Fate/First Rebellion   作:Alu.

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一章〜召喚〜 1/2 (2話)

熱気が、一つの塊となって私を歓迎した。

九月一日。太陽はとっくに沈み、夜の街が顔を覗かせ始める頃合。私は再び日本に降り立った。当時の記憶のほとんどが魔術の知識に入れ替わっても、この暑さは忘れない。クソ暑い。

「ダルい。テンション上がらないわね。」

久々に使う日本語としては最悪に近いが、気を引き締めていかねばならない。お遊び気分は向こうに置いてきた。左手を軽く握り締め、令呪の存在を意識する。戦いは始まったも同然だ。

 

無事入国審査を抜け、到着ロビーに着くと指定された場所にスーツ姿の男が一人立っていた。

軽く魔力を放出し合図を出すと相手も気がついたようで、目が合った。

「保科圭子様ですね。」

と、深々とお辞儀をした。

「ご案内致します。」

車内から見える街の景色は、テレビで見るそれとはまた違った迫力を持っている。こんなに明るくて煌びやかなところが、私の生まれた国なのか。

思えば、なぜ日本を出たのか知らないでいる自分がいた。両親とは時計塔に入ったきり会っていないから聞けるわけもなく、自分の記憶にも残っていない。帰ったら手紙出そう。

流れて行く街灯をぼんやりと眺めていると不意に眠気が襲ってきた。

時差ボケかぁ…それか、結界作るのに気合い入れすぎたかな…慣れない事するもんじゃないわね…

 

うつらうつらと、沈降と浮上を繰り返していると車が止まり、運転手の男が声を掛けてきた。

「保科様。到着致しました。」

「Thank y…あー、ありがとうございます。」

寝ぼけてるな、私。あー頭痛い。

ボヤきながら車を降りると、眩しさで一瞬目が眩んだ。

「うわぁ…」

ここが秋葉原―時計塔の日本支部がある土地だ。

この明るさ見てると悲しくなるわね。魔術師達は何やってるんだか。

時計塔にいると世界から置いて行かれそうな錯覚に陥る。というか、科学技術の発達は既に魔術を超え始めている。

「こっちの生活はさぞ快適なんでしょうね。」

と呟いて、「こちらです。」と言って案内する運転手の男に付いて行く。

時計塔の秋葉原支部は電気街から少し外れた所にある、ごく普通のオフィスビルのように見える建物だ。

運転手の男に案内されたのは建物の地下。建物自体が魔術協会の所有物なのだが、資金不足や諸々の諸事情で地上階は国内の魔術師や一般人に貸し出しているそう。色々と問題が起こりそうだが、倉庫として貸し出しているため一般人の出入りはほとんど無い。

故に、日本支部の居城は実質的にこの地下空間のみである。最早地下の地脈を管理しているだけの業者のようだが、国内外からエリート魔術師が集めらている世界トップレベルの魔術集団でもある。―それも、過去の話なのだが。

閑散とした地下広間を通り抜け、案内されたのは支部長室。居心地の悪さを背に、いざ乗り込む。

「失礼します。」

室内は至ってシンプルだった。書類や魔術書が床に散乱しているわけもなく、煙草の臭いもしない。ミラー教授よりはまともな魔術師の根城のように見える。

「時計塔より派遣されました、保科圭子です。」

「ん。ああ、貴女…が時計塔の。遠路はるばるご苦労様です。僕は日本支部長の三浦です。」

と名乗った初老の男は、二言目で謝罪を始めた。

「保科さん、本来ですと貴女の安全は我々の方で確保する事になっていたのですが、事情が重なってしまいまして…」

と住所が書き込まれたメモ紙と鍵を渡して「代わりにこちらの住居を用意させて頂きました。」と言って頭を下げた。

いきなり何をとは思ったが、要するに日本での生活環境を与えられたらしい。それも破格の。

「我々の中には貴女の来訪を快く思ってない者もいます。依頼した側として失礼に値するとは思いますが、ご容赦ください。」

なるほど。建物に入ってからの居心地の悪さはこれらしい。広間に人がほとんどいなかった割に感じた殺意やら何やらの負の感覚はダテではないらしい。時計塔はかなり憎まれているようだ。

「分かりました。」

私も、知らない人間と過ごしてたら仕事に支障が出かねない。逆にありがたかった。

「本当に申し訳ないです。」と、もう一度頭を下げた男の目は悲しそうだった。

組織に挟まれるって大変なんだなぁ。

 

その後いくらか情報を仕入れ、早々に秋葉原を後にした。あの建物にいつまでもいたら、アホな国産魔術師に呪い殺されかねない。

それ以上に、早くひとりになって落ち着きたいという気持ちもあった。―サーヴァントの召喚には相当量の魔力を持っていかれる。サーヴァントのクラスは事前に指定されているし、手元にある触媒から、呼び出す英霊も大方検討が付くとは言え、ヘマをして全部おジャンにしたら帰れる場所がなくなる。

英霊召喚は、恐らく私の今までの魔術師人生で一番の大魔術。絶好の精神状態で挑みたい。

秋葉原駅から総武線に乗り、御茶ノ水駅で中央線に乗り換える。向かう先は立川市。―陰陽師の活動拠点だ。

立川までの三十分強、魔力温存の為に睡眠を取ることにした。幸いな事に終電間際で車内はまばらであったため、七人掛シートの一番端を陣取ることができた。

電車の動き出しと同時に、上の瞼が下の瞼とイチャつきたがり始めたので、万が一のことを考えて魔力感知能力を上げておいたが、次に目を覚ましたのは電車が国立駅を出た時だった。いらん事した。

 

寝ぼけ眼で頭がはっきりしない状態で改札を抜け、駅前の大通りを北に進む。歩き始めてしばらくはすれ違う人や車で、時刻の割の騒がしさを感じたが、10分ほど歩くと片側一車線の小さな都道に変わった。道の両端は街の歴史を語る古い建物と真新しい更地。そして場違いな様子でふんぞり返る新しいマンション。酷くアンバランスで、言いようによってはまた騒がしい景色だが、異様なほど静かで、人の気配が極限まで少ない。

「薄気味悪い。」

とはいえ仕方がない。ささっと仕事を済ませて帰るだけだ。

メモにある住所は小さなアパートだった。三浦曰く、住人は魔術にいくらか関わりのある人物しかいない。周りの目を気にする必要は無いとの事だった。

私は結界で魔力の気配をほぼ遮断できるから、周りの住人が一般人でも構わなかったが、そこを気にしなくて良いのはかなり気が楽だ。

アパートの正面のコンビニで適当に食料を買い込み、アパートの二階へ上がる。玄関の鍵を開けると、室内からは染み付いた魔力の残滓と女の生活臭がした。家財道具も一式残っている。部屋を空けてもらったのは昨日あたりだろう。残っている家財道具は、使って良いってことかしら。

これも、三浦なりの配慮なのだろうが、元の住人には少し申し訳ない。

部屋を奥へ進み、押し入れを開ける。建付けが悪いのか、軋みながら開いたその中には、女ひとりが住む部屋とは思えないほど大量の寝具が詰まっていた。全てを広げようものなら、この部屋の三倍の空間は必要だろう。

何の為に?―収集癖か?違う。何も知らない一般人にそう思わせる為だ。

この白い壁、寝具に見えるこれは魔力で編んだ偽の不開門。一般人は開けることの出来ないギミックである。

故に開けるのは簡単だ。魔力を通し、管理者権限を以て命ずるだけだ。―退け―と。

部屋を一瞬白い光で包んで、寝具の山は跡形もなく消え去った。押し入れに残ったのは地下を直接保護する結界。そう。言うなれば第二の鍵。先程の寝具が一般人避けであるなら、この結界は魔術師避け。万が一ここへ来られても入られないようにするためのものだ。

この手の結界は作成者より腕の劣る魔術師には開けられないもの。単なる力比べである。

私は軽く深呼吸をして結界に手を触れた。開けられない事は無いはず…

一呼吸で三行の解錠呪文を唱えると結界は青く光り、あっさりと消えた。よし。

この地下に仮設工房があると、三浦は言っていた。はっきり言って使う気は無いけど、サーヴァントを寝かしつけとくには丁度良い空間かもしれない。

ゆっくりと石でできた階段を降りる、三階建てのアパートの二階と三階部分に住居スペースがあり、一階は全て工房になっている。つまり、私が向かっているのは真下の部屋という事になる。

この建物は地下に地脈が走っていた場所に建っているらしく、仮設工房とは言えマナの供給に問題は起こらない。耐久戦になった際の立てこもり先としては充分使える工房だが、はっきり言って私の趣味じゃない。

私は産まれてこの方工房を持ったことなど無いし、魔術も両親から受け継いだものと、時計塔で詰め込んできた無駄な知識だけだ。もとよりこの仕事に魔術研究など必要ない。

押せば壊れてしまいそうな木の扉を前に幾秒か、振り子のように揺れる思考を眺めて立っていた。

「先にサーヴァントかな…いや、少しは覗くか。」

ため息を吐き、木戸を壊さぬようにそっと引き開け、中を覗いた。

すると、主人を待ち構えていたかのように照明が音もなく灯った。

「ひっ…驚かせないでよ…」

扉の隙間からちらりと工房内を一瞥し、中を確認する。結局と言うか、やはりと言うか、道具一式全てが揃っていた。

「最優のもてなしはありがたいんだけど、一周まわって引くわこれ…」

陰陽師の脅威の傘下にいるのは何も日本支部だけではない。"魔術世界の崩壊"と言ったら時計塔も黙っているわけにはいかない。当然、私だって依頼された仕事をこなすというのは建前に過ぎず、本心ではぶっ殺して子々孫々根絶やしにしても良いと思っているくらいだ。陰陽師はそれほど危険な存在なのである。

故に私は来訪者ではない。もてなされるスジはない。

扉をそっと閉じ、元来た石段を上がる。サーヴァント召喚に使うが良いと三浦には言われたが、お断りさせてもらおう。丁度アパートの裏手に小さな神社があったから、そこを使うことにする。

 

神社とは言ったが、そこにあるのは小さな社殿だけ。周りを木に囲まれた小さな空間にぽつんと建っている社殿には、おおよそ神社と言える荘厳さは無い。あるいは、私が知識として知っている神社が大きすぎるだけか。

鳥居をくぐり敷地に入ると、また違った静けさが身体を包んだ。ここは聖地であると、空気が告げている。

魔術とは神への叛逆、神の創りし世界を逆行し根源へ至ろうとする不遜。創造主、あるいは調律主に逆らう事は許されない。立ち去れ。―そんな言葉が聞こえてくるような気がする。

けれど、そんな事は承知の上である。むしろ、神秘を秘匿する我々を認めるべきではないか。神よ?

自然と、笑みがこぼれる。キリスト教徒でも無い私が神を信じるのか?笑わせる。そもそもここは日本だ。

 

周囲を見渡し、人がいないことを確認する。

 

『―Setzen Sie die Barrier Wie bitte meine Welt

 

呪文を唱え、神社を囲うように大きな結界を張る。

この結界は内側の魔力をシャットアウトし、外から見えなくするもの。私が空港でナイフを持ちながら金属探知機をすり抜けたのは、この結界を私の身体を覆うように張ったから。言わば、この空間は透明な防音室だ。

私がわざわざ外へ出て召喚しようとしたのはこれが理由だ。この結界を張っているうちは、サーヴァントの召喚でさえも、周りの魔術師に感知されることは無い。もちろん陰陽師にも。

結界の完成を確認し、召喚陣を描くべくナイフを取り出した。道具が無いので仕方がないとはいえ、自分の身体を傷つけるのは少し躊躇いがあった。しかし、迷っていたところで解決する話ではない。

二度ほど深呼吸をし、素早く左腕の前腕部を肘から手首にかけて、ナイフで一筋―。途端、行き場を失った黒い液体が肘を伝い神社の乾いた地を濡らしてゆく。ピリピリと軽い痛みが左腕を支配し、反射的に治癒魔術を施しかけた。

痛みを恐れたためか、浅い傷から滴る血は召喚陣を作るには少し足りない。が、足りない分は魔力で補えると判断し、左手を前に伸ばして陣を作る呪文を唱えた。

すると、左腕の傷から赤く光りながら血が滴り落ち、光が地面に広がるとゆっくり移動して円を作り、細部を描き、私の足元に大きな召喚陣を作り出した。

左腕の光は消え、周りが元の静けさに戻ってもなお、足元の陣は赤く脈打つように鈍く光っている。―魔力が通っている証拠だ。召喚の準備は整っている。

最後に、カバンから取り出した触媒―汚れた聖書をそっと陣の前に置き、儀式を。闘いの始まりを。魔術師と陰陽師の関係に新たな色を。我が身の守護を。―サーヴァントの召喚を始めた。

 

『―素に、銀と鉄

 

魔術師の誇りをかけ、私は、陰陽師を滅する事を誓う―。




ドイツ語の詠唱はgoogle先生にお願いしました()
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