ぼっちだけど萌えもんトレーナーになってもいいよね。   作:黒虱十航

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ぼっちは馬鹿をすることができない。

 萌えもん研究所。それは各町にある、というわけではない。この町が田舎で広いから、大きな研究所が建てられているのだ。他の町の新人トレーナーはここの研究所に依頼して、パソコンで萌えもんを送ってもらうこととなっている。

 

 俺は萌えもんをパソコンで送る、というのが嫌いだ。頭では便利なシステムだと分かってはいるがその仕組みが気に食わない。人間はパソコンで送らないくせに、萌えもんはパソコンで送るというのがもう、萌えもんを軽んじているように思うのだ。便利にしていく過程で他の生物を軽んじるようになるのは人間の性なのだ、と前に読んだ古い書物に記されていた。

 

 古い書物の回覧も基本的に禁止されている。古い書物には危険な思想が描写されている、という理由で法律違反とされているのだ。警察が多いところでやったら、まずトレーナー免許を剥奪されてしまうだろう。しかし、ここは田舎だ。警察もほとんどおらず、隠れさえすれば古い書物を読んでいることなんて決して気付かれない。田舎では警察も怠慢になるらしいのだ。

 

 古い書物をくれた俺の師匠は、もうこの町にいない。都会の方の萌えもんとの絆を深める、と言って出ていってしまったのだ。そのとき一緒に行けなかったことは、数少ない、僕が悔やんでいることの一つである。師匠と一緒に旅が出来たら、一体どんなことを学べたのだろうか。きっと新しい色んな世界を知れたのだろう。そうすれば今とは全然違う強い人間になれていたはずだ。

 

 でも、それはもう無理なことだ。師匠はいない。仮定の話なんかしたって意味はない。だから、今は今のことを考える。これから長い長い旅が始まるのだから、そのことを考えた方がいい。それで、いつか師匠に追いつくことが出来るかもしれない。今を必死に生きていけば師匠を追い抜けるかもしれない。未来への期待を胸に俺は研究所へ歩いていった。

 

 途中、先ほどもらった萌えもん図鑑を取り出し弄る。駄弁りながら話しているクラスメイトには目もくれず、研究所までの道のりで見かける萌えもんを図鑑に登録することで、彼らよりもリードする。こうして登録しておけば

今度、同じ種類の萌えもんに出会ったときに詳しく知ることができる。無論、もんすたぁボールに入ってもらった方がたくさんのデータを収集できるが、生憎と無理矢理萌えもんをもんすたぁボールに入れるつもりはない。何度も言うように、捕獲などしないのだ。仲間になってくれる萌えもんだけをもんすたぁボールに入れる。

 

 図鑑にどういう風に記載されているのか、と確認する必要もないんだよなぁと思うところではなるけれど、暇だし登録しておこうかなぁくらいの感覚でしかない。頭に入っているデータの方が図鑑なんかよりずっと濃厚な情報だ。

 

「あれはポッポか。まあ、こんな田舎町だしな」

 

 ぼっち特有の独り言をかましながら、記念すべき最初の図鑑登録を行った。大体、俺の肩くらいのサイズのポッポが頭上を飛んでいた。オレンジにも茶色にも見える羽を使って、空を舞う姿は美しい。まだまだ幼いのは、成長の余地があるからであろう。

 

 ポッポはこの付近ではよく見られる萌えもんだ。町を出なくとも見られる野性の萌えもんはポッポと、後一種類くらいのものだ。だから、よく観察させてもらった。頭を撫でると可愛い反応をしてくれるので、つい撫でてしまったりもしたのだが。

 

 いつも別のポッポを観察したり、撫でたりしているため馴染みのポッポがいるわけではないがその分、この辺のポッポには大体好かれている。俺が萌えもん図鑑を向けているのに気付くと、ポッポはこちらへのサービスのつもりなのか、空で舞ってみせてくれた。まだ幼いポッポなので、動きがいちいち危なっかしいが、それでも一生懸命さが伝わってきて、嬉しくなる。

 

 この距離だと声を出しても無駄っぽいので、とりあえずピースサインをポッポに見せて、感謝を伝えた。それを見たポッポがとても嬉しそうだったのでなによりである。

 

 空を見上げていると、目が焼けそうになる。ひとまずポッポは登録できたので後もう一種類の萌えもんも、研究所に着くまでに登録したいところだ。視線を空から地面に落とし、歩きながらきょろきょろと周りを見る。あいつらも、ポッポと同じくかなり小さいから、下を見てればすぐに見つかるはずなのだが……あ、いたいた。

 

 俺はようやく発見したその子を図鑑に登録する。コラッタ。俺の膝までの背で、紫色の皮を服らしきものを纏っている。あれが服なのか毛皮なのかは分からないが、触れるととてもすべすべして気持ちがいい。

 

「痛っ。ちょっと、噛み付くなって」

「え、いいじゃん別に。甘噛みだぜ?」

「だとしてもお前らの歯じゃ、皮膚を貫通するんだよ」

 

 ズボン越しに俺の足を噛むやんちゃなコラッタの頭を軽く叩く。この子とは知り合いだ。町でよくイタズラをする悪ガキだけど、俺にはよく懐いてくれてる。

 

「ちぇっ。ブラックはケチだなぁ」

「ケチじゃねぇ。人間の限界を知れっての」

 

 ブラック、というのは俺の名前だ。黒木 悠斗っていう名前があるので実際は名前ではなくあだ名だが、トレーナーとしての俺の名前、という観点から言えば間違いではない。

 

 トレーナーになると、必ずトレーナーネームというものを設定することが義務付けられる。さっきのレッドやグリーンというのも、そのトレーナーネームだ。別に、グリーン、レッド、ブラックだからってトレーナーネームは色名で統一しなければいけないかと言うと、そうではない。サトシやシゲルなんていうトレーナーネームだってありうる。

 トレーナーネームの制定も、おそらく国の洗脳であるのだ、と俺は睨んでいるのだがだからといってトレーナーネームを決めなくて、トレーナー免許をもらえないくらいなら大人しく従う。トレーナーネームに実名を使うことが許される以上、不当であると一概に言えないシステムなのだ。

 

「今日、出るのか?」

 

 どこか寂しげな表情でコラッタが言ってくる。萌えもんは、人間以上の知能を持っているので研究所に10歳の子供が向かっているのを見れば、すぐに状況を理解できる。まだまだ子供の萌えもんであっても、だ。

 

「まあな。ようやく町を出れる」

「そっか。ブラックは外に出たがってたもんな」

「そうだぞ。外は、ここより面白いからな」

 

 言った瞬間、コラッタの寂しげな表情の理由を理解する。懐かれたもんだな、と思い、コラッタの頭を少し乱暴に撫でた。

 

「あ、てめぇ何すんだよ。子供扱いすんな」

「子ども扱いって、子供だろうが。ま、それは俺もだけどな」

 

 少し、前を歩く一団と距離を置く。走ればすぐに追いつくくらいの距離にしておけば、研究所の位置は分かっているので差し支えないはずだ。コラッタの頭を撫でている手を止め、俺はもう片方の手で萌えもん図鑑をコラッタに見せるようにする。

 

「この図鑑を持ってれば外に出れる。子供の俺でも、色んなものを見れれば大人になれるはずなんだ」

「へぇ、そうかよ。興味ないぜ。難しい話より飯だ」

 

 そっぽを向くコラッタと目線を合わせるために、俺はしゃがむ。腰につけたもんすたぁボールホルダーがかちゃかちゃと音を鳴らした。

 コラッタの小さく、くりくりした目をじっと見つめながら俺は口を開いた。

 

「俺と契約をしないか?」

「契約? なに言ってん――」

「――お前に広い世界を見せてやる。外の世界の広さを教えてやる。だから、俺と一緒に絆を結んでくれ」

 

 真剣な瞳で、言えばコラッタは俺の気持ちを分かってくれるはずだ。萌えもんは人間なんかよりもずっと頭がいい。他者の気持ちを、違えることなく汲み取れるのだから。

 俺の強い眼差しを向けられたコラッタは、口角を吊り上げ、くすりと笑う。

 

「嫌だね。俺は、この町のコラッタのリーダーになるって決めてんだよ。ブラックみたいな冴えないぼっちと契約してたまるか」

 

 コラッタの笑みに同調して、俺もくすりと笑った。コラッタに振られた自分が滑稽だったというより、コラッタの断った理由が面白かったという方が笑ってしまった理由としては大きい。

 

「冴えないぼっちねぇ。言ってくれるじゃんか。覚えとけよ?」

「覚えとく? ああ、そうだな。帰ってくる前に飢え死にしそうだもんなお前。その冴えないツラを覚えといてやるよ」

 

 生意気を言うコラッタにデコピンをしてから俺は立ち上がった。ちょっと急がないと間に合わないので、コラッタに手早く別れを言わなければと思い、焦る。

 

「じゃあな。せいぜい、イタズラしすぎて怒られないようにするんだな」

「おうよ」

 

 焦ってるわりには良い台詞言ってるんじゃね? と思いながら、俺は集団まで走った。




相棒になるっぽい空気になってしまいましたが、コラッタを軸に
物語を展開する予定ではなかったので断念しました。
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