マテリアル・シンカロン 作:始原菌
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高町なのはとユーノはジュエルシードを捜索するチーム。
紫宮紫苑とシュテルはマテリアルを捜索するチーム。
初邂逅からおおよそ一週間ほどが経過した現在。
二つのチームは合流はしていないが、協力関係にはある。
「ここからここまではもう探した」
「僕達の方でこっちまでは確認済み」
場所は紫宮家。テーブルの上に広げられたのは海鳴市の地図だ。
赤ペンであちこちに書き込みや塗りつぶしがされている。大きな○が書かれているのはジュエルシードを回収した地点。塗りつぶしは探したけれども何も無かった地点。
それを覗き込んでいるのは紫苑とユーノ。それぞれの調査結果に従って、書き込みが更新されていく。
なのはは不在。今日は放課後に友達と約束があるから、ジュエルシードの捜索は行くにしても夜からであるらしい。家で留守番のユーノは夕方も空いているので、今の内に情報共有となった。
「よし、これで全部かな」
「そうだね。僕達の分も全部反映したよ」
ユーノは聞いたところなのはや紫苑と同じくらいの歳らしい。
本人の希望もあって、敬語はなしになった。情報共有の機会が多いせいか、それとも単純に男同士だからなのか。今ではある程度打ち解けている。
「ジュエルシードの方は、改めて見ても適当に散らばってるって感じだなあ。法則性とか無さそうだ」
「船の爆発で放り出されたからね……でも思ったよりずっと広範囲に散ってる。紫苑達の方で探索を手伝ってもらって、本当に助かってるんだ」
魔法の能力で言うならば。高町なのはがメンバーの中でトップだ。
彼女一人でもジュエルシードの捜索、発動していた場合の沈静化、そして封印まで滞り無く行える。
けれども彼女は一人しか居ない。
一度に行ける場所は一つだけ。探索も魔法で行うにしても、その範囲には限りがある。
なので紫苑達が『ついで』でも同時に別場所を探していれば、単純に効率が二倍になる。紫苑側としても、なのは達が探している側が『外れ』だと解るので損にはならない。
「こっちはこっちでユーノが色々教えてくれるの、物凄く助かってる」
「そうかな。なら、よかった」
何より紫苑にとってはユーノの情報が貴重だった。
別の世界の魔法使いであるユーノは、今の時代における魔法の一般常識を知り尽くしている。シュテルも魔法側の存在だが――損傷による欠落、それと根本的に
ユーノはずいぶんと親身というか念入りというか、色々と教えてくれた。
重点的に教えられたのは、周辺へ被害を漏らさない類の魔法であったのは、
『けっかい? 決壊? 血塊?』
【非殺傷設定? 何ですそれは?】
『なんてことだ……』
ジュエルシードを強火で炙って鎮静化と封印をゴリ押し、ついでみたいに周辺の建築物や地形をごそっと焼滅させた紫苑を見て――このまま放置しておくのはまずいと思ったのだろう。
その過程で判ってきたが、紫苑の魔法の資質はあんまり一般的ではないらしい。
わかりやすくいうと大体何もできない。
普通の魔導師ならば使えるそれらを一切紫苑は使えなかった。加えて燃料の総量自体があまり多くもない。『リンカーコア』――魔導師が必ず持つ魔力生成機関の働きはそこまで活発でないようだ。魔法の色も能力の薄さを表すかのように『透明』である。
唯一使える魔法(?)は『
紫苑が何故か知っていて、無意識の内に使っていた術式。名前の通りに身体能力を引き上げるシンプルなもの。
ただ、性能はやたら優秀らしい。
消費に比べて信じられないくらいの強化倍率、単純使用なら負担も少ない。一つしか使えないからなのか、それとも術式が優秀なのかは不明である。
そしてこれらの前提が。
炎着をするとほぼ総て変わる。
やや不安定ながらも、普通の魔導師に可能な事は一通り可能になる。
リンカーコアも平均以上に活発になり、魔力の総量が跳ね上がる。魔力光はシュテルと同じ赤に染まる。更に借り受けた炎が加わることで、攻撃に大分傾いた性能に変化する。
変化前の性能はやや特殊。
変化後の性能自体はそこまで特殊ではなく、むしろ一般的に近づいている。
けれども劇的すぎる変化そのものが何よりも特殊。
そんな訳で。
何もかも判った、というよりかは。
どう判らないのかきちんと判った、といった感じである。
あとデバイスかどうかすら怪しいアーキアは一番怪しいが、怪しすぎて何もわからないので今は放置するということになった。
「ジュエルシードは今合計9個だっけ。もうちょっとで半分だね」
「うん。問題はこの先かな。近辺は結構探索が進んだから」
「気軽に行ける範囲で全部集まればそれでいいんだけど、残り半分だとちょっと厳しいかなあ」
「発動すれば遠くても位置は判るけど……可能ならば発動前に回収したい。僕がもう少し回復すればもっと広く行動できるんだけど」
一瞬。
早送りみたいなスピードで動き回る
実際はそんなフィジカルな方向でなくもっと魔法的な意味なのだろうけど。
「こっちはそろそろ遠出を視野に入れてるよ。でもついでで探すにはちょっと俺の探索範囲が狭いのがなー。ジュエルシードのサイズだと見落としそう」
「そうなんだ。じゃあその時は僕も連れて行ってもらえないかな」
「あ、そりゃいいや。ユーノがこっちの探索も手伝ってくれればすごく助かる。でも遠出は気になる噂が入ってるから、そっちを確かめた後かな」
「噂?」
「うん。何か『黒尽くめの怪しい人影みたいなのがうろついてる』ってのが、最近になって急に出てきてる」
「格好がおかしいだけなら、この世界の人の可能性もあるけど……」
「俺も最初はそう思ったけど――なんか放電してるらしいんだよね」
「それは怪しい」
「怪しいでしょ。実際に周囲の電子機器とかにトラブルも起こってるみたいでさ。今まで回収したジュエルシードに、そんな特徴の個体は居なかった。新しく発動したならユーノか高町さんが気付いてないとおかしい。だからジュエルシードとは『別口』な気がしてる」
「わかった。僕達の方でも気を付けてみるよ」
「お願い」
今までで一番期待できる。とはいえこれも外れなら、さっきも言った通りに行動半径を広げる必要性が出てくるだろう。
「あ、そろそろ時間だ。僕はなのはと合流するよ」
「送ってく。どうせ俺もこれから動くし」
「うん、じゃあお願いしようかな」
差し出した手を登って、ユーノがするりと肩に乗る。家を出ると陽は大分傾いていて、そろそろ夕暮れから夜に変わる時間帯と見て取れる。
フェレットであるユーノは当然ながら身体が小さい。身軽で素早くはあるが、長距離を移動するのはあまり向いていない。
なので、
「アーキア、オープン」
【Physical extend】
こうして、ユーノを乗せた俺が魔法ダッシュをした方が手っ取り早いのである。
跳ね上がった身体能力は、いとも容易く木々を飛び越える。適当な枝から枝へ飛び移っていれば直ぐに森を抜け、住宅街へ。今度は屋根から屋根を飛び移り、街を一気に突っ切っていく。
肩のユーノが認識阻害の魔法をかけているので、誰かに見られても気付かれることはない。魔法技術を用いていないこの世界の映像記録にも残らないのだとか。
炎着すれば紫苑も同じ魔法を使える。が、この状態で炎着するとユーノが焦げる危険性があるのだ。
待ち合わせ場所の公園、その上空にさしかかる。
手を振っているなのはの姿も、直ぐに見つけられたので近くに着地。
「こんばんは、高町さん」
「こんばんは、紫苑くん。ユーノくんもおかえり」
「うん。ただいま、なのは」
「…………」
器用になのはの方の肩に飛び移るユーノ。
ユーノとなのはの二人は、実際には友達もしくは仲間という括りになるのだろうけども。こうしているとペットと飼い主にしか見えない。
「じゃあそっちもがんばって。火力が要るなら呼んで、この後は炎着してるから念話通じると思うから」
「そっちも気を付けてね」
紫苑達となのは達は協力しているが、一緒に行動することはあまり無い。
なのでいつも通りに別れようとしたのだが。なのはから返答がなく、それどころか何故かじっとこちらを見つめている。
「どうかしたの高町さん。俺の顔に何かついてる?」
「紫苑くんわたしのこと、まだ名前で呼んでくれない」
「…………うん?」
ちょっとだけ。
気付かないふりをして、さっさと離れるべきだったかなとか。
「もうだいぶお話するようになったし。それにせっかく魔法のことも話せる人なんだから、私はもっと仲良くなりたいかなって」
「いや別に仲が悪いから呼ばないわけでなくて。女子を名前呼びはちょっとハードルが高いといいますか」
「ユーノくんは名前で呼んでくれるのになあ」
「的確に追い詰めてくるの止めて」
なのはの肩の上に居るユーノと目が合った。というか合わせた。
付き合いこそ短いながらも、ある程度は視線での意思疎通も可能であろうと信じて試みる。
『たすけぶねとか、ないですか』
『ちょっと、むりそうですね』
可能だったが何も解決しなかった。
別に嫌な訳ではないし、何か特別な理由があるわけでもない。
単純に恥ずかしいだけである。だからこそ簡単に頷けないのであるが。
「でも高町さん、考えてみて欲しい。確かに俺と高町さんは前よりずっと仲良くなったといえる。でも切っ掛けは魔法に関することだ。互いの呼称を親しい方向に突然変えたら、周りからどうして仲良くなったのかを聞かれた時に困ると思いませんか」
「うーん、そっかぁ……」
うんうんと、思考中とでも言わんばかりに唸るなのは。
このまま納得して欲しい。それに魔法に絡みの出来事がなければ、高町なのはと紫宮紫苑はただの同級生だったのは事実なのだ。
嘘は言っていない。
騙してはいない。
ただちょっと誤魔化しているだけである。
『でもそれだとなのはが名前呼びするのも駄目って事になるんじゃ……』
『それ絶対口に出さないでね。こじれるからね、本当にやめてね』
ユーノとの視線でのやり取りがこの短時間で洗練されてきた気がする。
「あ、じゃあ普段から魔法以外のことで遊んだりすればいいんじゃない?」
「嘘だろ更に追いつめられたぞ」
「なのは、こういうところはグイグイくるからなあ……」
▲▼▲
とん、と踏み出した。
実際に起こる音はもっと重たいドン、という音。
「炎着」
夜空へと打ち上げられた最中に、色々な色が変わる。
この状態ならば紫苑にも認識阻害の魔法が使えるので、即時発動。ちらちらと赤い炎を零しながら、さっきの何倍もの速度で街を通り過ぎていく。
「今日行く方向は――あっち、と」
一定間隔で探索魔法を発動しつつ、屋根から屋根を飛び移って移動し続ける。出る前に見た地図を思い出して、まだ探していない方向へと
この状態ならば探索魔法も使えるようになるが、ユーノやなのはが扱う魔法に比べて範囲がぐっと狭い。ならばどうなるか、答えは簡単である。
移動範囲でカバーすればいいのだ。
範囲を広げられないのなら、ひたすら走り回って広い範囲を埋めるのである。
【名前で呼ぶことに、特に問題があるとも思えませんが】
「突然だね」
ここ数日、シュテルはあまり表に出ていなかった。
探索の進捗等の情報共有はしているが、そうでなければ基本引っ込んでいる。
紫苑が呼びかけても応えが返ってこないことのほうが多い。無視しているのではなく、返答に割くリソースすらも惜しんで別の『作業』を進めているためだ。
【タカマチ・ナノハの事を、貴方はどう思っているのですか?】
「好ましく思ってるよ。というか彼女みたいなタイプは嫌われる方が少ないんじゃないかな」
【ならば尚更、要請に応えるべきと思うのですが。ユーノ・スクライアや私に対しては即座に呼び方を変えていたでしょう。何か違いが?】
やり取りの間に、すでに隣町の端までさしかかっている。
紫苑の魔法は限定的な分、効果が極端に高い場合があった。特に身体能力の強化に関しては、シュテルも底を測りかねている。
「ユーノは話した感じ本当に同年代って感じだったし。シュテルに対しては求められたからそうしてる」
【判りません。それならばタカマチ・ナノハも同じことでは】
「そうなんだけどね。高町さん、女の子だから抵抗がちょっとある」
【性別で何か違いがあると?】
「うん、まあ。出自と魔法は妙だけど、他の部分は結構普通に男子小学生なもので」
【つまり貴方にとって彼女は
「そこまで大げさなものじゃないけど、前と違って知らない仲ではなくなってるね」
好きか嫌いで言われれば、紫苑はなのはの事を確かに好きなのだろう。
ただ好きにも色々と種類がある。今回の紫苑の言う好きは、それらの中でも軽い。当然損得が絡む話など全くしておらず、もっとあやふやな感情の話でしかない。そもそもの原因がただ照れくさい、恥ずかしい、というだけなのだ。
【なるほど。
「そう?」
けれども
このやり取りを、紫苑はなのはを特別扱いしていると受け取っている。
有事の際には
「じゃあ、シュテルは高町さんのことどう思う?」
【そうですね。脅威と楽しみが半々でしょうか】
「完全に予想外な答えが来たぞ」
【傍で見ているだけで十分判りますが、彼女の魔導の才は本物です。もし彼女が敵に回れば非常に厄介でしょう。そしてそれだけの相手、競うには申し分ありません】
「へえ、シュテルって戦うのとか好きなんだ?」
【でなければ
「そうなんだ。ありがとう、参考になったよ」
【そうですか】
紫苑は単純にシュテルの新しい面が知れて喜んでいるだけだ。
けれどもシュテルは情報を渡しすぎたのかと危惧している。好戦的と明かしたから、危険視されるのではと懸念している。
「ところで、出てきたって事は作業の方は区切り付いたの?」
【ええ、まあ。一段落というところです】
探索魔法に反応はない。ジュエルシードどころか異質なものは何も無い。人々の生活の灯りを見下ろしながら、一人と一つは共に夜空を裂いて進んでいく。
『急いだ分、何とか形にはなりましたか』
他の誰にも、最も近くに在る人間にも届かぬように細心の注意をはらい。
具合を確かめる確認も兼ねて、シュテルは得た『声帯』を震わせる。
『後は、相応しい時に』
一人と一つは、
こっそりフルボイス化済み