『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第七部「アーカディア」 作:城元太
蒼の街、バイオゾイド、アーミラリア・ブルボーザ。アースロプレウラ、プロトタキシーテス、ラウス肉腫ウィルス。漠然とではあるが、驚嘆を禁じ得ない。だが、小次郎を絶句させたのは、桔梗の前再生という事実であった。
「上人様。孝子は……桔梗は、
先んじたのは、伊和員経であった。
「義父として親愛の情を傾けたことは察しましょう。されど員経殿、再生された桔梗の前は、器が同じでも中身は別物。
空也の視線は、会話の終わりには小次郎へ向けられた。「驚くのはまだ早い」と、その瞳は語っていた。
「糞坊主、俺を嵌めたな」
だが純友の口調に怒気は無い。無頼の海賊衆の頭目は既に、この乞食僧が自分と小次郎とを仲違いさせようと画策していたことに気付いていたのだ。
「坊主とて、道理あらば心変わりはするものでな」
蹲る伊和員経を前に、空也が振り向く。
「純友殿が、天より飛来する災厄を取り除こうと挑んでおられること、知ってしまったからのう。将門殿、そして、将平殿。実は『神々の怒り』は、まだ収まっておらぬのだ」
最も知識に長けた四郎も名指しし、空也は表情を強張らせた。
「そんなはずはございません。『神々の怒り』は数百年前に終息したはずです。菅原景行公からもそう学びました」
「学問とは知ることではなく学ぶことである。
将平殿、天文学的尺度で考えた場合、数百年など無きに等しい時間に過ぎませぬ。嘗てヘリック国、ガイロス国の戦いを打ち砕き、後に繁栄した文明をも悉く根絶やしにしたほどの天変地異には至らぬものの、地上の生命を滅ぼすに容易な流星群の到来がまたやって来るのです。伸びた銀河系アームに捉われたゾイド恒星系に於ける流星雨の襲来は、常に我らゾイド人の
一瞬、言葉を詰まらせるも、四郎は再び問い直す。
「ではなぜ、ソラは対策を講じないのですか」
「講じておりまする、天に向かって伸びる〝蜘蛛の糸〟にて」
「軌道エレベーター!」
空也と純友が同時に頷く。小次郎たちは沈鬱な空気に包まれた。
「ソラは、己らのみを救う為、無数のバックミンスターフラーレンを掻き集めてケーブルを建造し、今後幾度となく襲来が予測される『神々の怒り』を回避しようとしておる。地上の衆生など見捨ててのう」
乞食僧は、この上なく残酷な表情を浮かべた。
「衆生を救う手立ては二つ。軌道エレベーターを完成させ、惑星の静止軌道に設置されたジオステーションと、ケーブルの宇宙側の先端に設置されるペントハウスステーションに、限界まで人々を収容すること。だが、最大収容人数は多く見積もっても僅かに1万人足らず。残りは見殺しとなろう」
「して、もう一つの方法とは如何に」
重い口を漸く開き、小次郎が問う。
「純友殿がアーミラリア・ブルボーザを完成させ、天空より飛来する災厄を迎え撃つことです」
暫しの沈黙が流れる。小次郎は想いそのままの言葉を洩らす。
「仰る意味が解りませぬ。アーミラリア・ブルボーザと呼ばれる巨大菌苗が、なぜ『神々の怒り』を鎮めることができるのか」
空也が口を噤ぎ、盃を煽る純友に目配せをする。「後は宜しくお願いする」とばかりに。
「俺は
「〝幾つともなく大筏を数知らず集めて、筏の上に土をふせて、植木を覆し、四方山の田を作り、住み付きて、大方朧げの戦に動ずべきも無くなり往く〟。グローサーシュピーゲルに於ける大宅世継殿と夏山繁樹殿の言葉は
思わず割り込んだ四郎の諳んじた言葉に、純友は満足したように応える。そして最後に力強く付け加えた。
「これが完成の暁には、日振島の一部を巨大宇宙戦艦として切り取り、浮上させることができる」
「真の事なのか。私は空也殿と純友殿に、謀られているのではないのか」
盃を干した純友が、口角を上げ唇を嘗めた。
「信じられぬのも無理からぬことだ。だが将門殿、海賊衆の頭目藤原純友が、息子直澄――幼名重太丸――を伴い、息子を将門殿の人質として差し出し、互いに盟約を結ばんが為に坂東まで下向した事実を受け入れてもらいたい」
純友が息子が眠る離れの館に向け、僅かに首を振った。
「人質? 御子息を、この坂東にか」
「幸いにして、将門殿の娘御とはゾイドの件で意気投合したようだ。行く末には
これは俺一人の願いではない。我ら海賊衆が、日振島を浮上させる間、貴方は坂東にて大いに騒動を起し、ソラの目からアーミラリア・ブルボーザ建造の次第を逸らしてくれることを願う。遠く離れた坂東で騒擾を起し続ければ、公儀の兵は瀬戸の内海より離れ、俺たち海賊衆は更に自由となる。宇宙戦艦完成の暁には一息に坂東まで飛び、将門殿を受け入れよう。もしこの下総の国に仇為す敵が残っていれば、瞬殺できるほどの破壊力にて」
既に純友は盃を置いている。息子を人質に差し出してまで偽りを言うはずもないことは判る。だが小次郎も、石井の館の郎党も、余りに荒唐無稽な純友の話に、納得はできても理解が追いついていなかったのだ。だが構わずに純友は続ける。
「古くはグローバリー三世號という巨大移民宇宙船によって
将門殿は〝アーカディア〟という幻の王国を御存知か」
唐突であった。だが聞き覚えはある。
「風聞にはあるが詳しくは知りませぬ。四郎、お前はどうだ」
「〝時の狭間に浮かんでは消える伝説の国〟と聞き及びます。ですが実態は未だ謎の儘とか」
「博学な舎弟だのう。その通りだ。
将門殿、俺はアーミラリア・ブルボーザにその国の名を冠する。
海賊戦艦、アーカディア號と」
「アーカディア號」
小次郎が復唱した。
「俺たち海賊衆の自由の船。この惑星Ziを救うも滅ぼすも自由の、宇宙海賊船だ」