後、シリアス寄りに書きたいのにすまっしゅネタを入れたいという謎の葛藤の結果なんかいろいろな部分がグダグダかもですすみません。
「どれだけお金あるんだろうこの高校……。国立だからといって限度があると思うんですけど」
目の前に広がる光景を見て、真っ先に浮かんだ感想はそれだった。
あのあとすぐ講堂を出て、学校側が準備した簡易更衣室で実技試験用に持ってきていた自転車用プロテクターとジャージに着替えた私は、指定された会場へ向かうバスに乗り込み、指定されたB演習会場にたどり着いた。
バスの中から窓ごしでも遠目ながらにも見えてはいたのだが、こうやって入口前にやってくるとその大きさに驚きを隠せない。
「街じゃん。敷地内にこんなんいくつもあるのかよ。つか、どうせすぐに壊されたりするのにこの完成度。見ろよ、最新の免震工事まで」
近くにバスから降りてきた独特な顔立ちをした受験生も私と同じことを思ったんだろうそんな声が聞こえる。それにしても、やけに詳しくないかな? まるで、塀越しなのに内部の構造が見えているような。
もし彼の個性が透視能力とかだったら、出来れば彼の視線から逃れないといけない。そういう相手に使われたと分からない系の悪用出来る個性は女性の敵だと私は思う。
しかし確かに彼が言うことも最もだ。目の前に広がるそれは、ほぼ文字通り街がまるごと一つ建てられているようなものなのだから。
塀越しからでも見える10階を超える階層のアパートやオフィスビル。それら一つ一つの窓にはきっちりガラスがはめられており手入れも行き届いているようにみえる。
多分何かしらの個性を使って建てている可能性はあるが、それでもこれだけの規模が複数あるのなら維持費もバカにならないはずだ。
まあ、近くで災害とかあった時の避難地とかにも使えそうだし、基礎さえしっかりしていれば側が壊されても修理できる個性の人が学校に居たりするのだろう。それに、出来得る限り本物に近い環境で訓練できるように考えてだとしたら頭が下がる思いだ。
特に移動した後の指示は今の所ないので、私は中を見えるような所がないか入り口の近くに陣取り、鉄の扉を見渡す。
見た限りでは大きな扉には隙間もなく、内部を覗けるようなところはないようだ。中から音が聞こえないことを考えると、開始と同時に建物の中から仮想ヴィランが動き出す感じなのだろう。
先程の説明通りなら仮想ヴィランを討伐して稼いだポイントが実技試験のポイントになる。
演習場の数は配布されたプリントには10箇所と書かれている。定員36名で倍率が300とすると、一箇所の会場に1000人以上が固まる計算になる。
……そんな人数がまとまっていきなり動けばそれだけで混乱は免れない。そのあたりは事件が起きた際、逃げ惑う一般市民を想定して動けと言うことなのだろうか。
何方にしろ出遅れればこれだけの人数の前に出ることが難しく、それだけポイントとなる仮想敵に出会うチャンスが減るということだ。流石に雄英といえど受験生一人に対して一体仮想ヴィランを用意するなんてことはしないはずだ。受験者の中にはポイントを1つも得ることがなく試験が終わってしまう人も出てくるだろう。
「……ヒーローたるもの、最低限迅速に動けなきゃってことかな?」
はっきり言って戦闘向きな個性じゃなきゃ残れない気がする。その辺りはきっと受験人数が多いから仕方がない部分なのかもしれないが。
時間制限が10分のことを考えると出し惜しみは出来ない。と言うより、出し惜しんで落ちてしまったら元も子もない。これまで訓練で溜め込んだ生命エネルギーを使い切るつもりで挑むつもりで……って、演習場の扉が開いた?
「ハイ、スタート」
あまりにも軽いノリで放たれたその声に、周りの皆が一瞬呆気にとられた。
(そういうことか。……本当に意地悪で実践を想定した試験だ)
何人かの受験者はその真意に気づいたのだろう、一足先にと完全に開ききっていない鉄の扉の間をくぐり演習場の中に駆け込んだ。ゲート前で扉が開くのを確認していた私もなんとかその先人の中に加わる。
『どうしたぁ!?実戦じゃあカウントなんざねぇんだよ!! 走れ走れぇ。賽は投げられてんぞ!!?』
後ろからプレゼント・マイクの声が聞こえる。これだけ言われれば気づかない受験生も居ないだろう。それでもこの少しの間が、一瞬の油断が勝敗を分けることだってありえるのだ。
なら、私もこのどさくさを狙って仕掛けておいたほうがいいだろう。
「ごめんなさい。私の個性は範囲が大きいから、私の周りから離れてほしいな~」
先頭グループに混じり声を上げつつも私は個性を躊躇なく発動させる。アンチヒーロー的な他者への攻撃は禁止されているが、バレなければ問題ないし、ちゃんと注意はしておいた。
それにしても、まさかあの訓練がこんな時に役に立つとは思わなかった。
私は個性をできるだけ力を抑えて範囲いっぱいに発動する。感覚的に2%ぐらいだろう。私は周辺の受験者から気づかれない範囲で吸精でエネルギーをかき集める。
近くにいる受験者からすれば、緊張で少し体が鈍いかな程度の負荷だろう。それでもこれだけ私の近くに人数がいれば2%の力でも数秒吸えば十分なエネルギーになる。
集めた生命力はそのまま脚に集中して循環させ活性化させる。一瞬急激に血液が足に集まることによって脚がむず痒くなるが、それを我慢しつつ私は力いっぱい勢い良く大地を蹴る。
ドン!っと舗装を少し砕く音と共に、其の瞬間軽い浮遊感とともに、私の身体は周りの受験者よりひと足早く前に文字通り飛び出した。
「まあ、ついてこれたらの話だけどね!」
私は周りの受験生を挑発するようにそう声を上げた。
もちろん、その声で私に向けられる他の参加者の視線はキツイものになったが、口から自然に出てしまった言葉なのだから仕方がない。
これが私の個性の欠点の一つだ。私が個性を使って身体を、特に筋力を活性化させると活性化された筋肉に少なからず負荷がかかり痛みを伴う。普段身体が壊れないように脳内でかけているリミッター以上の力を発揮するようなものなのだから当然といえば当然なのだが。私の身体はそれに伴う痛みを抑えるためにアドレナリンや脳内麻薬ともよばれるエンドルフィンを分泌しているらしい。それの影響で私は身体を活性化させればさせるほど、其の影響で精神が昂ってしまう。所望ナチュラルハイとよばれるものだ。
私はどんどん走るのではなく大地を蹴り上げ 一歩、二歩と大きな一歩を踏み出すたびに先頭グループとの距離が離れていく。跳ねるように移動するこの移動法は西屋さんに教えてもらったものだ。そもそも足場の悪いところを走ることが多いらしいヒーローの西屋さんは、足をこまめに動かすピッチ走法よりも、一歩ごとの歩幅と滞空時間を伸ばすストライド走法のほうが移動には適しているらしい。そして、私は足の筋力を活性化させ限界まで酷使することによって、走るというよりも前に飛ぶ移動法を実現した。最初この移動法を使った時は、何歩か動いただけで筋繊維がズタズタに壊れ筋肉痛になって動けなくなったが、常に活性化させて身体を慣れさせる訓練のお陰で今ではある程度セーブして動けば長時間使用が問題ない程度には私の体も慣れてくれた。痛みは伴うのでハイになるのはご愛嬌だ。
「ふふ、いちばーん!」
軽く後ろを振り返るも、見える受験者の影は疎らだ。私と一緒に真っ先に動けたメンバーの中には増強系や移動系の個性もちは居なかったらしい。
それでもあくまで先頭グループの中にはというだけであって後続グループの中には何人かそういった個性を持っている受験者もいるだろう。
なら、追いつかれる前にある程度ポイントを稼いでおいたほうがいいだろう。
近くでちょうど何かが動く気配とモーター音がした。私は迷わず其の場所に大きく一歩踏み出す。
「標的ほ……」
「サーチ&デストロイ!」
1ポイントと白く腕にペイントされた仮想敵ロボの電子音声が何か言い終わる前に、私は大地を蹴った勢いそのままに、ロボの人で言う首に当たる部分に腕を伸ばし打つけ、そのまま頭部部分を地面へと叩きつける。俗に言うランニング・ネック・ブリーカー・ドロップとよばれる技だ。
バキャ! という小気味良い音が響き、其の一撃により思ったより脆かった1ポイント仮想敵のロボはヘッドパーツがもげる。どうやら人間を模しているらしく、センサーや制御機関はヘッドパーツに集まっているようだ。動力は人間と同じ胴体にあるようで、その後少しだけ動く様子はあったがすぐに機能が停止し、その場に崩れ落ちる……が
「標的補足!! ヒャッハァァァヒーローダァァ」
「標的補足!! ブッ殺せー」
其の破壊音を感知したのだろう、すぐ近くにいた1ポイントと2ポイントのロボが電子音声を上げるとともに角から現れ、私の姿を補足、ロックオンする。先頭をぶっちぎりで走ってきた私以外にまだ近くに人はいないのだから当然現れるロボは目の前の私を狙ってくる。
先程のは相手がどうするか判断する前に先制で不意打ちを打ったが、今回の相手はそうは行かない。流石に素手であれを殴るといくら活性化しても手を痛めるだろう。すぐ治癒すれば治るといえば治るが、痛いのはできるだけ避けたい。あまり痛くすると痛みを抑えるために更にハイになってしまう可能性もあるし。ならどうする?
「ヒャッハァァァ……アベシ!?」
「オブァ!!?」
手を痛めるのが嫌なら別のもので殴ればいい。私は先程倒した頭部のないロボの首をつかめば、体全体に回していた生命力を腕に多めに回しそのまま力任せにフルスイングする。バキバキとロボの首部分の関節が軋み一振りするだけでハンマーとしては使えなくなったがそれでも、私の前に現れた1、2ポイントロボにぶつかり、金属同士がぶつかる鈍い音を辺りに響かせながらロボの断末魔とともにその場で動かないガラクタと化した。
「これで一応4ポイント! 時間はまだまだある」
遠くから足音が聞こえるがそれでも先程の鈍い音に気づいて此方に近づくモーターの起動音のほうが近い。なら、多少危険でもそちらの方に進み、もう少し他の受験者よりも有利にすすめるべきだろう。でも、今みたいな倒し方では一つ一つ倒すのには効率が悪い。戦いながら効率のいい倒し方を考えなければいけない。あまりモタモタして他の受験者が来て乱戦になったら事故も増えるし……ああもう、戦闘って思ってたより考えることが多すぎだ。
「標的補……」
「さ~せないよ!」
力任せに私は現れたロボに飛びかかり体重を乗せた蹴りをぶつける。考えをまとめようにも、間を割ってどんどんと此方にロボが集まってくる。
それでも、諦めずに考えなければいけない。考え続けて適切な行動を取らなきゃ。
少しハイになって纏まらない思考をクリアにしようと脳機能を活性化させればゴリゴリと私の中の糖分が消費されるのを感じる。最初私は時間は10分しかないと思ったが間違いだった。10分もあるのだ。
「標的補足!! 野郎、ブッ殺シテヤル!!」
「もう、いちいち見つけたら声を出してくれるとか、そんな所だけ何で親切設計なんですか!!」
聞こえた電子音声に意味もなく答えつつ、そちらに視線を向ければ迷うこと無く大地を蹴り相手が反応が追いつく前に一瞬で距離を詰める。懐に入ってしまえばあとはプロテクターでカバーした膝で頭部パーツを狙って蹴り上げる。正直近づくのは怖い。けど私の攻撃のリーチが短いのでこうするしか無い。
最初と同じような小気味良い音とともに頭部パーツが吹き飛び、残った胴体部分もその場で崩れ落ちる。
やっぱり関節部と制御系のケーブルが多く固まっている首の部分は脆いようだ。これならもう少し力をセーブしても行けるかもしれない。私は下半身に重点的に回していた生命力を全身に満遍なく循環させることにした。先程までの状態だと脚力は上がり機動力は確保できるが、上半身の力は普段通りだ。周りの全てを見えているのならそれで対応出来るが、これからあのロボを何体も相手にしなければいけない以上、周り全てに注意を向けるなんて不可能だし臨機応変に動けるように用心はしておいたほうがいいだろう。
とりあえずは、今すべきは目の前の敵を早く処理することだ。私は迫り来るロボの群れに向かって突き進む。
「標的補足!!貴様ヲ殺シテヤラァァァァァ!!」
「標的補足!!」「補足!!」
すれ違うロボたちは、懐に潜り込み、先ほどと同じように頭部パーツを狙って蹴り上げ、時には勢いをつけた肘打ちで倒しつつ出来うる限り演習場の奥に突き進んでいく。
何体かと戦いながら気づいたのだが、どうやらポイントの低い1.2ポイントのロボは標的を補足すると、自ら近づいてその補足した相手を重点的に狙うようだ。なら、此のまま私自身が大量のロボの前に身を晒し囮になって、自分が戦いやすい場所まで誘導すればもう少し稼げるかもしれない。多人数を相手にする時は出来得る限り1:1に持ち込める場所で戦うのが基本だと西屋さんも言っていた。こういった大きめのロボが相手なら狭い路地などが妥当だろうか。
試験が開始されてから、感覚的ではあるがまだ三分も経っていない。それなのに最初受験生から吸い取った生命力はもう底をつきそうだ。だが受験前に溜め込んでおいた生命力を回せばまだ戦えるだろう。
私は残っている生命力を先程より多めに身体に回してその場から駆け出す。
「ふふ、ハハハハァ~あぁ、駄目、ちょっと楽しくなってきた。冷静に冷静にって思ってたけど、冷静な判断で勝機を逃したら意味が無いよね?」
身体が軽い。心地よい痛みが身体を駆け巡る。それと同時に感情が高ぶる。
「とりあえず、作戦はそれで! 行ける所まで行っちゃおうか。出し惜しみは無し。無理して無理して無理して……限界を超えてやろうじゃない」
それに、いざとなれば生命力は何かで補給すればいいし。
心の中でそう呟きながら、正面に見えた3ポイントのロボの胴体を足場にして蹴り上げ、方向転換すると同時に胴体を破壊、どんどんと演習場の奥へ跳ねながら駆け抜けていった。
「あと6分2秒~」
遠くからプレゼント・マイクの声が聞こえた。
こうやって時間を伝えるならもう少し切りが良い時間を教えてほしいものだ。まあ、それぐらい自己管理してペース配分をしろということなのだろう。
私は路地裏、目の前に来ていた最後の2ポイントロボを蹴り上げ、荒くなった息を整えるように一度深呼吸し落ち着きを取り戻す。少し埃っぽいけど空気がうまい。動きっぱなしだったから尚更だ。
それにやっぱり普段より無茶したせいで落ち着くと脚の節々が痛い。溜め込んでいた生命力も残り少なくなってきて治癒力が落ちてきている。とりあえず、節約のため今は治癒にだけ生命力を回す。
自身が囮になって此の場所に集めたロボはあらかた片付けることが出来た。後半は後続の受験者が私の集めたロボを見つけ殺到した結果、集めた割には思ったよりはポイントは稼げなかったが、それでも他の受験者とはそれなりに差がついただろう。
「よしっと……とりあえず此処までは順調だけど、此の後どうしようか」
路地から出て、表通りを見渡せば他の受験者が数体残ったロボの処理をしている。他は既に瓦礫に混ざって動かなくなったロボの残骸ばかりだ。この場所にいてもこれ以上のポイントを稼ぐには効率が悪いだろう。
「とりあえず、まず第一にどうにかして補給! 其のためには人が集まっている所かな。人が集まるってことは、ロボもいるだろうし」
耳をすませば、ここから近い場所で戦闘音が聞こえる。
ちょうどいいかと、私は次の目的地を其の場所に決めた。
極力消費を抑えるように足だけに力を集中し私が駆け出した時、突然地面が揺れた。
地震と勘違いするような其の揺れは轟音とともに地面を割る。電柱はなぎ倒され、負荷に耐えられなくなった電線が切れヒュルヒュルと反動で中を舞う。
其の轟音は収まることもなく更に土煙を上げ、ゆっくりと巨大な物体が地下から這い上がってくる。
「なんだよ、あれ」
最初に周りの誰かがそんな声を上げたのが聞こえた。
周りの受験者はただ、その光景を眺めていることしかできなかった。
ただ、土煙が晴れた時、其の巨大な物体が明白な意思を持って鉄塊と呼ぶにふさわしい其の巨大な腕を振り上げた時、其の圧倒的脅威を理解した時。
「に、逃げろー!!」「雄英は俺たちを殺すつもりか!!」「おい、押すな!」
振り下ろされる鉄腕の一撃で、手前にあった大きなビルは一瞬で瓦礫に変わる。
一撃を合図に辺りには受験者の悲鳴が響き渡り受験生たちは我先にと逃げ惑う。
それを待っていたのだろう、巨大なそれの足元からは、ポイントとなる仮想敵であるロボが受験生たちを追いかけ始めた。
「うへぇ、でかいよー……」
私は運がいいのか悪いのか、ちょうど其の巨大な敵の側面側でその光景を見ていた。
今までの敵の種類が3種類しか見なかったことを考えると、あれがプレゼント・マイクが言っていた、ドッスン的ポジションのお邪魔虫、0ポイント仮想敵なのだろう。
それは逃げ惑う受験者が多い方に向かって、周りの建物を破壊しながら突き進んでいく。
其の巨体による破壊力は確かに強力無比だ。ただし、其の質量故に動きは緩慢で逃げていれば、直撃をくらうことはないだろう。
「って、危な!」
……まあ、だからといって危険なことには変わりがないのだが。
巨大ロボが動く度、巨大な腕を振るう度、爆音と衝撃波と共にあたりの建物が砕かれ、瓦礫やガラス片が飛んでくる。
砂埃で視界が悪い中飛んで来るそれらははっきり言って直撃すれば十分危ない凶器だ。
「クソ……、誰か手を貸してくれ!!」
その時、近くで誰かの声が聞こえた。
思わず私は視線を向ける。瓦礫に片足を取られすぐには動けなさそうなバンダナを付けた男の子。その近くにはそんな彼の声を聞きつけてか何体かのロボが集まり始めていた。
俗に言う絶体絶命という場面だ。まあ流石に仮想敵とは言え試験だ。受験生を殺すような真似は流石にしないだろう。
今の私には、余分に使える力なんてそんなに残っていない。試験のためには此処で無駄遣いなんて以ての外だ。
それに放って置いても誰かが後できっと助けてくれる。……けど
「とりあえず、伏・せ・て!!」
私がなりたいのは、そんな場面で真っ先に助けてくれるそんな誰かなのだ。