ぼっちだけど萌えもんトレーナーになってもいいよね。   作:黒虱十航

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昔から「入れて」の一言が言えない子だったんだよ。

 ――人と結婚した萌えもんがいた。萌えもんと結婚した人がいた。昔は人も萌えもんも同じだったから普通のことだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 萌えっこもんすたぁ、縮めて萌えもん。この世界に存在する、不思議な生物である。ある日を境に突如現れた萌えもんは、今では人と共存していた。人と一緒に暮らす萌えもん、人と毎日遊ぶ萌えもん、そして人と共に旅に出て、バトルをし、人と共に強くなる萌えもん。

 様々な萌えもんがこの世界には存在している。発見される萌えもんは、今では700を超え、それでも尚、新種が発見され続けているのだ。

 萌えもんと共に旅をし、バトルをする者をトレーナーと呼ぶ。我がトレーナーズスクールは、トレーナーの免許を獲得できる10歳よりも幼い子供にトレーナーとしての基礎を教えることで全世界のトレーナーの能力を底上げすることを目的とし、公共機関として運営され――

 

 あまりに退屈な卒業式だったせいで、俺は体育館の端に掲示されている『トレーナーズスクール創設理念』をぼぅっと読んでいた。卒業する今、こうして見返してみるとトレーナーズスクールとは、なんだかすごく胡散臭い施設だ。通うことが義務だったので通ったが、本来ならば決して通いたくない場所である。トレーナーの基礎なんてこんなところに来なくとも学べるだろうに。どうして、わざわざこんな面倒なところに来なければいけないのか甚だ疑問だ。

 

 まあ、今日で卒業し俺は晴れてトレーナーになれるんだし良しとしよう。卒業式が終わればトレーナーの免許の証である萌えもん図鑑と研究所で新人トレーナー用に育てられた萌えもんをもらえるはずだ。トレーナーズスクールが如何に胡散臭かろうと、もう来る必要はないので考える必要はない。

 

「えー、皆さんにはここで学んだことを忘れずに立派な萌えもんトレーナーになって頂きたいと思っています。ここにいる皆さんの中から、萌えもんリーグを勝ち抜き、萌えもんマスターになってくれる人が出てくれると先生たちも嬉しいです」

 

 どうして、あんたらを嬉しくさせにゃならんのだ、と心の中で毒づく。俺はあんたらに何もしてもらってないって言ったところで、所詮は子供が駄々をこねているようにしか見えないんだろう。あんたらは、俺に色んなことを教えたつもりなんだろうから。

 

 いや、こんなことを考えて気分を害するのもよくない。 今日はこれまでで最良の日。そこに他の余計なものが混じるのは許されざることだ。思考を一度遮断して、卒業式のプログラムに目を向ける。この話が終われば、卒業式も終了だ。校長の長々とした話を聞き流す。どうせためにならない知識だ。

 

「そのためにもたくさんの萌えもんを捕まえてください。タイプ相性を考え、常にバトルで優位に立てるようにしましょう」

 

 違うぜ、校長。確かに萌えもんバトルじゃタイプ相性も重要だけどな。そんなの、作戦一つでどうとでもなるんだ。そういうマニュアルバトルしかできないからあんたらに学ぶことはなかったんだよ。それにな、萌えもんを捕まえる、だ? その考え方をやめられない時点であんたは教育者失格だ。

 

 萌えもんとは捕まえるのではない。萌えもんも人も同じようなものなのだ。物ではないし、獣でもない。ただ人よりも力を持っていて、人のように建物に住むのではなく野で暮らしているだけなのだ。だから捕まえるわけではなく、力を借りる契約をする、或いは絆を結ぶ、というのが正しい。

 

 しかし、萌えもんと絆を結ぶ、という思想は一般的に危険なものだとされている。こんなことを言うようなら、周囲から右翼思想者として扱われてしまう。そうなるように、国が洗脳をしているのだ。そこに関してはまた今度でいいだろう。

 

「うぅ……ずっと友達だよね」

「当然だよ。だって私達、友達じゃん」

「だよね? じゃ、じゃあさ旅に出てもたまに会ってお茶とかしようね?」

「そうだね。そのときはバトルもしようよ」

「うん」

 

 卒業式が終わり、萌えもん図鑑が配布されるとつに卒業だという実感が湧いた。そこら中で友情ごっこをする者達の声が響く。それを注意しないのは、注意なんかして出鼻をくじいたら未来有望のトレーナーが一人駄目になってしまうからだ。トレーナーズスクールも必死なのだ。その学校からジムリーダーた萌えもんになる生徒が一人でも出れば、それだけで学校の名前が売れる。だから、輝かしい宝石を大切に大切にしている。

 

 俺からすれば非常に迷惑なことである。早く新人トレーナー用の萌えもんに会いたいのだ。色んな性格の萌えもんたちとふれあって、最初に契約する萌えもんを見つけたい。だから、さっさと駄弁るのをやめてほしいものなのである。しかし、注意なんてできるはずがない。俺の発言力の低さは自覚している。

 

 俺には友達がいない。人には興味を持てないので、そのことは何ら後悔していない。むしろ誇ってさえいる。連中が友達ごっこをしている間、萌えもんの資料に目を通すことが出来たのだ。そのおかげで頭には、膨大なデータが入っているのだから。

 

 気付くと、俺は貧乏ゆすりをしていた。イライラしているのだ。ワンテンポで床を踏む音が、秒針のスピードを超え非常に早く鳴り出していた。自分の感情を制御出来ていないことに辟易してしまい、俺は外の景色を眺めることで気分転換をしようと考えて、窓の外に目を向けた。

 

 鬱陶しいほどの晴れだ。真っ蒼なキャンパスにはわたあめが一つ足りとも描かれていない。唯一、描かれているのはオレンジ色にも赤色にも茜色にも見える太陽のみだ。直視すると目が焼けてしまいそうなほどに熱を発しているのだ、と直視していないのに推測できる。まったく、本当にやかましい。

 本当は、雨が降ってほしかった。旅立ち日和には程遠い、最悪の天気の中で10年間俺を閉じ込め続けたこの町から出ていく。それをずっと夢に見ていたのだ。雨が降る最中、俺はこの町の悪口を言いながら、最初に契約した萌えもんと一緒に草原を駆け抜けていく。雨だから雨の日に活発になるような萌えもんに苦戦して、でも俺の知識によって勝利する。そんなシナリオを描いていたのだ。

 

 しかしまあ、予定は常に未定なのが業界の基本だ。晴れの日に旅立つのも、悪くはないだろう。雨の日の方が好きではあるが、旅立てるならそれでいい。陳腐な田舎町に出たい。その一心だ。たくさんの萌えもんを見ることも目的だが、それ以上に町を出ることの方が重要なのだ。

 

「…………」

「ふっ、お前は無口だな、まったく。こういう時くらい感動するもんだぜ」

「…………」

 

 教室の端で話している(というか一方的に話しかけられている?)奴に目を向けた。さっきからずっと黙りこんでいるのは、俺とあいつくらいのものだと思う。話しかけているグリーンと黙り込んでいるレッドは、幼馴染みらしい。二人とも、普段の授業から目を見張る能力を発揮していたので覚えている。クラスの中心人物ではないのに目立っていたからよく覚えている。

 

「じゃあ皆さん、新人トレーナー用の萌えもんを選びます。研究所の成育施設に向かうので、荷物をもって並んでください」

 

 担任教師の声によってクラスが動く。俺が見ていた二人も反応し、すぐに並んでいった。レッドは、俺ほどじゃないが孤独体質のようで、先着で並んでいる中、自然に孤立し一人で後ろの方に並んでいた。あの話しかけてきていた奴はどうしたんだろう、と思ってきょろきょろすると、列の一番前にグリーンがいるのに気付いた。馬鹿だなぁあいつ。わざわざはしゃいで前のほうに並んだって全く意味はないのに。

 俺も後ろの方(というか最後尾)に並んで、研究所まで歩いていった。




そこまで一話を長くできていないので萌えもんが出てきてなくてもいいかな、と思っております。感想などがありましたら是非お願いいたします。
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