世界一可愛いストーカーたちに追いかけられる僕はストーカー 作:Re:クロバ
江戸時代にあった数有る一揆の中で、教科書に載っている大塩平八郎の乱を知っているだろうか。
深刻な米の不足に悩んでいた農民たちに、自らの書物を売りさばき、それで得た金で米を購入し、農民たちに分け与えた正義のヒーロー大塩平八郎。
しかし奉行所はそんな彼を『売名行為』だと批判。さらに、彼が隠居していた大阪の町奉行は農民たちから搾り取った米をそのまま江戸に送還し、どっちが『売名行為』だよ。みたいなことをしていた。
流石の大塩平八郎もこれにはキレて、彼の考えに賛同する者も軍に参加し、少数ではあるが武装集団が出来上がった。
しかしこれはたったの半日で鎮圧されてしまうのだが、大切なのはそこではない。
平八郎の情熱に感化され、立ち上がった地方の農民たち。
そしてその乱後も、彼の影響は全国各地に轟き、彼の名の元に一揆を起こし続ける。
彼らは勇敢な庶民のヒーローの元に集い、彼の背中を追いかけていったのだ。どこまでもどこまでも……追いかけた。
どこまでもどこm……ストーカーやん。
「なんでやねん」
ペシッと彼女が作った即席の紙ハリセンで頭を叩かれる。これぞ本場関西のツッコミかと、横にいらっしゃる副会長を見つめる。
「だってそう思いませんか?東條副会長」
「いや…大塩平八郎に影響されて農民たちが立ち上がったところまでは分かるよ?けど……なぁ?ストーカーて……」
僕の熱論はツッコミどころ満載らしい。僕にはよく分からないが。
夕日を真正面から浴びながら家路に付く僕たち。
「あの副会長?」
「ん?どうしたん?」
「僕なんかと一緒に帰って……その……つまらなくないですか?」
「そっ、そんなことないよ!!」
いつもとは違って語気を強くした副会長が僕に詰め寄る。ってか近いんだよなぁ……
なんで女の人はこうやってわざわざ近づいて話すんだ?幼なじみがこう話してくれたら嬉しい限りなんだが……人生で1度もされたことないし……
「叢雲君と一緒に帰れてすんごい嬉しいよ!」
「あの…退屈したり…気まずくなったりするかもですよ?」
「だからそんなことないって!ウチは叢雲君といられるだけで楽し……いやっ!そのっ!何でもない何でもないない!!」
言いかけていた言葉を濁す副会長。変なの。
「あ、そういえば絢瀬会長は?」
「う~ん。今日は生徒会の仕事も早めに終わったし……さっさと帰ったんじゃないかなぁ」
「そうなんですかね」
はい、間違い~。
それでは皆様、副会長に気づかれないように僕の数十メートル背後をご覧くださいませ。
電柱に隠れながら接近しているようですが、今どきそんなことをする人なんていません。この時点で時代遅れですよね、はい。
しかもあの人は自分がどれだけ目立つ容姿をしているか全く持って理解出来ておりません。
こんなオレンジ色の夕日を一身に浴びたら、彼女の金髪が映えて、余計に綺麗になるでしょうが、ほら、周りに人が寄ってきてますよ。
「どないしたん?叢雲君」
「あっ、いえ!なんでもないですよ」
気づかれるところだった。ま、気づかれてもいいかもしれないけどね。東條副会長と絢瀬会長は仲が良いみたいだし。
友人の奇行を阻止してくれるかもしれないし。
「あ、そうや。叢雲君、ちょっといい?」
「え?はい」
「これさ……ほら」
思考にふけっていた僕に副会長が差し出したのは、なにかのクーポン券。そこにはコーヒー無料と書いてあった。
「最近大通りの角の方に新しいカフェできたやん?あそこにこの前エリチと一緒に行ってきたんよ。そうしたらこれもらって」
「へ~…あ、有効期限今日までじゃないですか」
「そう。だから、コーヒーでもどーかなー…なんて。あ、もちろん奢るよ?ウチから誘うんやし」
「い、いいですいいです!副会長がそのクーポン使ってくださいっ!僕は自分の分、ちゃんと払いますんで!」
「え、いいの?誘ったのはこっちやのに」
「大丈夫です!ほ、ほら!行きましょ!?」
後ろから人目を引きつける元凶が迫ってきてるし、ここはカフェにでも逃げる方が得策だろう。
てか、なんか会長尾行するペース速くなってない!?僕、追いつかれそうじゃん!?
「か、カフェって〇〇の辺りですよね!?ほ、ほら行きましょ行きましょ!!」
「え、確かにそこやけど……って、きゃっ!?」
迫り来る脅威から逃げるために僕は東條副会長の手を取り、早足で歩き出す。
「え、ちょっ……叢雲君!?」
すいません。副会長。少し我慢してください。あれだけにはストーキングされたくないんで、撒かせていただきます。
歩くこと5分。なんとか距離を開けた僕はカフェへ入店。まるで競歩をしたかのように息が上がった僕は寄ってきた店員に『2名』と告げ、テーブルに案内してもらう。
その間、周りから暖かな眼差しをもらう。不思議に思いつつテーブルに着くと、そこでやっと自分が副会長の手を握りしめたままであったことに気がついた。
「わっ!?その、さっきからすみませんでしたっ!あの…その……か、カフェに早く行きたくって……!」
着席しながら必死の言い訳を述べる。しかし、効果があるのかは分からない。東條先輩は顔を真っ赤にさせて対面側に座る。
もしかして……激怒してる…?そ、それもそうか。いくら知り合ってから半年といっても、こんなモブ野郎に手を握られて連れ回されたのだ。逆鱗に触れてしまったのであれば、これ以上下手な真似は許されないぞ、僕。
「ふみゅぅ……」
ウサギのように縮こまった東條副会長が声を漏らす。
ーーやっぱり怒ってんじゃん!?僕、ヤバイって!!明日からどう接すればいいんだ!?ってか、今からどう接するよ!?
「あ、あの~……ご、ご注文はお決まりでしょうか?」
店員さんよ、グッドタイミング。
「あ、えっと~…か、彼女はコーヒー……ぼ、僕も……コーヒーで」
かしこまりました。と言った店員はカウンターの奥へとすぐに消える。待って!一人にしないで!このいけず!!
「あ、えーと……その……東條ふ、副会長?」
恐る恐る話しかけてみる。さて、どんな反応が帰ってくる……
「えへへ♡なぁに?」
えぇぇ………なんでご満悦?
僕なんかしたっけ…?逆に嫌われるようなことしちゃったんだけど……まさかそれが嬉しかったとか?いや、ないないない。
「いやっ……えと……き、今日はいい天気ですね!」
「もう少しで日没だけどね♡」
うっわぁぁぁ……間を持たせる話題を間違えた……
どうしようどうしようどうしよう。っていうか、恋愛経験ゼロの僕にとっては女の子と2人っきりでこういうオシャレなカフェに来ること自体初めてだからね?どんなことを喋ればいいのか分からないって!
よく世の中のリア充はこういう場所に来れるよね!?逆になんの話すんの!?どーせ、お前ら学校でも放課後でもずっとイチャイチャしてんだるぉぉん!?話題尽きないの!?枯渇しないの!?
僕みたいな非リアなんか男友達たちと放課後、マクドとかカラオケとか言って猥談に話を咲かせてる身分なんだよ!?
先日も、「あー……幼なじみで童貞卒業したいわー」とか言ってたばっかなんだよ!?そんな僕がこの場をどう切り抜けろと!!?
「うふふ……ふふ…♡」
ずっと笑ってんですけど副会長ぉぉ!?そんなに嬉しいの!?あなた、周りに花が咲き乱れるほど笑ってますよ!?当然、めちゃくちゃ可愛いですけどね!?
「ねぇ、叢雲君?」
「は、はい」
「エリチが喋っとったん盗み聞きしたんやけど……」
「?」
「今日の昼休みから……名前で呼び合う仲になったんやってなぁ?」
ビクッ。
「ふ、ふぇ?な、なんでそれを……?」
「だから盗み聞きしたって言ったやん」
あの密閉された空間での僕と会長のやりとりを盗み聞きしていた?もしくは会長が教室で学友に嬉しさのあまり暴露したとか?いや……流石にそんなに馬鹿じゃないだろ。ポンコツだけど。
一体どのタイミングでそれを……
そう考えていると、注文の品がテーブル上へ並べられる。
「でな?ウチ思ってんやけど……」
副会長が話す間も、動揺を隠すように角砂糖、ミルク、ガムシロップを次々とコーヒーへ投入。黒いブラックは、ほぼ白に近いライトブラウンへ変貌。ミルクもガムシロップの入れすぎで液体がカップから溢れそうだ。
そしてそのカフェ・オ・レを口に運ぶ。
「ウチ叢雲君のことムッくん!って呼んでええかな!?」
「甘ぁぁぁぁ!!??」
彼女のムッくん宣言と激甘カフェ・オ・レに二重のダメージを与えられながら、カフェ・オ・レを軽く吹いた僕は、備え付けのティッシュでテーブルを拭きながら、副会長を見やる。
「え、待ってください。……え?ムッくん?」
「そ。あ、それが嫌なら……そうやなぁ……桜やから……チェリー…とか?」
「それだけはやめてください!!」
そんな童貞臭すぎるあだ名はやめてください副会長ぉぉぉ!!マジもんのチェリーボーイなんだから僕はぁぁ!!そんなあだ名を付けられたら、あだ名から二つ名……挙句の果てには称号に進化する可能性大なんですよ!?男子の手によってね!!!
「あ、じゃあ……さっちゃんは?」
「お、女の子みたいじゃないですか……」
「だって叢雲君の名前がそもそも女の子みたいやもん」
悲しいかな。それを言われると反論できない。
「はぁ……ムッくんでもさっちゃんでもお好きな方でどうぞ」
「うん!じゃあ、さっちゃんで!」
いや、そっちかい。
「じゃあウチのこともあだ名で呼んでくれへん?」
「いや……だから年の差…」
「先・輩・命・令♡」
最近、先輩という権威を悪用する輩が多い気がする。金髪美少女とか、金髪美少女とか、金髪美少女とか……
「そ、それで?東條副会長のあだ名って一体…?」
「のんたん」
「へ、へぇ~……の、のんたん」
「うふふ♡は~い」
うぇぇぇ、なんだこれ。めっちゃ恥ずかしい。だからやめてくださいって。こういうのに、僕ってば免疫ゼロなんですから。
「あ、コーヒー忘れてた!早く飲まんと!」
「あ、そうですね。………甘ぁぁぁ………ーー」
店から外へ出た。夕日は高層ビルの影に隠れ、空はオレンジ色から薄紫色に変わっていた。
「じゃ、ウチはこっちやから。ほな、また明日」
「あ、待ってください副会長……って待って待ってのんたん!」
「んん~?どうしたん?さっちゃん?」
遊ばれてんじゃね、僕。
「いや…その…見送りますよ。流石に夜道に女の子一人にするほど、男として腐ってないんで」
「え、その…家逆方向なんじゃない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。のんたん一人で帰らせて、明日会長から大目玉を食らうことを考えれば、どこまでも護衛しますって」
「ふふ…何それ。おもろいなぁ……さっちゃん、ホントにありがと」
そう言い、彼女は帰路に着く。僕もそれに習い、彼女の隣へ。
副会長の家までは案外そう距離は無かったが、中々に結構彼女と喋れた。
最初感じていた気まずさなんかはとうの昔に消え、彼女の家に着いた時は別れるのが名残惜しくなったほどだ。
……女友達ってのも悪くないかも。相手先輩だけど。
「それじゃ、また明日!えと……の、のんたん」
「うん!また明日ね、さっちゃん」
別れの挨拶を済ませた僕は家へと向かう。ま、家へ辿り着く前に、ことほのうみや会長と勝負することになるかもしれないが、それはそれで別にいいや。
今僕の胸の中には楽しかったという、あの激甘カフェ・オ・レよりも甘い後味が残っているのだから。
一人、エレベーターに乗った希は自分の部屋があるフロアへ到着、急いで鍵を開けて、ベランダへと出た。
そこには先ほどまで喋っていた後輩が背中を自分に見せて帰っていく。
「ふふ……ホンマ好きやよ?さぁっちゃん」