とらんあんぐる組曲 ~もう一度、あの歌を~   作:レトロ騎士

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第五章 「妖魔 弥太」

 壊れている。壊れていく。壊れていた。

 弥太から湯気のように登る、青白いなにか。

 霊力ではない。目の前で絹のような髪を振り乱している久遠と同種のそれは…

「妖力…なんて…桁外れな…」

 かつて退治したことのない、表現のしようのない力の本流。

 耕介は自分からさぁっと汗が引いていく悪寒めいた感覚に、わずかに身体を振るわせた。

「耕介さん、あの弥太は、幽霊というヤツなんですか?」

 恭也が問う。いくばくかの不思議な体験があるとはいえ、明確な『霊』という現象には造詣の深くない恭也。

 相手が生き物――いや、人間であるならば、決して負ける気はしない。だが、裏の歴史にその証を刻んできた暗殺術も、死んでいる人間は殺せない。

「弥太…いや、『アレ』は、すでにそんなものじゃない」

 ぐん――、と、溜め込んでいた力を十六夜に流し込み。

「来る!」

 耕介の声よりはやく、久遠がその身を翻す。爪に小さく灯った白球を真横に振るうと、振動と共に空間が歪む。

 と、同時に、久遠の姿がかすんだ。

 耕介が張った結界の端に、かすかな違和感。

 ――右!

 耕介が振り向いた瞬間、炸裂音が響く。

 視線の先、弥太の硬く握られた拳を、久遠は苦悶の表情で抱きとめていた。そしてそのまま、二人が肉弾戦へと移る一瞬の傾きに――

「せぃぃぃ!」

 耕介の怒声のような叫び。

 放たれたのは、神咲一灯流奥義『楓陣刃』。霊刀たる十六夜に込められし、人あらざるものを退ける、生命の力の本流。

 瞬断の極みに発せられたその光の渦は、目標へ確かな勢いで貫かんとする。

 これで、決定打になるとは思っていないが、それでも、一瞬のひるみさえあれば、久遠の一撃を叩き込めるだろう。だが、ばじぃ!と一瞬大きな音を立てて――ソレは、今まで弥太がいた場所を通り過ぎ、消えた。

「あー…えらくあっさり避けてくれちゃって…まあ…」

 絶好のタイミングだったはずだ。これ以上はない、会心の。それですら、二人の前には止まって見えているのか。

「直接叩き込むしかないってことね…」

 だが、距離が遠い。

 再び、オン…という燐光が十六夜に流し込み、愛刀を肩に構えなおす耕介。

 二頭の獣は、その彼を一瞥する事もなく、一筋の影となってもつれ合う。

 大振りの弥太の一撃を、久遠はしなやかに髪を振り乱しながら踊るように避けた。

 弥太は明らかに戦闘慣れしていないが――純然たる力とスピードは、十分に凶器だ。久遠もそれがわかっているのか、眼光鋭く、弥太を見つめている。

 弥太は歪んだ笑みのまま、久遠に突進。一瞬の踏み込みの後、その姿が霞んだ。同時に久遠も姿を消す――否。耕介の目の前で、所々に火花が散っていた。結界の感覚のみが、それが二人のぶつかりあいだと知らせてくれるが――

(感覚を凝らしても、反応についていけない、か…まいったなこりゃ…)

 甘かった。そも、久遠の力ですら神咲の一族全てを決し、何十もの術、何百という道具を、それこそ微細にいたるまで周到に用意した上で、封印に成功したのだ。

 その久遠が、本気とは思えずともほぼ拮抗した力で戦っている。

 純然たる力の差には、小細工など通じない。

「どうする…」

 耕介は判断に迷う。参戦?無謀だ。撤退?それはありだが、解決にはならない。それに、すでに久遠以外のものという正体が判明した今、もはや久遠犯行の偽装の意味を成さない。久遠から逃れてしまえば、あの壊れた少年は、改めて俺達を襲ってくることだって――

「……?」

 違和感。今の自答に、なにかが、明確に、間違っている気がする。

 胸騒ぎにも似た不快感。

 だめだ、今ここで決着をつけなければ、なにかとてつもない事がおきるのではないのか――。

 しかし、現実的な手立てが何一つない。力が、力があれば――あの、自分の中に眠る、あの力があれば――

「耕介様」

 っと、妻たる十六夜の声に、青年は我に返る。微笑み返そうとして、顔が強張っていたことに気づいた。

 は、と息を吐き、もう一度笑いかける。

「大丈夫、……アレは、本当に最後の最後だ」

 そうだ、『あの力』は、もう二度と使わないと決めたはずだ。だが、そうなればどうやって――。

 二人が雷撃を放ちあい、獣の速度で拳を叩き込もうとする中、耕介はじっと汗ばむ額を拭うことなく、一時の機会を待った。 

「…久遠」

 弥太の、不意の呼びかけがあった。その声、ただそれだけで、狐の身体は捕らわれたように動けなくなる。

「弥太…」

 久遠の顔が歪む。怪我ではなく、心の痛み。

 どうして自分が愛するものに爪を向けねばならぬのか、と。

「弥…太」

 もう一度、繰り返して。

 弥太がいる。

 弥太がいる。

 あんなにも焦がれ、求めた、恋をした少年、弥太。

 その彼が、今、あの時と同じ笑顔で、自分の目の前に。

「久遠、やっと、君に会えた。ずっと、ずっとこの時を待ってたんだ」

「あ…あぁ…」

 だらん、と力なく崩れ落ちる久遠の両腕。変わりに、彼女に近づく少年の手。

 その顔は、その瞳の焦点定まらぬずとも、確かに、あの優しい弥太のそれで。

 ついに、頬に触れられた少年の手のぬくもり。それだけで、もう動くことなど出来ない。

 ああ、そうだ。一度だけの甘い睦みあいで感じたそれを、久遠は決して忘れてなどない。

「ごめんね。きっと、久遠と同じようなことをすれば、久遠が見つけてくれると思ったんだ……久遠…」

「弥太ぁぁぁぁ!!」

 少年の胸に飛び込む久遠を、三人の剣士は、見守る。それを二人の愛が結んだ奇跡の結果と――

 誰一人、この現実に、そんな甘い答えがあるとは思わなかった。

 

          ◇

 すでに、三人がさざなみを離れてから、一時間が過ぎた。

 部屋にある、掛け時計が時を告げ、那美はその音に驚き一瞬体をこわばらせる。

 義兄からの連絡はない。

 不安が募る。

 軽く下唇を噛み、苛立ちを抑える。でも、今は、自分の出来ることを。

 書の先を読む。

 「命」そのものを寄りしろとして、「契約」という瞬間の術を成す。

 結果、術者は不老、肉体的な力、イカズチ、といったさまざまな妖力を得るが――それは、「力」を得たのではなく、そういう存在になる、ということだ。

 術者が、能力を得るのではなく、能力を持った「なにか」に変化する。それが契約書の詳細。

 「何」に変化するのかは、未だに分からないが、術者の魂一個分の価値で決まる。

 魂の価値の基準は分からない。

 精神の強さが魂の価値ともいえないし、純粋な心を持っていたって、そんなのは無知であるのと大差ない。

 だが、その「基準」によって、人は、人でないものに変化する。

 そして、モノを得たのなら、あとは、その支払を返すだけだ。契約は絶対。一括返済か、分割なのかは、その術者の腕次第だろう。

 以上が、禁術の説明。以下、沖美流伝承者一覧を記されている。

 これで、終わっていれば――那美はただ、久遠に似た力を得る禁術の存在を知っただけに過ぎなかったろう。

 無駄な時間を割いてしまった自分を叱咤した程度で、全ては何も変わらなかったはずだった。

 最後の最後に、記される悪夢のような文章を見るまでは。

 

『沖美流伝承10代目――眼水。

沖美流伝承11代目――三晃。

沖美流伝承『元』11代目――夜鳴。 実子、「弥太」を含む少年少女6人を禁術の実験に使用。破門にて抹消。夜鳴、弥太ともに消息不明』

 

「まさか…そんな…」

 震えが止まらない。

 なぜ、その名がここに存在している。

 震えは、恐怖ではない。畏怖だ。

 自分は、何かとんでもない秘密を見てしまったのではないだろうか。

 カタカタと小刻みする両肩を抱き、その名を凝視する。

 そして――

「久遠!」

 それは、神託に近いような、予感だった。

 今、久遠の身に、恐ろしい邪悪が降りかかるような、そんな予兆の針が、那美の胸を突き刺して――。

 那美は、無意識のうちに部屋を飛び出していった。

 

         ◇

目の前が朱色に染まる。

何が起きた?

剣が、『弥太』のわき腹を貫いている。

そして、弥太の右腕は、久遠の首筋に一枚の符を張ろうと伸ばされ――その直前で止められていた。

「……なぜ、わかった?」

「お前は、壊れてなんかいない。壊れた人間が、久遠に会いたいから、『久遠』の尾を衣装付けて、久遠の真似をして人を殺す?壊れた人間が、そんなことを考えるか!!」

 耕介の霊力が十六夜に注ぎ込まれようとする瞬間――

『弥太』は傷口にかまわずに無理やり剣を引き剥がし、大きく飛びのいた。

「久々に、痛みを感じたな……。そしてその力、霊力か。確か……神咲の技だな。忌々しい一族め」

 『弥太』は、ふ、とわずかに力をこめた顔をすると、あっという間に腹の傷が再生していく。

「弥太……弥太じゃ……ない?」

 そんな、はずは、と、つぶやきながら、久遠から力が抜けるのが見ていて分かる。

「だ、だって……体も、声も、匂いも……同じ、なのに」

 虚ろな瞳で、久遠が膝から崩れ落ちた。

「久遠、だまされるな。正体は分からんが、『弥太』なんかじゃない」

「いや、間違いなく、これは『弥太』だがな」

 そう、『弥太』が答える。

「貴様は……なんだ…」

「死ぬ人間に、そんなことは必要なかろう?」

 やばい、と思った瞬間――

「はああああああ!」

「りゃあああああああ!」

 二つの、風。

チィン、チギィ、ギ、キキキキキ。

火花が、散る。

夜の森に走る、刹那の胎動。

「恭也くん、美由希ちゃん!」

 返事は、ガギィという刃と爪の交錯音。

「…な、に?」

 弥太の、驚愕の表情。

 一介の、能力者でもないただの人間に、なぜここまで、という困惑の相。

 それは、耕介も同じだ。……なにが、起こっている?

 刃のダンスはまだ続いている。

 それは時に激しく、時に滑らかに、時に流れて、時に止まる。

 二人四刀、見事なコンビネーションで、それぞれが生む一瞬の隙を、完全に封じている。

 耕介は、はじめて見た。恭也の本気の力。そして、その妹の力。

 否。

 御神流の力を。

「射抜!」

「虎切!」

 弓撃つような穿孔の刺突。

 爆ぜる様な乱立の斬撃。

 そのそれぞれが、人を絶命させる必殺の一撃。

 受け止めた少年の体が、独楽のように跳ねた。

 圧倒的な力を見せて――

「逃げます、耕介さん!」

「耕介さん、はやく久遠を!」

 撤退の合図。

 あの攻防で、まったく弥太を寄せ付けなかった二人の、あせりの表情。尋常でない、息の上がりよう。

『自分の弱さを知る力』『決して無理はしない』

 最初にした盟約。つまり――。

 その意味を理解しないまま、耕介は、それでも正しい選択をした。

 放心したままの久遠の手をとり、強引に駆け出す。

「久遠!正気に戻れ!弥太の真実を知るのなら、今は、引くんだ!」

 その声が、意味として久遠に届いたのかは、わからない。

 それでも、久遠はその双眸に光を戻した。

「しっかりし……ってあれ?」

 久遠が、耕介を担ぎ上げた。ついでとばかりに、恭也と美由希も、『拾った』。

 森を抜けるため、全力で逃げる。

「逃がすとでも……」

「SHOT!!」

 不可視の衝撃波が、起き上がりかけた弥太を打ち抜いた。不意の衝撃に、弥太はまともにくらって吹っ飛んでいく。その声の主は……

「リスティ!」

「早く、こっちへ!……那美!」

「はい!」

 リスティの声を合図に、どこにいたのか何枚かの符をばら撒く那美。

「朧月の宴!」

「フェイク・ムーンフェスタ!」

 那美とリスティの、凛と響く声の唱和。

そして――唐突な、静寂。うそのように、静まり返る木々たち。

 誰もいなくなった森の中で――

「あいつら……どこに消えた?」

 起き上がった弥太が、いぶかしげに周囲を見回して――

「まあ、いいか。久遠の血は覚えた。術を組めば、今までのように、まどろっこしい範囲ではなく、今度は確実に見つけられる」

 闇に、消えた。

 

         ◇

 その様子を、じっと見守っていたのは、耕介たちだった。

「どうしたってんだ、弥太は」

 火をつけないまま、タバコをくわえて。リスティが答える。

「那美の術と、僕のHGSの力で作った、幻惑さ。最近、こういうのも研究してるんだよ、お偉いさんたちは。この場から動かない限り、30分くらいは大丈夫。一応、保険でさざなみと恭也の家にも張ってきた。そっちは簡易式のこっちに比べて協力だから、半日くらいは持つよ。まさか、こんなことに役立つとは思わなかったんだけどさ」

「……久遠、大丈夫?」

「那美ぃ……ごめん、なさい」

 久遠が、那美にすがりつく。姿は、大人の女性のそれだが、なぜか、いつもの幼子の姿に見えた。そして、そのままぐったりと倒れ、動かなくなった。

「大丈夫……眠ってるだけ。この力場――結界は、一時間くらいで切れますから、その間で、出来る限りの休養をとってください。そして、その間、情報を伝えます。」

「まったく、新情報引っさげて、署からもどったらびっくりだよ。那美が、半狂乱って感じで、久遠久遠って叫んでさざなみから飛び出してるし。あんまり要領をえないから、思わず頭の中読んじゃったんだけど……それが、ボクの情報とビンゴしちゃってね。そしたら、雷がこっちからなってるじゃん。空を飛んで、慌てて駆けつけたってわけさ。……ま、その新情報の話もするとして、まずは確認したい。……耕介、何があった?」

耕介が、伝える。

久遠と弥太のこと。あの森で起きた、悪夢の顛末を。

一通りのことを話すと、「そうか」というリスティの言葉を最後に、しばらくの間、誰も一言も話さなかった。リスティが、痺れを切らしたように、その口を切った。

「……弥太はね、あの事件のとき、生きていたんだよ」

「どういう、ことだ?」

 耕介が繰り返す。恭也と美由希は、聞きに徹するつもりのようで、まっすぐな視線を二人に向けていた。

「生かされた、というのが正しいかな。弥太は実の父に実験に使われ、そこから逃げ出して、薬師として旅をする中で、久遠と出会い、あの事件が起きた。弥太は、実験台にされた体のおかげで、知らないうちに不老と不死に近い再生能力を持っていた。でも――魂が食われた彼は、体が生きていても、もう思考もままならない、植物人間のような状態だった。ほとんど本能だけで、林の中を一人さすらっていたんだ。もともと、彼が久遠に、久遠が彼に特別な感情を抱いていたのも、同じ『呪い』が引き合ったとも考えられる」

「呪い?」

 那美が答えを引き取る。

「ええ、人間をやめる、呪いです。変化した肉体は、妖怪としてのそれになり、その力を使うことができる。禁術の、作用の一つです。そして…久遠が、久遠となった原因でもあります」

「一から、説明してくれないか?」

耕介に変わり、那美がみなに語る。禁術と、一人の狂人と、息子の存在を。美由希にも、簡潔ながらも、弥太と、久遠の関係を伝える。

 話は、十五分ほどで終わった。

「……そうやって、魂に食われながら死んでいく。肉体が死ななかったとしても、魂の抜けた体は、生命反応を返すモノと変わらない。それはもう、死と同じです。そして、その体も、魂がなくなれば、『腐敗』します。

 久遠はね、もともとただの狐だった。古狐がその年月によって、変化した妖狐じゃないんです」

 そこで一度区切る。自分の膝で眠る、人の身の狐の子を愛しげに見つめながら。

 それをみて、リスティが次いだ。

「そして、久遠が暴れていたときに、集まった各地の能力者達。結局そのときはみんな、撤退するなり返り討ちに会うなりするんだが。その中に、後に強行がばれ、沖美流から破門される『彼』がいた。喜んだだろうね。なにしろ、自分の実験は、被検体が逃げて頓挫。そんな時、面倒ごとにしぶしぶ参加してみれば、自分が実験に使った息子が、明らかに呪いの力を顕在させて、そこに居たわけだから。なによりも、一番最悪だったことは、久遠よりも、ほかの修練者達よりもはやく、『彼』が弥太と出会ってしまったことだろう」

「……」

「彼の、その悪魔的な発想と、技術はとどまらない。魂が捧げられ、がらんどうのアヤカシの肉体である弥太を見て、彼はこう考えたんだ。

『ああ、魂が完全に無くなったこの『入れ物』なら、自分の魂を乗せれるんじゃないか』

ってね。なにしろ、禁術の最大の問題は、力の代償に魂が食わるという『呪い』だ。だが、魂が完全に捧げられ、体が別の、『人間じゃない何か』に完全にかわってしまったのであれば、もう、その影響はない。那美、そうだよね?」

「はい、この術は、『一つの魂』を代償に、別の存在に『なる』という術です。だから、別の何かになるった瞬間が、魂がなくなる時。そして、死ぬとき。それ以上でも以下でもありません。その肉体に、新たな別の魂が入れば――、何のデメリットもなく、その体を貰い受けるでしょう

 死にいたるまでの間、歳をほとんど取らない、破壊の力を得る、再生能力を持つ…そんなのは、ただの付随機能でしかありません。……この術って、「人間以外のものになって死ぬ」というだけの、人間という存在そのものに絶望した哲学者が作り上げた、ただの自己満足の自殺方法なんですよ……。」

 そんなもののために。

「つまり、あの『弥太』は……」

「『弥太』本人なんだよ。――肉体だけは。中身は、いかれた親父だけどね」

「ちょ、ちょっとまて、じゃあ、今まで、現代まで『弥太』――いや、夜鳴は、どこにいたんだ?なんで、今になって、そんなことを……」

「夜鳴の術は、完璧じゃなかった。魂を移し変えたはいいが、体の同調、力の制御が出来ず、体は不死に近くとも、妖力もろくにない、ただの三流妖怪になってしまったのさ。そこで夜鳴は、その身を霊脈に続く地の、地下深くにもぐらせて、冬眠のように眠り続けていた。何しろ時間はたっぷりある。力が戻ったところで、さらにその力を研究するつもりだったんだろう。なにしろ、天才様にとって、世界征服も殺人も興味はない。ただ、力の追求と、真の不老不死が望みだったわけだから」

「そうか……って、なあ、リスティ。なんで、お前、そんなことまで分かってるんだ?弥太の件とか、さざなみメンバーだって、全員知ってるわけじゃないんだぞ」

 にやり、といつものシニカルな笑みを浮かべて、

「龍、だよ」

 その単語に、御神の剣士二人が身を硬くする。

 『龍』。御神の天敵といっていい、世界規模の犯罪集団。

 恭也達の父、そして御神の一族を殺害した、もっとも憎むべき存在。

「やつらの中に、かなりできんぼーずの支部があってね。その支部は、二年ほど前に復活した弥太――いや、『夜鳴』を偶然見つけ、評価の一発逆転のつもりで、妖力、という異質の力に手を出したんだ。夜鳴にしてみれば、都合のいい存在だったんだろう。暗殺……主に海外だったようだけど、協力しているように見せ、さらには自身の研究というさせるということで、その解明に。役立てたわけだ。それに、龍の情報力も、非常に魅力的だったわけだ。龍のやつらにとってしてみれば、ただの効率のいい武器に見えたんだろうけどね。あの『夜鳴』の力を解明して、術式を理解し、それを量産しようって腹だったんだ。

 ところが――」

「ところが?」

「さっきもいったが、夜鳴の術は不完全でね。長年の休養で溜めた妖力が、どんどんなくなっていくことに夜鳴は気付いた。そんなとき、龍の連中の調査と、弥太の記憶を探った結果、似たような存在の『久遠』がいたことを知る。そして、夜鳴は知ったんだ。あれが、稀代の神童といわれた、沖美流の天才少女の術であると。そして、久遠の歴史を。されに、それを手に入れる手段を。

 そのとき、龍のその支部の連中は、この『妖怪』が自分たちを利用しているだけだということにようやく気付いた。あわてて、封印しようとしたが、プロフェッショナルの神咲でも持て余すような力を、素人のやつらがどうにかできるわけない。あっという間に返り討ち。ついでにあらゆるデータも見事なまでに消滅。というか施設そのものがもうなくなった。そこにいた支部連中も、数名を除き死亡。残った連中も、本部から見捨てられて、全員逮捕。

 そのときは、龍の支部での実験の失敗、程度の報告しかなかったんだが……今回の件で、生き残りの逮捕者から、尋問……時間がなかったから、記憶を読んだ。

あー、驚いたよ。そいつら、弥太の情報や、久遠が自分の行おうとする禁術の結果であること、その素晴らしさ、また、その体を奪い取る算術まで、『夜鳴』から『見せ』られてたらしくて。……天才さんは、自分のすごさをアピールしたがるってのは本当だったみたいね。おかげで、助かったんだけどさ」

 ふざけている場合ではないのは分かるが――どちらかというと、リスティ本人が自分の苛立ちを抑えるために言ったような気がする。

「救いなのは、そいつらが今の久遠や神咲、霊や妖怪ってデータを本部に提出する前に、全部それがすっとんだってことだね。おかげで、龍本部の連中には、そんなものは未だに『オカルト』にすぎないってわけ。最後の最後に、本部に完璧なデータを出そうとしてたらしいんだが、助かったよ。」

 こほん、と一つ咳払いして、リスティ。

「夜鳴の目的は、ただ一つ。久遠をだまし討ち、その体から久遠の魂を強制的に引き出して自分がそれに取って代わること。久遠も、もとは同じ術によって作られたわけだから、その仕組みは分かるし、精神的な揺さぶりをかければ、その魂を壊しやすくなる、と思ったわけだ。自らの肉体である『弥太』から、その記憶を読取り、弥太を演じ、久遠をくぐつする。そして、術をかける。できあがるのは、おっさんの魂が入った、世界最強の金髪の美女妖怪ってわけだ」

 長い、長いリスティの物語を聞が終わって、彼女は、さて、と続けた。

「で、耕介。どうするの?……勝てるの?」

「わからん……が、絶対に負けない」

 何の根拠もない、彼のその言葉は、百万ページの勝つという証拠論文より、信頼が出来た。

「……なにをしようとしてるかは、聞かないよ。ボクは疲れた。那美を連れ帰って、寮で一休みしてるから。……それで、ちょっとうとうとしていたら、全部終わってる。そうだよね?」

 心配なんかしてやらない、と、リスティ。

 いまは、その不真面目さがありがたい。

「ああ、そうだ。皆は冷蔵庫のおやつでも食べて、遊んでてくれ。那美、心配なのは分かるが、リスティといっしょにさざなみに戻れ。……こんなふざけた事件で、誰一人、不幸になってたまるもんか」

那美は、納得がいかないようだが、一度久遠の頭をなで、はい、と了承した。

 耕介のその言葉に、恭也、美由希がうなずいた。

 そして――

 耕介達の会話を、横になってじっと聞いていた、久遠も。

 




誤字と当時のひどい文章はいったんそのまま。後でいろいろ修正
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