ありふれたぐうたらで世界最強?   作:makky

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第1章『始まりの物語』
1:前置きとしての話的な


 左腕の感覚はない

 肘から先は無くなってしまっていた

 

 感じる熱波はデカブツのものだろう

 顔だけでなく身体中が熱く感じるほどの

 

 遠くから聞こえる自分を呼ぶ声

 聞きなれたその声に返すことなく

 

 冥府の底へ降りていくように

 俺、南雲はじめはここまでに至る走馬灯を思い起こした

 

――――――――――――

 

「あー…眠い。朝はどうして眠いのだろうか」

 

 月曜日の朝、サザエさん症候群に悲鳴をあげる体にむち打ちながら俺は高校に登校する

 

 日付を跨いで眠ったことは仕方ないとして、一応五時間睡眠時感を取ったと言うのに眠い

 人間、眠ろうと思えばいくらでも眠れるのではなかろうか

 大学入試の足音が近付きづつある高校二年生、内申と言う言葉を気にするもので、授業は休まず眠らず参加をモットーにしている

 

 そんな息の詰まる高校生活でも、気の通い合う友達をたくさん作れる――そう考えていた時期が俺にもありました

 そんな砂糖にメープルシロップとかき氷シロップと生キャラメルをかけたような甘い考えでは高校の荒波を乗りきれないことを、入学一週間で思い知った

 大してコミュ能力を持っていなかった俺は一週間でクラスから孤立し、どこからバレたのか見当もつかない(スットボケ)オタク趣味のため一部のアホ、もといクラスメイトからいじめのような、からかいのような何かを受けている

 暴力は受けていないが、正直言って俺なんかに絡んでも面白くもなんともないと思うんだが

 

 まあとにかく、クラスの中では微妙な立ち位置にいる

 しかし友達、まあよく話をするクラスメイトがいないわけではない

 たとえばそう――

 

「南雲くん、おはよう!」

 

 同学年1、2を争う美人女子とか

 

 はっはっは、そう僻むではない

 俺自身夢か幻か、罰ゲームでやってんじゃないかって思うくらいによく話をしてくる

 顔面偏差値を普通と断言できるほど顔に自信がないし、かといってコミュ能力は先述した通りほぼゼロなもので、彼女と接点を持つ自体あり得ないはずなんだ…本当なら

 

「おー…おはよう白崎」

 

 そんな朝から元気一杯に挨拶をしてくれた女子、白崎香織(しらさきかおり)に気だるそうな挨拶を返す

 ぐうたらを自負してはいるが、挨拶を返さないほどシツレイなことはしない

 アイサツは大事、古事記にもそう書いてある

 

「朝から元気がないね、昨日寝るの遅かった?」

「んー?あー、まあ日を跨いで寝るくらいには夜更かしを」

「もーダメだよ南雲くん!夜更かしは不健康の元だよ!」

「俺の母さんと同じこと言うな、白崎は」

 

 家の母親は夜更かしはやめろ、とは絶対言わないしそこは自己責任と思っているらしい

 しかし釘刺しで健康面を引き合いに出して、遠回しに早寝を促す

 仕方ないじゃんちょうど密林に頼んでいたハートフルボッコ魔法少女の劇場版DVDが届いたんだから

 

「お、お母さんだなんて…も、もう南雲くんったら!」

「えぇ…怒られるの俺?」

 

 プリプリ怒りながらも、どこか嬉しそうに見える白崎

 アーナンデウレシソウナンダロウナーヨクワカラナイナー

 こういったこともいじめとハブりの原因なんだ、でも善意100%だから何も言えないんだよ

 高嶺の華と言うか、さながら天使と言うかまあ人気の理由はそれだ

 だけど頼むから生徒の中で『二大女神』とか言う全身痒くなるような二つ名を付けるのはやめて差し上げろ

 

「朝から夫婦漫才?仲が良いわね相変わらず」

「バーロー、んなんじゃねぇよ」

「そ、そうだよ雫ちゃん!夫婦だなんて…夫婦…えへへ」

 

 自分の世界にトリップしている白崎は置いておいて、その中二なネーミングのもう片方、八重樫雫(やえがししずく)に見た目が子どもな名探偵風な返しをする

 誰とでも仲良くなる白崎に対して、大人びいた風貌であることから影で『御姉様』と呼ばれていることは本人の知り及ばないところである

 ひまわりと薔薇と表現するやつもいるがこれ以上傷口を広げるのはモウヤメルンダ‼

 

「うふふ、冗談よ冗談」

「だろうな、お前はそういうやつだよ。つーか珍しいなこんな時間に、八重樫一人か?」

「あら、私が一人で登校するのはおかしい?」

「いやいつも一緒の天之河はどうしたんだ?あとあいつのお供は」

「今日は早く行く予定だったから、先に出たのよ」

 

 普段登校経路の関係でほぼ毎日一緒に登校している天之河光輝(あまのがわこうき)と、その親友の坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)はどうやらあとから来るらしい

 

 天之河光輝はザ・馬鹿正直な人間で、自分の正義を頑として曲げない面倒臭い性格の持ち主だ

 白崎と八重樫とは仲が良いんだが、俺と話をしていると必ずと言って良いほど話に入ってくる

 それも俺をディスってである、自分が完璧超人だからっていちいちディスられてもねぇ…

 

 坂上龍太郎は熱血と言うか暑苦しい人間だ

 見た目は脳筋、頭脳も脳筋なもんで細かいことなどお構い無し

 とりあえず当たって砕けるを信条にしている

 ぐうたら主義な俺とはとことん馬が合わず、嫌いと言う感情を隠しもせず関わってくる

 

「ふーん、八重樫でも早く学校行く予定とかあるのか」

「私としては、なんの理由もないのに始業一時間半も前に来る南雲君が不思議なんだけど」

「え?授業開始ギリギリまで寝れて遅刻しないですむからだけど?」

「…想像より酷い理由だったわ」

 

 うっかり寝過ごすこともないし、時間を気にして家をでなくてもいい、なんて的確で冷静な判断力なんだ

 ぐうたらを極めると始業一時間半前に登校できるようになるんだよ?

 

「そんなことはどうでもいい、重要なことじゃない」

「突然濃霧を出さないでほしいんだけど…まあいいわ、それで?」

「一時間半前に登校しているのに毎日必ず白崎と会うんだ、これバレたら血祭り案件だよな?」

「とても今更な疑問で、とても今更だけどそうでしょうね」

「dsynー」

 

 いまだに自分の世界にトリップしている白崎をちらりと見て、万に一つばれたときの高校生活の惨状を思い描く

 全員から無視されて僻みの連中にいじめられて、白崎と八重樫とは話をしてーー

 

 …おかしい、現状となにも変わらないじゃないか

 

「一時間半前登校誰にも言ってなかったんだけど、どこから漏れたのかを知りませぬか八重樫嬢」

「さぁ、ね。ただ一つ言えることは、それを教えた人はお節介妬きな人でしょうね」

「(じーーーーーーーーーっ…)」

「ふふふ♪」

 

 や っ ぱ り お ま え か

 

「気付いている癖に無視している方が悪いと思いまーす」

「アーアーキコエナイキコナイ、よしんばそうだったとしてもどうしてそうなるのか理由がわかりませんので」

「…はぁ、前途多難ね香織」

「えへ、えへへ…え、何が雫ちゃん?」

 

 そこでようやく戻ってきた白崎が名前を呼ばれた事を不思議に思う

 自惚れるつもりはないが、朴念仁になったつもりもない

 クラスでハブられている人間と毎日登校して、学校でもよく話をすれば嫌でも気が付くだろう

 それが特に美女と呼ばれるクラスメイトであれば尚更だ

 だが理由がわからない、先に述べた通り自分のランクなんて中の下くらいと主観的判断を下している

 おまけにオタク趣味者だ(重要)

 そして彼女の周りには天之河を初め、顔よし学よしスポーツよしの連中が集まってくるのだ

 選り取り緑なのにこっちを向く理由がわからない

 

「逃げるのは格好悪いわよ、南雲君」

「…釣り合いって大事だと思わないか八重樫」

「それを決めるのは、一体誰かしらね?ふふふ」

「?」

 

 小首傾げる白崎

 逃げ、ねぇ?

 今更だな、散々嫌なことから逃げてきた自覚はあるんだから

 

 

――――――――――――

 

 教室に入ると、そこは無人だった

 毎日そんな感じだ、誰もいない教室に最初にやって来る

 これがテスト前とかになると頭脳派クラスメイト数名がいることもあるが、今の時期は朝練とかで荷物だけおいてあるのが日常だ

 

「と言うわけでおやすみ」

「待ちなさい南雲君」

 

 席についてさあ寝るぞ、と意気込むとそこに待ったがかかる

 

「なんだよ八重樫。俺は夢の中で放射能まみれになった地球を救うために宇宙戦艦に乗るんだ、邪魔しないでくれ」

「リメイク出て嬉しいのはわかるけど、さすがに香織放っておいて寝るのは許容できないわ」

 

 賛否両論あるけど、俺は好きだよリメイク版

 

「えー…いつもこんなんだけどな」

「…ちょっと待ちなさい。私の聞き間違いじゃないのなら、あなた毎日香織放って寝ているの?」

「だからそうだって」

 

 その返答に一瞬頬をひきつらせる八重樫、すぐに白崎に向き直る

 

「香織、一緒に登校してからはこの教室であなた何をしているの?」

「えー、雫ちゃんそれはちょっと…」

 

 何故かもじもじしだす白崎、仕草も可愛い

 …邪な考えは捨てよう、身の程大事

 

「その、ね?南雲くん寝顔がとってもかわいくてね?こう、見とれちゃうというか…」

「…聞いた私が間違っていたわ」

 

 額に手を置く八重樫、さすが対天之河苦労人ポジション

 あと白崎さん?それ初耳なんですけど?てっきり一人で勉強でもしているものだと思っておりましたよ?

 すごい恥ずかしいんでスコップで穴掘ってもいいですかね?

 

「…今後は寝るのを控えるように」

「大変遺憾ではありますが誰かが登校してから寝るようにいたしますはい」

「えー!ダメだよ南雲くん!」

 

 何故に寝る寝ないを他人に決められなければいけないのか、疑問に思った時点で負けである

 

「うーんだとすると早く来る意味がなくなるな」

「香織と話でもすればいいじゃない」

「具体的には?」

「趣味の話とかよ」

「…非常に申し上げにくいんですがね八重樫さん」

「何かしら」

「これ以上純白のキャンバスに黒い絵の具を塗りたくるのは嫌なんですけど」

「安心しなさい、キャンバスの方から絵の具に飛び込んでいるから」

「もう手遅れだったか…」

 

 俺の趣味はオタクのそれだ、後は分かるな?

 そう、クラスの連中にオタク趣味がバレたのは、他でもない白崎が原因である

 原因と言っても切っ掛け程度のもので、元々適当な話のなかに見ていたアニメの話をして、白崎が八重樫と話をしているときについうっかり「南雲くんの好きなアニメのキャラがねー」と口走ってしまったのが始まりだった

 すぐに八重樫が黙らせたが、時すでにおすし

 今では立派なオタクのレッテルを張られております

 

 そして何故か知らないが(強調)、白崎もいろいろなオタク趣味に手を出しているようだ

 八重樫といろいろお勉強しているらしく、はっきり言ってバレたら阿鼻叫喚の大惨事待ったなしなのである

 

「なんなら私も付き合うわよ」

「やめてくれ火炙りのあとに縛り首にされる趣味はないんだよ」

「比喩なのかそうでないのか悩ましいところね…」

「わかってるんならどうにかしてくれませんかね原因その1」

「できる範囲の事はしているつもりよ?」

 

 効果が出ていないから言ってるんでしょうが

 

「趣味って言ってもなぁ…広く浅くだから話す内容が薄いぞ」

「いいじゃない、話せる範囲で。話なんてそういうものでしょう?」

「わ、私は南雲くんとお話出来れば…」

 

 え、いつの間にかオタク話する流れになってるけどマジで言ってる?

 

「あーじゃあ最近はまったアニメの話でよければ…」

「うん!してして!」

「ふふふ嬉しそうね香織」

 

 学校のトップ2美人女子とオタク話とかなにそれ怖い

 だが逆に考えるんだ、これで時間が潰せるんだと

 そう思っていたのだ…

 

 

 

 

 

 

「だーかーら!主人公は一人の親友の為だけに時間逆行繰り返した、謎の転校生でいいじゃないか!」

「何を言っているの?その子のために宇宙を作り替えた女神こそ真の主人公でしょう?」

「二人とも分かってないよ!宇宙の寿命を伸ばすために四苦八苦している白いマスコットキャラこそーー」

「「いやそれはない(わね)」」

「まさかの即答?!」

「あいつは因果率を弄ってでも消滅させるべき敵だ」

「純真無垢な少女を騙して悪びれもしないなんて外道以下よ」

「もー!感情を持っていない子達にそんなこと言わないであげてよ!」

 

 さらっとアニメの概要を話して、『謎の転校生が主人公』と説明したら二人から待ったがかかった

 何を言っているのかわかんねぇと思うが、俺も何があったのかさっぱりわかんねぇ

 もっと恐ろしい(ry

 

 話しているうちに嫁論争が始まることが多々あるオタク話、まさかこんな形で実体化するとは

 

「そう、だから…ん」

 

 話を続けようとするが、どうやら今日はお開きのようだ

 

「どうしたの南雲君?」

「二番乗りが来た、俺は寝る」

「えーもうそんな時間なの…」

 

 廊下を歩く音が近付いてくる、俺はさっさと寝る体勢に入る

 

「はぁ、気にせず別の話をすればいいのに。仕方ないわね、また早く来たときは話をしてくれればいいわ」

「出来ればしばらく無い方がいいな…」

「明日からは香織と話をしなさいよ」

「前向きに検討させていただきますムニャムニャ」

「漫画みたいな寝言だね南雲くん、ふふ」

 

 もう言い返す気力もない、このまま授業開始まで夢の世界への旅に出よう、ぐうぐう…

 

 

 

 

 

 

「…事前の情報が役に立ったわね」

「うん、ありがとうね雫ちゃん」

「いいのよ、親友の恋の成就の為ですもの」

「あはは、まだまだだけどね」

「半分堕ちているようなものよ?あと一押しあればーー」

「そうだね、まだ半分しか振り向いてもらえてないんだね」

「…相変わらず石橋を叩いて渡る性格ね」

「えへへ、それくらい好きって事なのかな?よく分かんないんだ」

「私もそういう相手がいないから、はっきりとは言えないけどここまで相手のためにできるなら、それはきっと恋よ」

「私、頑張るよ。絶対振り向いてもらうんだから」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 授業前ぴったりに目を覚ますことは意外と難しい、そして今回は20分ほど早く起きてしまう

 すごくもったいないが潔く起きる、もうクラスは全員揃っているようだった

 

「あー、しんどい…」

 

 ボソッと小声で呟いて一時限目の準備を始める

 寝起きはつらい、一時間程度ではやはり足りないようだ

 今後はしっかりと睡眠時間を確保していきたいと思います

 と決心しても、新しいアニメやDVDが出れば反故にされるので決心しない

 

 授業前ではあるが時間はあるわけで――

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

 アホ四人組に絡まれる訳である

 

 こいつらが何かにつけて弄ってくる面倒臭いクラスメイトで

 主犯格の檜山大介(ひやまだいすけ)

 その取り巻きの、斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ)が続く

 

 もういちいち言い返すのも面倒臭いので、一時限目の数学の教科書とノートを確認する

 

「ねーねー南雲くん、ちょっといい?」

「おう、どうした白崎」

 

 そうこうしていると白崎が席までやって来る

 バカにしていたアホ四人組は何食わぬ顔で離れていった

 離れていったのだが蔑みの目でしっかりと睨んでくる

 檜山に限っては卑下た目をしている、いやー人気者と一緒にいるのは辛いなぁ

 代わってやってもいいぞこの野郎

 同じような目をしてるクラス中の男共もいいぞ、この境遇が羨ましいと思うのなら好きなだけ代わってやるよ

 

「今日の一時限目の数学、小テストするの聞いてる?」

「小テスト?言ってたっけそんなの」

「私聞いてなくて、しかも二学年の成績に加算するって隣のクラスの子が言ってたの」

 

 その言葉にピシッと固まるクラス

 

「あーそれは抜き打ちテストだな、それも成績加算となると結構面倒なやつだ」

「やっぱり?どうしよう、範囲とかわからなくて」

「白崎が知らないのに俺が知ってるわけないじゃん」

 

 俺は大学に入れる程度の成績を維持できればいいんだ、抜き打ちテスト程度で単位を落とすほどの減点は無いと思うのでやる気が起きない

 だが他のクラスメイトは違うらしく、慌てて教科書やノートを広げて勉強を始める

 そういうのを付け焼き刃って言うんだろうな

 

「どの辺が出るとか、分かんない?」

「俺に山かけ頼むのかよ!そういうのは頭のいい奴に聞いてくれ、八重樫とかにさ」

「雫ちゃんにはこの前勉強教えてもらったばっかりだし、友達だからって何度も聞くと失礼な気がして」

 

 いや大丈夫だろ、あの八重樫だぞ?

 白崎が例え毎日勉強教えてと頼んでも、必ずしっかりと教えてくれるであろう八重樫だぞ?

 俺なんかより知識を持っている八重樫の方が適任だろ常識的に考えて

 

「お願い、できない?」

「ぬ、ぬぅ」

 

 だからその上目遣いで頼むのはやめてくれ

 

「…小テストなんだから、前回の授業内容のおさらいとかになるんじゃないのか」

「前回の授業?…あ、そっか」

「んで前回は三角関数に入ったからその辺りじゃないか」

 

 抜き打ちテストでいきなり今までの範囲全部は難しいし、どこかを切り抜くなら前回の復習をかねてやるだろう

 何よりテストを作成する先生としても作りやすいのだから

 

「教えてくれてありがとう南雲くん!じゃあーー」

 

 感謝の言葉をのべて、机の上に数学の教科書とノートを広げる白崎

 なにしてはるんどすかえ白崎さん?

 

「一緒に勉強しようよ!」

 

 ――その行動力は称賛に値するよ、こちらの拒否権は聞くつもりが無いらしいが

 正直テストがあろうがなかろうが勉強する気は無かったんだが、白崎は既成事実として勉強を始めるつもりらしい

 

「えー…面倒臭、いぃ?!」

 

 ストレートに断ろうとすると、左側からすさまじい寒気を感じる

 目線だけ動かすと、目だけが笑っていない満面の笑みの八重樫がいた

 

 こいつ…嵌めやがったな!!

 

 だがもう遅い、白崎が八重樫に聞かなかったのは先に八重樫本人に聞いてそう言われたからだろう

 小テストの情報も、範囲の問答も、強引な勉強会も、全てはこの時のためにあったと言うことか

 ちくしょう…ちくしょうっ‼

 

『しっかりと教えてあげてね?』

 

 口パクでそう伝えてくる八重樫、少しだけ顔を動かし

 

『覚えておけよお節介焼き』

 

 しっかりと伝えるべきことを伝える、口パクで

 どうやって復讐してやろうか…

 そんな邪な考えをしてると

 

「香織、それだったら僕らと一緒に勉強しないか?」

 

 救世主、なのかどうかは不明だがクラス人気ナンバーワン男子の天之河が白崎に話しかけてくる

 横にはちゃっかり坂上もいる

 

「やる気のない人間とするよりも効率はいいだろうし、香織がわざわざ世話を焼く必要は無いんだよ?」

 

 わーるかったなやる気のない人間で、一言二言余計なんだよ

 

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 やる気の有無で人の好き嫌いを決めている君には言われたくないな

 

「ふぁぁぁ…」

 

 やばい眠気が戻ってきそうだ、授業中寝るのは回避しなければ

 

「もう勉強したいなら勉強したい者同士ですればいいじゃないか、俺はやる気出ないからパスで」

 

 これ幸いにと天之河たちになすりつけることにした

 絶対零度の視線が突き刺さるが知った事ではない

 

「えー一緒にやろうよ南雲くん」

 

 なおも食い下がってくる白崎、申し訳ないがやる気スイッチがオフになったので

 

「そもそも抜き打ちテストだからって慌てて復習するのもなんだかねぇ…」

 

 テストやレポートがあるから予習復習するなんて本来は間違ってるはずなのだ、日頃の積み重ねが大事なのだ

 決して直前に山のような過去問するのが面倒くさいからでは断じてない

 

「ま、とにかくパスで」

「むーーーー…」

 

 頬を膨らませて抗議してもダメ

 ほとんどの男子と一部の女子からすさまじい視線の嵐を受けながら、机に肘をついて授業開始を待つ事にする

 やる気のない人間に無理やり何かさせたって失敗するもんだよ?

 だからはじめっからしない事にしよう、そう心に決めてるのだから

 

――――――――――――

 

「あなたには失望したわへたれ星人」

「うるせぇお節介焼き星人」

 

 午前中の授業が終わり、昼休み時間に入るとすぐ八重樫の圧迫面接を受ける

 色々下準備までしたのにご愁傷様です

 

「たかが20分程度の勉強でさえ理由見つけて回避してくるとは、この私の目をもってしても見抜けなかったわ」

「節穴乙、それに今回は天之河たちが話し掛けてきたのがいけないと思いまーす」

「三割ね」

「俺七割かよ」

「当然」

「ちくせう」

 

 こいつは容赦なく毒を吐いてくる、誰だこんな八重樫にしたのは‼

 …俺じゃないよな?(震え声)

 

「で?お昼の時間になったのに何の準備もしていないのはどうしてかしら?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました八重樫さん。そう‼何を隠そう今日俺はーー」

 

 思いっきり机にうつ伏せになり

 

「弁当を忘れてきましたぁーー‼」

 

 絶望の声をあげた

 

「…南雲君って大切なところが結構抜けるわよね」

「仕方ないじゃんかぁ…宿題の最終確認してたら出る時間になったんだから…」

「一時間半も前に出てるんだから少しくらい遅れても…」

「それだと何か負けた気がして嫌だ」

 

 一度決めたことは最後までやり通すのが俺の流儀だ

 それで弁当忘れれば間抜けもいいところだが

 

「まさか午後からの授業何も食べずに受ける気?」

「いーや予備で入れていたやつがあるからそれで繋ぐ」

「…予備?」

 

 怪訝そうな表情で聞いてくる八重樫、君の懸念は正しいよ

 

「カロリーメ○トプレーン味」

「そんなことだろうと思ったわ」

 

 そんな呆れた表情しなくたっていいじゃないか

 

「旨いんだぞぅ、お茶には合わないけど」

「どちらかと言うと牛乳に会うわよね、クッキーみたいなものだし」

「だが生憎とお茶しかない、水で飲むと言う選択もあるが」

「お茶と対して変わらないわねそれ」

 

 選択肢が無いんだから贅沢言ってる場合じゃないんだよ

 

「何も飲まないのは論外だしな」

「口の中がパサパサになるわね間違いなく」

 

 ゼリー状のやつもあるが、噛まない飯なんて食った気がしないから何か嫌だ

 

「じゃあさっさと食べてーー」

「…南雲くん?」

 

 おおっとここで予想外の事態が

 

「…何かご用でせうか白崎さん?」

「ダメだよそんなご飯じゃ、すぐにお腹空いちゃうよ?」

 

 まるで当然と言わんばかりに八重樫の左側に座る白崎、あるぇーこの状況は

 

「私のお弁当半分分けてあげるよ‼」

 

 ま さ か の イ ベ ン ト

 い、いつだ?俺はいつフラグを立ててしまったんだ?

 

「…お昼忘れたって聞けば、香織が放っておける訳がないでしょ?」

「せやな」

 

 心優しい女神の心遣いに涙しつつ、無難な断り方を模索する

 

「えぇっと、今日はあんまりお腹が空いてないからーー」

「流石にそれだけじゃ足りないよね?いつもおっきなお弁当箱持ってきてるもん」

「か、帰る前に買うからーー」

「学校終わるまで我慢するの?体に悪いよ?」

「…白崎の食べる分が減るしーー」

「あはは、心配してくれるの?大丈夫だよ、私の方が少食だから」

 

 ……

 

「…だから諦めなさいって、こうなったらもうテコでも言うこと変えないわよ」

「認めん…こんな敗北の仕方は認めんぞ…」

 

 どうあっても俺に弁当を食わせたいらしい、だが俺の本能が拒絶するのだ

 自分のミスで弁当忘れた挙げ句人の弁当食べるだなんて、そんなの許容範囲外である

 

「強情張り」

「なんとでも言え」

 

 クラス中の視線なんぞいまさら気にもならないが、白崎が我慢する事態は絶対避けなければ

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 救世主(仮)再び

 いいぞー天之河、いつも明後日の方向に飛び出しているお前の発言も、今日は冴えてる

 そのまま押しきってしまえ

 

「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」

 

 ……

 

「ぷっ…」

「んんっ、んんんっ…」

 

 いかん、思わず吹き出すところだった

 白崎の素の応対は腹筋に直撃するから困ったものだ

 八重樫も小さく吹き出していたが、お前のキャラ的にいいのかそれは

 

 結局いつもこんな感じである

 白崎がきて、八重樫もついてくる

 そこに天之河が坂上引っ提げてやって来て、どったんばったん大騒ぎ

 そんな日常だ、代わり映えしない普通の日常だった

 

 そこで俺の、いや

 俺たちの日常は終わりを告げた

 

 白崎と話をしていた天之河の足元に、白く不可思議な模様が現れる

 知識として一番近いのは、魔方陣だろうか

 厨二病のお供で、将来描いてあるノートを見て転げ回るあれだ

 その魔方陣がどんどん大きくなっていった

 そんな非現実に全員が呆然としていた

 担任である畑山愛子先生が教室から出るよう指示したと同時に

 俺たちは、この世界から消えてしまったのだ

 

 ――とりあえず昼食はお預けと言うことらしい

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