えー皆様、如何お過ごしでしょうか
私こと、南雲ハジメは現在――
「んっ…御父様…」
――地下で見付けた吸血鬼の少女、ユエを膝にのせて休憩中でございます
結局あのあと『御父様』と呼ぶ理由を教えて貰えず、一度持ち物整理と弾薬補給のため部屋の外に仮拠点を作った
採取した魔物の肉やら鉱物やらを整理し、一通り弾薬を作り終わったところを見計らうかのように膝にすっぽりとおさまってきた
「どうしてこうなった…」
受け入れている自分が言うのもあれだが、言わずにはいられなかった
膝に座りながら、ユエは身の上話を始めた
吸血鬼族、それは今から300年前の大戦争で滅んだとされる種族
その種族の中でユエは12歳の時に先祖返り、分かりやすく言うと隔世遺伝が発現したらしい
魔力操作、自動回復目覚めてからと言うもの、メキメキ頭角を表し
若干17歳の時に種族の長、すなわち吸血鬼の王位に就いたそうな
しかし先の会話で出てきた彼女の叔父がその力に恐怖を抱き、周辺を唆し彼女を殺そうとした
だが自動回復のお陰でどうあっても死ななかったため、ここオルクス大迷宮地下へと封印されたと言うわけだ
ついでに言うとその自動回復のお陰で細胞が次々と回復するものだから、封印されてから外見が全く変わっていないと言う
凄まじい過去を持っているもんだ、いくら死なないとはいえこんなところに一人で300年間も
残念ながらここからの脱出方法等は知らないそうだ
まあ聞けば封印されるとき、ユエはかなり混乱していたようだから仕方ないのだが
「じゃあここがどの辺りかも分からないかぁ…」
「うん…」
俺も知らないんだからユエが知らなくても仕方ないが、さてどうしたもんかね
「でも…この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われている」
「…反逆者ぁ?」
すごく…厨二な響きです…
目の中になんか仕込んであって、他人を意のままに操ってそう
「反逆者…神代に神に挑んだ神の眷属のこと。…世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」
神への反逆、それも眷属がか
イスカリオテのユダ的なあれかね
でもあの人最後自殺したしな
話を聞くとかつて神代、神話の時代に主神『エヒト神』に反逆し世界を滅ぼそうとした7人の眷属がいた
その目論みは破られ、7人の眷属は世界の果てへと逃れた
その逃れた世界の果てというのが、この世界に存在する7つの大迷宮と言い伝わっている
その大迷宮の最奥に反逆者の住処があるそうで
「…そこなら、地上への道があるかも…」
「ふーん…直通の魔法陣位は確かにあるかもしれないな」
迷宮最奥で逃亡生活をするつもりでも、万が一を考えて脱出経路は準備していてもおかしくはない
上に行っても登れないのなら、最下層へ行くしかどのみち方法はない
ユエを膝に抱えながら、新兵器の製造を続ける
流石に暴発の可能性がある弾薬製作はしないが、先の戦いで火力不足を痛感しそれを補う兵器をなんとか作ろうと四苦八苦していた
(じぃーーーーーーーーー……)
そんな様子をガン見されて、すごくやりづらい
「あー…見ていて楽しいか?」
そう聞けば2回頷き、また視線を戻す
まあ、いいんだけどさ…
火力を増加させるならば、単純に兵器を大型化すれば必然と威力も増大する
だがそれは取り回しが低下し、小回りの効く戦闘が困難になる
ただでさえ試作銃1号改とグレネード発射銃、おまけで弩と各種手榴弾持っていて今でも動きに制限がかかっている
それでも大火力の武器の調達は必須であった
もうこうなったら左足に取り付けられる大きさで作る他ない
グレネード発射銃以上の大きな筒を引き金部分と組み合わせながら、そう考えていた
「……御父様は、どうしてここにいる?」
ネジでトリガーの調整をしているときに、ユエが聞いてきた
まあ、気になるだろうな
こんな地下深くで一人なにしてんだって、俺でも思うし
「…男の昔話なんて聞いても、つまらないぞ」
自分でも分かるくらいに苦笑いして、誤魔化しにもなっていない誤魔化しをする
実際話したって面白味の欠片すらない話だ
「……そう」
話したくないというのを感じ取ったのか、ユエはそれ以上聞いてくることはなかった
「ま、こっから早く出るってことには代わりないさ。早いところこんな迷宮おさらばしたいし」
暗闇の奥底で一生を終えるなんて真っ平ごめんだし、なにより――
「約束、したからな」
二人のクラスメイトと交わした約束
『みんなで一緒に、もとの世界に帰ろうね』
『こうみえて私、負けず嫌いなのよ?』
もう2ヶ月近くたってしまったが、それでもあそこへと戻らなければいけないのだ
独善的でも、ただの自己満足であったとしても
「……」
そんな独白を聞いて、ユエは顔を暗くする
「…御父様には、帰る場所がある」
ポツリとこぼれる言葉
「…私にはもう、帰る場所…ない…」
同種族から迫害され、封印までされた
その同種族は、300年前に絶滅したそうだ
文字通り、彼女は一人ぼっちなのだ
「――なけりゃ作ればいいさ」
わしゃわしゃと長い金髪を乱暴に撫でる
「『帰る場所』なんて、その度に変わっていくもんさ。寿命の短い人間だってそうなんだ、吸血鬼のユエだって変わるもんさ」
首を挙げて、紅い瞳でこちらをみるユエ
どこか不安げな表情をしているのは、一人ぼっちが怖いからだろうか
「――なんだったら、俺が帰る場所になってやるよ」
「え…?」
「ずっとでなくてもいい、ユエが安心して帰れる場所を見つけるまででいいさ」
完成した新兵器を目の前の机に置いて、取り合えず一段落
「一人ぼっちは、寂しいもんな」
なんの気なしに呟いた、ある魔法少女の名台詞
その言葉を聞いたユエは
こちらに向き直り、抱きついてきた
「お、おう?」
「…ごめんなさい、御父様…でも、少しだけ…」
――少しだけ、こうさせてください
微かに震えながら、ユエは背中に手を回して俺が逃げないようにしがみついてきた
「…全く、可愛い娘だな」
頭にもう一度手をのせ、今度は優しく撫でてやる
そんなことを約30分間していたのは秘密である
――――――――――――
当面の目標を迷宮最下層到達に設定した俺たちは、仮拠点を引き払いさらに奥へと進んでいった
そして俺の現状確認もついでにやっておこう
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49
天職:錬成師
筋力:880
体力:970
耐性:860
敏捷:1040
魔力:760
魔耐:760
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・金剛・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解
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いちいち出すのが面倒臭いとは言ったが、正直何が増えたのか確認するのも億劫になり始めていた
もうどの技能がどのタイミングで出たのかなんて覚えてねぇよ…取り合えずなんでもかんでも増やせばいいってもんじゃねーぞ
まあ、あえてひとつあげるならば、錬成の派生技能『複製錬成』が目玉だろうか
こいつのお陰で、1つ弾薬を作ると今までの苦労がバカらしく思えるほど簡単に弾薬の大量生産ができるようになる
対サソリ戦で使用した毒性弾やグレネードも複製可能となっており、もうこいつだけあればいいんじゃないかな?と思えるほどにはチートな技能であった
しかし今後のことを考えていると、いくら弾薬があっても足りなくなるんじゃなかろうか
サソリの時みたいに、無茶な戦いを何度もできるほどの余裕はない
かといって接近戦できるほど肝は座っていない
取り合えず使えるものを片っ端から使っていく方向で調整しよう
「と思ったんだがなぁ…出だしからこれとはついていない」
眼前を埋め尽くす、魔物、魔物、魔物…
その数なんと200匹オーバー
自分の背丈ほどもある雑草地帯を、ユエ背負って戦略的撤退の真っ最中である
何故にこんなことになったのかと言うと、説明するのがむずかしい
ので、三行で説明することにする
~三行で分かる現状説明~
・封印部屋から10階ほど降りたところで樹海みたいなところに出る
・頭から花生やした恐竜擬きが襲ってきたので返り討ちに
・おんなじような魔物が200匹近く襲ってきて逃走中
以上
背中に乗っているユエがちょくちょく魔法で攻撃してくれたお陰で、なんとか乗りきっては来たが流石に200匹の魔物相手は部が悪い
「ところで目の前にいい感じの縦割れの洞窟が見えるんですが、どう思いますかユエさん」
「ん…多分あそこが目的地」
「同感ですな」
今までの魔物と違い、明らかに統率されてこちらに向かってきている
あの頭の花は、恐らく寄生植物の一種なのだろう
だとしたら操っている親玉がどこかにいる
そして進んでいく毎に魔物の攻撃が激しくなることを考えると、この縦割れの洞窟がその目的地だ
その洞窟は、大の大人が2人入るとぎゅうぎゅう詰めになり、ティラノっぽい魔物は勿論ラプトルっぽい魔物も1体ずつしか入れない
その為入ってきた魔物を1匹ずつ撃ち抜いていくだけの簡単なお仕事で、ある程度きれいにしてから錬成で入り口を塞ぐ
道なりに進んでいくと、お約束といった感じの広い空間に出た
…オルクス大迷宮に最初に入ったときもそうだけど、なんでダンジョンって所々に広い空間ができるんだろうか
鍾乳洞も、まあそういった空間があるからそう言う系列なんだろうが
空間正面にはさらに縦割れの穴が見え、この先にも続きがあることを示していた
どう見ても罠が張ってあるが、引き返してもこのまま立ち尽くしてもどうにもならないので穴を目指して進むことにする
そしてそれは、部屋中央に到達したときに起きた
全方位から無数の緑色のピンポン玉大の球体が飛翔してきた
「背中任せるぞユエ」
「ん…分かった御父様」
背中合わせになって迎撃を開始する
見たところ球体の速度は遅く、石壁で受け止めるとあっさりと霧散した
しかし問題なのはその数であった
優に100を越える数が絶え間なく飛翔してくるものだから、壁作って引きこもる位しか対処のしようがない
(当てるのが目的じゃない…?飽和攻撃の割りには一発一発が弱すぎる)
下手な鉄砲数打ちゃ当たる、という諺がある
どれだけ下手くそな鉄砲でも、数を打てばどれかは当たるというものだ
ド素人が銃火器とか、と試作銃を作っているときには思ったが、今となっては技能上昇に伴いメインウェポン化している
ばらまいて攻撃している割りには、足止めというわけでもない
その気になれば強行突破も可能だろう
ならばこの攻撃の真意は――
「…にげて…御父様!」
真後ろから聞こえてきた声に、咄嗟に右横へと飛び出す
球体避けに作っていた石壁が、きれいに両断されて落ちる
ユエがこちらに風の刃を撃ち込んで来たのだ
「ちっ、厄介な…」
ユエの頭をみれば、真っ赤なバラが一輪咲いていた
「そう言うことかい、全く嫌になるなっと‼」
容赦なく風の刃撃ち込んでくるユエ
それを空力と縮地を使って避けていく
この洞窟の外にいた魔物は、全部あの攻撃にあたってああなったのだろう
そして何者かに操られていた、ということだ
「だとしたら、あの花か…」
操られている原因があの花なら、それを撃ち落とせばいいのだが
そうは問屋が卸してくれる訳もなく
「だろうなクソッタレが‼」
試作銃を向けると、ユエの体を操って花を庇わせる
こうなってしまっては手出しができない
進退極まったといったところで、ようやく親玉が現れた
植物と人間の女性を掛け合わせたかのような外見
その醜い顔は、心をそのまま表しているようなもので
ニタニタと薄気味悪い笑いをしながら
無数の蔓がうねうねと触手のように蠢いていた
――どう見てもマンドラゴラの成体です本当にありがとうございました
耳塞がなくても大丈夫?いきなり即死攻撃とかしてこない?
無駄とは思うがマンドラゴラ擬きに試作銃を向けると、案の定ユエを操って射線に移動させる
「性根まで腐ってやがる…‼」
その言葉に笑みを更に深くして
マンドラゴラ擬きは再び緑色の球体による攻撃を開始した
試作銃を使いながら迎撃を行うが、撃てども撃てども頭に花が咲く気配がない
それはマンドラゴラ擬きも感じていたようで、いつのまにか怪訝そうな表情をしていた
(技能のどれかの効果かこいつは)
どの効果かはわからないが、どうやらこの球体の攻撃は俺には効かないらしい
それを見て不機嫌そうな表情をすると、マンドラゴラ擬きはユエに攻撃を命じた
命じたのだが、相変わらず風の刃でしか攻撃してこない
まあそれを避けようとするとユエの頭に魔法をぶちこもうとするから、(多分)サイクロプス食べて獲得した技能『金剛』で仁王立ちで迎え撃つ
魔力を全身にコーティングして防御力を上げる技能で、威力のない風の刃程度ならば未熟な金剛で十分凌げている
(さて、このままって訳にもいかないしなぁ…)
いつまでも突っ立ってる訳にもいかないので、面倒臭いマンドラゴラ擬きを倒すことにする
「御父様!…私はいいから…撃って!」
と、思考を張り巡らせていると、ユエが声を張り上げて来る
いやそんな移動惑星の巨大主砲に戦闘空母で突っ込んで、自分ごと撃てって言ってた星間国家帝国の総統閣下みたいな事言われましてもね…
「お生憎様、そんな無茶なことはしない主義なんだよ」
腰につけているスタングレネードを1つ外して、着火せずにユエの頭上目掛けて放り投げる
それを見てユエに自身を攻撃させようと、マンドラゴラ擬きが動いたので
空中でスタングレネードを撃ち抜いた
瞬間辺りが閃光に包まれた
ユエもマンドラゴラ擬きも、あまりの眩しさに目を覆っているので
顔を隠していた右手で試作銃を持ち直し、右の方へと飛び込む
射線からユエが外れたのを確認すると、マンドラゴラ擬きに銃弾をプレゼントした
これまた綺麗に眉間へと命中し、マンドラゴラ擬きは後ろに倒れ息絶えた
「なんというか、スタングレネード多用しすぎとちゃいますか…」
面白味がないのは自分でもわかっているが、一番効く攻撃方法なのだから多目に見てもらいたいものだ
「っと、大丈夫かユエ」
「ん…まだチカチカするけど、大丈夫」
若干フラフラしながら立ち上がるユエを支える
「なんというか、面倒臭い攻撃だったな」
「でも、完璧には操られなかった…」
「流石に全部操るってのは無理があるようだな」
こういう攻撃は使用魔法やらなんやらに制限がかかるものだ、なんせ自分以外の体なのだから
自分の体は自分が一番知っているって訳だ
「んじゃ終わったから先を急ぐとするか」
「…ん」
そう言って出発を促すと、何故か背中にユエが飛び乗ってくる
「…おーい」
「操られて疲れた…御父様お願い」
「嘘つけ絶対疲れてないだろ」
「心が疲れた…」
「うまいこと言ったつもりか」
そういいながら、背中にユエを背負ったまま縦割れの穴の先へと足を踏み入れた
――――――――――――
「…銃の撃ち方を教えてほしい?」
「(コクコク)」
マンドラゴラ擬きとの戦闘からしばらくして、20階ほど降りたところでユエがそう言ってきた
「ユエは魔法主体だろう?だったら使えなくても…」
「…御父様みたいに、戦ってみたい」
「うむむ…」
純粋な憧れの様だ
「…お、丁度良く新しい魔物がいるな」
目の前を見ると、コウモリのような魔物がこちらに近づいてきていた
「よし、じゃあこいつを貸してやろう」
肩に掛けてあった試作銃をユエに渡す
「右手でしっかりと取手を握るんだ、そして左手で銃身を持つ」
「こ、こう?」
「そうだ、必ず両手で構えろ」
後ろから覆うようにして、ユエに銃の持ち方を教える
「利き目で…ユエの場合右目だな、そっちでしっかりと狙いをつけて…」
「……」
じわじわと羽ばたきながらコウモリの魔物はさらに近づいてくる
「射程に…当たる距離に気をつけて、狙いが付いたら…」
一拍の間を置いて
「…引け‼」
「…っ」
ユエは引き金を引いた
洞窟内に響き渡る銃声
銃身から飛び出した弾丸はまっすぐと魔物へと飛んでいき
今まさに攻撃しようとしていたコウモリの魔物の眉間へと命中した
「当たった…」
「…1発で眉間をぶち抜くとは」
流石吸血鬼と言った処だろうか
銃の腕も素晴らしいようだ
「良くやった、ユエ」
「ん…」
それからと言うもの、ユエはちょくちょく銃を撃たしてほしいとおねだりしてくるようになった
これはユエ専用の銃を準備しておくべきだな
――――――――――――
マンドラゴラ擬きとの戦いから結構な日にちが過ぎた
時間感覚がおかしくなってしまって正確な日時は不明だが、だいたい半月ほどは経過していると思う
そして自分の記憶が正しければ、次の階層で俺達は俺が流されていた川のあった階層からちょうど100階層降りた事になる
と言うわけで
「装備点検と弾薬補給の時間だオラァン‼」
「…おらぁん」
「あ、そこは真似しないで」
漫才しながらも、恐らく最後の階層となる100階層での戦闘に向けての準備を開始する
新兵器の弾薬は、かさばることもあって装填分合わせて3発
各種手榴弾は5発ずつを用意
試作銃はそれまでの1号改から大改装を経て、『試作銃2号』になった
主に装填方法を大幅に改良、6発弾倉を顎で押さなくても弾丸の排出と供給をハンドル操作のみでできるようにした
更に弾倉の方も改良し、それまで左側から付けていたものを真下に取り付けるように仕様変更した
銃弾は通常弾メインにして、虹ガエルの毒性弾とサソリの強酸液を使った強酸弾、おまけにサソリの装甲に使われていたシュタル鉱石を使った徹甲弾を取り揃えた
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シュタル鉱石
魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石
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グレネード発射銃は通常グレネード6発に、火炎グレネード2発、強酸グレネード2発
中々の重量になったが、死ぬより安いのでこれでいいだろう
最後にステータス確認
レベルは76にまで上昇、レベルの上限は一応100とのことだが魔物の肉ばっかり食っていた俺にそれが当てはまるかは不明
技能としては『魔力操作』の派生技能『遠隔操作』、探知系の『遠見』と『熱源探知』、あとは『威圧』と『念話』が追加された
『遠隔操作』は魔力を遠隔で操ることができ、直接触っていなくても魔法発動が可能となっている
どれくらいの範囲で使えるかは要検証だが
『遠見』は千里眼的な遠くを見渡す事ができる技能だ、こいつのお陰でちょっと無理をした銃撃も当たるようになってきた
『熱源探知』は生体が出す熱源――恐らく赤外線を探知する事ができる
――ピット器官かな?
なんということだ、俺はいつの間にかツチノコになってしまっていたようだ
どっかにコイン落ちてないかな…
バカなこと考えないで、次へ
『威圧』は、なんだろう…
単純に威圧的態度がとれるって事なんだろうか、対人限定?魔物にも効く?全然わからん…
『念話』は、口に出さなくとも会話をする事ができる技能
非常に便利で、声が届かない程の大音量下でもしっかりとした意志疎通ができる
1つ問題があるとすれば、思ったことそのままに垂れ流されるので、細かくオンオフをしないと自分の妄想が駄々漏れとか言う阿鼻叫喚な事態になりかねない
ひとまずこれで最終決戦に挑むこととなる
通常のダンジョンは100階層までと言うのが常識
そのダンジョンの更に深いダンジョンの100階、間違いなく裏ボスのご登場だ
何が来ても驚かないが、何が来るのかさっぱり分からないのであらゆる状況を想定しなければ
最悪、ここで死ぬ事になる
「もう一押しだ、やってやろうじゃねーか」
「ん…」
そうして2人は、最後の階層100階層へと至る階段を降りていった
―――――――――――ー
そこは巨大な空間だった
1階層まるごとを使った無数の柱に支えられた、だだっ広い空間
階層に足を踏み入れると、無数の柱が淡く光始めた
「歓迎してくれるってかい、サービス精神旺盛なことで」
感知系技能にリソース全てを費やすが、なんの反応もない
それだけに、このなにもない巨大な空間は恐ろしいほど不気味に見えた
その空間の先に、俺たちを待ち構えていたのは全長10メートルにもなる巨大な両開き扉だった
七角形を象った紋章があり、恐らく7人の反逆者を表すものだろう
ここが、この大迷宮の本当の終着点『反逆者の住処』
「…ヤバイな、こいつは」
「うん、この先は今まで以上に…」
感知にはなにも引っ掛からない、だが本能がこの先へいくことを拒んでいた
「いくぞ」
覚悟を決めて、最後の柱を越えた
その瞬間、扉と俺たちの間30メートルの空間にあるものが現れた
「こ、れは…‼」
忘れもしない、2ヶ月ほど前自分をこの奈落へと叩き落とした魔物『ベヒモス』召喚時のあの魔法陣
それが扉との間の空間いっぱいの大きさで展開していた、ベヒモスの魔法陣の3倍はある大きさだ
「来るぞ、ユエ‼」
「んっ‼」
赤黒く脈打つ魔法陣はより一層輝いたかと思うと、次の瞬間弾けるように光を放った
俺達はそれを腕で庇う
光が完全に収まり、魔法陣があったところにはーー
「…おいおい、こういうのは自衛隊か科学特捜隊の仕事じゃねーのかよ」
体長約30メートル、6つの頭をたたえる6本の長い首、鋭い牙、赤黒い瞳
ーー怪獣と呼ぶに相応しい、巨大な魔物がそこに鎮座していた
最悪の事態を想定するとき、人は無意識に最悪の1つ前を想定するのだ