ぬら孫短編集   作:sairu

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ゆら→夜若
一つから二つへ


予備

「はぁ…はぁ…はぁ…」

夜の廃墟に悩ましげな息遣いが響く。

だが女性特有の妖艶な息遣いでは無く、少女の今にも死にそうな息遣いだ。

事実

その音を発している少女は廃墟のボロボロになった部屋の中心、大の字に仰向けで倒れていた。

少女の着ている和服?もこの廃墟に負けず劣らずボロボロであちらこちらが擦り切れている。

夜中に廃墟で仰向けに倒れている少女、これだけでも色々と危ない感じがするが、あたりに少女以外人はおらず

特に何かがあった形跡はない。

 

では何があったかというと、少女の手の近く落ちている人型の紙や、所々焦げている壁を見るに、どうやら修行をしていたようである。

人型の紙を使った攻撃を行う、おおよそ現代には似つかわしくない職業は一つ。陰陽師だ。

平安時代から妖怪退治を生業としてきたこの一族は本拠地を京都に置き、名を花開院家と呼ぶ。

妖怪など現代では全く見られないが、退治する一族がいる以上存在するのであろう。

だからこそ、今現在花開院家の少女はこんなにも疲弊するまで修行していたのだ。

「うう……動けない…」

少女は空に向かって呟いた。

当然空に浮かぶ星は返事をしてくれるわけもなく、少女自身もそんなことを期待して言ったわけではない。

ただ心の中で言おうとしていた言葉が、口から洩れてしまっただけだ。

本来はこんな予定ではなかった、夕飯を食べた後食後の運動もかねて、陰陽師の修行をしていたのである。

これはもう日課なので、切れのいい時に終わりにしようと思っていた。

だがなぜか今日に限ってすこぶる調子がよく、遠距離攻撃も百発百中、式神同士の連携もまさにパーフェクト。

ゆえに自分の精神力を鑑みておらず、気付いた時にはすでに遅く精神力が枯渇し、床にぶっ倒れていた。

 

 自分は精神力むっちゃあるから平気や…などと考えて式神を出しまくっていた自分が恨めしい

 

後悔したところで現状よくなるはずもなく、ただ時間だけが過ぎて行く。

精神力は体力と違い、少し休めば多少は回復するといった物では無い。一番良い回復方法は寝ることなのだがさすがに、

このような所で無防備に寝るわけにもいかない。このまま倒れていれば数時間後には動けるだろうが汗まみれのこの格好では

確実に風邪を引くだろう。

 

 

「ゆら?こんなところでなにしてんだ?」

 

 

ゆらと呼ばれた少女が悶々と無駄な思考をしていると、頭上から男の声が聞こえた。

ゆら自身動けないので顔は見えないが、この憎たらしい声には覚えがあった。

 奴良リクオ

大妖怪ぬらりひょんの孫でゆらの学友でもある奴だ。

昼間は人間で、ものすごいお人好し、かついい奴なのだが、夜は妖怪になりどうしようもなくむかつく奴に変化する。

 

事実その通りだ。

リクオは以前ここに来たことがあり、周りにあるものから、ゆらが何をしていたのかなどとっくにわかっているはず。

だが彼はあえて聞いてきたのだ。

ここで素直に修行のやりすぎで、疲れて動けないから助けてくれと言えば、助けてはくれるだろう。

しかし

ゆらは陰陽師のプライドから言えなかった。

敵である妖怪に助けられるなど言語道断だ。すでに何回も助けれているので今更な感じがするが、なんとなく癪だったのだ。

なので口から出た言葉は

 

「て…天体観測や…」

 

だった…

言った瞬間にゆらはどうしようもなく後悔した。

今の自分を見て、天体観測をしている人と素直に認める人は、確実にいないだろうそれぐらい自分でもわかる。

だがいつも頼りになる自分の素晴らしい頭脳は、そんな答えしか導き出せなかった。

 

ゆらは、これからからかわれる事を覚悟しつつ顔をしかめるが、リクオが発した言葉は意外なものだった。

 

「そうか…今日は星が綺麗だからな」

 

聞こえてくるリクオの声は、人をからかう様なムカツク声だったが言ってる事はまともだった。

だからこそ理解できない。あのリクオがこの状況の自分をからかわないわけがない。

そんなむなしい自信が意味もなくあった。

ゆらが悩んでいると

 

「じゃあな、風邪引くなよ」

 

リクオはそう言って、ゆらがいる廃墟から出るために歩き出す。

 

 口調は相変わらずだが、自分を心配してくれる。夜の奴良君もいいところあるな~

 

ゆらがリクオに対して認識を少し改めていると、不意に気が付く。

リクオが此処からいなくなってしまうと自分がどうなってしまうのか、リクオが来る前に悩んでいた事がリクオの去り際の言葉により

浮上してきた。

そしてあの、人をからかうのが生きがいのアイツが、素直に自分の前から消えた理由がハッキリとわかってくる。

 

「ちょっと待てや~~~~~~~~!!」

 

自分の視界にリクオは居ないが、絶対に近くにいるあの妖怪に怒りを込めて叫んだ。

 

「ん?どうしたゆら、なにか用事か?」

 

まってましたと言わんばかりのタイミングで、リクオが先程と同様ゆらの頭上に現れる。もしかしたらずっと居たのではないかと思わせる早業である

 

「俺は星座はわからねぇぞ」

 

聞いてもいないのに、ぬけぬけと言ってくる。そもそも天体観測をしていない事はわかっているはずなのに、だ。

 

「助けてや…」

 

ゆらがリクオから目を逸らし、俯きながら呟いた。プライドが邪魔をしてか細くなった声も静かな廃墟にはよく響く。

当然ゆらの頭上にいるリクオはその声を聞いていたのだが

 

「ん_?何か言ったか?」

 

こうのたまった。これにはさすがのゆらも酷使し疲労した体を気にせず叫ぶ。

 

「助けてって言ったんや!わかるやろ!?私の声聞こえてるやろ!?なんで聞き返すん!?普通女の子が倒れてたら優しく介抱するのが

男ってもんやろ!それなのにアンタときたら!!!」

 

「わ、わりぃ…」

 

体をむりやり起こしリクオの方に向けて、顔を真っ赤にして言葉の嵐を浴びせるゆら。これにはさすがのリクオも驚いて謝罪する。

叫び終えたゆらの体が傾く、それをリクオが支えゆらの顔がリクオの胸にあたる格好になる。

 

「はぁ…はぁ…最初から…これぐらい優しくしてや…」

 

「…………」

 

ゆらの言葉にリクオは返事をしなかった。そのかわり自分の口に自分の指を当て音を鳴らす。

甲高い音が廃墟に響いた後どこからか空を飛ぶ妖怪が現れ、リクオとリクオに抱きかかえられているゆらを背中に乗せる。

ゆらは自分の現状を見て、先程とは違う理由で顔が赤くなるのを感じた。

今だけだと心に言い聞かせながらも、長くそうしていたいという思いを感じ、それを紛らわすために顔を埋めてリクオの脈拍をただ聞いていた。

しばらくリクオの体温を感じていたゆらだが、不意に行先が気になりリクオに尋ねる。

 

「ねぇ奴良くん…どこに向かってるん?」

「ん?俺ん家だ」

「え…あの妖怪屋敷!?」

「失礼だな…間違っちゃいねぇが俺の家だ」

 

ゆらはリクオに行先を聞いて驚愕した。陰陽師である自分が大妖怪であるぬらりひょんの家に行くわけにはいかない。

もはやいまさら過ぎる事だが、陰陽師である事に誇りをもっているゆらにとってはかなり重要な事であった。

だがこの行先については仕方がなかった。リクオはゆらの家を知らない。だから休める場所といったら自分の家しか思いつかなかったのだ。

まぁたとえ知っていたとしても、連れて行く気がするが…

 

「私の家に帰してよ!教えるから!」

「はぁ…しゃ~ねぇな~」

 

意外にもリクオはしぶしぶだがゆらの提案に乗った。どういう下心があるのかは知らないが、ゆらにとって自分の家に帰れるのはかなりいいことであった。

そうしてリクオは行先をゆらの家にかえた。

 

 

 

~~~~由良の家~扉前~~~~~~~~

 

「ここにカギが入ってるはずや…とってくれん?」

「ん…ここか?」

「あ、阿保!どこ触っとるんや!もっと下や!」

「下ね…」

「下過ぎるわ!!顔蹴ったろか!!」

 

~~~~side out~~~~~~~~~~~

 

 

 

「あ~~~…ひどい目にあった」

「全くだ」

 

ゆらの家の中二人がぼやいている。何故かリクオの顔には痣があるのだが、ゆらはそれについてふれなかった。

ゆらはベットにもたれ掛かりながら、不審な行動をしているリクオと話す。

 

「で…なんでまだおるん?」

「ん?せっかくゆらん家に来たから少し物色しようかなと」

「女の子の部屋物色するなんて、変態やな…」

「はっ大したもの無さそうだけどな…つか意外に片付いてるんだな。イメージ的にはもっと散らかってるイメージがあったんだが…」

「アンタも結構失礼やで…」

 

自分の家に帰ってきて気が抜けたのか、ゆらの元気が無くなっていくというより睡魔が襲っているようだ。

逆にリクオは元気いっぱいに散策しているが…

 

「ん?…これは…」

 

リクオは何かを見つけたようで、散策を止めた。

うとうとしていたゆらは、リクオが出した物音に意識を少し覚醒させリクオの持っている物を見た。

 

「あ~~~~~~~~~~!!」

 

その直後ゆらの悲鳴に近い声が部屋の空気を震わせる。

リクオが手にしていたのは特製ケーキと書かれた箱とその中身だ。見るとすでに1/3は食べているようで口周りに少しクリームがついている。

 

「わ…私の大切にとっておいたケーキが…」

 

箱から察するにコンビニのケーキだろうが一人暮らしのゆらにとってケーキは意外に高いものなので一つで我慢していた。

さらに大切にとっておいたということで絶望感がさらにのしかかり、その怒りは当然リクオに向く

 

「な。。。なんてことしてくれたんや!!私のケーキやで!」

「何って…俺が何の妖怪だか知らないわけないだろ?」

 

ゆらはリクオに大激怒してるが対するリクオはどこ吹く風だ。

 

ぬらりひょん…どこからともなく家に入り込み、お茶等を啜って帰っていく妖怪

 

「全然隠れてないやん!むしろ堂々として「え?何?」みたいにしとるやんか!」

「まぁ1/4だからな、そういうこともあるさ。気にすんな。俺は気にしない。 ついでにもう無いのか?これうまいからもう一つ食いたいんだが…」

「あんたが気にせんでも私は気にするわ!!それにもう無い!あったとしてもあんたにはやらん!!さっきから変な事ばっかしくさりよってからに…さっさと出てけ!!」

「ごくん…と。へいへい。邪魔したな。また来るわ」

だべかけのケーキを最後まで食べつくし、ゆらの剣幕にも動じず玄関の方へ笑いながら歩いていく。

それが更にゆらを怒らせた。

 

「っ二度とうちに来るな!!」

 

近所迷惑も気にせずに出ていくリクオに言い放つ。

たしかに送ってくれたりと色々してくれたが、最後はあんまりだった。リクオが帰った後ゆらの部屋はものすごく静かになる。

ゆら一人しかいないので当然、なんとなくさびしいような気がするが、そんなことは無いと頭を振り重い体を風呂まで運んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――特製ケーキ二つ。以上ですね。はいどうぞ」

 

「おおきに~」




ここまで読んでいただきありがとうございました。
どうでしたか?ぬらりひょんの孫をずいぶん長い間見ていないので口調にてまどりました。
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