はっと気付くと、両手で顔を覆っていた
どうやら咄嗟に顔を守ろうとしたようだ、無意識って怖い
手をどけて辺りを見渡すと、そこにあったのは巨大な絵画である
十メートル四方の額縁に入れられた絵画
後光差す背景に山々や湖畔、草木が生い茂り、それを包み込むようにして金色の長髪を靡かせ微笑む人物がいた
男性か女性か、所謂中性的な描き方をされているその人物に、どことなく不気味な感情を抱くーー
(何見てんだよ見せもんじゃねーぞこの野郎)
訳もなく何故か心の中で罵倒する
何故かって?私にもわからん
ただなんでかこいつは罵倒しろと心の中で何かが囁いたんだ、だからぼくは悪くない
絵画から目を離せば、どうやらそこは巨大な広間のような空間だった
おとぎ話に出てくる舞踏会の会場感溢れる場所、そこの一段高く設けられた台座のような場所に、俺は見慣れた人影と一緒にいた
うん、俺のクラスメイトだな。めっちゃ呆然としているけど
そして見慣れない人影もある
人数にして30人ほど、キリスト教の礼拝のような格好でこちら側を取り囲む集団が
白衣に金の刺繍を施した法衣、とある戦国ゲームのお姉さんキャラが持っている、えーっとなんだっけ?しゃ、しゃくじょう?だかなんだかの先についている輪を円盤にした奴を横に置いている
その集団のなかから、ひときわ目立つ人間が出てくる
30㎝はある烏帽子っぽいものを被って、集団が着ている服をド派手にしたような格好をした見た感じ70代のお爺さんが出てきた
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
…拝啓、お父様お母様
あなたたちの息子は、どうやら面倒事に巻き込まれてしまったようです
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広間から大きな机がいくつも並んだ大広間に場所を移し、俺たちはそこで話を聞くことになった
上座から教皇のじいちゃん、愛子先生、勇者(らしい)天之河と白崎、八重樫、坂上プラスその取り巻きが座っている
俺?もちろん後ろの方だけど?前にいくと面倒臭いし
むしろ白崎や八重樫はそこに座ってて良いのか?どう考えても厄介事しか押し付けられないぞ?
こういった異世界召喚なんて魔王倒して~とか、世界の危機を救って~とか、そんなのしかないからな?
でもメイドさんがいれてくれたお茶は美味しかった、思わず格言を言いたくなるくらいには
男子の目線がメイドさんに集中するもんだから女子の視線が氷河期並みになっていたけど
メイドさんはロマン、邪な考えを持ってはいけないのだ(持論)
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言ってながったらしい話を始めたが、要約するとこうだ
ここはトータスパークだよ‼
ここには人間ちゃんと魔人ちゃんと亜人ちゃんがいるんだ‼
人間ちゃんは寒いところでも平気で、北のちほーに住んでいるんだ‼
魔人ちゃんは暑さに強くて、南のちほーに住んでいるんだ‼
亜人ちゃんはちょっと怖がりで、東の方にある樹海ちほーに住んでいるんだ‼
人間ちゃんと魔人ちゃんはとーっても仲が悪いんだ、会うたびに喧嘩しちゃって仲直りができていないんだって
ちょっと前まではお互いにあまり手を出さないでいるから、喧嘩も少なくなっていたんだ
でも魔人ちゃんが魔獣って言うこわーい生き物と一緒に戦うようになって、人間ちゃんが負けちゃうかも知れないんだって‼
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
すっごーい‼あなたは人の都合を聞かないフレンズなんだね‼
なーにが神託じゃいボケェ、勝手に拉致してこの世界のために戦えとか奴隷生活もいいところじゃねーか
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることは唯の誘拐ですよ!」
言ったれ言ったれ先生、無駄だろうけど言ったれ
こういう話にはだいたい絶望的な話があるもので
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
ほれ見たことか、こういう奴等なんだって
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
先生、それは鉛筆で書いた字を消ゴムで消して、消しカスから鉛筆作るくらいの無茶なんやで…
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
「そ、そんな……」
本当に迷惑な唯一神だな、こっちの唯一神に負けず劣らずだよ
絶望的な宣告をされ、クラスメイトたちは抗議の声と動揺が走る
無理もない、これから異世界でいつ帰れるかわからないけど戦ってね?なんて言われて納得できるはずがーー
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
いたよここに、超上級のアホが一人
マジにいってんの?ねぇ?正義感強いのは構わないけどこっちから言わせればいい迷惑だからね?
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
お前だけは大なり小なり異議を唱えてくれると信じていたのに
君には失望したよ
もうこうなってしまうと誰も異議が唱えられなくなる、と言うか異議そのものがなくなってしまう
圧倒的カリスマ保有者の天之河とクラスの人気者3人が賛同してしまえば、それはもうクラスの総意になってしまう
ほら見てごらん、最初はあんなに頼もしかった愛子先生が今ではオロオロしっぱなしだよ
悲しいかな、これが学級式民主主義だ
そうーー
どんな結果が待っているか二の次にしてしまえば手痛いしっぺ返しが来る
そんな単純なことさえ考えずに、正義は暴走してしまったのだ
ーー俺も戦わなきゃダメですかね?ダメ?あ、そうですかはい…