「別・・・世界。」
呆然とした様子で青年、ロウは呟いた
ここは幻想郷、現世に忘れ去られた者たちの行き着く魔法と怪異が飛び交うい世界
かつて現世の闇で静かに暮らしていた魔法剣士、「ウィッチャー」と呼ばれるものたちの一人であるこの青年はどういう訳か元の世界とは全く別世界であるここ、幻想郷に行き着き、たった今その事実を目の前にいる巫女装束の少女、博麗霊夢に打ち明かされた
「そう、別世界、幻想郷。」
「そんな事有り得るわけ・・・。」
だがロウは自信を持って彼女の言葉を否定はできなかった、先ほどの彼女との戦闘で見た魔法、明らかにロウのいた世界のものではない、あれほど高レベルの魔法はロウのいた世界の廃れきった魔法技術では既に存在しないレベルのものだったからだ
そしてロウの胸元にある魔法を感知する狼のメダルは常に震え続けている、これは周りが常に魔力に満たされている証拠だ
「・・・・・・この世界から抜け出す方法はあるのか?」
「?・・・アナタ、自分の意思でこの世界に来たわけじゃないの?」
話を聞いていた赤青のナース服の女性、八意永琳が訪ねる
「あ、ああ、どうやってここに来たのかすら覚えていないんだ。」
そう言ってロウはポツポツとこれまでの経緯を語り始めた
「あの時は確か・・・そうだ、ウールと一仕事を終わらせた後だった・・・飲みに行く途中、行方不明になっていた先生・・・いやアサードを見つけた俺はそいつを追って走り出した。」
「ウールってのはあんたの友達か?」
「ああ、見習いの時から一緒だった、気のいいやつだったよ・・・この銀の髪のせいで周りとうまく馴染めない俺に積極的に話し掛けてくれた・・・ウィッチャーになってからは一緒に仕事をするようになった、生死を共にする仲間、いや戦友になったんだ・・・。」
「アサードっていうのは誰?個人的に恨みがありそうな感じね。」
「俺の師匠で・・・同族殺しだ、仲間のウィッチャーを何人も殺した、その事がまだ信じられなかった俺は何も考えずただ追いかけた、もっと良く考えて動れば良かったんだけどな、冷静に事を考えられなくなってた。」
「それから・・・?」
「アサードを問い詰めた、同族殺しの真相について、やつは笑ってこう答えたよ「そうだ」ってな、頭に血が登った俺は思わず切りかかったよ、案の定手も足も出なかった、止めを刺される直前に俺を追っかけていたウールが助けてくれなけりゃ俺は今頃死んでただろうな・・・・・・そこからは二人で戦った、二人ともそれなりの経験を積んだつもりだったが・・・甘かった、やつは最強の魔法剣士と呼ばれるだけの経験と技術があった・・・ウールはやつの大剣の餌食になった・・・俺はあいつが死にかけてるってのに何も出来ずに高層ビルの屋上から叩き落された・・・最後の光景はよく覚えてる満月に照らされながらやつは嗤っていやがった・・・・嗤っていやがったんだ・・・っ!」
ロウは血が滲むほど唇を強く噛み、拳を握り締めた、誰も彼にかける言葉がなかった、一夜にして死別と裏切りを味わった彼にかけられる言葉は何もなかった
「それからは覚えてない、辺りが真っ白になって、気が付いたらここにいた・・・俺は・・・ウールのために何もできなかった、せめてあの世界に戻ってあいつの弔いをしたい・・・。」
ロウ語り終える頃には場は静まり返りうさぎ耳の少女、優曇華の押し殺した泣き声だけが部屋に響いていた
泣く優曇華を見て
「・・・泣いてくれてありがとう。」
と言ってロウは優しく笑った
「霊夢!なんとか戻してやれないのかよ!」
はちみつ色の髪の魔法使いの少女、魔理沙が霊夢に詰め寄る
「出来ないことはないけど・・・「アイツ」の協力が必要よ・・・?」
霊夢は少し困った様子で呟いた
「!?あるのか!俺のいた世界に戻れる方法が!」
ロウも思わず詰め寄る
「・・・あまりおすすめはしないけど。」
博麗神社、幻想郷の守護者博麗の巫女の住まう場所、そこにロウは霊夢と魔理沙に連れられてやってきた(二人が飛び始めた時は度肝を抜かれた)
「・・・寂れた場所だな。」
「余計なお世話よ・・・紫ー!紫どうせ見てるんでしょ!出てきなさいよ!」
霊夢が突然誰かに向かって呼びかけ始める
しばらくの後、呼ばれたその誰かは現れた
何もない空間から
ロウは始めそれを見た時自分の目が、もしくは脳がおかしくなったのではと疑った
何もない空間がぱっくり割れたかと思うとその割れ目はどんどん広がりやがて大きな穴になると中からひどく冷たい美貌を持った女が穴の中から上半身を乗り出した
「あらあら貴方から私を呼ぶなんて珍しいわね、霊夢。」
「うるさいわねしょうがなくよ、しょうがなく。」
「・・・・・・。」
ロウが驚きのあまり口をポカンと開けていると、その女性、紫と言ったか、はロウの方を向きその瞳をじっと見つめた
視線に気がつきはっと口を閉じる
「はじめまして、魔法剣士さん。」
「?!」
ロウはまたも驚いてしまった、いま彼女は確かに「魔法剣士」と言った、彼女はウィッチャーのことを知っているのだろうか?
その疑問はすぐに晴れた
「ふふ、驚いたって顔ねぇ?この世界には外の世界のことを知ってる人間はいくらでもいるのよ?私みたいに裏の世界を知っている者もね・・・?」
くすくすと楽しげに嗤う彼女に少しの恐怖を覚えながらロウは本題に入った
「あんたが俺を外の世界に戻せるって聞いた・・・。」
「そうねぇ・・・その問いは合ってるとも間違っているとも言えるわね。」
「?」
「私は道を開くだけ、戻れるかどうかに関して私は関与していない。」
「どういう事だ・・・?」
「たとえ私が道を開いても戻れるかどうかはあなたの運次第ってことよ、そして私はタダでは道を開かない。この次に私が何を言いたいかはわかるわよね?魔法剣士さん?」
全てを見透かしたかのような表情で彼女は言った、ロウもじっとその瞳を見つめる
「タダでやってあげてもいいだろ紫!コイツがこれまでどんな思いでここまで来たか・・・」
魔理沙は憤りを隠せないようだ
「・・・。」
霊夢は静かに事を見守る
ロウがゆっくりと、だがハッキリとした声で口を開く
「ああ、俺はウィッチャーだ、ウィッチャーは対価の為に仕事をする・・・あんたが何を俺にさせたいのかは知らない、でも、引き受ける。」
「ふふふ、契約成立ね。」
紫が冷たく、ニタリと笑った
「ったくわざわざ条件なんて飲まなくても良かったのに・・・」
「まったく、アイツが条件を飲むっていったんだからブツブツ文句言わないの。」
未だに不満げな魔理沙を霊夢がなだめる
「それで、条件ていうのは?」
「せっかちねぇ、まずはゆっくりお茶を楽しみなさい。」
「あ・・・ああ。」
「私の家の私が入れたお茶だからそのセリフを言うのは私の筈なんだけどね。」
「うるっさいわねぇそんなんだから処女のままなのよ霊夢。」
「うるさいババア!」
「なんですってぇ?!」
博麗神社の縁の下、先ほどのピリピリした雰囲気とは打って変わって(ある意味ピリピリしてる)いま四人は霊夢の入れたお茶を柔らかな空気の中で楽しんでいた
お茶を飲み終えると(そして口論の合間を見計らうと)早速ロウが話を切り出した
「それで、条件ていうのは・・・何なんだ?」
「・・・こほん、魔法剣士の仕事といえば一つしかないでしょう?」
どうやら彼女は現世の裏の細かいところまで熟知しているらしい。
「魔術、怪物関連のトラブルの解決・・・か。」
「そ、貴方には今幻想郷に起こっているとあるトラブルを解決して欲しいの。」
成程、それならばウィッチャーは適任と言えるだろなどと一人納得していると一人から異議の声が上がった
「ちょっと待ちなさいよ!「異変」解決は私一人で十分でしょ!」
霊夢だ、彼女は代々この幻想郷で起こる異変と呼ばれる怪事件を解決しこの幻想郷を守る博麗一族の人間なのだ、この手の意見が出るのは当然だろう
「あらあらあなた一人で今起こっているこの異変を収められるわけ?霊夢?」
「うっ・・・それは・・・。」
紫の鋭い指摘に霊夢は口ごもる
「まぁ、あれを一人ではムリだろうなぁ・・・。」
と魔理沙
「おいまて!話が見えない、巫女さんが無理な仕事なら俺ができるかどうかは怪しいぞ・・・。」
ロウは弱っていたとはいえ一度彼女に負けている、恐ろしい強さを持つ彼女がこなせない仕事ならロウに出来る事はない
「ところがどっこい、あなたが適任なのよ、
怪物を熟知ていて呪いの産物やそのほか魔術的異物を研究し、捜索能力はずば抜けていてついでに交渉術にも長けているウィッチャーならね。」
「なに?」
霊夢が説明を引き継ぐ
「・・・いま幻想郷では見たこともない怪物、怪異が突然現れて人間、妖怪を襲って混乱状態にあるの、そして誰が流したのか知らないけど妖怪は人間が怪物を人間は妖怪が怪物をけしかけたと言って元々中の悪かった両種族の緊張感は過去最高潮になってる、いつ暴動が、最悪戦争が起きるかわからない状態なのよ。」
「つまり・・・俺はその怪物騒動を解決して、両種族の悪い噂の根源を断ち、戦争を防がなきゃならない・・・と?」
「そう言う事。」
「はぁ・・・契約を呑んだ以上やるしかないみたいだな・・・ただ短期間の仕事じゃないことは確かだろ?俺はどこに滞在すりゃいいんだ?道具を保管する場所や霊薬や怪物の研究をする場所が必要なんだが・・・。」
「心配御無用!とぉ〜ってもいい場所が目の前にあるのよ♡」
悪戯っ子のように笑う紫の表情を見てロウと霊夢の背筋に悪寒が走る
「「まさか・・・。」」
「この!博麗神社があるじゃない!」
途端抗議の声が上がる
「ふざけないでよ!こんな得体の知れない奴家に置けるわけないじゃない!そもそもコイツ私を殺そうとしたのよ!?」
「殺そうとはしてない!少し寝てもらおうと思っただけだ!理由もなく女を殺すか!そもそもこんな暴力女と同居なんてこっちから願い下げだ!」
「何おぉ?!」
「何だよ!?」
二人が再び武器を交えようとするが
「はいストーップ、落ち着きなさい。」
紫が指を鳴らし手足が空間に飲み込まれ、固定される
「ぐっ・・・?!」
「離して紫!」
「いいから聞きなさい、ちゃんと理由があるの、霊夢、貴女はこの幻想郷の土地勘があって妖怪との戦闘能力に長けてる、ロウあなたは怪物について熟知してて追跡能力や交渉術に長けてる、この二人が合わさればそれだけ早く事件解決に繋がるしそれだけ早く気に食わない相手とおさらばできるのよ?」
「・・・・・・・まぁ、そうなんだろうが。」
「よりによってこんな奴と・・・・・・。」
「とにかくこれは決定事項!互いに協力し合いなさい!魔理沙!二人の仲介、お願いね?」
「・・・え?ええええええええ?!私?!あ、おい待てよ紫!紫ぃいぃいぃいぃ?!」
ズズズと空間の裂け目に戻ってゆく紫を悲痛な目で見つめる魔理沙、こころなしかその目には涙が溜まっているようだ
「・・・・・・しょうがないわね、アンタとさっさとオサラバするためにも事件をいちはやく解決するわよ。」
「・・・・・・ふん、こっちのセリフだ・・・改めて、狼流派のロウ、ウィッチャーだ。」
「私は博麗霊夢、楽園の素敵な巫女なんて呼ばれてるわ。」
「「よ ろ し く (な)(ね)」」
「本当にこの二人で大丈夫なのかよ・・・。」
ギリギリと目線から火花を飛ばす二人を見て魔理沙はこの先の幻想郷の未来を悲観した
「・・・・・・とうとう出会ったわね。」
八雲紫は空間の狭間でニヤリとほくそ笑んだ
「期待してるわよ?(白狼)の血を継ぐ者・・・。」
年端も行かぬ少女のような無邪気で軽快な足取りで彼女は再びどこかへと消えた
後には静かな寒気が残っていた
お楽しみいただけたでしょうか?それではまた次回