ソードアート・オンライン ~短剣使いの薬品売り~ 作:斗穹 佳泉
新生活にも少し慣れてきたので、少し書く時間が出来てきました。
今後とも更新は遅いですがよろしくお願いしますっ!
それではっ、どうぞ
「はぁーい! それでは、始めさせてもらいます!」
場所は第一階層の《トールバーナ》という街の広場。
そこに、青い髪をした青年の声が響く。
今からここで始まるのは、フロアボスについての会議。
私が……いや、私たちが元の世界に戻るために必要な第一歩をどう踏み出すか、という会議だ。
集まった人数は45人、か。
フルの48人には届いてないなぁ。
つい先日やっと、最前線についたばかりの彼女は、ゲーマーとして、現状にため息を吐いた。
「俺はディアベル、職業は……気持ち的に、ナイトやってます!」
「「ジョブシステムなんてないだろう」」
何人かがそうつっこむ。
青い髪のナイト、ディアベルさんの一言で、あたりの重い空気が晴れる。
クラスにも一人はあんな人いるよねっ、彼女もクスリと笑う。
彼女の座っている位置からは、この攻略会議に参加しているプレイヤー1人1人がよく見えた。
片手剣使いの人、斧使いの人、槍斧使いの人、槍使いの人。
そしてその人たち全員が、仲良さげに話しているのを見て、呟いた。
「いいもんいいもん。私はソロでやっていくもん」
「今日、オレたちのパーティが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、明後日には、ついに第一層のボス部屋に辿り着くだろう」
どよどよ、とプレイヤーがざわめく。
かくいう私も、驚いていた。
もうそんなに進んでいたんだ……。
迷宮区はまだ半分しか上ったことがなかったからなぁ。
ポーション造りの素材は大体迷宮区外にあるからね。
ここに来るまでに《薬品精製手》のスキル熟練度は70を超えて、スプラッシュヒールポーション――投擲スキルを用いて地面、壁などに投げると破裂し、半径5メートル以内のプレイヤーにヒーリングポーションの効果を与える――を作れるようになったから、いざというときは大丈夫だろうけど。
「一か月、ここまで一か月もかかったけど……それでもオレたちは示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものからきっといつかクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが、今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ! そうだろ、みんな!」
再びの喝采。
ディアベルさんの仲間さん以外にも多くの人が手を叩いていた。
私もつられて手を叩く。
私もゲーマーの一人として、その意見に大いに賛成。
だけど、この《薬品精製手》のスキルを公開するつもりはまだない。
これを狙って変な人が来たら困るからね。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
その喝采の中に、低い声が流れたのはその時だった。
歓声がぴたりと止まり、前方の人垣が二つに割れる。
そこに立っていたのは、男の人にしては少し小柄だけど、なんていうか、がっちりした人だった。
そしてなにより目を引くのは、茶色のトゲトゲ頭。
その人が言いたかったことは、つまりこういうことだった。
ベータテスターが新米参加者、ビギナーの面倒を見なかったから、二千人もの人が死んだ、と。
しかも今回のボス戦のために溜めたコルやアイテムを吐き出せ、と。
その言いようにさすがに腹が立った私は、トゲトゲ頭のせいでシンとした空間に、名乗りを上げることにした。
私は、数日前に情報屋からベータテスターの死亡率の情報を買っていたから、余計に腹が立ったんだ。
「ねぇ、私も発言していいかな?」
俺は再度思い出していた。
一週間ほど前にアルゴから買った情報を。
俺が依頼したのは、現段階でのベータテスターの死者数の推計だ。
二千人の中で三百人程がベータテスターだという。
割合に直すと、約四十パーセントにも昇る。
経験と知識が常に安全を生むわけではないことは、はじまりの街を出てすぐに受けたクエストでよく思い知らされたばかりだ。
そしてまた、外的な要因も--
「ねぇ、私も発言していいかな?」
澄んだ、少し高めのアルトが、静寂を切り裂いた。
物思いから我に返り、顔を上げると、着ている白衣をなびかせながら歩く、恐らく同い年くらいの女の子がステージに向かっていた。
名前は記憶にない。
彼女はトンガリ頭ことキバオウの前まで行くと、やはり女性プレイヤーだからか、トンガリ頭が少し大きく見える。
ベータテスターにいなかったかと脳内で検索をかけるが、白衣を装備したプレイヤーはヒットしなかった。
ではやはり、新規プレイヤーのはず……。
装備は白衣でわからず、短剣なのか外しているのかはわからない。
「私の名前はミナ。キバオウさん、あなたの言いたいことってつまり、ビギナーの面倒をベータテスターが見なかったせいで、たくさんの人が死んでしまった。その責任を取って、アイテムやお金をみんなのために出してってことでしょ?」
「そうや。あいつらが見捨てへんやったら、死なずに済んだ二千人や! しかもただの二千人ちゃうで。ほとんど全部が他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ! アホテスター連中が、ちゃんと情報やらアイテムやら分け合うとったら、今頃この場所にはこの十倍の……、ちゃう、今頃は二層やら三層やら突破できとったんに違いないんや!」
……その二千人の内、三百人はあんたの言うベータテスターなんだぞ!
と叫びたい衝動を俺は必死に堪えた。
誰がベータテスターわからない今、そんなことを言えば、情報屋のアルゴにも危険が及ぶ可能性がある。
それに、吊し上げられるのが怖いという矮小な理由ももちろんある。
しかし彼女は、そんな理由を打ち砕くような発言をした。
「ほんとうにそうかな? ねぇキバオウさん、あなたはゲーマーかな?」
「それが今どないしたっちゅうんや」
「私はね、自分のことをゲーマーだと思ってる。他のMMOでトップだった人も、たぶん同じこと思ってる。だったら、ベータテスターに頼るまでもなく、自分で地図描いて、自分で色々な発見したりした方が、楽しいと分かりきってる。
デスゲームになってしまっても、私は攻略本を見ながら未プレイのRPGをプレイしようとは思わない!」
彼女の言葉には、この場に集まった人を惹きつける力があった。
「私は、自分の思うとおりに行動して、それでゲームオーバーになっても、後悔はない……とは言い切れないけど、この世界にこれたことは後悔しないと思う。だって、夢にまで見たゲームの世界なんだから。……みんなも、そう思わない?」
ゲームオーバー=死ということを除けば、その場にいる人はそう思っているのだろう。
かくいう俺も、そう思っている。
「だから、もうやめようよ。みんなもゲーマーなら、ベータテスターを責めるようなことはもうやめよう? 彼等はすぐにはじまりの街からいなくなったけど、それはつまり、はじまり街周辺の弱いモンスターを私達にくれたってことになるんだよ」
確かに……。
考えようによっちゃそうだよな。
そんな声があちこちから聞こえてくる。
ベータテスター本人からしてみれば、そんなことは考えずにポップの奪い合いになるのと、経験値効率からすぐに離れたが……。
それはさておき、彼女の演説は下手をしたら"お前がベータテスターなんだろ!"と責められるかもしれないものだった。
しかし、彼女の言葉は俺を、ゲーマー達の心を強く掴んだ。
小さなざわめきの中から、パンパン、パチパチと拍手が鳴り始める。
キリトも知らずの内に拍手を送っていた。
名前も知らない白衣のプレイヤーに対して。
そして、心のどこかにほっと安心している俺もいた。
そんな小さい自分を気にしつつも、改めてミナという白衣のプレイヤーに興味を向ける。
座っていた位置からしてソロプレイヤーだろう。
ベータテスターではないならば、ここまでソロで来れたのは、他のMMOでベテランのプレイヤーなのだろう。
「ちょ、ちょっとみんな! もうちょっと聞いて!」
彼女が言うと、場が静まる。
しかし、キバオウの時とは空気が全く違う。
「それにね、お金やアイテムはともかく、情報はちゃんとあったんだよ?」
そう言ってポーチから一冊の本を取り出す。
表紙には、丸い耳と左右三本ずつの髭を図案した《鼠マーク》。
はじまり街のどの道具屋にも置かれてあった、ガイドブックだ。
(ゲーマーとして手を出すのを少し躊躇ったが、モンスター図鑑やアイテム図鑑を埋める予定はないので、使わせて頂くことにした)
「このガイドブック、キバオウさんだって持ってるでしょ? 道具屋で無料配布してるからね」
「……貰たで。それがなんや」
キバオウさんの声に強さがなくなる。
さすがにもう、諦めてくれたかな。
「このガイドはね、私が新しい街や村に行くと、必ず置いてあったの。情報が早すぎると思わなかった?」
「せやから、早かったからなんやっちゅうんや」
「これに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋にあげたのは、ベータテスター以外にはありえないと思うんだよね。私はそう思ってる」
ものすごいゲーマーの可能性も捨てきれないけどね。
プレイヤー達がまたざわめきだす。多くの人がガイドブックについてあまり考えていなかったようだ。
頷いたのはほんの少数の人たちだけだった。
「情報は確かにあったの。それなのに、たくさんのプレイヤーが死んでしまった。それは、その人たちがベテランのMMOプレイヤーだったから、ゲーマーだったからだと私は考えてる。このSAOを他のタイトルと同じ物差しで計って、もうちょっと行けるって、あと一体倒してから帰ろうって、引くところを見誤ったからだと思う。でも今は、それをベータテスターのせいにして責任を追及してる場合じゃないと思う。私たちが初めて足をそろえて、初めて一歩を踏み出すんだ。それで躓かないようにするだめに、今日、集まったんでしょ?」