オープニング「TOUGH BOY」
「ジャギっ、コーヒーを淹れたぞっ」
「おう、こっちも目玉焼きができた所だ」
今日のふたりの朝食は、焼いたトーストにコンソメの野菜スープ、それから目玉焼きだ。
溶けたバターをのせた香ばしいトーストを頬張り、コーヒーを飲みながら朝のニュースを二人で眺める。
「また日経平均株価が下がったのか。どこもかしこも不景気だな」
「ああ、全く、嫌な世の中だな、アミバよ」
「これではヴィランが暴れたくなるのもわかるというものだな。まあ、我々には関係ない話だがな」
「そうだな。さて、そろそろ出かけるか」
空になったコーヒーカップを置いたジャギが言う。
「そうするか。くくっ、楽しみだ。ヒーロー科の連中ならいいデクになるだろう」
不気味な笑みを張り付かせ、くぐもる様に笑うアミバ、傍から見れば変質者だ。
「おまけに襲ってきたヴィランもデクに出来るってんなら、お前にとっちゃ一石二鳥だな」
「くく、そういうことだ。これで益々、秘孔の探求が捗るというものよ」
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教室ではざわめきが広がっていた。
「おい、アレ……本当にこの教室の生徒なのかよ……」
「どう見てもヴィランだよな……」
男子生徒達が小声で話し合いながら、教室の一角を指差している。
「やめなさいよ、見た目はアレでも本当は優しい人かもしれないじゃない……」
そんな男子達を一人の女子が窘めた。
「え、でもよ……どうみてもヴィランにしか見えねえよ……」
「絶対悪党だよな……」
「あの凶悪な面でヒーローとかありえねえよ……」
生徒達の視線を集める教室の一角──そこにはアミバとジャギの姿があった。
「全く、喧しい連中だな、ジャギよ」
「ああ、これだからガキは嫌いなんだよな」
他の生徒達を遠巻きに眺めながら、頷き合う二人。
ちなみに先ほどの男子生徒達が噂していたように、アミバとジャギは見た目通りの存在だった。
つまりは自らの欲望に忠実で、情動や欲求の赴くままに行動するタイプだ。
アミバの目線から見れば、この教室の生徒達は、己の秘孔研究の為の木偶人形でしかない。
それは教師も同じだった。唯一の例外はジャギだけだ。
アミバが雄英高校のヒーロー科に入学した理由も、別に彼がヒーローを目指しているからではない。
単純に木偶を確保するためである。
ヒーローの卵達を実験台にするべく、入学したというだけだ。
そしてジャギも似たような理由からヒーロー科に入学した。
ジャギは自らの求める北斗神拳を練磨させる為に、アミバは究極の秘孔を完成させるために。
その為には手段は選ばない。一般的な倫理観もふたりは持ち合わせてはいない。
だからといって、ただの悪党かと言われると、これもまた違う。
彼らは悪人というよりも狂人に近いのだ。
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「それにしても今年の生徒達は粒揃いのようですね」
「そうですね。その場の状況判断や運動能力、戦闘能力もですが、面白い個性を持っている者達もいます」
「ええ、爆豪勝己というあの少年、かなりの個性を持っていますね」
「轟焦凍も素晴らしかったですよ。流石はサラブレット、エンデヴァーの息子なだけはあります」
「それに緑谷アミバと霞ジャギ、あの二人もかなりの潜在能力を秘めていそうでしたね。
特にアミバ少年は、自らを顧みず、献身的に怪我をした他の生徒達の治療に当たっていました。
どうやら修善寺治与教諭と同じ回復系統の個性の持ち主のようですね。
治療のできる個性だけでもかなり貴重ですよ」
「ですね。おまけに彼は戦闘力も卓越しています。判断力、戦闘力、負傷者を労わるその心構え、
彼はまさにヒーローになるべく生まれてきたような少年ですよ」
「本当にそうですね。このふてぶてしい顔はどう見てもヴィラン、それもかなり凶悪なタイプに見えますが」
「ですね、この不敵な面構えは、どこをどう眺めても悪党にしか見えません。
このジャギ少年もそうですが、人助けよりもショットガン片手に銀行強盗をしている方がよっぽどしっくり来ますね」
「まあ、人は見た目で判断してはならないということでしょうな。正直、彼らがヴィランにでもなったらと思うと、ゾッとしますね。
彼らはあの0ポイントの仮想敵を一撃で吹き飛ばして見せたのですから」
ちなみにアミバは、何も善意で怪我をした入試者達の治療をしたわけではない。
ただ、治療の為の秘孔の研究に彼らを利用しただけだ。
お、秘孔を試すのに丁度いい怪我人がいるぞ。よし、治療して秘孔の効果を観察してみるか。
その程度のものだ。
アミバとジャギが0ポイントの仮想敵を攻撃したのも、北斗神拳の威力を試したかったからに他ならない。
そこには誰かを助けたいとか救いたいという思いはない。
あくまでもアミバとジャギは、自分のやりたい事の為に行動していたのだ。
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「アミバの視点」
俺達は行きつけのバーで、ジャック・ダニエルを引っ掛けていた。
やはり、ジャック・ダニエルはいつ飲んでも美味い。
このひと時が、俺達の一日の疲れを癒してくれるのだ。
カウンターのスツールに腰を下ろし、五杯目になったジャック・ダニエルを二人同時に飲み干す。
「それにしても騒がしい餓鬼どもだったぜ」
ツマミのビーフジャーキーを齧りながら、愚痴るジャギに俺は同意した。
本当にあいつらはうるさくてかなわない。
だが、奴らは俺の大事な木偶人形でもあるので、少々喧しいのは目を瞑ることにしている。
「少々酔って来た。今日はもうここらで切り上げてジャッキーの『少林寺木人拳』でも観るか、ジャギよ」
「俺はどっちかって言うと『少林寺三十六房』が観てえな」
ジャギの言葉に俺は頷いてみせた。そして、こう言った。
「ならば、ここは間を取って『霊幻道士』にしようではないか」
俺の提案に奴は少し逡巡してから答えた。
「ふむ、悪くねえな……いいだろう」
それから俺達はバーを出た。
酔っぱらいが電信柱で苦しそうに嘔吐していたので、酔い止めの秘孔をついてやる。
すると、さらに苦しみ悶え始めた。
「ん、間違えたかな?」
天才にだって間違えることはある。
まあ、いいだろう。
どうせ、酔っ払いだ。
そして天才は二度と間違えることはないのだ。
俺は苦しむ酔っ払いに再び秘孔を突いた。
すると、今度は楽になったのか、穏やかな表情を浮かべ始める。
どうやら成功したようだな。
ふふ、やはり俺は天才だ。
俺はメモを取ると秘孔の位置を書き加えた。
それから帰り道の途中にある公園のベンチに座り、俺達は缶コーヒーを飲んで一休みした。
酔い醒ましのコーヒーも悪くない。
すると、突然何者かの気配を感じた。
「おい、ジャギ」
「ああ、こっちに近づいて来る気配を感じるな。それもかなり殺気立ってやがるぜ」