世界一可愛いストーカーたちに追いかけられる僕はストーカー   作:Re:クロバ

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第4話:社会から殺されるか、西木野真姫に溺れるか

のんたんとカフェに行ってから一週間が経とうとしていた。

未だあの時のことを思い出すと、朗らかな気持ちになる。

 

今朝もそうだ。起床してから、学校に行きたくないなと思っていたが、のんたんとまた喋れると思ったら、自然と手がブレザーへと伸びていた。

女友達ってのがたまらなく嬉しかったのだ。

 

そして、僕はポストに向かう。さて……今日の朝刊は何のニュースで持ち切りなのかな?

 

まだ少し肌寒い外気に身を震わせながら、ロックを解除。そして雪崩(なだれ)出てくる手紙。

 

うん。あはは。……うん。

 

そう、僕は2週間ほど前から……謎の大量手紙に悩まされていた。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「ちょっと、桜。何それ?」

 

会長が尋ねてくるので、僕は迷惑手紙の整理です。と、告げ、作業に戻る。

 

さて、1枚目は……

 

『叢雲先輩へ

今日もお姿を拝見させていただきました!友達たちと遊びに興じる貴方、書記の仕事に真剣に取り組む貴方……どのタイミングの貴方を取っても、素敵という二言しか残りません。これから夏へと近づいていきますが、お身体の方に気をつけてお過ごしください。今日も貴方を見てます』

 

お、おぉう…に、2枚目は?

 

『叢雲先輩へ

唐突なのですが、叢雲先輩は楽器を演奏したりしますか?私は小さい頃からピアノ一筋で、大会にも出たりするんですよ?是非叢雲先輩にも私の演奏を聴いてもらいたいな。では、今日も頑張ってください!』

 

はいはい。僕が演奏できるのはリコーダーだけだよ。

 

『叢雲先輩へ

今日の放課後、屋上へ来てください』

 

ん?この手紙は一体……?

 

最後に読んだ手紙を細かく見ていくと、他の手紙と違って差出人が書いてあった。えーと、なになに……?

 

『小泉 花陽』?申し訳ないが、聞いたことのない名前だな……

ま、名前から見れば女の子だな。いやいやいや!!逆に女の子なの!?

僕は今になってようやく自らの目を疑った。

 

「やったぁぁぁあ!!チェリーボーイ脱出ぅぅぅ!!!」

 

生徒会室に僕の声が響き渡る。

 

「ちょっ…!?どうしたの桜!?」

 

「あ、す、すみません。かいちょ……」

 

「う~ん?」

 

「……すみません、絵里」

 

「よろしい」

 

え、よろしいの?なんか怒る点が最終的にズレてたよね?ま、まぁ会長がそれでいいならそれでいいや。

 

とりあえず、僕はこの花陽ちゃんからの手紙を勝手にラブレターと仮定し、一人で盛り上がる。

頬が紅潮し、興奮しているのが嫌でも分かった。

 

やったぁぁぁ…!!!女の子からの手紙っ……!!今までポストに入ってる手紙っていったらスーパーの広告とかだったのに!これはまさかの…ホントにホントにチェリーボーイ脱出か!?

 

しかし、そこで僕の脳裏に幼なじみの横顔がよぎった。そして僕の意識は覚醒。熱くなっていた心が水を打ったかのように静かになり、腕を組む。

 

僕の馬鹿野郎っ…!!幼なじみがいながら、他の女の子に意識を向けるだと!?んなこと、お天道様が許しても、僕自身が許さないだろう!?

 

うんうんと何度か頷き、勝手に納得。花陽ちゃんには悪いが……告白の件は諦めてもらおう。

 

さて……後は放課後を待つだけだ。

 

「ねぇ、桜?」

 

「な、なんですか?……絵里」

 

「2人っきりね」

 

「待って」

 

「結局前に出来なかったキス……ここで果たすべきだと思うんだけど」

 

「果たすべきじゃない、果たすべきじゃないっ!!」

 

「さぁ、桜!準備はいいかしら!?」

 

「いや、準備もクソもないでしょうが!?」

 

席から立ち上がり、やたらと接近してくる会長の肩を抑えながら、必死の抵抗を試みる。

ああぁぁぁ……!!チャイム!早く鳴れっ!そしてこの空間から解放したまえ!!

 

「そこまでや、エリチ」

 

チャイムは鳴らなかったが、一人の女神は僕に微笑んでくれた。

 

「あ!の、のんたん!」

 

「大丈夫?さっちゃん」

 

「げっ…!の、希…!」

 

「エリチ。悪いけど…生徒会長がそんなんやったら、生徒間の不純異性交遊が増えるだけやと思うよ?」

 

「いや…そ、それは…」

 

「それに…さっちゃんは、書記の仕事をもう終わらせてるはずやんな?とっくの三日前くらいに。けど……なんでそんなにどっさり仕事が増えとんのかなぁ?」

 

「うぇぇっ!?た、たまたまよ!」

 

「……仕組んだ?」

 

「そっ、そんなわけないじゃない!」

 

「はぁ。まぁ、どっちでもいいけど。あ、さっちゃん。お昼ご飯まだやんな?中庭で一緒に食べよう!」

 

「え?あっ、も、もちろん!」

 

のんたんからの頼みを心から了承。先に僕は中庭に向かう。1度教室に弁当を取りに戻らないといけないしね。

 

さて、桜がいなくなった生徒会室では、希が絵里に詰め寄っていた。

 

「1つ、忠告しとくけど…エリチ」

 

「な、何?」

 

「彼に変な真似したら……許さんよ♡」

 

ここで絵里が恐怖に震えたのは言わずもがな。

笑いながらも微量に怒気を孕んだ希は、そのまま中庭へ向かう。

 

「……希ぃぃ…桜は私だけの桜だってのに…横取りしないでよっ…」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「へ~……小泉 花陽ちゃんねぇ」

 

「は、はい」

 

「面識はあるん?」

 

「ないですよ。僕みたいなヤツが色んな女子と知り合いなわけないじゃないですか」

 

「ま、そうやね。さっちゃん絶望的にモテへんもんね」

 

「的確に心を抉ってくるのをやめてください」

 

のんたんの僕についての素直な評価に、一人ダメージを負う僕。

 

「じゃあ、放課後はやっぱり呼び出しに応じるの?」

 

「そりゃ…まぁ。このまま無視する方が最低でしょ」

 

「ま、そらそうやね。あ、そうや。ウチ…今日のお弁当多めに作っちゃったんやけど、少しいらん?」

 

「え、貰っていいんですか?」

 

「遠慮せんでええよ。ほら、何が欲しい?」

 

のんたんがお弁当を見せてくれる。それは野菜の多めの弁当で、この前ちらっと見たことがある、高坂さんの茶色ばかりの弁当より何倍も健康的そうだ。

 

「あー、じゃあ……卵焼きで」

 

「え、唐揚げとかじゃなくって?」

 

「卵焼きで大丈夫ですよ」

 

「そう?じゃあ、はい、あ~ん」

 

僕は(あご)にアッパーカットを喰らったかのような衝撃に見舞われた。え、嘘でしょ?!のんたん何やってんの!?もしかして無意識でやってたりする!?それ、結構恥ずかしいヤツですよ!?

 

「ちょ、の、のんたんっ」

 

「ええから、早くっ」

 

えいっと、可愛らしく言いながらのんたんは全然可愛くない勢いで、俺の口の中に卵焼きをぶち込む。

だし巻き玉子の良い匂いがした瞬間、箸が喉の奥に刺さりかけて軽く成仏しそうになる。

 

「んごぉぉぉおお!!??」

 

「ど、どう?美味しい?」

 

ごめんなさい。顔赤らめさせて、モジモジしてるところ悪いけど、味がどうのこうの以前に死にかけた恐怖が俺を襲ってるんですよ。心臓破裂しそうな程バクバク鳴ってるんですよ。

 

「ぉ……ぉぃひぃ……」

 

「ホントに!?嬉しい!ありがとう!!」

 

あぁー……この笑顔見れるんなら、

死にかけたことに関しても価値はあったかな。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

さて、放課後。カバンに教科書などを詰め込み、教室を出て、階段を上る。目指す先は屋上。

 

大丈夫だ。どうやって断ろうか、と迷う必要はない。さっきの6時間目を使って必死にプランを考えてたからね。お陰で授業内容が全部頭の中から吹っ飛んで、気が狂いそうになったけど。

 

少し隙間風の入るドアの前に立ち、スッと息を吸ってから、よしと気合を入れてドアノブを回す。

 

扉を開けた先に広がるのは、暮れてきた夕日に映える空。昼から夜の街並みに変わろうとしている、首都の景色。天高く突き抜ける東京タワーと、スカイツリー。そして……一人の女子。

 

一歩一歩踏みしめるように彼女へと近づく。こちらへ背中を向ける彼女の顔は分からないが、味わったことのない特殊な緊迫した雰囲気に僕は怖気づいていた。

 

「あの…その……き、来たよ」

 

うわぁ……ダッセェ。

 

なぁにが「来たよ☆」だ。普通に叢雲 桜です。呼ばれた通り来ました。用はなんですか?って律儀にしとけば良かったのに、頼れる(おとこ)感出してんじゃねえよ。

 

その僕の声に呼応し、振り返る彼女。夕日が照らし、オレンジ色に染まる屋上で見た彼女の顔はそれはそれは綺麗だった。

 

少し釣り上がった目(・・・・・・・)赤いくせ毛(・・・・・)、整った顔。どこをとっても完璧の一言に尽きる容姿を持っていた。

 

「えと……こ、小泉…花陽さん?ですよね?」

 

「違うわ。私は西木野 真姫。小泉さんと同じクラスの1年生」

 

「いちねっ……!?」

 

おいおいおい。マジで?実を言うと僕ってば高校生2年なのに163cmしかないドチビなんだよ?だから同じくらいの背丈だから同級生か先輩かと思ってたのに……下級生?うわぁ……最近のJKはパネェな。

 

「あ、あの……小泉さんは?」

 

「来ないわよ」

 

「は、はぇ?」

 

「小泉さんにお願いして、貴方を呼び出して貰ったの。悪かったわね」

 

「は、はぁ…」

 

立場逆じゃね?僕先輩だよ?君後輩だよね?

 

「そ、それで?なんでわざわざ小泉さんに頼んでまで僕を?」

 

「これはここだけの話なんだけど、貴方を私が呼び出したってことバレたくないのよね。貴方の家のポストに直接手紙を届けて貰ったんだけど、万が一って場合があるじゃない」

 

「バレたくない?な、なんで…?」

 

「私がチェリーボーイに手紙を出したってことが世間に広まったら死にたくなるもの」

 

こっちが死にたくなるわ。

 

っていうか、え?なんでこの娘僕がチェリーボーイってこと知ってんの?なんで小泉さんに僕の家の場所を指示できたの?

 

「ま、まぁそれは良いとして……用はなんだ…?」

 

「ふふ……これ、見覚えあるでしょ?」

 

含み笑いで彼女が差し出したのは、3通の封筒だった。

 

「ん?なんだそれ」

 

「読み上げましょうか?」

 

「『叢雲 桜様

先日は当アダルトサイトにログインしていただき誠にありがとうございます。さて、至極勝手ながらに80000円を請求させていただきます。当サイトにログインする際に、読んでもらったであろう利用規約にしっかりとこのサイトは有料(・・)と記載しておりました故、ご多忙の事かと思いますが、〇月〇日までに銀行に振り込んでくださいますようお願いします』……あら?凄いこと書いてあるわね、このふ・う・と・う」

 

目の奥で火花が散った。頭がくらくらし、今度こそノックアウト寸前になる。

冷や汗が滝のように吹き出し、息が荒くなる。明らかに落ち着きのなくなった僕を楽しむように西木野は続けて話す。

 

「他の2通も同じような内容だったわ。合計請求額は14万円……本当に払えるのかしら?」

 

絶望が胸の中を支配する。嘘だ……!!僕はちゃんと無料サイトを閲覧していたはずだっっ!!それがなんでお金を払うことに…!

 

「アダルトサイトってのはね?巧妙な手口を使って、閲覧者たちにお金を払わせようとするの。検索して、ヒットした時には無料と書いてあって、安心しちゃうけど、どんどんとアクセスしていくうちに知らず知らずのうちに有料サイトへジャンプしてしまう」

 

「そ、そんな……!!」

 

「ちゃんとページ全体を確認したの?そういうサイトは後で言い訳できないように、端っこの方にわざと小さく、この先は有料です。って書いてあったりするのよ?」

 

確かに僕は、アダルトサイトを閲覧する時、ログインする際には利用規約に同意だけしたり、気になるものはどんどんと順を追ってアクセスしていったりと、ほとんど確認していないに等しい。

 

「貴方の不注意が招いた、不始末ね」

 

「んなバかな…!」

 

「やっぱりこれだけの請求額を……払えちゃうから閲覧していったのよね?」

 

「そ、そんなの無理に決まってるだろ!?ただの高校生の僕がこんなっ……大金……!」

 

「やっぱりね」

 

そこで彼女は一息つき、勝ち気に溢れた顔で僕を見つめた。

 

「これは取引よ」

 

「取…引?」

 

「えぇ、そう。取引」

 

蠱惑(こわく)的に微笑む西木野は悪魔の誘いをけしかける。

 

 

 

 

 

「そのお金……払ってあげましょうか?」

 

 

 

 

 

目を限界まで見開く。14万を……立て替えるだと?僕のために……?そんなの不可能だろうが。

 

「できるわよ」

 

まるで僕の心を見透かしたかのように彼女は告げる。

 

「14万?払えるわよ、それくらい」

 

「お、お前っ!自分がどれだけ非現実的なこと言ってるのか分かってんのか!?」

 

「だから大丈夫よ。それに…今からもっと非現実的なこと言うんだから。これくらいでビビッてちゃあ話にならないわ」

 

「もっと……非現実的な……ことだと?」

 

「えぇ」

 

 

 

 

 

「叢雲先輩。私に従ってよ、死ぬまで」

 

 

 

 

 

彼女の胸ぐらを僕は掴んだ。

 

「おい…先輩をからかうのもいい加減にしやがれよ…?さっさとその封筒を返せ。バイトでもなんでもして、高額請求を完全返済してやるから」

 

「期限は3日後なのに?」

 

息を呑む。そうだ。期限のことを彼女との話ですっかりと忘れていた……!!現実的に不可能だ…!!!

 

「そ、それでも…!僕はやる!どれだけ請求の電話が激しくなろうとも必ず成し遂げるっ!!!」

 

「そう……それならこの封筒は貴方にお返しするわ。じゃあ私は……この情報をSNSにでも拡散しようかしら」

 

「はぁっ!!??」

 

「あら?誰が黙っておいてあげるなんて言ったかしら」

 

こいつは……!!

 

「勝手に自分が払おうとするのなら構わないけど……こっちもお構いなく、勝手に暴露させてもらうわね」

 

「ちょ、ま、待てよっ!!それはねぇだろぉが!」

 

「じゃ、追加条件」

 

「はぁ?」

 

「さっきの取引よ。私に従うのなら、お金も立て替えてあげるし、このことも秘密にしてあげるわ。これでどう?こんな良い取引…そうないと思うけど?」

 

会話の主導権は……この勝負の行方は……この女に握られてたってことなのか…?最初っから?

 

「とことん馬鹿にしやがって…!!」

 

「ほら、早く。どうするの?」

 

僕は……叢雲 桜。江戸時代から代々伝わる誇り高き花火職人の家系の子孫で……憧れの幼なじみのナイト(ストーカー)。愛する人を見守り、学友を一番に考える友情に熱い男。

高校生男子らしく、毎日男友達たちと猥談に勤しみ、女子に免疫が

ないし、モテない、チェリーボーイ。

 

そんな僕は……叢雲 桜は……!!!

 

 

 

 

 

 

 

「おねがい……します……」

 

 

 

 

 

 

 

「取引成立ね」

 

叢雲 桜は……堕ちた。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

真姫は満足気に自宅のソファに座る。

 

「ごめんなさい。叢雲先輩。こうでもしないと、貴方の周りに付きまとっていた人達から貴方を独り占めできなかったから……」

 

「けれどね?そんな貴方も悪いのよ?叢雲先輩」

 

 

 

「いつも貴方を見守っている私の愛情に気づかないことは……ギルティだわ」

 

 

 

そして真姫は筆を取る。書き出しは想い人の名前。

 

「叢雲先輩へ。今日も素敵でした。夕日に映える貴方の悔し顔がたまらなく私を興奮させてくれました。もう私は貴方に夢中です。だから……これからは……お隣で貴方の顔を見せてください。大好きですよ。……ふふ……こんな感じかしら」

 

真姫はすっくと立ち上がり、靴を履き外へ。その手には1通の手紙と、印鑑が押された14万の小切手。これから銀行に行って……

 

いつも通り、彼の家に行こう。そして、毎日欠かさず出している手紙を今日も出そう。……もちろん、匿名で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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