かっている。痛い目を見たくないから、そっと俺の胸の中にしまっておこうじゃないか。あとはご飯を少しだけ減らしたり、なるべく動くような家事とかをさせて、日常的に軽い運動をさせよう。

 

「やっと着いた―!飛ばないと意外と時間がかかるものね」

「おつかれ」

 

そこにはもちろん門番なんて者はいなかったが、母親が達成感に浸っているのだ。ここで文句を言うのは野暮ってものだろう。願わくば紫母さんのダイエットが成功することを祈って。

 




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