「オールマイトが君のこと見てたよ~?」
「え、あ……ええ!?」
私が皆の元に戻って最初にしたのは、まだボール投げの順番が来ていなかったモサモサ髪の少年に声をかけることだった。私の言葉に、何やら暗い顔で考え込んでいたらしい彼が驚いたように辺りをキョロキョロしだす。うん、いいリアクションだ。
これでオールマイトもコソコソ隠れて覗き見為難いだろう。ザマアミロ!
「あの、それって本当なの? えっと」
「私の名前は九生だよ。九生雛花」
「ああ、よろしく九生さん。僕は……」
「爆豪の次は緑谷だ。準備しておけ」
後ろで誰かがボールを投げた爆音と同時に、会話を遮るように相澤先生の声が届く。目の前のモサモサ頭の少年もその声に、ハイと慌てたように答えた。なるほど、彼の名前は緑谷くんか。
「あはは……緑谷君だねよろしく。それと嘘じゃないよ。さっき校舎に戻った時見たんだ、バッチリ君のこと見てたの」
あそこだよと指差す校舎の影には既に彼の姿が見えなくなっている。まあ、十中八九隠れたのだろうけど。だけど、その方向を見た彼は最初に話しかけた時と同じようにどんどん顔色が暗くなっていく。
あれ? これもしかして私が悪いかな?
「オールマイトが見てるのに……」
ブツブツと何事か呟く緑谷君。うん、とっても表情が暗い。と言うか、なんだろう怖いよ其のつぶやき。まあ、彼は今もっとも最下位に近い位置にいるのだから仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。私の予想では、緑谷くんよりもマリモ頭の男の子が身体能力的にも危ないと思っていたのだが、反復横跳びがまさかのトップ記録を叩き出したのだ。どういった個性なのかは分からないが応用性はあるのだろう。
それにしても、オールマイトが見ていると伝えて何故自分がと不思議に思わない辺り、私の予想は当たっているのかもしれない。
「でさ、何で緑谷君は個性を使わないのかな? 私が見てる限り、今までの種目一つも使ってないよね? 試験の時の力があれば、間違いなく上位に行けそうなのに」
「それは……僕の個性は」
「それってやっぱり相澤先生に……」
「おい、無駄話はやめろ。次、緑谷だ。さっさとサークルの中に入れ」
タイミングを読まれたように、相澤先生に妨害される。というか、何でそんなに私のこと睨むんですか相澤先生。
「……ごめん九生さん、行ってくる」
「うん、話はまた後でだね。頑張ってー」
緑谷君は暗い顔のまま、それでも何か決意めいた表情を浮かべ、先生からボールを受け取っている。
さて、仮に緑谷君が増強型の個性であるとするならば、残る種目で力を一番ふるえるのは間違いなくボール投げだ。それに、今のところ緑谷君はこれと言った記録を出せていない。なら、聞くまでもなくあの表情は何かしらの個性を使う決心がついたのだろう。
「九生、お前緑谷に何を話してた?」
どうするのかな~と円の中に入る緑谷くんを眺めていたら、先程から私達の会話を邪魔してきた相澤先生が後ろから声をかけてきた。
「何をと言われましても、何で個性を使わないのかなって質問したぐらいですよ? ……相澤先生が止めてたんじゃないんですか?
「俺はアイツに今まで一度も個性は使っていない。だから余計なことを吹き込むな」
ああ、だからさっき相澤先生の名前を出そうとしたら無理やり入ってきたのか。正直先生の個性は使われた本人しかわからないものだ。それを口で伝えられるのを恐れたのだろう。
「じゃあ、何で緑谷君個性使わなかったんですか? 使えば確実に上位に」
「それぐらいは自分で考えろ。まあ、これでどうすることも出来なければアイツは見込み無しというだけだが……」
先生がそう言い終わると同時に小さく舌打ちした音が聞こえたような気がした。それと同時に緑谷くんがボールを投げ、其のボールは遥か彼方に飛んで行くこともなく……
◀46m▶
「九生、お前は少し向こうに行ってろ。俺は緑谷に少し話がある」
たぶん先生は個性を使ったのだろう。落ちるボールを、自分の手を不思議そうにそして、絶望した表情で見つめる緑谷君を見ていた私に、先生はそう私に声をかけ彼のもとに歩いていく。
先生が個性を使用したということは、彼の行動に何か問題があったのだろう。なら、それを先生に言われて考えるのは緑谷くんのお仕事だ。
そっと、視線を校舎の方に向けると、此の様子を見ていたのだろう大柄の不審者と目があった気がするが無視した。
「指導を受けていたようだが」
「除籍宣告だろう」
先生に言われるまま、クラスメイトが集まっている場所に戻ると、それぞれ皆緑谷くんを見ていたのだろう、様々な憶測が飛び交っている。
まあ、正直そう言いたい気持ちもわかる。私も緑谷くんが増強型の個性を持っていると知らなければ、同じ感想を抱いたのかもしれない。
「まあ、此のままだとそうなるかもだよね~。緑谷君、今の所これと言った記録出てないし、個性使おうとして止められてたし」
「はぁ!? さっきから何なんだよ!! アイツが個性を持ってるとか、入試がどうとか、アイツは昔から無個性で此処にいる自体何かの間違いなんだよ!!」
私の発言に入試一位のチンピラもとい、爆豪くんが威嚇するように声を上げた。何をそんなにイライラしてるのだろう。カルシウム不足だろうか?
「昔からってことは、もしかしてあの子と同じ学校なの?」
「知るか、あんな糞ナード」
いや、絶対知ってるでしょ?
それだけ言うと爆豪君は舌打ちし、私たちから少し離れた場所に移動する。それでも緑谷くんの様子をうかがう辺り、何やら複雑な事情でも有るのだろうか。此処で彼に嫌ってるのなら見なきゃいいのになんて言った日にはきっと私に飛び火する気がするのでやめておいた。
「骨折女子、君は緑谷くんが個性を使わない理由に何か心当たりがあるのかい?」
そんな私の様子を見ていたのだろう、Mr.委員長こと、確か先生が飯田と呼んでいた生徒が私に声をかけてきた。
それにしても骨折女子って……。確かに骨折しましたけど。他に呼び方があると思うのだけど。
「私の名前は九生雛花。たしか飯田君でいいんだよね?」
「では、九生君。君の意見を聞かせてくれないか? 何か彼と話していた様子だし、我々よりも彼に詳しいだろう?」
「うーん、これは私の勝手な予想と想像で、確証もないんだけど……それでも良いかな?」
「ああ、構わない。少しでも参考になれば」
「わ、私も聞きたい」
私の言葉に何人か興味があったのだろうクラスメイトたちが集まり始める。爆豪君は流石に来なかったけど、私は此処にいるメンバーに語り始めた。私自身が見た緑谷くんの個性についての感想と考察を。
結果だけ言えば、緑谷君は二回目の測定で個性を使用した。
彼は右手の指だけで個性を使用し、ボールを遠くまで押し出したのだ。ただ押しただけであの距離を飛ばすことが出来る個性ということになる。
もちろん、そんなことをした緑谷くんの指はただで済むはずもなく、遠くから見える其の指はどす黒く変色し、少し角度もおかしいことから骨折もしているのだろう。
「やっとヒーローらしい記録を出したけど……」
「ああ、だがやはり指が腫れ上がっているところを見ると九生くんが行っていたことが当たっているのかもしれないな」
そう言って、私の話を聞いていた数人のクラスメイトが投げ終わった緑谷くんの元に集まった。当の緑谷君本人は痛みに少し顔を歪めつつも、何故皆が集まりだしたのか不思議そうに少し困惑気味に見ている。
「え……皆、どうして?」
「聞いたよ、九生君に」
「っ痛、何を……?」
「君の個性は増強型の個性なんかじゃない。身体を壊すことによって其処に溜め込んだエネルギーを爆発させる個性なんだろう?」
「あ……、ええ!?」
驚く緑谷くんの声が響く。というよりも、否定しない辺りもしかしたら本当に私の推論は当たっていたのかもしれない。
ちなみに私が皆に語った緑谷くんの個性の内容は
「身体を壊すことが発動条件の個性!?」
「いや、正確に言うと使うと必ず体が壊れるけど力が発揮できる個性かも。……本来特殊な個性以外は鍛えなければ強くならないし、増強型なんてそれが顕著だと思うんだ。だからこそ、小学校でも中学校でも個性教育の授業があるわけで」
私の個性の生命力による強化もそうだ。元となる私の基礎身体能力にも依存しているし、これだけの出力を出せるまでになったのは特訓によるものだ。
「でも、個性の中には特定の状況でしか使えない個性や、使用の為には条件が必要な個性があったりするじゃない? 私の個性もそれに近いものだし。中学校の時のクラスメイトなんて個性の使用に他人の血が必要だったりしたし。つまり緑谷君の個性は発動条件付きの個性じゃないかなって。まあ、条件が条件だし、そんな個性だからこそ個性を訓練するにはリスクを伴う。使うたびに怪我するなんて、個性の調整以前に多用できるものでもないし……」
私とはある意味正反対なのかもしれない。私の個性は生命力こそ必要だが、治癒能力も上げて治す事もできる。だけど緑谷君の個性はそういった力もなく、単純明快な圧倒的な力を発揮するタイプだと思う。
それにしても、もし本当に代償が伴うそんな個性でヒーローを目指すつもりなら、きっとこの先も地獄だろう。私みたいに治るから無茶するのと、無茶が出来るけど治らないのではそもそも違いすぎる。
「だから、あの爆豪君も緑谷くんが個性持ってるのを知らなかったんじゃないかな? そんな個性なら無個性ということにしておいた方がいいだろうし。……もしくは本当に、元々本人も無個性だと思っていたのに、あの試験の時誰かを助けようとしたのがキッカケで個性の発動を初めてしたのかもね。たとえば『身体が壊れてもいいと思う』のが発動条件だとか」
そうやって皆に見られながらどや顔で解説を続ける。
因みに此処までの発言はもちろん私が緑谷君や爆豪君を見て感じた予想だ。
彼が個性を使わない私の中で納得できる理由がこれぐらいしか思いつかなかったのだからしかたがない。皆が此方を見ているのも相まって少し誇張して話はしているが、可能性としては無きにしもあらずだと思う。
そもそも個性なんて4歳までに例外なく発現するものだ。あれだけの力が個性でなく、ただの身体能力でやれるわけもない。
ならそんな個性を使わない理由で考えられるのは発動条件の厳しさぐらいのものだ。
「では、先程の緑谷君が個性を使わなかったのは」
「先生に止められたんだと思うよ。……私は詳しくないけど、先生って個性を消せるイレイザーヘッドって言うヒーローなんでしょ? 先生怒ってたっぽいし、腕使えない覚悟で投げようとしたんじゃないかな? 私もさっき少し怒られたし……私はちゃんと考えて個性使ってるのにな~」
飯田君の言葉に、さっき緑谷くんが叫んでいた言葉を思い出し告げる。あれだけ大声で名前を呼ばれたのだから、クラスメイトの間でも個性が消せるという情報は共有されただろうし、怒られはしないだろう。というよりも、私がちゃんと考えて個性を使ってると言ったら何で皆微妙な顔をするんですか?
「でも、先生に個性使用を止められてるなら、このまま最下位になって除籍されるのは……」
無重力個性の子が心配そうに緑谷くんを見ながらそう呟く。
「まあ、此のまま何もしなければね。何方にしろ、さっき個性使用止められてなかったら除籍になってたのは確実だと思うから、そういう意味では先生優しいのかもだけど。だってほら、大怪我なんてしたら絶対残りの試験受けれなかったでしょ? ……まあ、生徒に怪我させたって怒られるのが嫌だっただけかもだけど」
「九生ちゃんはどうなると思う?」
梅雨ちゃんが興味深そうに私に訪ねてくる。きっと此のまま何もしなければという言葉に何かを察したのだろう。
「確実に身体を壊してしまうとしても、考えれば色々方法があるんじゃないかな? 例えば、動けなくなっても問題ないところを犠牲にして……ほら」
私がそう言って、皆に説明をしている途中、緑谷くんがボールを投げる。
そして、其の飛距離を見るや、何人かの生徒たちがすぐに緑谷くんのもとに走り寄っていき
そして、話は戻る
「……お前らもわかっていると思うが、個性把握テスト中に行動不能になるようなやつは、問答無用で除籍処分にするつもりだ。緑谷は動けると言った。だからテストは此のまま続ける。時間が勿体無い、お前らもさっさと次の準備に移れ」
集まった生徒たちに、包帯のような物で爆豪君を拘束している相澤先生が釘を差すように言葉を漏らす。
何故爆豪くんがこんな目にあっているかというと、緑谷君のボール投げのあと激昂した爆豪君が緑谷くんに襲いかかったのだ。だが、緑谷くんが心配で集まっていた周りのメンバーと先生に全力で止められ今に至る。
というよりも、怪我してる相手にいきなり襲いかかるのってヒーロー志望としてどうなのだろう爆豪君。
皆はというと、そんな爆豪君を乾いた笑みを浮かべ眺めながらも、それぞれ次の測定の準備に向かった。
「んじゃ、ぱぱっと結果発表」
そうして、あとは特に何の事件もなく終わった個性把握テスト。
皆、相澤先生の前に集まり其の結果を待つのみであった。
……それにしても、除籍処分と言っていた割になんだか先生の言葉が軽いのが気になる。
「ちなみに除籍は嘘な」
「「………!?」」
そんな中、先生の口から出た第一声がそれなのだから皆呆気にとられ、一瞬で静まり返った。
先生は気にすることなく皆の前で、今回のテスト結果を映像として目の前に展開し、涼しい顔で笑いながら。
「君らの最大限を引き出すための合理的虚偽」
「「はぁーーーー!?」」
「雄英そういう裏かくやり口多くない!?」
まるで示し合わせたかのようにクラスメイトたちが一斉に声を上げる。
まあ、そうだよね。実際私としては予想外だったし。
少なくともウソはつかないオールマイトが除籍処分のことを口にしていたのだから、誰かが除籍になると思ったのに。それとも最下位が緑谷くんだったから?
ダメだ、オールマイトが絡むとどうしても悪く考えてしまう。そもそもあくまで新任教師であるオールマイトに其処までの権限はないだろうし、単純にこれは緑谷くんの努力を先生が評価したと考えるべきだろうか。実際、負傷を覚悟で動ける勇気と、怪我を最小限で抑える方法を考えそれを本当に実行するのはすごく難しいことだろうし。
「あんなのウソに決まってるじゃない……。ちょっと考えればわかりますわ……」
そんな中で、先生と同じく涼しい顔をしながら、私が見ている中でもぶっちぎりトップを突っ走っていたポニーテールの女子が呆れたように言葉を漏らす。
見えている結果発表のトップに書かれている名前は八百万さんなので、多分この子が八百万さんなのだろう。
「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類あるから目ぇ通しとけ」
そう言いながら先生は緑谷くんに保健室の利用書を手渡し、そのまま校舎に戻っていこうとするが
「先生、私達が入学式に出ないことは他の先生方には伝えているんですよね? さっき、他の先生にあって入学式に来ないから心配になったって言われたんですけど……」
「…………」
そんな先生に、質問するように呼び止めた私の言葉など聞こえなかったかのように先生はそのまま歩いていってしまう。
うん、絶対聞こえてたよね? でも、無視ということはやっぱり先生言ってなかったのですね。
さすがに校長先生にはグランドの使用の件もあるし伝えてあるとも思いたいが、それでもそれが許されるほどの裁量を先生が持っているのだろう。さすがは自由な校風が売りの雄英ということか。
いや、自由といっても、教師間の連絡や連携は取り合うべきだと思うのだけど。
「とりあえず、終わったんなら早く教室戻ろうぜ」
そんな先生を眺めていたクラスの誰かがそんなことを言って、それに合わせるようにクラスの皆もそれぞれ着替えに更衣室へと移動を始めた。
「でも、よかったね~。誰も除籍にならなくてさ。さ、早く着替えて私たちも教室戻ろう戻ろう」
「おっと、芦戸さん! 何か大切なことを忘れてないかな? ほらほら、私達三人で取り決めたアレのこと」
芦戸さんの言葉に、さすがに『いや、あの先生は多分本当に見込みなかったら除籍してたと思うよ?』なんて、空気を読めないことはいえないので、小さく頷きつつ話を逸らすように、チラリと梅雨ちゃんに視線を向ける。ふふ、梅雨ちゃんも少しだけ悔しそうに苦笑いを浮かべながら
「そうね。今回は私が一番順位が低かったから……」
今回の個性把握テストでのそれぞれの順位は、私が3位、芦戸さんが10位、梅雨ちゃんが14位という結果になった。
此のテストの途中での約束は『3人の中で順位が一番低かった人が、女子で一番順位が高かった人に学食のランチを奢る』と言うものだ。つまり、今回は梅雨ちゃんが1位だった八百万さんに食事をごちそうするということになる
「梅雨ちゃんもう少し上の順位だと思ったんだけどな~。先生の採点基準ってよくわからないよ。単純に記録だけではないと思うけど」
「ありがとう、雛花ちゃん。けど、テストである以上結果が全てよ。負けてしまったのは悔しいけど、約束は約束だわ」
「けど、あの八百万って子、少し話しかけづらい雰囲気があるよね~」
芦戸さんの言葉に、皆同じことを思ったのかウンウンと頷く。
「……ちょうどいいんじゃない。話しかけるキッカケにはなりそうだし、私もあの子と少しお話してみたいんだ。何食べたらそういう風になるのかとか」
「それもそうね。私も友達はたくさん作りたいもの」
私の言葉をスルーして、普通にニッコリと微笑みながらそういう梅雨ちゃん。
うん、辛くはないよ、こういうのは慣れてるから。それに、梅雨ちゃんの笑顔はかわいくて素敵なので、スルーとかそういうのはどうでも良くなってしまう。
「ならさ、着替えて教室戻ったら三人で話しかけてみる?」
「三人で、まずは囲んで『ちょっと学食まで面かせや?』」
「何で喧嘩腰なの!?」
「……ケロ、雛花ちゃんはまだ副作用か何か抜けてないの?」
「わーい、かまってもらえた! 冗談だよ冗談。けど、それぐらい印象に残ってる方が時間がたってもずっと覚えてもらえそうだし。……まあ、八百万さんタイプの人にそんなことしたらまず嫌われそうだけど」
クスクスとお互い笑い合いながら、私たちは更衣室へと歩いていく。
こうして、私の雄英での初日は慌ただしく終了したのだ。
「相澤くんの嘘つき」
個性把握テストが終わってすぐ、グランド近くの校舎の影で二人の人物が生徒から隠れるように話をしている。
一人は大柄の体にきっちり合わせたオーダーメイドの派手なスーツを着た男、オールマイト。そして
「オールマイトさん見てたんですね。暇なんですか?」
そしてもうひとり、声をかけられた黒く無精髭を生やした男、今まさにテストを終え職員室に帰ろうとしている相澤がめんどくさそうにそれに答えている。
そんな相澤に構わず、オールマイトは嬉しそうに言葉を続けた。
「『合理的虚偽』って!! エイプリルフールは一週間前に終わってるぜ」
「……エイプリルフールといえば、ジャストワンさん、謝罪会見見ましたよ?」
ジャストワンとは、エイプリルフールにオールマイトが4月1日限定で改名した時の名前だ。ただ、公式で告知したその日のうちに、『平和の象徴が改名は不味いだろ』『ジャストワンとかイミフ』などの非難が轟々で、其の日のうちに謝罪会見が行われた事件である。
「あ、いや……恥ずかしい。なんだか今日の相澤くんはいつも以上に話しかけづらいな」
「そういうのは本人の前で言わないほうが人間関係を気づいていく上で合理的だと思いますよ? それで、何が言いたいんですか? オールマイトさん」
オールマイトの軽いジョークを気にすること無く、相澤はオールマイトの方をみ、話を促す。其の様子にオールマイトは一度咳払いをしてから
「いや、見込みゼロと判断したら、迷わず切り捨てる。そんな男が前言撤回っ! それってさ、君も緑谷くんに可能性を感じたからだろう?」
「……君も? 随分肩入れしてるんですね……? 先生としてどうなんですかそれは」
「ああ……それは九生君にも言われたよ。本当に痛いところをついてくる」
「緑谷については少なくとも、ゼロではなかった。それだけですよ」
「……ところで、その九生のことですが。オールマイトさん、彼女については昔から知っているんでしょう? 入試の時、実技テストで眼で追いかけてたのは、其の二人でしたから」
「本当に、よく見てるね相澤くんは」
「それで、なんなんですか? 九生の個性は」
「ん? 何のことだい?」
「見てなかったんですか? 九生は自分の個性が身体能力の活性化だと言ってますが、それだけじゃあ説明できないことだらけなんですよ。活性化による身体能力の強化と言っても、アイツがやっているのはどちらかと言うと、身体のリミッターを外して力を出しているだけで、個性による強化なしでもある程度力が出せている……」
「ああ、それは私も気になっていた。私が彼女と出会った時の彼女は、もっと別の個性のように感じたからね」
「なら、顔見知りのオールマイトさんが九生に直接個性について確認お願いしますね。出来れば各々の先生方にも周知できるように資料の作成も先生の仕事としてお願いします」
それだけ言うと相澤は職員室に戻っていった。一人残されたオールマイトは
「何ていうか、気まずくて話しかけづらいなんて理由じゃあ、先生としての仕事と言われると……断れないじゃないか」
それだけ呟くと、近くで聞こえたオールマイトがいるぞ!という声から逃げるように彼もまた職員室へと帰っていった
誤字脱字報告感謝。そして、師走でまとまった時間文章を書けなくなったので、見つけ次第直していきますが、わかりにくい場所などあれば報告ありがたいです。
今回の話ちょこっと、主人公の話がそんなにないので此のままで良いのかと迷い迷って今に至ります。
因みにテスト順位は
1位 八百万 百
2位 轟 焦凍
3位 九生 雛花
4位 爆豪 勝己
5位 飯田 天哉
6位 常闇 踏陰
7位 障子 目蔵
8位 尾白 猿夫
9位 切島 鋭児郎
10位 芦戸 三奈
11位 麗日 お茶子
12位 口田 甲司
13位 砂藤 力道
14位 蛙吹 梅雨
15位 瀬呂 範太
16位 上鳴 電気
17位 耳郎 響香
18位 葉隠 透
19位 峰田 実
20位 緑谷 出久
強化型の特性上、記録的には爆豪くんには勝てていると思っての此の順位ですが、多分此のテスト個性をどう応用するかも見ていると思われるのでなんともいえません
(蛙吹さんのほうが、身体能力的には芦戸さんに勝っている競技も多そうだし)
佐藤くんの順位も考えると謎だったりしますし
ネタバレすれば、テストで勝ったので爆豪くんに目の敵にされたいという理由も少なからず