オープニング「American Witch」
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「ジャギの視点」
郊外のはずれにある巨大な廃工場に俺たちは来ていた。
俺達がこの薄汚い廃工場を訪れた理由は、まあ、いくつかあった。
まずは暇つぶしだ。最近、何もすることがなくて退屈してたんでな。
次にちょっとした訓練、こういう身を隠すポイントが多い場所で、どう判断して行動するか、その勘を養おうってわけだ。
んで、最後は小遣い稼ぎ。
なんでもこの廃工場には、悪霊共が巣食っているそうだ。
まあ、ちょっとした都市伝説だな。
それでも実際にこの廃工場に度胸試しで入っていった連中が、何人か行方不明になってるってのは、マジみてえだ。
コイツは俺らで図書館の新聞漁ったり、ニュースやネットで調べて裏を取ってる。
だから評判が評判を呼んで、工場内部の写真や動画が好事家の間で取引されてるのさ。
他にもオカルト系の大手動画サイトが、高値で動画の買取を行ってるな。
あとは、youtubeに投稿して、大当たり出した奴もいるし、使い道は色々あるわな。
でもよ、悪霊とか幽霊なんて本当にいんのか?
量子力学の分野は、今でも死後の世界を研究しちゃいるけどよ。
あれだ、『二重スリット実験』とか『双子の光子実験』とかって奴が有名だよな。
ただな、俺は生まれてこの方、幽霊なんて見たことがねえぞ。
悪霊なんてもんにも、遭遇した事がねえぜ。
「うう……それにしても不気味な場所ですわね……」
俺の後ろから着いてくる八百万が、怯えた表情を浮かべて、そうポツリとこぼす。
八百万の奴、お化けや幽霊がちょっと苦手らしいんだよな。
だったら、俺達と一緒にこんな場所に来るんじゃねえっての。
「安心しろってっ、悪霊なんか俺達がぶっ飛ばしてやるって」
怖がる八百万を励ますのは、クラスで一番人の良い切島鋭児郎だ。
コイツはマジで人が良すぎる。
どれくらい人が良いかっていうとだな、俺や爆豪の野郎とも文句も言わずに付き合えるくらいにゃ、お人好しだ。
俺の言ってること、わかるよな?
これだけで、こいつがどれだけ無類のお人好しか、わかろうってもんだ。
ちなみにアミバの奴は今、蛙吹と峰田と一緒に行動してるぜ。
俺たちゃ、今、二手に分かれて行動してるからな。
みんな、一緒になって動画や写真撮るよりゃ、グループ分けしたほうが効率いいからな。
ん、あそこの暗がりが、なんか良さそうだな。
「おい、切島、あそこの暗がりのほう撮影しておこうぜ」
「おお、いかにもって感じで悪くなさそうだな」
「なんか、お化けが潜んでそうですわね……」
八百万がその豊満な胸元を見せびらかすように腰を屈めた。
峰田の奴が喜びそうだな。
俺はでかい胸よりもでかいケツの方が好きだけどな。
おっと、少しばかり小便がしたくなってきたぜ。
そこの柱に放尿すっか。
俺の自前のホースで散水だ、ヒャハハっ。
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「アミバの視点」
「アミバ、コイツラ一体何なんだよ……」
峰田のもぎもぎで、地面に貼り付けられた化物を眺めながら、俺は質問に答えた。
「ふむ、天才である俺も流石にわからん。ゾンビのようにも見えるがな」
「ゾ、ゾンビッ!?なんでゾンビがこんなとこにいるんだよっ!」
驚愕の表情を浮かべ、叫ぶ峰田。
コイツはもう少し冷静になることを覚えたほうが良いな。
「まあ、待て、落ち着け、峰田よ」
「で、でもよっ」
「峰田ちゃん、落ち着いて。ここは緑谷ちゃんの言うとおり、冷静になるべきよ」
くくく、流石は蛙吹、こういう状況でも平常心を保っているな。
俺はゾンビの瞼を開き、胸や頭部を触診しながら、早速こいつらが何者かを調べた。
ふむ、なるほどな。
朧げながら、こいつらの正体が分かってきたぞ。
「それで何かわかったの、緑谷ちゃん?」
蛙吹がその丸いクリクリした瞳で、俺を見つめながら問いかけてくる。
「まず、こいつらは痛覚が麻痺している。だから痛みを感じることがない。次に脳、こいつら、どうやら前頭葉の機能が著しく低下している」
「前頭葉っていうのは、理性や思考力を司る脳部位だよな、確か」
峰田の言葉に俺は頷いた。
「その通りだ。そして動物の中で、人間が物を考え、意思疎通が出来て、自制し、記憶し、創造力を発揮できるのは、
この前頭葉が発達しているからに他ならない。
だから前頭葉が機能していなければ、人間は獣と変わらない」
「なるほどね」
腕を組んだ峰田が、俺の言葉に何度も頷いた。
峰田はチビで臆病だが、こいつは頭の出来自体は悪くはない。
「それに加えて、扁桃体や視床下部にも異常が見られる。扁桃体は快、不愉快、恐怖、怒りといった感情を司る脳部位だ。
だからこの部分が機能しなくなると、恐怖心や警戒心が消える。
そして、視床下部は性欲、食欲と言った欲求に関わる脳部位だ。
ここに異常をきたすと、性欲、食欲が異常に減退するか、あるいは増進される。
こいつらはどうやら、増進されているようだがな」
「つまり、このゾンビ共は痛みを感じず、思考力も恐怖心もなく、性欲と食欲だけで生きているってことか、アミバ?」
「平たく言えば、そういうことになる。人間に限らず動く物を見れば、何にでも襲い掛かり、本能の赴くままに犯し、喰らう。
恐怖も痛みも感じないから、ヒグマや虎と言った猛獣にも恐れずに襲いかかるだろうな。
そして際限なく犯し、胃袋が裂けても、なお喰らい続ける」
「まんま、ゾンビじゃねえか……」
額に浮かんだ汗を拭い、峰田がゾンビをじっと見下ろした。
「それで緑谷ちゃん、原因は何かわかったの?」
「それなんだがな、こいつらの瞳孔を見たが、開きっぱなしだった。
こんな薄暗い場所なのにだ。これは典型的なドラッグ使用者の症状だ。
だから、アンフェタミン等の薬物を使っているのだろうな。こういう症状を『散瞳』というぞ。
逆にヘロインやモルヒネを使うと瞳孔が小さくなる。これは『縮瞳』と呼ばれる」
俺は二人に説明しながら、ゾンビの秘孔を突いて動きを止めた。
これで丸三日は大人しくなるだろう。
「他のグループが心配だな、アミバ、すぐに八百万達と合流しようぜ」
「そうするか」
それから俺達は、ジャギ達のスマホに連絡を取ったのだが、通じなかったので、直接に西にある工場現場へと向かった。
それにしても中々面白い場所だな、ここも。
人間をゾンビに変えるドラッグ──中々興味深いではないか、くくく……。