ありふれたぐうたらで世界最強?   作:makky

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時として人は、非合理的な決断をし、非論理的な行動に出るのだ


10:封印された姫君

 とっさに試作銃を構える

 ゆっくりと後退して、扉をしっかりと固定する

 念のためにランタンと、超回復水を腰にぶら下げておく

 

「……」

 

 慎重に、慎重に前へと進む

 こんな地下深くに囚われている何物か

 見た目に騙されて実は、何て事にはなりたくない

 万が一には飛び退いて攻撃できる準備をしておく

 

 そんな風に対応され、恐らく見たこともないであろう武器を構えて近付いてくる俺に、目の前の生き物は掠れた声で必死に訴えてくる

 

「ま、待って!……お願い!……助けて……」

 

 双方の距離、約5メートルで停止する

 

「…お前は、なんだ」

 

 誰だ、とはあえて聞かない

 言葉を話しているからと言って、知能があるという査証にはならない

 魔物が人の言葉を真似して、迷い込んだ人間を捕食している可能性だって十分すぎるくらいあるのだ

 

「こんな地下深くで、何をしているんだ」

 

 知能があるのならば、何故ここにいるのかを答えられるだろう

 それも簡潔にではなく、詳細にである

 

「答えろ。場合によっては、撃つぞ」

 

 外見が少女だから、そんなものはなんの理由にもならない

 妙な動きを見せれば、この場で討伐することも考えるべきだろう

 

「……待って!けほっ…私……」

 

 咳き込みながら、なんとか言葉を紡ぐ生き物

 

「裏切られただけ!」

 

 ほぼ叫びと言ってもよい大声を出し、その言葉を言い切った

 

「…裏切られた?」

 

 想像していた答えとは若干違ったが、聞き慣れない言葉を聞き返す

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

 小声で説明してくる生き物に対し、試作銃に構えている指に力が入る

 

 『吸血鬼』、生き物は確かにそう言った

 元の世界でも、有名な怪物

 人の血を啜り、処女・童貞を眷族にする

 姿形を変化させ、心臓を杭で打たなければ絶命しない

 そんな恐怖の怪物が、目の前にいる

 

「…っ」

 

 冷や汗がでる

 生き物の説明が正しければ、強力な力故に封印されたという

 ますます緊張が走る

 もしこれが罠であれば、自分は目の前の吸血鬼の餌食となるだろう

 そうでなくても、周囲にこいつの仲間がいないとも限らないのだ

 

 それでも襲いかかってこないのであれば、話の信憑性を確かめる必要がある

 

「どこかの王族だったのか?」

「……(コクコク)」

「殺せない…つまり死なないということか?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「(真祖の吸血鬼に似ている、というかそのまんまだな…)まあいい、そいつが原因で封印されたのか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

 魔力の直接操作

 その言葉を聞いた瞬間、脳に電流が走ったような衝撃を受ける

 

(こいつは、俺と同じ技能を持っているのか?)

 

 それが事実ならば、自分の持っている技能はかなり危ないものになる

 吸血鬼の中でも危険視されるのだ、これが人間の中になったら…

 

(迫害ですめばいいが…ははは…)

 

 最悪火炙りで処刑されかねない、そいつは真っ平ごめんだが

 

「……たすけて……」

 

 一人で思考の海に潜っていると、ポツリと生き物が懇願してくる

 

「…助ける利点が見当たらないな、解いた途端襲いかかってこない保証がない」

「ど、どうして……何でもする……だから……」

「そういう問題じゃない」

 

 少しずつ後退りながら、部屋からの脱出も視野に入れる

 

「俺とお前は初対面だ、俺はお前を知らない。ましてやそっちは吸血鬼、力の差が歴然なんだよ」

 

 強大な力を目にしたとき、大抵の人間は恐怖を覚えるものだ

 ここは2体のサイクロプスが門番として守っていた

 そこまでして封印を守りたいということは、解かれると厄介なことになるということではないだろうか

 もしここで封印を解いて、後悔するようなことは避けたかった

 

「なんの保証もない状態で、猛獣の檻を開ける趣味はない」

「そんな、こと…」

 

 ここから離れるべきだ、そう本能は言っている

 だが体は、ゆっくりとしか動かなかった

 何を戸惑っているんだ、全部目の前の生き物の作り話と割りきればいいだろ

 

「……」

 

 そうだ、ここで立ち止まる訳にはいかないんだ

 戻らなければ、この大迷宮の外に――

 

「…ぐすっ…ひぐっ…」

 

 ピタッと、足が止まる

 立方体に埋め込まれている生き物の下に、何かが滴り落ちている

 涙だ、生き物が涙を流している

 

「えぅ…うぅ…」

 

 ……

 

「何やってんだか…」

 

 構えていた銃をおろし、足早に立方体に近付く

 

「待ってろ」

「…えぅ?」

 

 近付いてきていた事にも気付いていなかったようで、泣きながら不思議な声を出す生き物

 

「ちょいとばっかり痺れるかもだが…我慢してろ、よ‼」

 

 立方体右手を置き、全力の錬成を行う

 魔物を捕食したことで、変色した濃紅な魔力が迸る

 

「くっそ…硬いな、こいつっ‼」

 

 全く通っていないわけではないが、かなり遅い速度で錬成は進んでいた

 

「大人しく…しろ‼」

 

 体内の魔力全てを注ぎ込む感覚で、俺は錬成を更に加速させる

 溢れ出した魔力光で部屋全体が紅く染まっていく

 

 少しずつ、立方体が震え始める

 そして全ての魔力を文字どおり注ぎ込んだとき

 

 立方体はドロリと融解し始めた

 

 そのお陰で、埋め込まれていた生き物は解き放たれる

 一糸纏わぬ姿で、ペタンと床に座り込む

 

 俺はと言えば、全部の魔力を完全に注いでしまったものだから肩で息をしながら倦怠感を嫌と言うほど味わっていた

 

「だぁークソ、無茶しすぎた…」

 

 腰にぶら下げていた超回復水を取ろうと腕を動かすと、その手を捕まれる

 

「……」

 

 視線を動かすと、手を握りながらこちらをじっと無表情で見てくる吸血鬼がいた

 

「……ありがとう」

 

 光の灯った瞳をして、吸血鬼は感謝の言葉を口にした

 

「…ははは、どういたしまして」

 

 苦笑いしながら、感謝の返答をする

 全く、自分でも思うがホントお人好しだよ

 

「とりあえず回復するか…」

 

 握られていた手を振りほどかずそのまま超回復水の入った小瓶を取り出す

 

「あとでお前さんも飲んどけよ、かなり効くからな」

「…うん」

 

 腕を離さずに返事をする吸血鬼、そういえば名前聞いてないな

 飲んだら聞いてみよう、そう思って一気に飲み干し――

 

「あの…名前、なに?」

 

 先に吸血鬼が聞いてきたが、一つ問題が発生した

 

「…すまないがそれは後回しだ、お嬢さん」

「え…?」

 

 右腕でひょいっと少女を抱えると、入り口に向けて縮地を使う

 

「――お客様だ」

 

 今まで2人がいた場所に、何かが降ってきた

 

――――――――――――

 

 それは、サソリのような魔物だった

 体長約5メートル、4本の上肢には鋭いハサミが備わっていた

 下肢の8本足をがさごそと動かし、2本の尻尾はこれまた鋭い針がついていた

 

「最後の仕掛けがこいつって訳かよ」

 

 こちらを完全に標的として認識しているサソリを見ながら、試作銃に弾倉を入れる

 次いでにグレネード投射銃にも再装填し、いつでも撃てる状態にしておく

 

「悪いけども、抱えている余裕がない。落っこちないようにしがみついてろよ」

「…うん」

 

 少女を背中に回して、臨戦態勢は整った

 それはどうやら相手も同じようで、2本ある尻尾の内1本から、紫色の液体を噴出させた

 咄嗟に飛び退き、それを避ける

 着弾した液体は床を溶かしていた

 強力な溶解液のようだ、浴びたら一堪りもない

 

「先手はくれてやったんだ、ありがたく頂戴しろよ‼」

 

 一気に引き金を引く、狙いは頭部――ではなく尻尾である

 流石に針にドンピシャとはいかなかったが、針の付け根付近の関節に当たる

 弾丸はそのまま付け根にめり込み、内部で破裂した

 

「…なんだか最近射撃のスキルが上がっている感じがするなぁ…」

 

 ド素人でも、積み重ねていけばできないことはないのだ

 

「キシャァァァァア!!!」

 

 激しい叫びを上げるサソリ、その直後弾丸が当たった針がぼろりと落ちる

 

「おっほう、毒性弾の威力は上々だな」

 

 落ちた針が紫色の煙をあげながら落ちてくる

 虹色ガエルの痰を弾頭に入れて、命中後炸裂するように仕込んだ『毒性弾』である

 燃焼石を仕込んだお陰で近接信管擬きを作ることに成功、狙ったところに毒を撒き散らしてくれるという寸法だ

 

 なお今の一発で打ち止めの模様

 

「作るのがくっそ面倒臭いんだよなぁ…」

 

 下手をすると燃焼石と毒性の痰が反応して破裂、自分に降りかかってくるという大惨事になりかねないのだ

 おまけに近接信管がまだ研究段階のため、3発に1発は不発弾ができる有り様

 こいつ一発作る間に、6発弾倉が2つほど作れると言えばどれ程の難易度か分かるだろう

 

「だがまあ、片方の尻尾は潰した」

 

 右足に固定していた試作グレネード投射銃1号を構えて、サソリに向ける

 

「行ってこい‼」

 

 撃ち出された50ミリグレネード弾はサソリの頭部付近に着弾、大爆発を引き起こした

 

「…配合変えただけでこの威力、こいつはやべぇよ…」

 

 燃焼石とフラム鉱石配合なのだが、燃焼石の比率を多めにして均等ではなく玉を作る感じで配合すると、フラム鉱石燃焼時の熱がそのまま燃焼石に伝わり連鎖的大爆発を起こすのだ

 当然製作に時間がかかり、毒性弾ほどではないが生産性が悪い

 実際あと2発しか無いのである

 それほどの威力を持った弾頭を撃ち込んで――

 

「…おおう流石にこいつは想定外だぜ」

 

 ほぼ無傷のサソリがそこにいた

 

「ハサミの一本でもと思ったんだが、ヤバイなこれは…」

 

 顔付近なら比較的装甲も薄いだろうが、ハサミでガードされてしまう

 だったらハサミをと思って撃ち込んだのだが、若干焦げた程度で効果がなかった

 

(どうする?あの異常な装甲を剥がさないことにはダメージが通らない、かといって頭付近はハサミで守られている)

 

 空中に足場を出しながら、思考を続ける

 

(どこかに、装甲の薄い場所はないか?どこでもいい、どこでも…ん?)

 

 ふと、頭のなかに何かがよぎる

 

(待てよ、もしかしたら…そうか、その手があったか)

 

 ある作戦を考え付くと、サソリに動きがでる

 

「キィィィィィイイ!!」

 

 甲高い雄叫びを上げ、それに応呼して地面が波打ち始める

 

(一か八かだ‼)

 

 右足に戻したグレネード投射銃に次弾を装填し、込め矢と呼ばれる長い棒で押し込める

 装填が終了すると、波打っていた地面から円錐状の針が無数に突き出し始める

 

「…なあお嬢さん」

「…何?」

 

 後ろで必死にしがみついている少女に話しかける

 

「ちょいと乱暴するが、勘弁してくれよ‼」

「――え」

 

 右手を器用に背中に回し、捕まっていた少女を入り口付近まで投げ飛ばす

 その直後無数の針が襲いかかってきた

 

「んなもん‼」

 

 空中に足場を出しながら、回避を続ける

 するとサソリが残った尻尾をこちらに向けていた

 

(両方の回避は不可能…だったら‼)

 

 できる限り体を小さくして、魔力でもって筋肉の強化を行う

 そして空中の足場を思いきり蹴り、散弾のように飛んでくる針と、溶解液を避けた

 次の瞬間、体中に針が突き刺さる

 

「――カハッ」

 

 貫通こそ免れたが、10数本の針が体に刺さっている

 痛みをこらえながら、再び空中に足場を作り

 腰の紐を思いっきり引っ張った

 

「プレゼントだ、受け取れ‼」

 

 ボロボロと3つの手榴弾が転げ落ちてくる

 そいつをまとめてサソリの左足下に蹴り飛ばす

 

「こいつもつけてやる」

 

 痛みに悲鳴を上げる体を動かし、グレネード投射銃を手榴弾が転がっていくところ目掛けて撃ち込む

 

 タイミングは、バッチリだった

 

 轟音と共にサソリの左足元で大爆発が起こり、凄まじい衝撃がサソリを襲う

 そしてサソリは、体を浮かせて腹を上にした状態でひっくり返った

 

「――ドンピシャ、だ」

 

 左腕でグレネード投射銃を支えて、最後のグレネード弾を装填する

 あまりの威力に、サソリは未だもがいているところだった

 

「――なっさけない格好だな、まあ俺がそうしたんだが」

 

 装填が完了したグレネード投射銃を構え直し

 薄いピンク色をした腹部目掛けて撃ち込んだ

 

「これで…本当の打ち止めだ…‼」

 

 ドシャっと地面に叩き付けられる

 と同時に大爆発が起こる

 

 最高火力を叩き込んだ結果は――

 

「…最低ライン合格ってか」

 

 もうもうと煙を吐く腹部を下にして、ふらふらとした足取りで、サソリは立っていた

 神鉱石の欠片を一つ口に含み、痛みが引いている間に針を抜く

 

「完璧な回復は見込めないなこいつは…」

 

 流石に傷が深かったようで、針を抜いた箇所を修復するのが精一杯なようだ

 

「しかも、今しがた叩き込んだのが最大火力だ。ここからはチマチマと削っていくしかないのか?」

 

 グレネード弾は使いきった、残るは火炎手榴弾2発とスタングレネード、そして試作銃の通常弾丸

 それだけでは正直、圧倒できる火力とは言い難かった

 

「…上等だクソサソリ、やってやろうじゃねーか‼」

 

――――――――――――

 

 目の前の信じられない戦いを、私はただ呆然と見ることしか出来なかった

 

「いってぇなクソ野郎‼」

 

 左の脇腹に突き刺さったサソリの針を無理矢理引き抜きながら、私の封印を解いてくれたその人は戦い続けた

 針を抜いた瞬間血飛沫が飛ぶが、それも一瞬の事

 すぐに傷口が塞がり、出血が止まる

 

 まるで私みたい、そう思ったのは一瞬だけだった

 抜く前に何かを口に含んで、それを噛み砕いて回復していたのに気が付いたのだ

 かなり無茶な戦い、見ていてそう感じた

 

「ぐっ…ぎっ…こんの…」

 

 同時に3本突き刺さっても悲鳴もあげずに、持っている細い筒のような武器を使って応戦する

 

 …やめて

 

「馬鹿の1つ覚えみたいに張り飛ばしやがって‼…っておい針を増やすんじゃねぇ‼」

 

 …そんなになるまで

 

「装甲に傷1つ入らねぇなんて、ふざけたことしやがってよぉ‼」

 

 …そんなにボロボロになるまで

 

「火炎手榴弾ぶちこんでも、大したダメージにならねぇか…クソ、万事休すだなこいつは」

 

 …そんな戦いを、続けないで

 

「…駄目、やめて…」

 

 思わず口にする言葉、彼に届いてほしいなんて思ってもみなかったのに

 

「なん、か、言った、かい、お嬢さん‼」

 

 飛んでくる針を避けながら首を少し後ろに向き、目線だけこちらを見ながら彼は返事をして来た

 

「どうして?どうして逃げないの?私をおいて逃げれば、あなたは助かるのに…」

 

 理解できなかった

 私が声を掛けたとき、警戒心を露にしていた

 そんな姿を見て、ここから私は出られないんだ

 そう思ってしまい、久しく流さなかった涙を流してしまった

 

 それなのに

 目の前の人は、私をあの封印から解いてくれた

 今も、私を傷付けないように戦っている

 

「……」

「どうして、なの?」

 

 300年間一人ぼっちだった私は、初対面の吸血鬼に何故そこまでするのか聞かずにはいられなかった

 

「――はんっ、何を聞いてくるかと思えばそんなことかい」

 

 筒の横に何かを差し込みながら、彼は鼻で私の質問を笑った

 

「そんなの、格好悪いからに決まってんだろうが‼」

 

 ……えっ?

 

「女の子一人置いて逃げろって?んなこと出来るわけがねえんだよ‼そんなことするくらいだったら自分の頭をこいつで撃ち抜いてやるぜ‼」

 

 …思考が、追い付かない

 私をどうこうしたいとか、目の前の魔物を倒したいとかではなく

 ただ、格好悪いから…?

 

「それに、一度は手を差し伸べたんだ――」

 

 腰に係っている小さな筒についている紐を引っ張る 

 それが床に落ちて、筒を魔物の方へと蹴り飛ばす

 

「――守ってやるのが、男ってもんさ」

 

 ――すとん、と

 何かが心のなかに落ち込んだ

 昔、ここに閉じ込められてしまったときに

 なくしてしまった何かが

 

 いつの間にか目の前まで来ていた彼に庇われて

 その影から目映い閃光が溢れるのを見ながら

 私は、彼に目を奪われてしまった

 

――――――――――――

 

 スタングレネードで足止めして、仕切り直し中でございます

 駄目だ、あれはアカンやつやって

 

 しかしこのままいけばじり貧なのは自分がよーくわかっているので、ない頭回して必死に考える

 最悪後ろにいるお嬢さんだけでも逃げられるように――

 

「…ごめん」

 

 小さく後ろから聞こえてきた、今しがた思っていた少女の声

 

 その直後後ろから抱きつかれた

 

「おぉう?!」

 

 突然のことに混乱する俺

 なに、やっぱり罠だった的なあれですか?

 

「…信じて」

 

 そう言った直後

 首筋に痛みが走る

 

「ぃっ…‼」

 

 噛み付かれた

 そう瞬時に理解できたのは、背中にいるのが吸血鬼だったと覚えていたからだろうか

 

 体から力が抜けていく感覚

 長時間走っていて少しずつ疲労が溜まるあの感じ

 このタイミングでの吸血行為

 

 ――最悪の最後が、一瞬頭に過る

 

 腰に巻き付けている手榴弾の内1つの紐を掴む

 引っ張った紐を勢いのまま捨て、足元に落ちた手榴弾を――

 

 

 

 

 

 ――スタン状態から回復しそうだったサソリ目掛けて蹴り飛ばした

 

「もうちょっとだけ大人しくしてろクソサソリ」

 

 着弾すると轟々と摂氏3000度の炎が燃え上がる

 体勢を立て直す暇もなく、サソリは業火に身を焼いた

 

「レディファーストってな」

 

 吸血されている状態を優先されたって微妙な感じがするけれども

 

「……ごちそうさま」

 

 熱に浮かされたような表情をして、少女の吸血は終わった

 歳不相応な表情をしてうっとりといった感じである

 

「お粗末様でした」

 

 とりあえず返事をして返すと、少女はおもむろに背中から降りる

 そのまま片手をサソリに向ける

 

 直後、彼女から吹き出る威圧感

 これは、魔力、か

 

「なんちゅう膨大な…」

 

 ド素人の俺でさえ感じ取れるほど大量の魔力

 黄金色の閃光が暗闇を照らす

 そんな見とれるような状況の中、彼女の声が透き通る

 

「“蒼天”」

 

 ――上空に現れたのは巨大な青白い炎球

 膨大な魔力によって産み出されたそれは、これまで見てきたどの魔法よりも美しく感じられた

 

 この距離でも伝わってくる熱気、真下にいるサソリはこれ以上に熱いに違いない

 実際あの炎球から逃れようとしている

 もう、手遅れではあったが

 

 少女が指揮棒のように振り上げると、上空の炎球は真っ直ぐサソリを追跡し

 その背中に着弾した

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

 サソリの凄まじい悲鳴、視界を覆う青く白い閃光

 右腕でそれを庇いつつ、出来るだけ小さくサソリを見る

 

 背中の外殻は赤熱化し、頑丈を誇った表面をドロリと融解させていた

 僅かに出来た隙、それを確認して――

 

「――完璧だお嬢さん‼」

 

 試作銃を構えて、一気に走り出す

 後ろでお嬢さんが座り込む音が聞こえたが、それに構っている暇はない

 

「これで最後だサソリ‼」

 

 空力で足場を作り、ある程度の高さまで駆け上がる

 

「表面は頑丈でも、中身まではできないって相場は決まってんだよ‼」

 

 右足裏に火炎手榴弾をくくりつけ、ラ○ダーキックの要領で真下に急降下する

 いまだに融解しているサソリの背中に着地

 勢い余って足の土踏まずが灼熱の背中に触れてしまうが、お構いなしである

 グリグリと念を入れて手榴弾を埋め込む

 そして足を引き抜き、再び空力を使ってサソリの後ろに着地する

 

 ようやく落ち着いたところになにかを埋め込まれたサソリは、その元凶である俺の方を向こうとして――

 

 ――体の節々から炎を上げた

 

「サソリの姿焼きなんてゲテモノ食べたくはないんだがなぁ…」

 

 そう言ってもがき苦しみながら、少しずつ動きが弱々しくなっていくサソリを眺めていた

 あれほど苦戦したサソリが、内側から自身を燃やす炎にその身を灰に変えていく

 

「大苦戦だったよちくしょう…」

 

 僅かに動いていたハサミも止まり、その巨体を地面へとおろし

 ついにサソリは息絶えた

 

 そんなサソリを横目に通りすぎ、入り口方向で座って肩で息をしている少女に近付く

 

「大丈夫か」

「ん…最上級に疲れた…」

「色々と無茶しやがってこいつぅ」

 

 ツンツンと頬をつっついてみれば、くすぐったそうにしながらもどこか嬉しそうな表情をする

 

「…名前」

「ん?」

「あなたの、名前…」

 

 そう言えば言う前にサソリと戦闘に入ったんだったな

 

「…ハジメだ、南雲ハジメ」

「ハジメ…うん、覚えた」

 

 はっはっは、可愛いやつめ

 覚えたっていいことはないぞきっと

 

「あ、そう言うお嬢さんのお名前はなんじゃい?」

「……」

 

 そう聞くと少女は少しの間考え込み

 

「名前…付けて欲しい…」

 

 …えぇ、流石にその返答は想定外でしたわ

 

「付けるって俺がですかい?」

「うん…付けて…?」

 

 くっなんで上目遣いしてくるんだ、俺がそれに弱いの知ってんのか

 

 とは言ったものの、どうしたものか

 いきなり自分の名前を付けてくれなんて頼まれても残念なものしか考え付かないぞ

 

 あーどうしたものか、金髪に紅眼とか組み合わせにくい特徴だし

 …金と紅、かぁ

 うーーーん…

 紅、赤より濃いあれか

 目立つ紅色、紅色、紅色…

 紅い月、とか

 

 吸血鬼っつうとやっぱし月だよね

 金髪も見方によっては月色してるし

 でもただ月って付けるわけにもいかないなぁ… 

 うーん月、月、月…

 女の子っぽい名前…

 …あ、閃いた

 

「…ユエ、月って意味のユエはどうだ?」

「ユエ…?」

「ああ」

 

 中国語で月を意味する『ユエ』を提案してみる

 

「…ん、分かった。今日から私はユエ」

「そーかそーか、気に入ってくれたか」

「とっても気に入った…ありがとう――」

 

 微かに笑いながら、少女改めユエはこちらを向く

 可愛いなぁ、こんな地底深くで癒しに――

 

「――御父様」

 

 ………

 ……

 …

 …はい?

 

 体感10分位フリーズした

 だが実際には5秒もフリーズしていなかったようだ

 いやー安心、いきなり無反応になるとかちょっとした恐怖だよははははは

 

 違う、そうじゃない

 

「…今『御父様』って言った?」

「(こくこく)」

「…誰が?」

「ハジメが」

「…誰の?」

「私の、ユエの」

「…何故?」

「…ふふ」

 

 最後笑って誤魔化された、どういうことなの…

 

「これからよろしくお願いします…御父様」

 

 ――拝啓お父様お母様

 若干17歳、あなた方の息子に

 娘が、できました




(高校生で?父親?初対面の吸血鬼さんの?頭が沸騰しそうだぜ)

(懐かしい気持ち…御父様…)
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