「……あ、ありがとうございましたっ」
「いえいえ、全然気にしなくていいですよ」
ちょうどこれからの予定を話し終わった頃に花女の校門前に着いた。なんとか時間に間に合ったらしい。
「それじゃ入学式が終わり次第すぐこっちに来ますので、そしたらケーキ食べに行きましょう!」
「た、楽しみにして待ってるね」
「あはは…期待に応えられるよう頑張りますね」
あまり時間が残っていないので車のドアを閉め出発しようとすると花音さんに呼び止められた。
「あ、待って……!」
「どうしました?もしかして忘れ物でも…」
「あ…その、えっと…そうじゃなくて…」
なかなか言い出しづらいことだったのかだんだんと花音さんの目が潤み始めた。周りからは知らない男子高校生が女子高生をいじめているように見えているのかさっきから視線が痛い。
「そんなに言いづらいなら無理しなくても大丈夫ですよ?周りの人達の視線が…」
「っ違うの!…ちょっと恥ずかしかっただけだから……。その…にゅ…入学式…頑張ってね」
「…………」
突然の言葉に唖然としていると、花音さんがさっきよりも泣きそうな顔になった。
「ごっ…ごめんね…余計なお世話だったよね…」
「全然そんなことないです!ちょっと嬉し過ぎてぼーっとしちゃっただけですから!」
急いで弁解すると花音さんは安心したのか笑顔で続けた。
「そっか…よかった……。呼び止めてごめんね…行ってらしゃい…」
「はい!行ってきます!」
«花女校門前»
「あの別れから7・8時間が経過し…無事に花音さんと感動の再開を果たせたのであった…」
「な、なんで説明口調なの…?」
『花音さん は 困惑している。』
「ちゃんと何があったのか説明しないとお話として成り立たないからです」
「そうなんだ…。それなら、なんで他の生徒さん達より30分以上遅かったのか聞いていいかな?」
『花音さん は 少し 怒っている。』
「実は入学式で爆睡してしまいまして…それが原因で教師数人から呼び出さられて怒られてました」
「……」
『花音さん は 怖い(可愛い)顔で黙ってこちらを見ている。』
あ、花音さんこんな顔できたんだ…
以外と怒らせちゃいけない部類の人なのかもしれない
「ごめんなさいごめんなさい!最近なかなか寝れていなくて…」
割と本気で怒っているので嘘をつかずに理由を言うと怒っている表情から一変して、泣きそうな顔をして一言。
「入学式頑張ってねって言ったのに…」
「ああああああああほんとごめんなさい!でも…」
「なに?もしかして私なんかに応援されても頑張る気にならなかったとでも言いたいの…?」
「そんなことないですぅぅ!!僕が悪かったから許してくださぁぁい!!!」
なんだか今朝の仕返しをされているみたいだ。などと頭の片隅に思いながら花音さんに全力で謝っていると、1人の少女が声をかけてきた。
「花音?何してるの?」
「あっ千聖ちゃん、もう帰るの?」
花音さんの知り合いらしい。親しげに話しているということは同級生だろう。ふと、いいことを思いついた。
「ええ、日直の仕事も終わったから。…所でその人は知り合いなの?とても言い難いのだけど…はっきり言って少し怪しいわ」
千聖、と呼ばれた少女は俺のことを見ながら花音さんに尋ねた。
「どうして…?別に怪しい人じゃないはずなんだけど……って、何で土下座してるの……!?」
思いついたのは花音さん対する仕返しだ。子供だと思うだろうか?自分でもそう思う。
「花音様が許してほしいなら誠心誠意、全力で謝罪しろとおっしゃったからです!土下座して靴を舐めろとも言われました!」
「花音。まさかあなたにそんな趣味があったなんて…」
「そんなこと言ってないよ!?千聖ちゃんも信じないで!」
ふっふっふ…焦ってる焦ってる。おっと、笑うのはまだ早い…ここで更に追い討ちをかける!
「私を待たせたことを心の底から申し訳ないと思うなら、今この場で土下座しろって言われました!」
「花音……」
花音さんが泣きそうな顔をしている。思った通り効果は覿面だ!
「千聖ちゃん信じないで!」
「…冗談よ。花音がそういう性格じゃないのは知ってるから。そんな泣きそうな顔しないの」
「チッ」
まぁ、そりゃそうだよね。そう簡単に信じないよね…
「さて、この人はどうしようかしら?」
千聖さんが笑顔で詰め寄ってくる。
「今起きた事をくるっとまとめて水に流してくれたりしません?」
「「だめ」」
綺麗にハモっていらっしゃる。
「oh......」
「ほんとにどうしようかしら花音?」
「うん、それなら……」
«喫茶店»
「まさか花音さんだけじゃなく千聖さんにもケーキを奢ることになるとは…」
「あら、よかったじゃない。この程度のことで済んで。花音が本気で怒るとすごいんだから」
「マジですか…」
「千聖ちゃん!?」
「冗談よ。でもほんとによかったの?私にもケーキを食べさせるってだけで許して」
「うん。せっかくだから一緒に食べようと思って…それに、あなたも流石に懲りたでしょ?」
花音さんはこっちを向いて笑顔で言った。やっぱりちょっと怒っていらっしゃる。
「あはははは…はい、もう十分懲りました」
実際本当に後悔している。理由はこの状況なら簡単に推測できるだろうが、花音さんの食べる量が異様に多いのだ。それこそ千聖さんの皿の枚数にダブルスコアの差をつけるくらいに。そろそろなんとかしないと所持金がすべてなくなってしまう。止めなければ…
「ほんとに反省してますからあんまり食べ過ぎないようにしてく…」
「遅刻…」
無理でした!
「どうぞお食べ下さい!僕の財布を食い潰すつもりで!!」
今日最大の弱みを突きつけられた。
自分の財布の中身を気にかけながらどうにかして花音さんに食べるのをやめてもらおうとしていると意外にも千聖さんが助け船を出してくれた。
「花音…流石に私もちょっと食べ過ぎだと思うわよ?」
やっぱり花音さんの食べた量は食べ過ぎの部類に入るらしい。女子の中ではこれが当たり前だと思うところだった…
「そうかな…?」
だがしかし、千聖さんに注意されても花音さんは食べるのをやめない。その様子を見て千聖が更に一言。
「あんまり食べ過ぎると太るわよ?」
花音さんの手が止まる。
「う、後1個だけ…」
だがケーキを諦められないのかまた食べるのを再開しようとした。しかし千聖さんがそれを許さない。
「だめよ。もうそれで最後にしなさい。」
「うん…」
「千聖さん、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いいのよ。食べ過ぎなのはほんとなんだから」
確かに食べ過ぎだ。あの細い体のどこにあんなに入るんだろうか。
「いえいえ…ほんとに助かりました。それじゃ僕は会計行ってきますね」
「ええ、よろしく頼むわね」
千聖さんに礼を言ってレジへ向う。
「あれ?誰もいない…」
レジまで来たのはいいものの、そこには誰もいなかった。奥の方から人の声と食器が擦れる音が聞こえるのでちょっと恥ずかしいが呼んでみることにした。
「すいませーん。会計お願いしまーす」
幸い、平日の昼過ぎということでこの喫茶店にいる客は自分達を含めて数グループほどしか居ない。少しくらい声を出しても注目されることはないだろう。
「誰も出てこない…いくら人が少ないからってこれより大きな声出すのはちょっと恥ずかしいなぁ…」
声が小さかったのか誰も出てくる様子がない。
「仕方ない。さっきよりも大きな声で…」
めいいっぱい息を吸って…いざ!
「すいません!遅れまし「すーいーまーせーん!」きゃあっ!」
やってしまった…なんとも最悪のタイミング。
「ああああすいません!驚かしてしまって」
今日僕は何回「すいません」と言ったのだろうか…
「いえ!私がもう少し速く来ればよかっただけなので気にしないで下さい!」
奥から出てきたのはおそらく自分と同い年位であろう茶髪の女の子だった。これといって目立つ特徴がないが充分顔が整っていて可愛らしい。
「あの会計お願いします」
「はい!えっと合計で4698円です!」
「思ってたよりも高い!?」
レシートを見ると同じケーキの名前がたくさん並んでいた。少しだけ違う名前のケーキが混じっているのは千聖さんが食べたものだろう。
「すごい食べましたね。そのケーキそんなに美味しかったですか?」
想像以上の金額に驚いていると店員さんが目を輝かせてきいてきた。
「いや、食べたのは僕ではないので…」
「そうですか…」
嘘をついても仕方がないのでケーキを(馬鹿みたいに)こんなにたくさん食べたのは自分ではないことを伝えると店員さんは「しゅん…」という擬音をつけるのがぴったりという程に落ち込んだ。何故かものすごい罪悪感を感じる。
「ああでも!こんなにいっぱい食べたんだからきっと凄く美味しかったんだと思います!だって普通はこんな同じケーキばかり食べないでしょうし…」
「そうですよね!実はこのたくさん注文してもらったケーキは私が考えたメニューなんです!」
咄嗟のフォローが成功したようで店員さんの顔に笑顔が戻った。やっぱり自分が作ったものを美味しいと言って貰えるのは嬉しいんだろう。
「えっと…5000円からで良いですか?」
「はいっ!ではおつりの302円とレシートです!ありがとうございました!」
「ごちそうさまでした。また来ます」
そう言って花音さんたちの元へ戻ると、何やら2人はひそひそ話をしていた。
「どうしよう千聖ちゃん…我慢しようと思ってたのに食べ過ぎちゃったよぉ…後で何か言われるのかな?」
「流石に食べ過ぎよ…さっき会計してる時見えたけど、すごい顔してたわよ」
「ふぇぇ、どうしよう」
…もう少し続きを聞いてみよう。
「もしかしたら、この後暗がりに連れ込まれて…」
「ふぇぇぇぇ…」
「そんなことしません!」
「ふぇ!?」
あまりにも酷い言われようにちょっとイラッとしたので花音さん軽くデコピンをした。
「2人は一体僕のことをなんだと思ってるんですか…」
「「ちょっと変でヘタレな人」」
「…だいたいあってるのが悔しい。でもだからってちょっと冗談が過ぎますよ。ヘタレじゃないです」
不名誉な印象を取り消すために千聖さんと話していると、花音さんが小さい声で一言。
「あ、あとちょっと意地悪な人」
「聞こえてますよ花音さん…?」
「だって今朝」
「ごめんなさい。僕が悪かったです」
「やっぱりヘタレじゃない」
「ち、違いますよ!」
「それじゃあ私はこれから用事があるから失礼するわね?ケーキごちそうさまでした♪美味しかったわ」
「僕の言ってることスルーしないで!」
「はいはい…ヘタレじゃないってことにしておくわね♪またね、花音」
「うんっ。またね、千聖ちゃん」
「ええ、また明日」
そう言って千聖さんは行ってしまった。
「…行っちゃいましたね。花音さんはどうします?」
「うーん…私はもう少しゆっくりしたいな……」
あれだけケーキを食べれば少し休みたくもなるよね。
「わかりました。それじゃもう少しおしゃべりでもしましょうか」
「うん、ありがとう」
花音さんは少し申し訳なさそうにそう口にした。正直に言ってこの後は暇なので気にすることではないことを伝える。
「いえいえ、僕は家に帰っても特にすることはないので僕からしてもありがたいですよ」
「そっか、よかった…。無理させてるんじゃないかっててちょっと心配だったんだ…」
「ほんとに気にしないで下さい。そもそも花音さんみたいなかわいい人と話せるだけで役得ですから」
「…ほんとに心配してたのに」
ちょっと怒らせてしまったらしい…
調子に乗りすぎたかもしれない。
「嘘じゃないですって…。まぁこの話は置いておいて、普通におしゃべりしましょうか」
文才が欲しい…