……きっとこういうのは色んな人が書いてるだろうけどよかったら見てやって下さい。
2026/09/09 久しぶりに執筆作業に戻ったので、改めて色々と修正
これは、私が覚えている最初の記憶。
そして――これだけは、何があっても忘れたくない、大切な記憶。
私がヒーローを志した一番最初の出来事であり、私が憧れたヒーローとの出会いの記憶。
――もっとも。
世間の誰も、彼のことをヒーローなんて呼んでいなかったけれど。
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明かりはない。
窓もない。
無骨なコンクリートの壁に囲まれた、小さな部屋。
幼い私にとって、そこが世界のすべてだった。
嫌だ、嫌だ
どうしてそんな牢獄のような所にいたのかは覚えていない。
助けて、誰か……誰でもいいから
全身に力が入らない。お腹が空いた。
それも、ただ空腹という言葉では足りないくらいに。
身体の中身が全部なくなってしまったような、そんな強烈な飢餓感を覚えている。
もう、立つこともできなかった。
どうして自分がこんな場所にいるのか。
どうして誰も助けに来ないのか。
幼い私には何も分からなかった。
ただ一つだけ分かっていたことがある。
――このままだと、私は死ぬ。
だから私は、何度も声を出した。
「いや……」
掠れた声が、狭い部屋の中に響いた。
「……しにたくない」
何度目かも分からない言葉。
声を出すことすら体力の無駄だと分かっていた。
それでも、声に出さずにはいられなかった。
声が聞こえることが、自分が生きていると。
そのことを、自分自身に教えるために。
そしてもう一つ。
誰かに聞いてほしかったのだと思う。
私は、此処にいる。
私は、まだ生きている。
だから――誰か。
誰か、私を見つけて。
そんな子供の祈りが届いたのか。
それとも、ただの偶然だったのか。
「……誰かいるのか?」
そう声が聞こえた。
私は、息を止めた。私以外の声。
その声は初めて聞く声だった。だから幻聴かもしれない。
そう思った。
けれど、続いて聞こえた轟音が、その可能性を否定した。
何かを壊す音。
金属がひしゃげる音。
そして――
ガチャリ。
重たい鉄の扉が開いた。
暗闇に閉ざされていた私の世界に、光が差し込んだ。
「……っ」
あまりにも眩しくて、私は目を細めた。
長い間、まともに光を浴びていなかったせいだろう。
ぼやける視界の向こう。
そこに、一人の男が立っていた。
黒尽くめ。
昔、日本にいたという忍者を思わせるような格好。
幼い私には、とても怪しい人に見えたのを覚えてる。
でも今なら分かる。
あれは、彼にとってのコスチュームだったのだろう。
「……おや」
私は事態を把握することが出来ず、彼を汚れた床の上這い蹲り見上げることしかできなかった。
男は最初この部屋の中を見回し、私を見つけた時の彼はとても困惑して迷っているようだった。きっと私はとっても汚くひどい顔をしていたのだろう。
「……参ったな」
少し困ったような声がした。そんな彼は少し何かを考えたあと決心したように私をまっすぐに見つめ
「其処の君、大丈夫だ。」
そして忘れもしないあの言葉を口にした。
「どう見たって怪しいおじさんだけど……いや、まあ、実際怪しいんだけど」
自分で言っておいて、男は小さく笑った。
「俺が来た!!」
覆面をしていたから顔はよく見えなかったし、表情だって分からなかった。それでもどうしてか分からないけれど。その声を聞いた瞬間だけは――怖くなかった。
「それで、君は此処に居たいかい?」
男は部屋を見回してから、首を傾げるが、すぐに
「……いや、聞くまでもないな。」
そう言って、私の前にしゃがみ込む。
「そもそも俺は泥棒みたいなものだからなぁ。他人の家から欲しい物を持っていくのも、まあ仕事だ」
彼はそうおちゃらけた様子で笑いながら私を担ぎ上げると、いとも簡単に私を牢獄のような世界から連れ出してくれた。
もう出ることが無いと思っていた外の世界へと。
「とりあえず、君は俺に盗まれてもらうぞ? ああ、拒否権はない。嫌なら逃げることだ。さあ、早く逃げないとお湯攻めのあと、食べ物を無理やり口の中に押し込むからな?」
悪戯っぽく笑いながら彼は優しく私に言葉をかける。
その時の私は、その意味がよく分からなかったけど、きっと安心させたかったんだろうと思う。
だから――
私は初めて、安心して目を閉じた。
それが。
私を救ってくれた人。
そして、私を育ててくれた人。
私にとっての――
ヒーローとの出会いだった。
――それから、何年もの月日が流れた。
今の私はもう中学3年生になり、あと少しで高校進学を控えた、世間一般で言う受験生だ。
九生雛花(きゅうせいすうか)と名前の書かれた机の上の進路希望の紙の前で、私はそんな過去を思い出していた。
「……やっぱり、これしかないよね」
ペンを握るり、少しだけ迷って。
そして、第一志望の欄にゆっくりと文字を書いた。
――雄英高等学校。
――ヒーロー科。
「……よし」
書き終えた文字を眺める。
我ながら、少し癖の強い字だと思わず苦笑してしまう。
でも、これは仕方がない。無知だった私に字を教えてくれたのは彼で、彼の字の癖を私も受け継いでしまったのだから。
「そっかー。やっぱり雛花ちゃんは雄英に行くんだ」
そんな様子を見ていたのだろう、ルームメイトの友人が私の書いている進路希望の紙を後ろから覗き込み、屈託のない笑顔を浮かべながら私にそう喋りかけてきた。
黒の長い髪を後ろで結んだ眼鏡が似合う彼女の名前は言乃葉真実(ことのはまなみ)。私が此処に来てから出来た親友だ。
そんな友人の声に私は少しだけ照れくさそうになりながらも黙って小さく頷く。
「大丈夫だよ、雛花ちゃんなら受かる受かる」
「そういう真実だって、雄英なんでしょ?」
「……私はヒーロー科じゃなくて普通科だからぜんぜん違うよ」
そっと、真実も私と同じ紙を見せてくる。相変わらず綺麗な字だ。
「せっかくなんだからよかったら一緒にヒーロー科受けようよ。普通科ならヒーロー科と併願も出来るし」
「それも少し考えたけど、雄英の実技試験は私の個性じゃ多分難しいよ」
「でも――」
「それに、あまりお金がかかることをしちゃうと流石に此処に迷惑がかかっちゃうかなって」
「迷惑なんて掛ければいいと思うけどね。」
「ふふ、雛花ちゃんらしいね」
「予算はいっぱいあるみたいだし。せっかくすごい個性なのに勿体無いよ?」
「うーん」
真実は少し考えて。
「雛花ちゃんが、本気でそう言っているのは私にもわかるけど」
そう言って、困ったように笑った。
「やっぱりお世話になってるし。……私は私にできそうなことから頑張って此処に恩返ししたいかなって」
進路希望調査票を胸元に抱え、微笑みながらそう語る真実の顔を見て、私は少しだけ複雑な気持ちになる。
――此処には、本当にたくさんの人がいる。
私たちを助けてくれる職員さん。
食事を作ってくれる人。
勉強を教えてくれる人。
そして。
この施設を支えてくれている――一人のヒーロー。
世界総人口の約八割が、何らかの特異体質である超人世界。
混乱渦巻く世の中で、其の個性を使い自らの私欲を満たそうとするものが現れるのも必然だった。
世間ではそういう者達をヴィランと呼び、其のヴィランによる犯罪の被害者も数多く生まれる。
超人世界が進むほど、ヴィランによって両親を失った子供たちも右肩上がりで増えていった。
それもそうだ、個性という剥き身の凶器をほぼ誰もが持っている世界。
其の凶器を使えば人の命なんて簡単に奪えてしまうのだから。
そうした子供たちを保護するための施設は、行政、民間を問わず数多く存在していた。
私が今いるこの場所も其の一つ。家庭に居場所を失った子供や、ヴィラン犯罪の被害に遭った子供などを保護する施設。
一昔前の養護施設は様々な問題を抱えていることも多かったが、此処は「とある」ヒーローの後援で作られた施設故に、そこに集まる子供たちも他の施設よりも、ある程度自由に生活することが出来ている。
其のヒーローの名は、『オールマイト』
絶大な人気を誇るNo.1ヒーローであり、世間では彼のことを『平和の象徴』と呼んでいるらしい。
そういった事情で、この施設に集まる寄付などは他の施設よりも多く、此処を卒園した人たちや彼に救われた人々が、その意思を継ぐようにこの施設へ寄付することも多い。
誰かが救われるその人が、今度は誰かを救う。
また、その人が誰かを救う。そうやって、救いが繋がっていく大きな、大きな樹形図。
……それは、とても綺麗なものだと思う。
だからこそ。
私は、その名前を見るたびに少しだけ胸が痛くなる。
オールマイト。
――私は、この男が嫌いだ。
「どうしたの、雛花ちゃん?」
気が付けば、真実が私を見ていた。
「怖い顔してるよ?」
「あ~……」
話の途中で険しい表情を浮かべていたのだろう、心配した彼女に声をかけられる。
「あー、うん。私も、此処の人たちにはすごくお世話になってるな~って思って」
苦笑いを浮かべながら答える私に、じっと彼女は瞳を此方に向けてくる。そして、呆れたように一つため息を漏らした。
「……嘘」
「うっ」
彼女はきっと個性を使ったのだろう。
「でも、言いたくないことなら、私もこれ以上聞かないよ」
彼女の個性は『真偽』
条件はわからないけど、その人が本当のことを言っているのか嘘を言っているのかわかるものらしい。
私が嘘を言っているのがわかった上で、深く聞いてこないのは彼女との付き合いが長いからだろう。
「ごめんね、ありがとう。でも、此処の人は大好きなのは本当だよ?」
それだけは嘘じゃない。
ここで暮らしてきた時間は、私にとって大切なものだ。
「こんな私を良くしてくれてとっても感謝してるし」
だからこそ、私は――
「……あはは、なんだか変な空気になっちゃったね。」
笑って誤魔化した。
「とりあえず、明日も早いし寝よう?」
「そうだね。寝坊したら怒られちゃうし。それにしてもお互い大変だね。雄英高校を受けるなんて、職員さんに行ったらどんな顔されるかな?」
「……想像したくない」
「まずは落ちないように勉強も頑張らなきゃだね」
「う……其の点は頼りにさせていただきます」
私の学力は決して悪くはない。それでもルームメイトの彼女に敵わない。
それ故に時々勉強を教えてもらっているのだが、本格的に雄英を受験すると決めた以上は、これまで以上に彼女にお世話になるだろう。
そもそも偏差値79超、競争率に至っては300倍を超えるとも言われているのだ。出来うることは全てやらなければ多分通らないだろう。
そんな私の不安を感じ取ったのだろう、彼女が私に微笑みかけてくる。
「大丈夫。私も教えてる方が問題を理解できるし、お互いに頑張ろうよ?」
「うう……ありがとう。真実は本当に私の親友だよ!」
某漫画のキャラクターのように、心の友よ~!と口にしながら彼女に抱きついてみる。昔は嫌がっていたけど、今は慣れた様子で彼女も私の髪をよしよしと撫でてくれる。
「……そうだ」
しばらくして、真実が言った。
「いっその事約束しない?」
「ん、約束?」
抱きしめてた手を緩めマジマジと彼女の方に向き直る。
彼女は少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「そう」
彼女は少し悪戯っぽく笑った。
「お互いに必ず雄英高校に合格するの」
「おお!」
「その代わりに」
真実は人差し指を立てる。
「それまではお互いサボっているのを見付けたら、相手にケーキを奢るなんてどうかな?」
「地味に真実って、私がサボる前提で話を勧めてるよね? でも、そんな真実は嫌いじゃないよ。よし、頑張るぞー」
「私も楽しみにしてるね」
「一緒の高校生活を?」
「ううん」
真実は即答した。
「何個ケーキ食べれるかなって」
「意地でもサボらないからね!」
「其の言葉、録音しておけばよかった」
「ソンナニワタシッテシンヨウナインデスカネー」
「ないよ」
「即答!?」
二人で笑う。くだらない。本当に、くだらない会話だった。
でも、こういう時間が、私は大好きだ。
そんな他愛のない会話でお互いに少し笑いあったあと、それぞれ寝間着に着替えれば自分のベットに入っていく。 部屋が静かになる。
明日も学校。その先には受験がある。
そして――雄英高校。
「……ねえ、真実ちゃん?」
私は改まって、部屋の反対側のベットで休んでいる彼女に声をかけた。
「ん?どうしたの」
彼女もまだ眠っていなかったようで、ベットの上転がりメガネは外しているが視線だけをこちらに向ける
「真実も無理しないでね」
「……」
「そうやって私に巫山戯て言う振りして、自分を追い詰めるの悪い癖だよ?」
少しの沈黙。
やがて、真実が小さく笑った。
「……お互い様だよ」
彼女が何を言いたいのか少しわかって、私も思わず苦笑いを浮かべる。
つまりはお互い似た者同士なのだ。
「うん、そうだね」
「お互い、本当に不器用だよね」
「……絶対に合格しようね?」
「うん」
暗闇の中で。
私たちは、もう一度だけ約束した。
「絶対」
それから私たちは、お互いにそれ以上何も喋ることもなくその日の夜は更けていった。
……私にはルームメイトの彼女には言っていない秘密がある。
私は此処に来る数年前までのあるヴィランに誘拐されていた。
それだけならば、此処にいる他の子達とそう大差ない。超人社会ではよくあるヴィランによって人生を狂わされた可哀想な子の一人だ。
世間から見れば、私はヴィランに誘拐された可哀想な子供。
……でも。私には、どうしても納得できないことがある。
そのヴィランは私にとって――
ヒーローだった。
彼は私を地獄から連れ出した。私を育ててくれた。
私に生きることを教えてくれた。
世間の人たちは、彼のことをヴィランと呼んだ。当然だ。
彼は泥棒だったし。
人を攫った。
たくさんの罪を犯した。
私だって、それを知らないわけじゃない。
それでも。
あの人が私にしてくれたことまで、嘘になるわけじゃない。
彼が言うには『やりたいようにやっただけ』なんていつも言っていた。
自分は正しい人間だなんて、一度も言わなかった。
だから私は、余計に分からなくなった。
――ヒーローって、何なんだろう。
――ヴィランって、誰が決めるんだろう。
だって、私を救ってくれた人は、ヴィランだった。
そして。
その人を捕まえたヒーローは――
私から、その人を奪った。
そのヒーローの名前は。
オールマイト。
私は、あの男が大嫌いだ。
大っ嫌い。
あの日。
あの人が私たちの前に現れて。
「私が来た!!」
そう言った瞬間、私の世界は変わった。
幸せだった日々が終わった。
私の大切な人が、連れていかれた。
私にとってのヒーローが。
世間ではヴィランだと、初めて知った。
だから私は、オールマイトを許さない。
それが世間から見れば、ただの逆恨みだということも分かっている。
それでも。嫌いなものは、嫌いなのだ。
……なのに、そんな彼の庇護のもと、そんな私がこれから目指そうとしている場所は――
ヒーロー。
それも、オールマイトと同じ場所ヒーローだ。
矛盾していると自分でも、そう思う。
だけど、私はオールマイトになりたいわけじゃない。
私がなりたいのは。
私を救ってくれた、あの人みたいなヒーロー。
誰かが助けを求めているなら。
その人が世間からどう見えていたとしても。
誰も助けてくれないような場所にいるのなら。
私は、その人のところへ行きたい。
そして言うんだ。
――大丈夫。
私が来たよ、と。
私を救ってくれた、あの人みたいに。
オールマイトより、たくさんの人を救えるヒーローになりたい。
そして、私が本当に一番救いたいのは――
私にしか救えない、誰かだ。
それが私を育ててくれた、私のヒーローへの。
私なりの恩返しだから。
そしていつか私が誰かを救ったことでその人が、また別の誰かを救ってくれたなら。
きっと、それでいい。
彼から受け取ったものを。
今度は、私が誰かに渡す。
そうやって。
誰かを救うことが、次の誰かへ繋がっていく。
私は、彼からそのバトンを受け取ったから。
さーて、次回からゆるくフワフワな入試編が始まっちゃうZE!(血生臭くないとはいってない