なんだか、私がゆっくりしている間に本編の方で『活力』個性が出てどうしようかななんて考えてしまう今日このごろです。
頑張って差別化しないと!
「個性把握テストォ!?」
突然現れた担任の言葉に困惑しながらも、各々グランド近くの更衣室で体操服に着替え言われた通りにグラウンドに集合した。そして、其処で伝えられたのがそれである。
当然、入学式について聞く生徒も居たが、ヒーローを目指すならそんな悠長な行事に出る暇はないよと一蹴された。
曰く雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然りらしい。
いや、いくら先生の自由だと言っても、学校側で決めた行事を先生が行かせないって可笑しくないかな? とは思わなくもないが、それがまかり通ってしまうのが此処雄英なのだろう。
……つまり担任の相澤先生的には校長先生の始業式の挨拶なんて不要ということでよろしいのですか? 気が合いますね、私も激励な言葉は大事だと思いますが、校長の今朝あったことをスピーチに取り入れるのは不要だと思います。
いや、そんな事はどうでもいいんだ。問題はその後だった。
相澤先生はお手本とばかりに、実技成績一位だったらしい爆豪というとっても俗に言う不良っぽい男子生徒に個性を使いハンドボールを投げさせ、其の距離を計測した。投げる時の彼のヴィランっぽい『死ねぇ!!』という掛け声は置いておいて、其の彼が叩き出した数値に皆が湧いた。
それはそうだろう。中学校までは自分自身の力である個性を使わない、単純な作業だった体力測定が、個性を使うことにより普通では出ないような記録が出たのだから。
だけどそれがいけなかった。誰かがその時言った『面白そう』という言葉が相澤先生の忌諱に触れてしまったのだろう、相澤先生の少しめんどくさそうな表情が一瞬変わった
「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「はあああ!?」」
周りのクラスメイトは誰もが其の言葉の理不尽さに声を上げた。最初は私も周りの皆が言うように理不尽だと思った。いくら自由だからと言って、最下位だからと除籍処分するのは国立高校がやるような手段ではない。そういった生徒を育てるのが先生の仕事なのではないか?
そもそも初日で能力不足だからと切り捨てるなら、此の前までの入試は何だというのだ?
「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ!」
ただ、そんな私達の不満を先生も察しているのだろう、そのまま相澤先生は言葉を続けた
「自然災害……大事故……身勝手なヴィラン達。いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー」
淡々と紡がれる言葉。先生が言いたいことはわかる。
そうだ。世界は理不尽に満ちている。何よりも私が一番理解しているじゃないか。
「これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。“Plus Ultra”さ。全力で乗り越えて来い」
なら、これは私がこの高校で乗り越えるべき最初の壁なのだろう。
これぐらい乗り越えて見せなきゃ、きっと私はヒーローを目指すなんておこがましいのかもしれない。
「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」
皆それぞれ、相澤先生の言葉を受け取ったのだろう。静まり返っていた空気の中で先生が開始の合図を告げた。
個性把握テストの内容は、中学の時の体力測定と同じ内容で、種目は順番に
第一種目:50m走
第二種目:握力
第三種目:立ち幅跳び
第四種目:反復横跳び
第五種目:ボール投げ
第六種目:上体起こし
第七種目:長座体前屈
第八種目:持久走
この順番で行われるらしい。始まりの合図が告げられ、それぞれ名前の順に競技を行っていくが、其の順番を待っている間に少しだけ考える余裕ができた。
私の個性は『吸精』。そして入学式までの間に自主トレと雑草刈りのボランティアである程度の生命力は体に蓄えてきた。
其の生命力を身体の活性化に回せば、50m走、握力、幅跳び等の単純に体を動かす種目はかなりいい数字は出せると思う。逆に変わらないのは上体起こしと長座体前屈かな?
そもそも、私のような単純に身体強化を出来る個性を持っている子なら、簡単に普段の記録以上の普通ではない記録を出すことが出来るだろう。全員が全員そういった個性持ちでは確実にないので、私が最下位になることはないと思う。……いや、寧ろ頑張れば一番を狙えるんじゃないかな?
それにしても、私とは違った搦め手の個性の子たちはどうするつもりなのだろう? 誰とは言わないけど、透明人間の彼女とか。
そういった個性は此の競技ではほとんど生かせない。けどヒーローとして考えればかなり優秀な個性だと思う。そんな生徒を切り捨てることこそ合理的じゃないと思うんだけど。
……あれ? そういえば、あくまでトータル成績最下位がというだけで、肝心の最低基準先生何も言ってない気がする。
そんなことを考えている間にも、50M走の準備ができたらしい。名前の順番的に私も結構早い段階で回ってくるので、視線をスタート地点に向ける。
第一種目:50m走
一度の測定で二人同時に走るらしく、第一走は先程まで一緒に話していた芦戸さんと梅雨ちゃんだ。これは応援しないと。
「ふたりとも頑張ってね~。最初の二人記録績次第で後の皆の雰囲気決めちゃうからバシッと!」
「なんか其の言い方変にプレッシャーかかるんだけど~」
「ケロ、頑張るわ」
軽く二人に手を振りながら声をかけ、少し離れたところから其のスタートを見守る。
ふたりともスターティングブロックに足をかけ調整ができた段階で、スターター用のロボがカウントを始め、スターターピストルのような音が響く。
スタート合図とともに走り出す二人。最初に飛び出たのはカエルのように大きく跳躍する梅雨ちゃん。多分見た目の通りカエル系の個性だろう。かなりの跳躍力だけど、流石に一足飛びでは50mは届かない。両手両足からの着地、其処からの再跳躍に少しだけ時間がかかる。其の間を追うのはよく見たら素足で走り出している芦戸さん。足の裏から何か液体のようなものが出ているのでそういった個性だろうが、それを抜きにしても単純に足が速い。
さすが二人共ヒーロー科合格者だ。先にゴールしたのは少しの差で芦戸さんだけど、二人共50mを5秒台で走り抜けていった。
100m走なら10秒台を切りそうな記録を叩き出すのだから、あとの生徒たちにもプレッシャーが掛かっているのだろう。何人かの生徒の顔色が悪い気がする。私? はい、まだ余裕ですよ。寧ろ少しだけワクワクしてます。なんだかんだで本気でタイムを測ったことがないので。それに、試してみたいことが有るので。
続いての走者は受験の時の無重力の女の子とモジャモジャ髪の子に絡んでいた眼鏡の生真面目そうな男子。男子生徒の個性はわからないけど、もう一人の無重力の彼女の個性ではそんなにタイムは稼げないだろう。それでも、出発前に服に触れていたので出来得る限りの工夫をしてるみたいだ。……私も何か考えておかないと。
そんなこんなで、後のことを色々考えつつ眺めている間に私の順番が回ってきた。
「おう、よろしくな。俺は切島だ。って、さっき挨拶したな」
「だねーお手柔らかに」
私と一緒に走るのは切島君だ。彼の個性はわからないけど、私は誰にも負けるつもりはない。寧ろ一着を狙うつもりだ。
スターティングブロックに足を載せる。心を落ち着かせるように一度深呼吸。それと同時に体の中の生命力を足に集中させる。
狙うは一撃必殺……違う、殺してはいけない。そう、一歩だ。
私の持てるありったけの力で地面を蹴り、スタートと同時にゴール目指して前に跳躍する。つまり入試の時にモジャモジャ髪の彼が巨大敵を倒すときに見せた跳躍を真似するのだ。正直、無茶をしていたとはいえ彼の規格外の増強力は脅威。この個性把握テストの中では優勝候補に違いない。そんな彼に勝つには少なくとも限界を超えなければ。
もちろんそんなことをすれば確実に私も足を痛める……いや、試験の時の彼と同じように折れてしまうけど、それでも体力測定は実技試験のときのようにずっと続けて動き続けなければならないものではなくインターバルが有る。それに次の種目は握力測定だ。なら、その間になんとか個性で治してしまえばいいだろう。
「イチニツイテ、ヨーイ」
二人共準備ができたのを確認すると計測ロボがカウントを始め、次いでパン!と乾いたピストル音が響く。
それと同時に私は全力でスターティングブロックを蹴り上げた!
……あれ?
生命力を回した渾身の力で蹴り上げたはずなのに、私のスタートは拍子抜けするほど普通に走り出している。まるで生命力でブーストが出来ず文字通り自分の脚力だけで走っているような。
何で? という、思考と同時に此のままでは不味いと私は急いで足に生命力を再度回す。良かった今度はちゃんと個性が使えてる。
何故最初に力が使えなかったのかは分からないが、此処で慌てていてはまたあの時の二の舞だ。急なブーストで転んでしまったりしないように一歩一歩確実に足に力を回していき、そして
「4秒13」
ゴールラインを超えて、計測ロボがタイムを読み上げる。思惑通りには行かなかったが、それでも中学時代よりはかなりタイムが縮んでいる。今の段階で私の前に走っていた足の個性持ちの男子生徒、確か飯田くんか、彼に次ぐタイムで走り抜けることは出来ている。
そんな私に私の後ゴールした切島君が息を整えながら声をかけてきた。
「はぁ、負けたか。……速いな。増強型の個性か何かか?」
「まあ、そんな感じかな。色々制約とか有るけど、此のテストとは相性はいいみたい」
「そうか、やっぱり増強型はいいな。出来ることが多いし」
「いやいや、私なんてまだまだだよ。それよりも、増強した私とそんなにタイムが変わらない切島くんの方がすごいと思うよ?」
「まあ、ヒーローになる為に精一杯鍛えたからな。さて、そんじゃあ、俺は先に行ってるから」
「はーい。私はもう少し他のクラスメイトの子のタイム見とく! どんな人がいるか気になるし」
先に行く彼に小さく手を振る。そして続々と後を走っていくクラスメイト達に目を向ける。
もしかしたら、私と同じように不意に個性が使えなくなってる子がいるかもしれない。そうすれば、少なくともさっきの不調の原因のヒントになるかもしれないなんて淡い期待をいだきながら。
……それにしても本当に
「どうして? って顔をしているな」
そんな私の様子を見ていた相澤先生が不意に声をかけてきた。まるで私の心を読んだような発言だ。つまり先生は心が読める個性の持ち主だ! いや、冗談です。本当にそんな個性持ちの人が担任の先生だったらPTAからの苦情とか凄そうだし、私も出来れば担任の先生としては遠慮したい。何より此の言い方は私に何が起こったのかを知っているという感じだ。ならば考えられる理由は1つかな。
「……先生が私に何かしたんですか?」
「察しが良いな。なら、『どうして』だかわかるか?」
頭に生命力を回し、思考をフル回転させ捻り出した答えに少し満足そうに頷く相澤先生。だけど、流石に続く答えは聞いたほうが早そうだと小さく首を振った。だって、私の脳がこれ以上考えるならもっとブドウ糖をよこせって言ってるし。
そんな私にどこか呆れたように相澤先生がめんどくさそうに口を開いた。
「あまり学校の備品を壊すような真似はするな。お前がやろうとしたのは飯田とは違って、回転を上げてスピードやパワーを上げるのではなく、純粋に増強した力で蹴り上げるものだろう? スタートラインで準備をしている段階でお前が何をしようとしているのかは、だいたい予想できた。……お前の本気であのスターティングブロックを蹴ったら個性対応しているとはいえ壊れる。お前が弁償するなら構わないが、学生が払うには少し高いぞ?」
「え? でも入学試験の時は、なんていうかこれでもか!! ってぐらいお金の無駄遣いなロボが出てきたり建物破壊されてたりしましたけど」
「アレは街を壊している相手が仮想とはいえヴィランだったことと、ロボ自体も壊していいように最初から雄英側も準備していたからな。もちろん、お前ら受験生が態と建物を壊すようなことをしていたら減点対象だ。ヒーローが守るべき公共物を破壊してどうする?」
「あ……つまり入試は壊れる前提だからいいんですね。……なら、最初に言っておいてほしかったです」
つまりは備品は壊すなということか。……至極真っ当で反論の余地もない。寧ろ、弁償しなければいけなかったのなら止めてもらって正解だったと思う。絶対高そうだもんアレ。
でも、少なくともわかっていたならもう少し走り方を変えてタイムを伸ばせていたのに。
そんなふうに思う私の心を読んでいたかのように、相澤先生は何処か楽しそうに笑みを浮かべながら口を開いた
「そういうことだ。……後はお前が突然のアクシデントにどういった対応ができるかを見ていた。言ってしまえば合理的じゃないだろう?」
あ、此の人とっても面倒なタイプの人だ。言わないけど、テストはそういったことを考えられるかも見ていると思う、ていうか絶対見てる。やはり不審者にまともな人はいないのか。いや、不審者なのだから当たり前なのだけど。
「わかったら、さっさと次の種目にいけ。言っただろう、時間は有限だ」
早よっと手を次の握力測定の場所に振る相澤先生。だけどもう一つ気になることがあった私は食い下がるように声を上げた。
「……肝心なことを聞くのを忘れてました。『どうして』じゃなく『どうやって』止めたのです?」
「そんなもの、個性をどうにか出来るのはそういった個性だけだ。後はお前が考えろ」
どこまでも素っ気なく返す先生に渋々わかりましたとだけ最後に言って、私は次の握力測定の場所に向かった。
第二種目:握力
流石に今回の握力計測器は先程のスターターと違って壊れたりはしないだろう。そもそも純粋な握力なんて私はそんなに鍛えていない。りんごを腕力だけで握りつぶしてジュースを作るみたいな趣味は私にないのだから仕方がないし、そもそもそんなことをするつもりはない。故に個性で活性化したところで足の筋力ほどの力が出ない。……出ないけど、強化できないとはいってない。
私は深呼吸して手に持つ計測器を見る。こういった場合はイメージするのも大事だとテレビで見た記憶がある。
火事になったらタンスを持ち上げるような俗に言う火事場の馬鹿力のような。自分が一番力を出せそうな場面をイメージするんだ。
イメージしろ。そう、例えば此の計測器が私の最も憎い相手だとして……。ん、何だか出来そう。
「(オールマイトは苦しんで)死ねぇ!!!」
「雛花ちゃん、女の子が出していい声じゃないわ!!」
どこかの誰かの真似をした気合の掛け声に外野の梅雨ちゃんが声を上げるが、私は気にせず測定器を握る手にどんどん生命力を注ぎ込んでいく。元々そんなに強くない握力だから、強化しても効率はかなり悪いが限界を知る意味でも出来うるだけのことはしておいた方がいい。寧ろ、それぐらいしないと殺せる気がしない。
一点集中。徐々に手に痛みが走り出す。ああ、手の骨が軋む……ていうか、折れる! 割れる!!
「……だぁ!! っで、どう!! こ……勝てそう?」
危ない、痛みを抑えるので少しハイになりすぎて口が滑りかけた。
肩で息をしながら痛む右手に生命力を回し治癒していく。内出血の色が引き、骨はヒビは入ってるけど、これぐらいなら時間を置けば治るだろう。そんな私の声に梅雨ちゃんが
「誰に勝つかはわからないけど、385kgwは出てるわ」
「うーん……残念、それだと届かないかなー」
ゴリラよりも低い握力でシメたところで、あの№1ヒーローを倒せるビジョンは全く見えない。そもそも筋肉ダルマに力で挑んで勝てるはずがないのではないか? ……寧ろ、何をしたら倒せるんだろう?
「でも、女子の中では一番じゃないかしら? 50m走を見てる限り、女子では強化型の個性は雛花ちゃんだけみたいだし」
確かに梅雨ちゃんの言う通り、私も移動しながらも50m走を見ていたが、なんだかんだで女子では多分私がトップのタイムを出しているはずだ。男子は予想通り足の個性を持つ飯田くんがトップだった。少し気がかりなのは、私と同じように強化型の個性持ちのモジャモジャ髪の男の子の記録が全くぱっとしなかったことだ。まあ、私以上に強化の幅が大きそうだし、きっと相澤先生に止められたのだろう。
「そんなこと言って、私知ってるんだよ。梅雨ちゃんだって結構すごい数字出してるの」
「握力というよりも舌力だったけれど。私も雛花ちゃんに簡単には負けるつもりはないわ」
「ん? なになに? ライバル宣言? 私も混ぜてよ」
そんな私達の会話に、同じく近くに居た芦戸さん楽しげに声をかけてきた。
「じゃあさ、せっかくテストなんだし……」
話題は自ずと今回のテストの結果に移り変わり、最終的に今回のテストで此の三人で一番順位が低かった人が『女子の中で一番高かった人』に学食でランチを奢るということで話がまとまった。
私はもちろんだが、他の二人もそもそも最下位になるつもりは毛頭ないらしい。そもそも、負けるかもしれないと思う人が雄英でヒーローなんて目指さないだろうし、各々が身体能力が高いのを自負しているのだろう。
あくまで女子なのは、私達三人の中で誰かが一番になるだろうという根拠のない自信と、たとえ私達じゃなくても女子ならば話しかけるきっかけになるだろうという甘い考えだ。
流石に男子にいきなり女子が話しかけるのは抵抗があるし……
「フフ、いいのかな? 私、こう見えてかなり大食いだからね? 限界いっぱいまで頼んじゃうよ~」
「雛花ちゃん、私にはとっておきの秘策が有るのよ。後半の種目を楽しみにしてるといいわ?」
「私だって、負けるつもりはないよ~」
「お前ら、喋ってないで次の測定に移動しろ!」
そんな私達の会話を遠くから見ていたのだろう、相澤先生の声があたりに響く。
は~いと私達三人は揃って声を上げ、次の種目立ち幅跳びのために砂場に移動し始めた。
うーん、試験内容考えれば考えるほど麗日さんの順位が其処じゃないきがする。ボール投げの記録だけであの順位だと色々おかしな気がする。
梅雨ちゃんがなんだかんだで芦戸さんよりも競技相性いいと思うんだけどなー