9月後半から10月にかけてとんでもなく仕事が忙しかったのです。
なんとかこれからはペースを戻して投稿していきたいと思いますのでよろしければ読んでいってやって下さい。
実技と筆記試験から一週間後。
「嫌だな……なんか嫌な予感がするんだ」
私の頭を悩ませるそれは、自室の机の上に乗っている一枚の封書だった。
今日私宛に届いたそれは、シンプルに雄英高等学校と書かれているすなわち合否通知である。この封書の内容1つで私の今後が大きく左右されるかもしれないと考えると、なんとなく開きにくいのは仕方がないことだと思うのだ。
「私が合格したんだから、雛花ちゃんも大丈夫だって。ほら、早く開けて楽になろうよ? 開けなくてもどうせ結果は変わらないんだから」
「いや、心持ちの問題だよ! ほら、どんなショックを受けても耐えれるように」
「本当にこんな時だけ小心者になるよね、雛花ちゃんは」
そんなことを笑いながら私に言う親友の真実は既に合格通知を確認している。ヒーロー科ほどではないが、雄英の普通科はヒーロー科志望の子も合わせて受ける人も多い故に倍率は普通の進学校より断然高い。それなのに合格した親友を素直に尊敬するしおめでとうと言いたいのだけど、そもそもの話親友の合格通知がすぐ近くにあるからこそ私は未だこの書類を開けられずにいるのだが。
「でもさ、真実の合格通知書類だけだったのに、私のこれなんか変に膨らんでるんですけど。叩いたら微妙に固くて紙じゃないっぽいし……」
コンコンと机の上の封書を叩けば明らかに金属のような硬い感触がする何かが指に当たる。……こんなものが、果たして合否の書類に必要なのか?
「合格だからこそ何か色々な案内が入っていて分厚いんじゃないかな? ヒーロー科だし、被服控除とかの関係書類も有るみたいだし。 ほら、筆記テストは自信あったんでしょ?」
確かに筆記試験には自信があって、真実にも自慢していた。……自己採点の結果真実には点数で負けていたんですけど。
「うん、でも実技がやっぱりねー。もう少しがんばれたかなーって……ああ駄目、思い出すと色々恥ずかしいよ」
「別に貴方のために」
「やめて!! 何で知ってるのさ?」
「この間、寝言でそんなこと言ってたから」
クスクスと私のリアクションに微笑む親友のお陰でドヤ顔でそんな何かを口走っていた記憶がおぼろげながら蘇ってくる。ああ、目の前の可愛らしく笑う親友には怒れないので、過去の自分を殴りたい。
そんな私の様子を見ていた親友は埒が明かないと思ったのだろう、私が悶ている隙をついて封書を手に取れば
「えい!」
っと小さな掛け声とともに、私の合否通知を破いて開く。
「ああ、何を! 思った以上に雑に」
「だって、雛花ちゃん決心できなさそうだったから。それより何か映ったよ」
「あ、本当だ」
封書を開けると出てきた謎の物体の正体であろう小型の投影機。多分、封書を開けることが起動の条件だったのだろう。私の目の前で光を放つ金属でできた円盤のようなそれは、内蔵されていたスピーカーからやけにテンションの高い声を部屋の中に響かせる。
『私が投影された!!』
声と共に浮かび上がった映像には二本の触角のような前髪を揺らし筋骨隆々の鋼のように鍛え上げられた身体の人影が多分何処かの撮影スタジオだろう場所に映っている。その声、其の姿は忘れもしない、私の記憶に有る人物そのものだった。
「あれ? オールマイト」
未だ状況をつかめない私を他所に、親友は不思議そうに小型投影機から浮かび上がった映像を見ていた。
「……これ、雄英からだよね? 嫌がらせじゃなくて」
何で? っと疑問符しか浮かばないどうやら通信機等の類ではなく、録画された映像が投影されているのだろう。浮かび上がったオールマイトは困惑する私を気にすることなく話を続ける。
『入試お疲れ様!! 私はオールマイト』
はい、存じております。何故あなたが出てくるのです?
『何故私がって!? それはこの春から雄英に務めるからさ』
其の言葉に私の頭の中が真っ白になる。は? 何で、あなたが?
平和の象徴は? ヒーローの仕事を削ってまで何故雄英の先生を?
そもそもNO.1ヒーローと兼業で出来るほど、教師という仕事が甘いものだとでも思っているのだろうか? ヒーローとしての適性はあっても、教師としての適性があるとは限らない。
そんな教師に教えられる生徒もかわいそうだとは思わないのか。いや、流石に国立の高校の教員なのだから教員免許は取得しているのだろうが。……そういう勉強をする前に、一人でも多くの困ってる人を助けるのがあなたの仕事じゃないんですか?
尽きぬ疑問が浮かぶが、それでも録画されているこの映像に言っても仕方がないし、あくまでこれは私の合否発表の為の映像なのだから。だから私はできるだけ映像を見ずに、そっと聞こえる声にだけ神経を集中する。
『っで、だ。君のことはもちろん覚えている九生君。そして、君がヒーローを志していると聞いて私も嬉しく思うぞ。君との出会いは……え? もう少し巻いてくれって? HAHAHAさっきから厳しいなぁ。まあ君には色々と伝えなければいけないことが有るが、それは別の機会に伝えることにしよう』
覚えているという言葉に、一瞬映像を睨みつけそうになる。きっと、映像を見たらアイツはいつもと変わらない笑みで笑っているのだろう。……私はあの笑顔が嫌いだ。人を安心させるような、もう大丈夫だと言わんばかりのあの笑顔が。私の大切な人が浮かべていたのと同じような笑顔を。
「雛花ちゃん、オールマイトと知り合いなの? 嫌いそうなのに」
黙って映像を聞いている私に真実が声をかけてきた。遠慮なく言った嫌いそうという言葉に思わず笑ってしまいそうになる。
「私が此処に来る原因を作った人だよ。だから覚えてたんじゃないかな~。……でもそんなに嫌いそうに見えた?」
「そうだね。いつも雛花ちゃん親の敵とばかりにテレビに映る姿を見てるし。……今もそうだし」
「……ごめんね。今度からうまく隠すから」
「それもどうかと思うのだけど」
『そんなことより、早く合否を教えろと言いたそうだね?』
彼の続く言葉。まさしくそう思っているのだが、其処まで読んでこの映像を作っていると考えるとなんとなく癪に障る。
けれど、それのお陰で結果についてはなんとなく察している。オールマイトが学校に教師として務めるなんて情報を不合格者全てに通知しているのなら、それは既にテレビに取り上げられニュースになっているだろう。それに明らかに私用に撮られた映像があるのだ。多分、ヒーロー科の合格者だけに送られているものだろう。
巻いてくれって言われるぐらいだから、それでも全員分取るみたいだけど。
『君のことだから、こんな映像が送られてくる以上合格だと思っていないかい? 確かに筆記は十分に取れていたさ。問題の実技の方だが、君の倒した仮想ヴィランのポイントだけで言えば45ポイント。それなりに上位に食い込んではいる。それでも其のポイントだけでは、合格点には残念ながら達してはいなかった。つまり不合格だ』
「……え?」
だが、私の予想に反して彼の口から語られた言葉に更に呆気にとられる。
重苦しい沈黙が部屋の中を支配する。
『なら、あの時彼等を助けなければよかったと考えるかな?』
そんな私の心を読んだかのように映像が動きオールマイトが語りかけてくる。
答えはもちろん否だ。少なくとも私はポイントを取るより、人助けを優先したことに後悔はしていない。だって、私の命は救われた物だから。だから私は誰かを助けなくてはいけないのだから。
『否、あの行動こそが、今回の試験で大事なポイントだったんだ。人助けをした人間を排斥してしまうヒーロー科などあってたまるかって話だよ。命を賭して綺麗事をするのがヒーローという仕事さ』
映像が突如切り替わり、モニタールームらしき薄暗い部屋の中で雄英の教員たちだろう人々がそれぞれ点数の書かれた札を上げている映像が写る。5や6の札を上げている人が数人かいる中で、0ポイントを上げる人も何人かいる。
『先の入試、見ていたのは敵Pのみにあらず。救出活動P、これは審査制で我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力。どうだい、驚いただろう? 君の場合、教師達の中でも評価が別れたんだぜ? 君、背中に担いだ彼に対して個性を使っただろう? あれが合意の上だとは思うがそこで判断が分かれた。曰く、要救助者を危険に合わせて良いのかとね』
驚くも何も、貴方さっき私の事不合格だと言いませんでしたか? 此処まで来るとやっぱり嫌がらせで送ってきたのではないかと疑いたくなる映像だ。つまり、この映像で私に何を伝えたいかというと。
『それでも君についたレスキューポイントは21。これによって実技試験の合計ポイントは66点…つまり、君は合格だ。おめでとう』
「紛らわしい!!」
映像のオールマイトに向かって思わず声を上げた。
憎い相手からでも合格と言われればやっぱり嬉しいのが余計に心がもやもやする。どん底に叩き落してから持ち上げられるこの気持ちをなんと言えば良いのだろうか?
画面にはこう見えて私もエンターテイナー。こういったサプライズがあったほうが良いだろう? なんて言ってる筋肉の姿が目に入るのだから余計に腹が立つ。
「はいはい、雛花ちゃんどうどう」
そんな私を宥める親友の声に小さく深呼吸すれば、色んな意味で落ち着かない心を落ち着かせようと一度大きく深呼吸する。
『それと、合格ついでに私から一つアドバイスだ。君は巨大ヴィランが現れた時、誰を何方を助けるかで迷って手を止めた。君はあの時考えたのだろう? 自分の力では両方救うことが出来ないと。何方かを救えば何方かを見捨てなければいけない……悲しいかなヒーローと言うのはそういった選択の連続だ。重要なのは、自分の選択が正しいと信じること。迷いや後悔があると続けられないぞ?』
深呼吸をしながら、聞こえてくる言葉にあの場面を思い出してしまう。
私は確かにあの時動けなかった。自分の力不足を痛感した。いや違う。私は自分の限界を勝手に決めてしまっていたのだ。本当にあの時助ける手段はなかったのか? 思いつかなかっただけで出来ないと決めつけて動けなくなったのではないか?
『まあ、多分それは君が一番理解していると思うのだけどね。これは試験ではあるが、君はそういった場面を経験した。それを糧にさらなる成長を期待しているぞ。……どうだい?少し先生らしいことを言えたんじゃないかな? え? 何? まだ撮影は続いているだって!? HAHAHA、では九生君、雄英で会うのを楽しみにしているぞ!』
なんだか締まらない最後の言葉と共に、投影されていた映像が消える。
あなたに言われなくても、次はちゃんと迷わない。そう声を上げたかったけど
「雛花ちゃん、合格おめでとう。これでまた同じ学校だね」
「……あ、うん、ありがと!」
ぎゅうっと嬉しそうな声と共に私の体を包むように伸びる腕と、其の言葉で其の言葉を胸の中にしまいこむ。
なんだろう、いつもなら此処まで積極的ではないのだが、どうしたのだろうと不思議に思いいつもより近い親友の顔をじっと見つめ返すと
「……オールマイトがいるから雄英には行かないなんて言わないよね?」
次に心配そうな、そしてなんだか泣きそうな顔でゆっくりと紡がれた言葉で、ああそうかと何となく彼女が言いたいことがそれで理解した。
私はオールマイトが嫌いだ。根本的に生理的に受け付けない。そして、きっと彼女は私に個性を使ったのだろう。私の言葉に偽りがないと理解して、そんな私が雄英を諦めるかもしれないと心配しているのだろう。
「大丈夫だよ。オールマイトは嫌いだけど、学食のご飯安くて美味しいし、なんといっても国立だよ、国立。それにさ、此処で逃げたらなんだか負けたみたいになるもん。私は大嫌いなオールマイトに負けるのだけは絶対に嫌だし」
「なら良いけど。無理はしてないよね?」
「あはは、私も楽しみにしてるんだよ? 真実と一緒の学校にまた通えるの。これで、安心して朝寝ていられるし」
「……私は目覚ましじゃないよ?」
「頼りにしてるんだからさ」
其処まで言えば、私を抑える腕の力が弱まる。納得はしてくれたようにというか、少し呆れの混じったため息をつき、少し不貞腐れたような表情を浮かべる
「はいはい……そうだ、私、職員さんに雛花ちゃんが受かったって知らせて来るね」
「別に私が後で知らせに行くのに」
「良いの。私の合格のことも有るし、こういうのは早く知らせたほうが良いから!」
言うが早いか、彼女は私の合格通知と自分の通知を持って部屋を出ていってしまった。
後に残された私はというと、其の走っていく姿を眺めながら
「実際こんなに早く本物に会うなんて考えてもなかったのにな~」
一人になった部屋の中で思わず声が漏れた。正直、そんなにすんなり納得できるほど私は大人ではない。果たして私は我慢できるのだろうか? 映像の彼でさえ見るのが、声を聴くのが苦痛だった。オールマイトの声を、姿を見ると、どうしてもあの時のことを思い出してしまう。
だけどそれを理由に目の前のヒーローへの最大の近道を蹴るつもりはないのも本当だ。
それに、親友のあの顔は卑怯だ。私が何考えてるのか見透かしてるように、先に逃げ道を塞がれてしまった。
「……だったら、頑張るしか無いよね」
アイツが先生をやるというのなら、受けて立とうじゃないか。どうせ、遅かれ早かれヒーローになるなら遭うんだし……それなら早めに慣れた方がいいだろう。
それから入学手続きやら、施設の職員さん達に祝福されたりで其の日は本当に大変だった。翌日合格を報告しようと西屋さんと特訓した河川敷に足を運んだが、どうやら本業が忙しくなってきたらしく、それ以降彼にその河原で遭うことがなかった。合格を報告できなかったのが少し心残りだが、それを見越してだろう彼にもらっていたトレーニングマニュアルを頼りに、私は入学式まで地道に訓練を続けた。
そして時が流れて入学式当日。
日本でも屈指の面積を誇る雄英高等学校。
それは多種多様な演習施設だけではなく、構内もあらゆる個性に対応すべく徹底したユニバーサルデザインで作られている。そんな校舎の中を歩く私が何を言いたいかというと。
「校舎の中も広いし大きい。国立だからって、もっと違う所にお金かけるべきだと思うけどね。……思い返すと試験の時のロボとかも維持費とか凄そうだし、どれだけお金使ってるんだろうって……あれ? デジャブ?」
「雛花ちゃん、こんな時までお金の話をするんだね」
「いやお金は大事だよ! 人はご飯を食べないと生きていけないの。そして、ご飯を手に入れるにはお金が必要なんだ」
「最近食費かなり嵩んだもんね~」
「仕方ないじゃん、個性の特訓してたら施設の食事だけだと足りなくなったんだから。……それにしても凄いよね、こんな物まで貸してくれるんだし」
今自分が手に持っているスマートフォンもそうだ。電話がないと言ったらヒーロー科だからと学園から貸し出されたものだ。……至れり尽くせりで逆に怖い。寧ろ生徒を監視するために盗聴器でも仕掛けられてないかと心配になるレベルだ。
それに聞いた話だと、これに入っている地図アプリ等もサポート科の生徒が制作に関わって学校で作られているものらしい。
「じゃあ、終わったら正門前でね」
「はいはい、雛花ちゃんも」
先に普通科の教室前に到着したのでそこで親友と小さく手を振り別れ、私は「1-A」と書かれた教室目指して歩く。
程なくしてたどり着いた扉に大きく縦に1-Aと書かれた教室の前。既に中には何人かの生徒が来ているのだろう、ざわざわと楽しげな話し声が聞こえる。
「……それじゃあ、行ってみますか」
かなりサイズ的には大きな扉だが、思ったよりも重さを感じず開けることができた扉をくぐり教室を覗き込むと何人かの生徒の視線が刺さる。笑顔で会釈をし、そっとそのまま見渡すとを異形系の個性の子も何人かいるらしい。中々個性豊かなメンバーが揃っている。特に目を引いたのは空中に浮いている女子の制服だ。誰かの個性で浮かせているのかと思ったら、私に気づいたのだろう、制服が此方を向いて少し揺れている。
少し考えそれが人が着ていれば私と同じように会釈をしているのだと気づけば、ペコリと私ももう一度そちらに向かって頭を下げる。
それにしても見た限り女子の制服なので安心した。透明人間の個性もちが男性だったら……特に先程から私の体をジロジロ見てくる特徴的なヘアースタイルの男子生徒じゃなくてよかった。彼は要注意だと私の中の何かが囁いている。
気を取り直して改めて自分の席を探す。見たところ各机ごとに名前の書かれた紙が置かれており、一番手前の机には芦戸と書かれていることから多分名前の順だろう。よろしくねと、その席に座っていたピンク色の女の子に声をかけつつ、自分の席を探し教室の中に入っていく。
「九生は…っと、あったあった」
「ケロ?」
「ん?」
聞こえたどこかで聞いた声に、そっと自分の席の隣の声の主を見る。そこには可愛らしい大きな瞳の長い髪をした女子生徒が其の大きな瞳で私のことを確認するように視線を向けていた。其の声、その視線には見覚えがある。ああ、彼女は
「雛花ちゃんも合格したのね?」
「梅雨ちゃんもね。あはは、それにしてもまた一緒なんて。結構確率的に言えば奇跡に近い確率なのに……ああ、宝くじを買っておけばよかった」
「合格は努力でどうにかなると思うのだけど、宝くじは無理じゃないかしら?」
梅雨ちゃんは其のまんまるな瞳を真っ直ぐ私に向けそう呟いた。ヤメて、そう真っ直ぐ見られるとなんだか恥ずかしい。
「……まさか真面目に返されるとは思わなかった」
「あれ? ふたりとも知り合いなの?」
私達の会話を聞いて、先程声をかけた芦戸さんが声をかけてくる。改めて見るとピンク色の髪に色の反転した瞳、ピコピコ動く触覚が可愛らしい。
「そうだよ。あれは運命の出会いだった……」
「試験のときも隣の席だったのよ」
私が話を盛ろうとした瞬間梅雨ちゃんに遮られる。ぐぬぬ
「へーすごいじゃん。隣ってことは同じ中学? 私も実は同じ中学の子がいるんだ」
あそこにいる子だよと、彼女の指差す方を見ると赤髪のツンツン頭の男の子がいる。……と言うか目があった。だって私の席の真後ろだし。
向こうも隣の男子生徒と話している途中だったのだろう、なんとなく気まずいながらも、よろしくねと軽く挨拶だけすると、「おう、よろしくな」と軽く返事をして、また隣の男子との話に戻った。
「っと、残念、二人と違って私たち中学は違うんだ。っと、また誰か来たみたい」
扉が開く音に会話を止め、私達三人は視線を今開いた扉の方に向ける。
最初の私と同じようにおずおずと扉から顔を覗かせた生徒の姿。其のモサモサ頭には少し見覚えがあった。
「ん? そっか、あの子も合格したんだ……本当にうちの試験場激戦区だったんだね」
「なに? また知り合い?」
「今度は普通に同じ試験会場だっただけだよ。ちょっと挨拶を……って、何か絡まれてる?」
怪我は大丈夫かな? っと少し声をかけようと私が立ち上がる前に、入口付近で言い争いのようなじゃれ合いをしていた男子生徒の片割れが彼の元に歩いて行き何やら話し込んでいる。聞き耳を立てれば会話内容ぐらいはわかるが、漏れ聞こえる声もそれほど険悪そうではないし放っておこう。話す機会は後でいくらでもあるのだから、今は近くの席の子と話しておくのが大事だ。こうしておけばクラスでは孤立しづらいはずだ。……私は詳しいんだ。
「えっと芦戸さん……で合ってるよね? それと梅雨ちゃんの試験会場でもいたと思うけど、お邪魔虫の0ポイントの巨大ヴィランが居たと思うんだけど」
「あーいたいた。私は遠くに出てたから、其処まで問題なかったけどねー」
「私はアレの近くに居たのだけど。怪我した子がいたから助けていたらレスキューポイントで評価されたわ」
「その巨大ヴィラン、あの子が一撃で倒してたんだ。しかも素手で」
「はぁ!?」「ケロ!?」
「なにそれ!? 詳しく詳しく」
「其処に本人がいるから、聞いたほうが早いと思うよ~」
驚くよね、そりゃそうだ。私も驚いたもん。
ただ、あの後身体がバキバキになった話は本人にさせたほうが良いだろう。
ふふ、動けなくなるまで個性を使って女の子に助けてもらったなんて恥ずかしくて言えまい! 自業自得なのだから苦しめばいい!
そんなことを考えながら、二人と自分たちのことを話していると教室の予鈴の音がキーンコーンカーンコーンと鳴り響く。其の音に気づいて教室にいた生徒たちが自分の席へと戻っていく。ただ、入り口にいる何人かは話に夢中で其の音の気づいていないのだろう。よく見れば、あのモサモサ頭の男子生徒を一緒に助けた女の子も入り口に立って話に参加していた。
「お友達ごっこをしたいなら他所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」
そんな生徒達の会話を止めたのは、私達を窘めるような、それでいて眠そうな声だった。
どうやら声の主は廊下にいるらしく、入り口で話していた3人が教室の自分の席に移動する後を追うように、何かが教室の中に入ってくる。
それは傍目で見れば、寝袋の蓑虫だった。それがゆっくりと、羽化するように寝袋から抜け出せば周りを見渡し口を開いた。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
寝袋から抜け出した彼の姿は、上下だるだるした黒い服に無精髭、ボサボサの髪、寝起きのようなダルそうな瞳。見た感じ完全に不審者だ。あれ? もしかして私ってそういった不審者に縁がある? 嫌だな……そんな縁。ただ、本当に不審者だとしたらこんな所まで入っては来れないだろう。そんなに雄英のセキュリティーが甘いものだとは思いたくないし、予鈴がなったあとに入ってきたのだから彼は恐らく、多分信じたくないけど
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
彼は少し茶目っ気のある声でそう言ったのだ。
やっぱりか! オールマイトといいどうなっているんですか雄英の教師陣。生徒の見本となる先生としては最悪の見た目だけどいいのかな雄英? 後、個人的に此処の先生として有名なミッドナイト先生とか。
そんな彼の言葉にわけも分からず静まり返る教室。ただ、その静寂を作った本人は気にする様子もなくゴソゴソと先程まで自分が入っていた寝袋の中に手を突っ込めば
「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」
取り出した雄英の体操服を皆に見せ、そそくさと教室の外へと出ていってしまった。
そして、それが慌ただしい私の入学式の始まりの合図だった。
地味にクラスメート誰が居なくなるかで迷って時間がかかったのは内緒です。
あと漫画版の最初の席順名前の順に見せかけて違うからすごくややこしいんだ!