ソードアート・オンライン ~短剣使いの薬品売り~   作:斗穹 佳泉

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一か月と半分くらいでしょうか
お久しぶりです。
受験生ともなるとなかなか時間作れなくて、ほんとまとまった時間がほしいです……


ではではっ、どうぞ



ミナの告白

ミナは、キリトのその質問に、なんて答えようか迷った。

さっきのキリトの態度から、下手なことを言えば嫌われてしまう、と感情が叫ぶからだ。

しかしそれでも、彼女の理性、ゲーマーとしての心は折れなかった。

 

「ポーションの売買のことについて、だよ」

 

大方その返答を予想していたのか、尚もキリトはPohを睨んだ眼で、ミナを見る。

そして一瞬、Pohが消えた林を見て、言う。

 

「脅されてい――」

「脅されてないよ」

 

ミナはキリトの問いに食い気味に答えた。

キリトは一層、怒りを浮かべる

最近では、単独で行動していた攻略組の一人が、《笑う棺桶》の残党に襲われるという事件があった。

幸い、HPが尽きる前に仲間が駆け付け、大事には至らなかったそうだが……。

その話によると、《笑う棺桶》のメンバーは傷を負っていないのにポーションを飲み、“速さや力がそれまでと段違いに上がっていた”そうだ。

アルゴに聞いた話では、ステータスを一時的に上げるようなポーションを作れるのは、ミナしかいない。

 

「……、自分が何をしているのか、わかってるのか?」

 

キリトに冷たい声で言われ、ミナの感情は泣き出したが、理性が、ゲーマーとしての心がやはり上に立った。

 

「私は言ったよね、キリト。第一層攻略会議で。私はゲーマーだって。この世界は私たちが望んだ、ゲームの世界なんだって。私たちがリアルの時間の多くを費やしてきたゲームの世界なんだよって。私たちがパソコンの中で今までしてきたことと、何が違う?」

「この世界は、死んだら終わりなんだぞ」

「それはPohさん、《笑う棺桶》の人たちだって同じだよ」

 

ギリッと奥歯を噛みしめる音は、キリトが発したものだ。

《笑う棺桶》の討伐作戦は、まだ記憶に新しい。

ミナはより一層怒りを宿していくキリトの瞳には臆せずに、第一層攻略会議の時と同じような声音で言う。

 

「私は、ポーション屋。人にポーションを売るのが仕事なの。それに、私が取引を始めてから、《笑う棺桶》による殺人は減った」

 

それは、キリトも知っている。

ある日を境に、“《笑う棺桶》メンバーが毒を使用しなくなった”。

それはなぜなのか、アルゴでも知ることはできなかったが。

だからキリトは、ミナの発言にまた驚くこととなった。

 

「私は、彼と取引をしたの。ポーションを売ってあげるから、これから先“毒”を使わないことってね。ルーちゃんに情報をもらって、契約を結んだんだよ」

 

ミナはメニューウィンドウを開くと、一枚の羊皮紙―高価なものであるとわかる―を取り出す。

 

「これが契約書。最高ランクの羊皮紙に、最高ランクのインク、ペンを使って《教皇》に書いてもらったものだよ」

 

 

一つ、ポーション屋ミナは、ギルド《笑う棺桶》のリーダー、Pohにポーションを売ることを誓う。

二つ、ギルド《笑う棺桶》のメンバーは、この契約の執行日以降、プレイヤーに対する“毒”の使用を禁ずる。

三つ、Pohはギルド《笑う棺桶》に所属するプレイヤー以外のオレンジプレイヤーにポーションを転売してはならない。

四つ、当契約は、第五十層《大聖堂》管理者である《教皇》が作成し、両者が同意したものである。

五つ、当契約はアインクラッド全階層攻略まで破棄することのできないものとする。

六つ、当契約に違反した場合、第五十層《大聖堂》管理者である《教皇》の名のもとに、《異端者》の烙印を受ける。

七つ、以上、両者のサインを以て、契約の成立とする。

 

 

「……第五十層《大聖堂》管理者?」

 

聞き覚えのない単語に、キリトは?マークを浮かべた。

それもそのはずである。

というか、ミナすら情報屋のアルゴに聞くまで知らなかったのだから。

《大聖堂》とは、各階層主街区にある神殿を統括する《教皇》が住まい、業務を行う場所である。

アインクラッドでの売買その他の契約は、基本紙面ではなく口約束、もしくはシステムウィンドウを通して行われる。

現実世界でも、スーパーなどではお金と物を交換する契約を結んでいる。

ミナが持つ契約書は、大聖堂にて両者合意でのみ交わされ、作成されるものだ。

《異端者》とはどういうことか。

それはこの世界《ソードアート・オンライン》から異端の扱いを受けるということである。

つまり、「剣」の装備ができなくなる。

“剣”というのは武器すべてを指し、短剣や斧も例外ではい。

唯一エクストラスキルに「体術」があるが、攻撃力は武器を装備している時と比べ非常に少ない。

SAOがデスゲームと化したことにより、《異端者》の烙印を受けることは、事実上死の宣告ともとれる。

 

 

そこまで時間をかけてキリトに説明すると、これまで堂々とした喋り口調だったミナが、突然小さな声になり、ずっとキリトを捉えていた瞳を下に向けた。

 

 

「……ほんとはね、私は条件を『P.Kを禁ずる』にしようとしたんだ。でも、デュエルに負けちゃって、『“毒”の使用を禁ずる』としかできなかったの」

 

ここにきて感情がゲーマーとしての心より上に立ったと、ミナは自分で自覚しながら言った。

こんなことを言って、今泣いても、ただの言い訳にしかならない。

自分勝手な人だと、余計キリトに嫌われるだけだ。

そう頭ではわかっていても、どうしても瞳に涙がたまっていく。

 

 

私は、人殺しの手伝いをしている。

 

 

それは事実なのだから。

 

 

「…………」

 

 

下を向いて肩を震わせるミナに、キリトは無言で近づく。

どんな罵声を浴びせられるだろう、もしかしたらもう会わないって言われるかもしれない。

せっかくみんなと会えたのに。

せっかくキリトに会えたのに。

それも自分のゲーマーとしての心に従ったからだ。

それはそれで仕方ない、とは思いながらも、やっぱりどこかに、だったらゲーマーなんかになるんじゃなかったとも思う自分がいる。

しかしそれは、このゲームとの、キリトやみんなとの出会いを否定することになる。

それだけは嫌だ。

 

 

でも、私がポーションを売っていなければ、理不尽なステータス差で攻略組の人が襲われることもなかった。

《笑う棺桶》のメンバーの平均レベルが、短い期間にいくつも上がることはなかった。

攻略組の人が危ない思いをすることも、なかったんだ。

 

 

「ミナ」

 

キリトに名前を呼ばれて、まるでマンガのように体をビクッと震わせたミナは、涙の溜まる目を、視線を上にあげ、姿を捉えようとするが、ミナの瞳は彼を映せなかった。

 

 

ミナの視界の左端に映ったのは、黒い剣士の黒髪。

 

彼の両手はミナの背中で結ばれていた。

 

吐息が耳元で聞こえ、その音は優しい感じがした。

 

 

「え、な、う……? き、キリト?」

「……ごめん、ミナ」

 

いつもの、優しいキリトの声だった。

 

「一瞬でも勘違いしたこと、本当にごめん。ミナは、そんなことしない人だって、第一層攻略会議の時からわかってたのに」

「で、でも、私が売ったポーションのせいで、攻略組の人が、被害にあって……。私のせいで、頑張ってる人が、危ない目にあって……」

 

そこまで言うと、溜まった涙が溢れだした。

 

 

その涙は、果たして自分の不甲斐なさからなのか、キリトに嫌われなかったからなのか、ミナにはわからなかった。

 

 

「ミナはすごいよ。Pohと一人で戦ったんだ。俺なんか、なにもできなかった。それどころか、俺は、人を……人を殺したんだ。二人も」

 

ミナを抱きしめる腕に力が入る。

彼女は涙を頬に伝わらせながら、抱きしめられたまま背伸びして、手を伸ばしてまっ黒な髪をゆっくり撫でる。

そのまま少し経つと、今度は彼の背中に手を回して黒いコートに顔をうずめた。

キリトのコートは暖かくて、優しいにおいがした。

 

 

「……ありがと、キリト。私を信じてくれて。抱きしめてくれてありがとう。さっき話した、私が一緒にここに来たい人。それはあなただよ、キリト」

 

 

抱きしめた手を緩めて、ミナは彼の瞳をまっすぐ見て、まだ涙が残る笑顔で言った。

彼もうっすらと浮かべた涙を拭き、いつも通りとはいかない、少し慌てた感じで、返事を返してくれた。

 

 

「こっちこそありがとな。まぁ、えっと、その、なんていうか……奇遇だな、俺もミナとここに来たかった」

 

 

二人は笑いあって、少しずつ星たちが光を失い始めている空を見た。

 

 

それは、やはり、夢の中でしか見れないような景色で、今まで見てきた何よりも美しかったと、私は思う。

 

キリトにとっても、そうであってほしいと思う。

 

 

「さぁ、朝になる前に戻らなきゃな」

「うん、そうだね。まぁ私ならキリトとナニカあったって思われてもいいんだけど」

「な、ナニカって、俺はそんなやましいことは――」

「誰もやましいなんていってないよ?」

 

あはは、と笑ってミナは笑顔を見せる。

からかわれたと気づいたキリトは、お返しとばかりにデコピンを炸裂させる。

 

「い、痛い!? ひ、ひどいよう、キリトがいじめる~」

「み、ミナが先にやりだしたんだろ」

 

それは昔、ポーションの材料を取りに来た時に見たカップルと同じような会話だった。

それを見ていた自分を思い出しながら、二人は来た道を戻った。

 

この場所に来る時と違うのは、二人の顔が先ほどより明るい、ということと、二人の手が繋がれているというところだろうか。

 

 

きっと、アルゴのネタノートにはこう記されるだろう。

 

『黒の剣士と白衣の巫女が付き合った』と。

 




感想等々、もしあれば嬉しいです。

オリジナルな言葉が飛び交ってますね、契約書の案は最近ログホライズンを見返したので、それがあったかと思って使いましたが、おかしくなかったでしょうか。



ではではっ、また次回。
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