Fate/First Rebellion   作:Alu.

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一章〜胎動〜 1/2 (7話)

「…聖杯の件はこちらで本部に報告します。貴女は引き続き陰陽師の捜索をお願いします。」

この歳になって頭を下げるとは思ってもいなかった。まして孫ほどの歳の小娘に。

屈辱─とまではならずとも、良い気分では無いことは確かである。自然と腕がジャケットの内ポケットに向かっていた事に、そしてそこに目的のものが無いことにようやく気づいた頃には保科圭子は既にこの部屋を退出していた。

随分と前に出ていった娘にひどく言われてからご無沙汰していた煙草も、ここ最近では暇さえあれば咥えている。煙草の味を覚えた気はしなかったが、愛煙家の気持ちをうっすらと理解し始めている自分がいる。

デスク脇の金庫─鍵が刺さりっぱなしで金庫の役割を果たしていないが─には地下室の鍵と共に輸入物の煙草が何箱か入っている。

ロンドンにいた頃に「友人の友人から譲り受けた」と当時仲の良かった友人から半ば押し付けられるように渡されたのだが、その友人が不味そうに吸っているのを前に一度見ていたので、何故に僕の手元に渡ったのか分からんでもないが分かりたくないような感覚を覚えた記憶はある。秋葉原に来てからも吸う機会はなくこのまま廃棄処分かと思っていたのだが、運命とはまさにこの事であろうな。と、太極図が描かれたパッケージを眺めながら思った。

「煙草を吸うなら換気してくれと言ったはずだ。」

背後から声がした。振り返るまでもない。

「すまない。君がいるとは思わなかった。」

煙草を金庫に戻し軽く伸びをした。当分吸わなくて済みそうだ。

「吸わぬのか?ああ、私が居ては吸えぬか。」

男はそう言うも、立ち去る気配は無い。常より寡黙であった男は用もなく自ら話しかけることも無い。

「やはり、違和感があるのだな…そればかりはどうしようもない。こちらで補える手段は全て取った。あとは君の努力次第と言ったところだが…」

「いや。そうではない…今の女は何者だ。」

男は保科が気になっていたようだ。無理もないだろう。この建物にいてあの女に無関心になれる者は余程の馬鹿か魔術を知らない者だけだろう。

「彼女は保科圭子。例の陰陽師の件でロンドンから派遣されてきた魔術師だ…一応、彼女の中では君は存在していない事になっている。くれぐれも顔を合わせるのだけは避けてくれ。」

男はそうか。と、少し残念そうに呟いた。

「…あの女、真正面から斬り合ったのならば、今の私に死場を与える存在やもしれぬ。」

獲物を見つけた獅子のごとく、あるいは価値のある絵を見つけた画商のごとく、期待と興奮を交えた様子で男は語った。

「事が片付いたら好きなだけやれば良い。今の彼女は我々の味方だ。」

出かけるぞ。と一言告げて部屋を出る。ちょうど外から戻って来た雑用係とすれ違ったので煙草の買い置きを指示した。今帰ってきたところなのに、と心底辛そうな顔をしている。それが君の仕事だ仕方がない。

夕方になり定時報告をミラー教授に送ったところでテレビを付けた。聖杯の事は三浦経由で話が伝わるだろうから、特別伝えることもない。

「最悪秋葉原に逃げ込めば良いのか…」

本坂田に協力する。それは聖杯戦争に参加するに等しい。

監督役がいない状況で陰陽師はともかく、参加する魔術師達がルールを守るとは言い切れない。そんな空間に飛び込むのは自殺志願者くらいだ。

けれど、"聖杯の起動"をさせるわけにもいかない。冬木の聖杯がもたらした被害は魔術史に残るものとなった。

あの惨劇を繰り返してはならない、聖杯とその能力は魔術世界の発展のために使われなければならない。そうミラー教授が説いたのを、私は何故か覚えていた。実力主義の世界でよくもまぁ平和的な事を…と思っていたような気がする。

ふとテレビを見ると、見覚えのある風景が映し出されていた。ニュースキャスターが原稿に目を落とし幾ばくか慌てた様子で言葉を発している。

『…川市内の住宅街で突然爆発音がし、近所に住む住民から消防に通報がありました。爆発の影響による怪我人はいませんでしたが、付近の住宅用倉庫と思われる建物が炎上しました。』

これは…

「本坂田氏の、だね。」

キャスターが実体化してテレビのリモコンを手に取り、音量を下げ私の隣に座った。

「実は使い魔に爆発までの映像を記録させておいたんだ。結界の破壊、そして結界内の魔力の放流を確認できた。」…観るかい?とキャスターは聞いてきた。

「結構よ。本坂田の動きは?」

「爆弾は時限式だった…本坂田が爆発の瞬間、どこにいたのかは把握出来なかった。無論、使い魔の可探知圏内ではね。」

キャスターは日の沈みかけた窓に近寄り、さらに付け足した。

「結論から言うと、本坂田は魔術師だ。あの結界に閉じ込められていた魔力量はサーヴァント一騎がBクラスの宝具を発動する際に消費するそれと同等以上。簡単に言うと魔術師なら喉から手が出る程欲しい量だ。僕でも欲しいくらい…本坂田があの魔力を貯めた人間なら、ただの爆弾一つで自然に還すような事はしないだろう。何かしらの策を講じて回収を試みるはずだ。」

でもそうしなかった。私を欺くため?そんなはずはない。無駄が多すぎる。

「あれだけ純粋な魔力はなかなかお目にかかれない。本坂田は単純に知らなかったんだよ、あの中身を。」

「本坂田は結界の設置者ではない。そう断言しても良いんじゃないかな?」

キャスターは満足げにそう言った。

「それで、陰陽師の方に動きは?」

予め、陰陽師と思しき、あるいはその可能性のある人物を使い魔で監視させている。アタリがあれば今日中に仕留めるつもりでいた。しかし、キャスターは首を横に振った。

「初めから外してるパターンかしら…」

はぁ、と大きなため息を吐き身体をソファから滑らせた。服がソファに絡まれて臍が露になる。ロンドンにいた頃ならこんな事絶対やらない。と言うより同室の子がやるのをよく注意していた。

ニュースの話題は既に変わっていた。キャスターはいつの間にか地下工房にいる。借り物なのだから、と咎めるのは飽きた。

欠伸を噛み殺しテレビに意識を向けた。わくわくざぶーんとはまたふざけた名前を…

「あー海でもプールでも良いから水着になって男どもの視線を集めたいわー」

ポロッと呟き開放状態の腹を見る…いや無理だな…

再びため息を吐きテレビを消した。今部屋の前に陰陽師が訪ねてきてもイケメンならホイホイ付いて行く自信あるわ私。

今日は早めに寝て明日に備えるべし。

冗談抜きで明日からが勝負である。本坂田と協力し速やかに聖杯戦争を終結させ、陰陽師を殺害する─簡単な事ではないが、乗り越えねばならぬ壁でもある。

 

─── ノックの音がした。

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