Fate/First Rebellion   作:Alu.

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※出演人物、及び出演サーヴァントは全てオリジナルのものです。(多分)
魔術協会や時計塔、日本支部に関する記述は、極力調べた上でのものになりますが、一部自己解釈が含まれます。


序章(1話)

時計塔広しと言えども、二年近く過ごすと住み慣れた街のような感覚で歩くことができる。

知らない顔、何度か見る顔、出会えば挨拶する顔。何となく歩くだけでいろんなひとに出会える。派閥や主義は違えど、みんな総じて仲良くやっているように見えるこの"街"が私は好きだ。

私は魔術師として一人前になるべく、ドイツにいる両親のもとを離れてここへやって来た。親切な寮の同室の子のお陰ですぐに環境に馴染む事が出来て、気の合う友達も沢山できた。教授達も魔術に関しては人一倍の情熱を持って向き合っていて、良く言えば私好みの環境だ。—強いて言うなら恋バナが絶滅危惧種な所が年頃の乙女としてはなかなかに辛いところではあるが…

 

 

…と、踏み外した人生の道を悔やんだところで後戻り出来ないのはここに来てから何度も味わっている。

大して面白くもない全体基礎の講義に意識を戻しつつ、相変わらず脳内をお花畑にしていると隣に座る相部屋の子からペンが飛んできて無理やり意識をこちら側に引き戻された。感謝の意を視線で送り、再び大講義堂の中心で何か唱えている—否、私たちひよっ子に「魔術師たる者、常に冷静であって非情であるべし」と説いている教授に目を向けた。…ああ、みみがいたい。

頬杖をついて一つ小さくため息を吐く。私は何をしにここにいるんだろう、とお花畑思考ルート二週目に入ろうとしたタイミングで講義終了の鐘が鳴った。

「—以上で本日の講義を終了とする。それと、ケイ・ホシナ。少し残りたまえ」

「あ…はぁ?」

トートバッグにペンケースやらノートやらをぶち込む手を止め、素っ頓狂な声を出す。周囲の視線が自然と集まってくる。

私は周りにいる連中より成績は断然良いし、魔術の腕も上だと思っている。もちろん、それを鼻に掛けるようなアホらしい真似もしない。それに、呼び出しを無視するようなバカでもないので仕方なく教壇へ近づく。すると、後ろから同室の子が「先戻ってるね!あはっ」と、悪気もなくバカにしてくれている。おぼえてろこんにゃろめ

「他の者は早く出なさい。」

その一言で他の学生達は私を遠巻きに眺めながら、そぞろに講義堂を後にした。

講義中に意識が飛ぶくらいで公開処刑とかいつの時代ですか。と小さく毒つき、

「お呼びですか?ミラー教授」と仰々しく頭を下げる。

「—少し、話がある」付いて来いと、教授は講義室の照明を落としながらそう言った。どうやら小言だけでは済まないようだ。

なむさん。と、思ってもいない事を口にしながら教授の後に続いて講義室を出た。

ロンドンの夏は過ごしやすい。朝晩の寒さには少し驚いたが、こうして歩きながら、外から入ってくる風を感じるのはかなり心地よい。窓の外には一日の役目を終えようとしている太陽が中庭をぼんやりと赤く染めている。

それ故に、だろう。(おそらく)怒っているであろう教授の後ろを歩きながらもそれなりに気分が軽い。一日の疲れも相まってか、余計な思考が働かない。

「最近どうだ」

ぼんやりと窓の外を眺めながら歩いていると唐突に教授が話しかけてきた。

「絶好調ですよ。」

ろくに考えずに呟くよう返した。

「そうか。」

教授はちらりと私の方を見てそう答えた。

「日本では黄昏どき、というそうだな。」

「夕焼けの事ですか?そうですね。今の日本人が使うかは別ですが、そういう使い方もあります。」

突然何を、とは思ったが教授も窓の外へ目を向けている。夕暮れの美しさは万国共通のようだ。

「そうか。」

それきり会話は途絶えた。いつの間にか共用廊下を通り過ぎて、学生は滅多に訪れない教授棟へ入っていた。

二十世紀に入ってから現代魔術論科が設立され学生数が増えた事で、"雇われ講師"という形での教授がかなり増えた。そのため、この教授棟も何度か改築されたらしく、その度に謎のハイテク機器が設置され、それを現代魔術論科のせいにして事ある事にネチネチと訳の分からないことを言う他学科があるそうだ。要は使い方が分からないのだ。

目の前を歩くミラー教授も、雇われ講師の一人らしい。なかなか肩身の狭い思いをしていると聞くが、はっきり言ってどうでも良い。

そのまましばらく歩くと、ミラー教授の教授室に着いた。後に続き中に入ると煙草の臭いが鼻を突き、思わず咳き込む。

「ああ、やはり臭いか。すまなかった。」

と言って直ぐに窓を開けた。どうやら自分でもこの部屋の煙草臭を自覚しているらしい。

「講師の仕事はストレスが溜まってね。やる気があるのだか無いのだかよく分からん学生のせいで摂取量が増えて困る。」

と、聞いてもいない事を言い出す。もしかして私の事か。

「それで、何の用ですか。」

無視を決めこむ。とっとと本題をよこせ。

「急ぎなさんな。そこに掛けなさい。」

と、書類や書籍で散乱した室内で唯一の隙間であるソファを指さした。

「コーヒー飲むか?」インスタントで良ければな、と言ってデスクの抽斗からインスタントコーヒーの粉と謎の紙を取り出した。

私は頭を振り、手短に済ませてほしいと言った。

「ふむ。ジャパニーズレディには緑茶を用意するべきだったか。」

「いえ。要件だけで結構です。」

おら。停学なり退学なりどんと来いだ。

「そういう訳にもいかない。」

教授は笑って私の前にコーヒーと謎の紙を置き、正面のソファに腰掛けた。

「きちんとした説明が必要でね。」

と、私の目を見て言った。そして一呼吸置いて口を開いた。

「ミス・ケイコ。君は"オンミョウジ"を知っているか。」

 

ここ最近、不真面目な場面が多かったと自覚しているが故に、そっち方面で小言を頂戴すると思っていたのだが―予想外だった。

 

オンミョウジ、おんみょうじ、陰陽師

 

古代の官職、陰陽道を事とする集団あるいは人物。

 

「もちろんです。」

動揺を隠すようにコーヒーを口に含む。…にがっ。おいこれブラックだぞ。

教授は深く頷き、もう一つ問うた。

「君は、陰陽師の存在をどう考える?」

「―それは、日本人としての意見ですか?それとも魔術師としての、でしょうか。」

そう。教授の聞いた陰陽師がただの陰陽師でない事くらい、魔術師の端くれなら分かる。

「いや。どちらでもない。―君の、君自身の意見だ。ケイ。」

愚問だ。それは「お前は魔術師なのか。」と聞かれているようなものだ。

「もちろん消えるべき存在です。私は、魔術師ですから。」

そう。陰陽師は魔術師と似て異なる存在。魔術師を陽とするなら陰陽師は陰。陰陽師を陽とするなら魔術師は陰なるもの。互いに分かち合えるわけはない。魔術協会の目が日本に届きにくいのも、道理である。

「そうか。」

教授は一つ息を吐いた。

「―ケイコ・ホシナ。君に、魔術協会から仕事の依頼がある。」

…はい?

「九月に入ったら日本へ飛んでもらう。そして、陰陽師を名乗る男を殺害してもらいたい。」

…はい?

「いやあの…どういう事ですか?」

「なに、そのままの意味だ。…先日、秋葉原支部からの報告でね、陰陽師が魔術協会の壊滅を目論んでいるそうだ。」

話が飛躍していてよく分からない。というか、なんで私?

「陰陽師に魔術が効かないのは知っているだろう。」

私が混乱しているのを察したようだ。

「魔術協会に所属していて、魔術以外の戦闘を行える人間。かつ日本人となると、数は限られてくる。そこで君に白羽の矢が立ったわけだ。」

「はぁ!?」

コイツ、私がナイフ使えるってなんで知ってんの?

「時計塔に所属する人間のデータは全て取ってある。素性から魔術特性、家系図。―もちろん、そこには君のナイフ術の記載もある。」

ため息が出る。セキュリティとか大丈夫なの?

「というか、それにしてもなんで私なんですか?他にもいますよね?」

会ったことはないけれど、優秀な日本人魔術師は何人かいるはずだ。

「ああ。…君は実に優秀な学生なようでね。『講義は真面目に聞かない、レポートは適当、気の抜けた生活態度の割には主席争いに加わるなかなか稀有で優れた魔術師見習いだ』と我々の中では評判になっていてね。」

と、歪んだ口元を隠すようにコーヒーを飲み、そして言い放った。

「そこまで優秀ならばと、私が推薦したのだ。」

期待した私が馬鹿だった。テーブルに突っ伏したい気分だった。が、高さも合わないし、はしたないから諦めて項垂れるだけに済ましたが、いま一人だったら奇声を上げてる。

「詳しい話は日本でしてもらうが、その前に大事な話がある。」

聞けコラ。と、こちらも生来のSっ気が露見しだしてる。

顔を上げてひと睨みすると、悪かった。と全く気持ちが入っていない謝罪をされた。

「まぁ、我々とてレディを一人で放り出すような下衆な真似はしたくない。―そこで、上に無理言ってサーヴァントを一騎付けることになった。」

サーヴァント。今、この男は確にサーヴァントと言った。

「―本気ですか。」

「安心しろ。聖杯戦争は起こらない。」

どう安心しろと?聖杯が無ければサーヴァントは召喚されない。サーヴァントを用意するとは即ち聖杯戦争を行うという意味ではないのか?

「君の心配はよく分かる。しかし、安心しなさい。今回は、秋葉原支部で冬木の大聖杯を模造した劣化版聖杯。そうさな、擬似聖杯とでも呼ぼうか。それを作り出しサーヴァントを召喚する。擬似聖杯にはサーヴァント一騎を呼び出す程度の魔力しかない。もちろん、願望機として使えるものでもない。故に、君がサーヴァントを呼び出した時点で擬似聖杯の役割は事実上終了する。仕事が終わり次第契約を切れば聖杯ごと消滅しよう。―お分かり頂けたかな?」

「…一応。ですが、何故サーヴァントなのでしょうか。」

別に、他の人間と一緒でも良い気はするのだが。

「君が他人と一緒に行動を取れるようには見えなくてね。陰陽師の処分前に仲違いされては困る。」

ニヤニヤとふざけた事をぬかしやがる。

「まあ、冗談はそこまでにして。―上の方に口止めされているから詳しい事は言えないが、我々の目的は擬似聖杯の出現だ。サーヴァントはあくまでオマケだ。」

そう言って私の前に置かれた紙を指さした。

オマケを私の相棒にする気かよ。

「優秀な君には必要ないかもしれないが、明日から降霊学の講義にも混ざってもらう。それは指示書と今後のカリキュラムだ。」

一々うざったいなぁ。明日から真面目に講義聞きますよだ。

紙に目を落とすと、ご丁寧なことに降霊科のロードの署名まで付いている。現実を受け止めるしかないようだ。

「分かりました。」

腹は括った。明日から忙しくなりそうだ。

「では、失礼します。」

「我々は君に期待している。魔術師の命運は君が握っているようなものだ。」

幸運を祈る。と、去り際に言われたが無視してやった。

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