ありふれたぐうたらで世界最強?   作:makky

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閑話休題的なお話


side:C 悪夢から覚めて

 ふっと気が付くと目に入ってきたのは天蓋の裏だった

 首を横にすれば、部屋の掃除をしているらしいメイドさんが見える

 

「…あ、気が付かれましたか?」

 

 寝具の擦れる音で私が起きた事に気が付いた様だった

 

「ここは…」

「ハイリヒ王国王都ですよ、シラサキ様はオルクス大迷宮で気を失われて…」

 

 オルクス、大迷宮…?

 

「…何日ですか」

「はい?」

 

 ベッドから飛び出してメイドさんに詰め寄る

 

「あれから!!一体何日経ってるんですか?!!」

「え、あの…」

 

 そうだ

 そうだ

 全部思い出した

 大迷宮へ行って

 とても強いモンスターに襲われて

 南雲くんに助けられて

 それで

 それで

 それで…

 

「み、皆さまがお戻りになられたのは、5日前のお昼すぎですが…」

 

 5日…?

 5日も気を失って寝ていたの…?

 

「みんなは?!みんなはどうしてるの?!」

「皆さまはお戻りになられてから王城の方で待機されておりますが…」

 

 待機?待機って何?

 何でみんないるの?どうしてだれも助けに行ってないの?

 

「っ!!」

 

 部屋の棚の上に置いてある鞄と服と掴み取り、あの夜もらった大切な約束を首から下げる

 その姿にメイドさんはおろおろしっぱなしだが、それにかまっている暇がない

 服に袖を通し、鞄にありったけの回復薬と栄養薬を詰め込んで、私は部屋から飛び出した

 

――――――――――――

 

「シラサキ様お待ちください!!勇者さま方には待機して頂くように――」

「時間がないの!!邪魔しないで!!」

 

 廊下いっぱいに広がる様な喧騒をさせながら、私は一階へと急いだ

 あれから5日、そんな長い時間を無為に過ごした自分を恨む

 

 どうしてもっと早く起きなかったのか

 どうして気絶してしまったのか

 どうしてあの時、南雲くんの所へ行かなかったのか

 

 早く、早くしないと

 南雲くんが

 私の大切な人が

 

「香織が意識を取り戻したって?!」

「はい!!ですが様子がおかしくて…」

 

 耳に入ってくる言葉にかけらすらも耳を傾けず、ひたすら階段へと向かう

 

「香織!!起きたんだ――」

「ごめん!!どいて!!」

 

 廊下の角から出てきたクラスの友達を押しのける

 その行為に驚いて声を出すが、それにも目をくれず先を急ぐ

 

「香織!!」

 

 ひと際大きな声で、光輝君が現れる

 

「善かった、目が覚めたんだね。どこか痛む所は…どうしたんだいその恰好は?」

 

 身体を気遣った声掛けと、私の服装への疑問を口にする

 

「オルクス大迷宮に、行ってくる」

 

 少し息を整えながら手短に用件を伝え、光輝君の脇を抜けて行こうとする

 

「ま、待って!!何のためにだい?!」

「…何のため?」

 

 オルクス大迷宮へ行く理由なんて、一つしかないよ?

 どうして改めて聞いてきたりするの?

 

「あれからもう5日も経ってるんだよ?早く、早く行かないと」

「だからどうして」

「ハジメくんが!!取り残されたままなんだよ!?」

 

 何で察してくれないの

 何でここまで言わないとわかってくれないの

 何で、そんな意外そうな顔をするの

 

「香織、良く聞いてくれ。南雲はあの時の爆発で死んだんだ、行っても見つからないよ」

「……」

 

 普段通りの優しい口調で諭す彼は、きっと私を案じてこう言っているんだろう

 

「キミはとても優しいから南雲の事を心配しているんだろうけど、大丈夫。2度とあんな目に合せたりしないさ、僕たちが付いているからね」

 

 …何、それ

 ハジメくんの代わりなんて誰でもいいの?

 ハジメくんのことなんてどうでもいいの?

 

「南雲は、自業自得の面も大きかったんだ。日頃からきちんと訓練していればあんなことには――」

 

 その瞬間

 その言葉が発せられた瞬間

 私の中の何かが

 切れてしまった

 

「--あなたに!!!!」

 

 気が付けば、光輝君に掴みかかって激昂していた

 周りからは驚愕の声が上がる

 

「ハジメくんの!!何がわかるの!!愚痴をこぼしながら!!錬成師の事必死に調べて!!どうすれば役に立てるか考えて!!みんなと、みんなと一緒に頑張ろうとしたハジメくんの、なにがわかるの…?」

 

 呆然とした表情で何も言わない光輝君の胸元から手を放す

 

「私は、行くよ。オルクス大迷宮に、1人でも。ハジメくんを探してくる」

「無茶だ――」

「無茶でもいく!!ハジメくんはそんな無茶の中に取り残されてるの!!もう時間がないの!!」

 

 行方不明になってから5日、食料がなく水のみで生活している場合の生存最低ラインだ

 水が無ければ、もう助かる可能性は低い

 

「助けに行かなきゃ、待ってるかもしれないんだよ?救助を、あの深い穴の底で」

 

 奈落の底に繋がっている様な深い穴

 そのどこかにいるかもしれない

 どこかで救助を、私達を待っているのかもしれない

 行かなきゃ

 行って助けなきゃ――

 

「――香織」

 

 透き通るような聞きなれた声で、私の名前を呼ぶ

 部屋の中から出てきた、雫ちゃんは目を細めて私を見ていた

 

「何をしているの」

「…聞いたとおりだよ、雫ちゃん」

「一人で、大迷宮に行くって話?」

「そうだよ」

 

 それを聞くと小さく、本当に小さくため息をつき

 

「やめなさい、それは不可能よ」

 

 言い切った

 

「…不可能?何が?何が駄目なの?」

「王国は正式に南雲くんの死亡を布告したわ、もう彼を探す事はできないのよ」

「何で?!どうして?!」

「あなたは、勇者のチームメイトだからよ」

「関係ないよそんな事!!」

「大有りなのよ」

 

 言っている意味が分からない

 行方不明なんだよ?5日でどうして死んだって断定するの?

 何で私が探しに行っちゃダメなの?

 

「私たちは世界を救うためにここにいるの。多くの人を救うために。だから、単独行動は認められないわ」

「そんなの勝手だよ!!だったらどうして誰もハジメくんの事探していないの?!」

「…彼のステータスが、低いからよ。香織」

 

 苦い表情でそう告げる雫ちゃん

 

「なに、それ。そんな、そんなおかしな話があるの?クラスメイトなんだよ?みんなの仲間なんだよ?」

 

 周りを見渡しても、誰も賛同してくれない

 だれも助けに行こうとしない

 こんなの

 こんなのおかしいよ

 

「――私だけでもいく」

「香織」

「ハジメくんは、絶対生きてる。助けを待ってるんだよ」

「香織」

「早く、早く見つけないと、死んじゃうんだよ?」

「香織」

「みんな、みんなはどうしてそんな――」

 

 そこまで言いかかって

 喉の所まで上がってきて

 パシンと乾いた音が響く

 左頬に痛みを感じて

 正面を見れば

 怒った表情で私を見ている

 雫ちゃんがいた

 

「いい加減にしなさい香織!!あなた一人が助けに行ったところで、二次遭難を引き起こすだけよ!!あの崩れた橋の所まで行ける可能性さえほぼないのよ!!」

「ゼロじゃない!!ゼロじゃないんだよ!!ハジメくんはあの下にいるんだよ!!それなのにみんなはじめくんのことどうでもいいって考えて!!」

 

 頭の中がぐしゃぐしゃになってしまう

 どうしてこんな気持ちになっているんだろう

 私は、何で雫ちゃんと喧嘩してるんだろう

 

「雫ちゃんはどうでもいいの?!ハジメくんの事が!!大事な友達の事が!!」

 

 そう叫んだ瞬間

 私は壁に叩きつけられた

 息を荒くして、私の胸元をつかんだ雫ちゃんは

 目を真っ赤にして、泣きそうな表情をしていた

 

「――私は!!彼を!!南雲君を!!大切な友達だと!!親友だと思っているの!!」

「だったらっ」

 

 何で、そう聞こうとしたのに

 

「あなたとっ!!」

 

 次に紡がれた言葉でそれは遮られた

 

「あなたと…同じくらいに…」

 

 限界までためていた涙が雫ちゃんの眼から零れ落ちる

 ぽろぽろ落ちて行く涙

 感情そのものをこぼしてしまったかのような

 透き通った涙だった

 

「もしこのままあなたを行かせてしまえば、きっとあなたは帰って来ない。頭も心もそれでいっぱいなの。考える事考える事が悪い方へと行ってしまうの」

 

 ポツポツと話される言葉

 そんなはずない

 考え過ぎだ

 そういうには

 重すぎる話

 

「南雲君に続いて、あなたまで失ってしまったら、私はどうすればいいの?親友二人を同時に失ってしまった私は、どうすればいいの?」

 

 

 

 

「お願い お願いよ香織 行かないで 行かないでちょうだい」

 

「私のわがままで あなたを縛りたくない でも でもそんなの耐えられないの」

 

「ごめんね ごめんね香織 わがまま言ってごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

「ずるいよ ずるいよ雫ちゃん」

 

「そんな風に言われたら そんな風に謝られたら」

 

「私 行けなくなっちゃうよ」 

 

「やっと やっと伝えられると思ったのに」

 

「大好きなハジメくんに 大好きな気持ち 伝えられると思ったのに」

 

「やっと好きって…言えると思ったのに…」

 

「嫌いって言ってよ…勝手にしてっていってよ…」

 

「私…私…ハジメくんに会えなくなっちゃうよ…」

 

「うぅ…うぅぅぅぅぁぁぁぁああああああああ…」

 

 こんなに思ってくれる親友が

 こんなに私を傷つけている

 

 こんなにも辛い思いが

 こんなにも暖かく感じられるなんて

 

 知りたくなかったよ

 知らずにいたかったよ

 

 

「ごめんなさい…こんな、こんな卑怯なことしか言えなくて、ごめんなさい…‼」

 

 謝らないで

 謝らないでよ 雫ちゃん

 雫ちゃんはなにも悪くないんだよ

 なにも…

 

 どうして

 どうしてなの

 

 あなたに会いたいのに

 あなたと話がしたいのに

 

 もう

 できないなんて嫌だよ

 

 …ハジメくん

 

――――――――――

 

 香織が目を覚ましたその日の夜、私は自室で今後の方針を練っていた

 訓練についてはあの日から一週間の禁止令が出たお陰もあってか、ほとんどのクラスメイトが調子を取り戻していた

 ただ一人、香織を除いて――

 

 トントン、と部屋のドアがノックされる

 

「…シズシズ、今大丈夫?」

 

 ドアの向こうから聞こえてきたのは、クラスメイトの谷口鈴の声だった

 

「…ええ、大丈夫よ」

 

 そう答えるとスッとドアが開く

 

「お邪魔するね」

「お、お邪魔します…」

 

 後ろから別の声が聞こえ、見ると同じくクラスメイトの中村恵里がいた

 

「どうしたの、こんな遅くに?何か聞きたいことがあるのかしら?」

「――ねぇシズシズ、もう見ているこっちが辛いよ」

「……」

 

 普段の元気の良さは何処へやら、私を心配したような声で話をしてくる

 

「突然なんのことか…」

「誤魔化さないでよ、あの日からシズシズちゃんと寝ていないんでしょ?目の下の隈が酷いもん」

「…単純に疲れているだけよ」

「なんでそんな嘘つくの?シズシズらしくないよ」

 

 ちらりと鈴を見ると、少し怒ったような表情でこちらを見ていた

 

「私らしくないなんて、おかしな事言うわね鈴」

「おかしくなんかないよ、おかしいのはシズシズの方だよ」

「私が疲れていることが、そんなにおかしいかしら?」

「今日の事だって、カオリンに掴みかかるなんてシズシズらしくない」

「親友が危ないことしようとしていたら止める、なにも間違っていないわ」

「だからって、通路の真ん中でしなくても――」

「場所は、関係ないでしょう?」

 

 何時にも増して食いついてくる鈴、私に嫌みを言うために来たわけでもないだろうに

 

「もういいかしら?二日後からの予定を立てないと」

「…立ててどうするのさ」

「決まっているでしょう?迷宮攻略含めて、魔人族との戦いに――」

「南雲君を、探しにいかなくていいの?」

 

 ピタリ、と

 書き走っていた羽ペンが止まる

 

「…その件はもう終わったことよ、鈴」

「本気で言ってるのシズシズ?」

「これ以上、どうにかできるものでもないわ」

「南雲君が死んだって、本気でシズシズ思ってるの?!」

「……」

 

 突然の大声に、後ろにいた恵里がビクリとする

 

「…静かにしてちょうだい鈴」

「シズシズだって、カオリンと同じなんでしょ?!南雲君今すぐ探しにいきたいんでしょ?!」

「…静かにして」

「なんで諦めてるの?!いつものシズシズだったらそんなことしないのに?!どうして諦めちゃうの?!」

 

 その一言に、私は反応してしまった

 机の上に置いてあったありとあらゆるものを腕で吹き飛ばす

 壁にぶつかったり、床にばらまかれたり

 一瞬で部屋は乱雑になった

 

「……」

「あ…えっと…」

 

 黙って私を見る鈴と、動揺を隠しきれない恵里

 

「…静かにしてって、いってるでしょう」

「しないよ、シズシズがおかしいんだから」

「……」

「本当は行きたいのに、助けに行きたいのに、なんで本心を隠しちゃうの?なんでカオリンの前ではさらけ出すの?」

「……」

「隠しても、どうにもならないんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ…どうすればいいのよ…?

 私がわがままを言って、迷宮の奥深くまで行って…

 また、誰かがいなくなって…

 それが香織だったら?それが光輝だったら?

 それが誰であっても…

 私、壊れない自信がないよ…

 南雲君が、いなくなって…

 また誰かがいなくなるなんて…

 そんなの私、耐えられない…」

 

「怖いの

 怖いのよ

 南雲君がいないだけで

 どうしてこんなに怖いの?

 他のクラスメイトだったら違ったの?

 そんな考えをする

 自分が怖いの

 もう、いやなの…」

 

 南雲君だから

 こんなに辛い思いをするの?

 南雲君だから

 私はこんなに苦しいの?

 

 …本当は、前から分かっていたことだったのに

 香織のためになんて言い訳をして

 彼に上から物を言って

 

 逃げてるのはどっちよ

 いなくなって初めて認めるなんて

 私は、ズルい人間だ

 

「シズシズ…」

「雫ちゃん…」

 

 

「私は…悪い女よ…」

 

 

 自覚したくない、もう一人の自分

 でも、これが私の本性だったんだ

 

 もう、会えないかもしれない

 大好きな人に、その気持ちを伝えることすら出来ずに

 私はまた、後悔してしまった

 

 南雲君…

 

――――――――――――

 

「……」

 

 少し開かれた扉の向こうから、幼馴染みの独白を聞く

 

「…そういう、ことか」

 

 ずっと一緒だったから、これからも一緒だと思っていた

 香織も雫も、ずっと一緒にいられると

 何処かで思い込んでいた

 それが今日、どちらも間違っていたことを実感した

 

 "やっと好きって…言えると思ったのに…"

 

 "南雲君がいないだけで どうしてこんなに怖いの?"

 

 幼馴染み二人の口から出た、あの言葉

 涙ながらに言った香織と、弱々しい様子で打ち明けた雫

 そのどちらも、一人の人間に向けられたものだった

 

 "お前の事一生恨んでやるからなこの正義馬鹿‼"

 

「正義馬鹿、か」

 

 自分の身を省みず、クラス全員を救った彼に言われたあの言葉

 何が勇者だ、一人で突っ込んで返り討ちにあって

 みんなを危険にさらしただけじゃないか

 彼とは、雲泥の差だ

 

「ほんと、嫌になるよ」

 

 自覚したくはなかったことだった

 無条件で正義を信じて、自分の行いは全部正義だと思っていた

 

 その結果がこれだ

 本当の英雄は、もういない

 

「…いや、違う」

 

 彼は、南雲ハジメはまだ生きている可能性がある

 だが、今の自分達では救いにいくことはできない

 

 けれども、もしかしたら

 もしかしたらあの迷宮から脱出したり、地底で生きる環境を見つけているかもしれない

 

「探しだせる可能性がある、それだけで十分だ」

 

 それなら、探しにいこう

 本当の英雄を

 この手で

 自分は、勇者だから

 

 いや、それは関係ない

 本当の正義は

 一人では作れないものなのだから

 

――――――――――――

 

 翌日、私は香織の部屋に来ていた

 明日からの訓練再開、それを伝えるためだ

 

「…ダメね、本当に」

 

 気付いてしまった気持ちを押し殺し、部屋の扉を叩く

 

「香織?私だけど、今大丈夫?」

 

 

「あ、雫ちゃん。うん、大丈夫だよ」

 

 いつも通りの声が中から返ってくる

 入室の許可をもらい、中へと入る

 

「香織、明日の事なんだけど…香織?」

 

 中に入って、違和感に気付く

 備え付けの机の上には、回復薬の小瓶

 椅子から下がっている鞄からは、護身用の短剣が覗いていて

 部屋の主、香織は何故か着替えの途中だった

 

「あ、ごめんね雫ちゃん。もうすぐで着替え終わるから」

「…何をしているの香織?」

「え?これから訓練でしょ?だから準備してるんだけど」

「訓練解禁は明日からよ」

「…ふぇ?」

 

 私の言葉に気の抜けた返事が返ってくる

 

「あ、あれ?今日じゃ、ない感じ?」

「そうね、そんな感じよ」

「……」

「……」

 

 お互いに見つめ合って

 

「…ふふっ」

 

 堪えきれずに笑ってしまう

 

「あー‼雫ちゃん酷い‼ちょっと勘違いしただけだもん‼」

「ふふっ、ごめんなさいね。とっても香織らしくて」

 

 一日間違うなんて、香織らしい間違いだった

 

「もう‼一念発起して頑張ろうって思ってたのにぃ…」

 

 笑われたことと間違っていたことで色々恥ずかしくなってしまったようで、いそいそと元の普段着に着替える香織

 

 悩んでいたことが、何だか吹き飛んでしまいそうだ

 

「…あら?香織」

「うん?どうしたの雫ちゃん?」

「そのネックレス…あなたの?」

 

 普段着の上から、四つ葉のクローバーのネックレスを付けているのに気が付き、聞いてみる

 

「これ?これはね、約束なの」

「約束?」

「…ハジメ君との、ね」

 

 その言葉に、頭をトンカチで叩かれたような衝撃が走る

 

「あの日の前日にね、私ハジメ君を訪ねたんだ。その時に付けないからって」

「…そう、それはよかったわね…あ」

 

 辛うじて言った言葉に、ハッとなる

 今の言い方は、さすがに--

 

「うん、その時約束したんだ」

「…どんな約束を?」

「……」

 

 そんなことはまったく気にせずに

 ネックレスを触りながら、私の前まで歩いてくる香織

 

「みんなで一緒に帰るっていう事と、このネックレスをあっちに戻ってから返すっていう事」

 

 ネックレスから手を離し、ぎゅっと私の手を握る

 

「雫ちゃんもさ、ハジメ君に伝えなきゃいけないことあるでしょ?」

「…え?」

 

 一瞬何を言われたのか分からなかった

 

「…ええそうね、訓練の続きを――」

「もう、またそうやって誤魔化すんだから」

 

 何とかして平静を取り繕うとするが、香織は私を抱き締めながら話を続けた

 

「雫ちゃん自覚はなかったみたいだけどね?ハジメ君の事、好きなんでしょ?」

「?!ち、違っ…‼」

「見ていればすぐに分かるよ。私よりもハジメ君の趣味に詳しかったし、あの日早く登校したのも本当はハジメ君と一緒に登校したかったんでしょ?」

「違う、の、香織…」

「雫ちゃん、私に遠慮して私とハジメ君の間を取り成してくれて。私すっごく悩んでいたの、こんなに思っているのに私のせいでって」

「あ、う、ぅ…」

「今はまだ無理でも、気持ちは伝えないと伝わらないんだよ?私、それで後悔したから分かるよ。雫ちゃんも、後悔したんじゃないかな?」

 

 このまま霞にでもなって消えてしまいたい

 自分でも気付いていなかった気持ちに、目の前の親友はバッチリ気づいていたようだ

 

「だから、約束を守りにいくの。もう一人でなんて言わないよ」

 

 私の目を見ながら、香織は続けた

 

「決めたの、雫ちゃん

 私、強くなる

 はじめくんに助けられた私より

 ずっとずっと強くなるよ

 ハジメくんは生きている

 どこかで生きてるんだよ

 探しに行こう?一緒に行こうよ

 1人じゃ無理でも、2人ならきっとね」

 

 それは香織の覚悟

 親友の確たる覚悟だ

 

「…ええ、いきましょう

 きっと生きている

 南雲君はきっと生きている

 だから、探しに行けるくらい強くなって 

 みんなで、仲良く帰りましょう?

 南雲君を、つれてね」

 

 必ず見つけ出して見せるから

 待っててね、南雲君

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