「ほんとに歌わなきゃいけないのか…?正直自分言うのもなんだけどそこまで上手くないぞ」
呼ばれたから来てしまったが、本音を言うと歌いたくない…。今からでも観客に戻らせてくれないかな。花音さんは泣くだろうけど。
「そんなの関係ないわ!そんなことよりも楽しまなくちゃっ!それに、上手い下手を決めるのはあなたじゃないもの」
遠回しに自分の意思を伝えたつもりだったが上手くいかなかったらしい。というか意外にも正論を返された…。
「それは…確かにそうだけど……」
言葉を濁してどうにか逃げようとするこちらの様子に気付かずに、弦巻こころは続けた。
「なら、歌いましょう?勇気が無いならあたしがあげるわ!だから…一緒に歌いましょう!それで世界中を笑顔にしましょ!」
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「「ららら〜♪」」
先程まで鳴り響いていた音楽の中に自分の音が混ざっているのは変な感じだったけれどもそれは嫌な気分にならず、むしろ楽しかった。
「〜〜♪」
花音さんも先程とは違い笑顔で演奏していた。
花音さんだけじゃなく観客も、
もちろんこころも笑顔だった。
世界中を笑顔にすると言っていた彼女は、宣言通り彼女自身が創り出したこの世界に大勢を巻き込み、巻き込んだ全員を笑顔にして楽しませいた。それはただの凡人には出来ることではなく、凡人である自分からはとても眩しく感じた。けれど同時になんだか羨ましく思った。
■■■
「すーっごく楽しかったわ!花音、ありがとう!あなたのドラムのおかげよ!」
「あ……私……」
路上ライブ(仮)が終わった後、花音さん達二人は満足げに話していた。仲良く話しているのを見るかぎり、もう立ち去っても良さそうだ。
逃げるなら今のうち…
「あなたも、ありがとう!一緒に歌えて楽しかったわ!」
見つかった。せっかくのタイミングを逃すなんて…。流石にこれ以上は付き合ってらんないぞ。
「そ、そりゃどうも。僕もなんだかんだ楽しかったよ」
できることならもうやりたくないけどね…
「じゃあ今から、あなた達とあたしでバンド結成ね!!」
「ふぇっ!?」
「花音さんごめん!」
「ふぇぇっ!?」
冗談じゃない…!流石にそこまでは付き合いきれない。花音さんには悪いがここは逃げさせてもらおう。花音さんなら、きっと弦巻こころとのバンド活動にも耐えてくれるだろう。
とりあえずここから…弦巻こころから逃げなければ!
《自宅前》
「こ、ここまで来れば大丈夫のはず…」
久しぶりに全力で走ったせいで呼吸が苦しい。最後にこんな走ったのは去年の夏だっただろうか…。などとどうでもいい様なことを考え、息を整えながら家に入ろうとすると後から声をかけられた。
「ねぇ、どうして急に走り出したの?」
「えぇ!?なんで追いついて…」
「黒い服の人達に聞いたらあなたの学校と家の住所を教えてくれて車で送ってくれたの!」
「えぇ…うそ……」
「嘘じゃないわ!だってあたしは今ここにいるじゃない!」
「じゃあ花音さんはどうしたの?まさかあのまま置いてきたわけじゃないよね…」
「花音ならあそこにいるわよ?」
そう言ったこころが指差している方を向くと、黒い車に乗せられこちらを涙ぐんだ目で必死に何かを訴えかけている花音さんがいた。
「誘拐だこれ!」
「さぁ!行くわよふたりとも!」
「人の話を聞いて!それにどこに行くって!?」
「決まってるじゃない。ほかのバンドメンバーを集めにいくのよ!」
「無茶言わないでくれ!そもそもどんなメンバーが必要なのかわかってるのか!?」
「ギターとベースとドラムでしょ?ドラムは花音がいるから、バンドを始めるにはあとギターとベースが必要なのよね!」
意外とちゃんと考えてたんだな…。これなら一緒にバンドはできないけど手伝うくらいならしてもいいかもしれない。
「花音がさっき言ってたの!」
「なんだ花音さんの受け売りか……」
前言撤回。やっぱり無理。花音さんには悪いけどこのまま自分だけ逃げさせてもらおう。
「ねぇ、弦巻さん?」
「なにかしら?こころでいいわよ!」
「じゃあ、こころ。さっきのバンドを組むって話だけど僕は無理だ。僕には仕事とかやらなきゃいけないことが沢山あるんだ。だからバンドは組めないしその手伝いも……」
「ふぇぇ……」
あぁやめて花音さん!そんな目で見ないで!
「手伝いは…できるかな……」
「そうなの?わかったわ!」
「あと、いきなりメンバー探しは大変だからまた別の日にしないか?花音さんの家族も心配するだろうしさ」
「そうね!それじゃあ明日にしましょう!花音はあたしの家の車で家に送るわね!」
「わぁ、言ったことの意味を全然理解してくれてない。それに花音さんの家の場所は…って心配ないか。ここもすぐに特定されたし……」
「それじゃあまた明日、駅前に集合ね!」
「え、ちょっと待って!」
有無を言わさず去って行ったこころを唖然として見送った後、電話がかかってきた。おそらくは叔父からだろう。冷や汗が止まらないなか恐る恐る画面をスワイプする。
「も、もしもし…」
『もしもし?今何処にいるんだ…?』
地獄のそこから響く様な声を聞き、全力疾走で今まで走ってきたみちを逆走しCircleまで行くことになったのは言うまでもない。
《翌日の夕方:Circle》
メンバー探しは仕事があると言って参加しなかった。花音さんには申し訳ないが、昨日働けなかった分はしっかり精算しなければいけないのだ。
「はぁ…。昨日はすごい目にあった」
ため息を吐きながら昨日のことを思い出していると、まりなさんが声をかけてきた。
「どうしたの?ため息なんか吐いて」
「実は昨日……」
■■■
まりなさんに昨日の出来事を全て話した。夢のことから弦巻こころのことまで全部だ。
「あははははっ!それは災難だったねぇ…。いや、年頃の男の子としてはかわいい女の子と仲良くなれてラッキーなのかな?」
「からかわないでくださいよ……結構大変だったんですから。脚も筋肉痛だし」
「ごめんごめん。初心で小心者の君にとっては大変だったんだろうね」
「だ〜か〜ら!いい加減に…」
「ごめんって。でも、話にでてきた女の子達と仲良くなれたのは満更でもないでしょ?」
「そりゃそうですけど…。」
「で、連絡先は聞いたの?彼氏はいるって?どんな人がタイプか聞いた?」
「聞いてませんし知りませんよ!ほらもうさっさと働いてください!仕事サボってるって叔父に言いますよ?」
「それはやめて!」
あまりにも執拗いので脅してみると効果は覿面だったのなすごい勢いで仕事に戻って行った。もしかしてもう既に何度か怒られてるんだろうか。
「あ、進展あったらまた教えてね〜!」
「いいから働いてください!普通に勤務時間なんですよ!今!」
「ごめんって。お詫びにアドバイスしてあげるから黙ってて…?」
「アドバイス?」
「そ。年上の…そして女の子としてのアドバイスです!……コホン。女の子の話はきちんと聞いてあげましょう。相手から連絡が無くても自分から定期的に連絡すること!」
「女の子って…」
「はい。そこはツッコんじゃダメなとこだよ〜。それに結構真面目にアドバイスしたんだけど…」
「もし役に立たなかった場合は容赦なく叔父にチクりますからね」
「なんか妙に私に対してだけ厳しくない!?ちゃんと役に立つから!女の子はこういうまめな優しさが嬉しいの!」
「ハイハイ。一応気に留めときます」
「人のアドバイスを聞かないで痛い目見ても知らないからね!もう私仕事する!ほんとに知らないからね!!」
「いや、今勤務時間なんだから働くのは普通なんですけど…。というか、なにこの茶番」
「ふんだ!」
仕事をガン無視して茶番を繰り広げた結果、年甲斐も無く拗ねてしまったまりなさんの機嫌をどうやって直そうかと考えているとズボンポケットから着信音が鳴り響いた。
ポケットからスマホを取り出して確認すると、表示されていたのは知らない番号だった。
「誰だろ…。わざわざ電話をかけてくるような知り合いはいないんだけどな…」
「ぼっち…」
「違いますからぁ!ぼっちじゃないからぁ!!」
「じゃあ、私達スタッフとオーナー、親戚の方以外でアドレス帳に乗ってるのって何人?」
「中学の頃の友達とネットで知り合った人合わせて3人です…」
「うわ…。流石にそこまでとは思わなかった。なんかごめんね?大丈夫だよ!きっと高校生活の間に友達くらいできるから…1人か2人くらい」
「電話に出るんで黙って貰えますか!?」
「あははは!ごめんごめん、ぼっち君怒んないで〜」
「あーあー!何も聞こえなーい!
もしもし!?どちら様でしょうか!?」
『もしもし?あたしよ!弦巻こころよ!初めて電話っていうのをしてみたのだけど楽しいわね!遠くに居ても会話がでk…』
「あれ?いいの?いきなり通話切っちゃって」
「ただの間違い電話だったみたいです。さぁ、仕事に戻りましょう」
予想外の相手過ぎて反射的に切ってしまった。弦巻家恐ろしすぎだろ…。何で昨日の今日で番号特定されてるんだ。
「いやでもまた着信きてるけど…」
「チッ…。」
「何で舌打ち!?」
「何でもないです。ちょっと外行ってきます」
「は〜い。行ってらっしゃい」
《Circle前》
「もしもし…?」
『もしもし?よかったわ出てくれて!さっきもそうだけどなかなか出てくれないし、やっと話せると思ったらすぐ切られちゃったからあたしと通話…したく…ないのかと…』
先程の元気な様子とは違い、どんどん声が尻すぼみになっていく。初めてかけた電話の相手に放置され速攻できられたのはいくら天真爛漫な彼女でも、こちらの予想以上に堪えたらしい。画面の向こうからすすり泣いているような声が聞こえる。
「僕が悪かったか泣くな!こころと話したくない訳じゃなくてただ仕事が忙しかっただけだから!!」
『ほんとう…?それならよかったわ!』
嘘は言ってない。
「それで?何か伝えたかったことがあるんじゃないのか?」
『ええ!実はバントのメンバーが揃ったの!』
「マジか…」
マジか。本当に揃うとは思っていなかったから驚きだ。あのこころと一緒にバンドをやりたいなんて言う奴はきっとこころと同じくらい頭がぶっ飛んでいるんだろう。
『こ、こころちゃん…まだ揃ってないよ…!!あとベースの人集めないと!』
予想とは違う知らせに唖然としていると花音さんの声がきこえてきた。
『そうだったわね!なら、今からベースを探しに行くわよ花音!それじゃあまた電話するわね?』
『ふぇ!?ちょ、ちょっと待ってこころちゃ…』
こころが走っていったであろう足音と、花音さんの必死の訴えを最後に通話は終わってしまった。とんでもない急展開に全くついていけず花音さんが可哀想だという感想しか浮かばなかった。
ハロハピのメンバー集めは薫さんが加わったところですね。
こころだけで「!」が30個以上になったのは仕方ないと思う。