ありふれたぐうたらで世界最強?   作:makky

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面倒くさがりに限って、面倒くさい事がよく起こるものである


5:月下の円舞曲

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 訓練終了後、夕食が終わってからメルド団長から新しい訓練内容が伝えられたのだが

 …いきなり大迷宮とか大丈夫っすかね?

 

ーーーーーーーーーーーー

 

『オルクス大迷宮』

 この世界に存在する七大迷宮の一つで、全百階層からなる巨大な迷宮である

 魔物の中核をなす魔石が良質で、地上にいる魔物よりもいいものを持っているらしい

 魔方陣作成時に使うと効率が三倍になるらしく、冒険者や傭兵、新兵の訓練によく使われる場所とのこと

 

 翌日騎士団を伴ったクラスメイト達は迷宮に程近い町『ホルアド』へ到着した

 王国直営の宿に宿泊することになり、俺たちは部屋へと通された

 

 二人部屋だが人数の関係上俺は一人で宿泊することとなった

 

 …いやまあ仕方ないからいいけどね?

 

 明日から迷宮に挑むと言うことだが、いきなり深層まで行くわけではない

 だいたい20階層程を目標に潜っていくらしい

 深くなればなるほど魔石の純度が上がり、その分強力な魔物が出現する

 そのため深く潜る前に、チームワークの確認と全体の戦闘能力確認のための実地訓練を行うと言うわけだ

 

「はぁ、理由つけて王都で待機してればよかった…」

 

 いまさらだが後悔していた、明らかに足引っ張るのが分かっているのに団長のメルドさんから「十分カバーできる」と押しきられてここまで来てしまったが…

 

「あーもう面倒くさい、面倒くさいから寝よ…」

 

 ぐうたら発動、さっさと寝よう

 

 そう思っていたらドアをノックされた

 …こんな時間にやって来るやつなんているのだろうか

 いる、と言い切れないのが悲しいところだが

 

「南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 そして頭の片隅にすらなかった来訪者だった

 

「…あいあい、今開けますよ」

 

 ベッドから立ち上がって、ドアの鍵を開ける

 ドアの向こうには白い寝巻き、ネグリジェにカーディガンを羽織った白崎がーー

 

「HEY、チョット待とうかお嬢さん」

「ほえ?」

 

 よーし落ち着け、落ち着くんだ俺

 例え目の前に寝巻き姿のクラスメイトがいたからって狼狽えるんじゃない

 無防備通り越している気がしないでもないが、とりあえず落ち着いた

 

「…あのですよ白崎さん」

「な、なにかな?」

「夜中に来るのはぜんぜんいいんですが、もう少し格好と言うものをですね」

「?」

「おーっとこいつはもしかしなくても俺を男と見ていないんじゃないのか?」

 

 白崎の中ではどうやら俺は男と認識されていなかったようだ

 

「あー、何でもない。それで?どうしたんだ一体」

「あ、えーっとね。その、南雲くんとお話がしたくて」

 

 …ふーん、お話ね

 

「迷惑、だったかな?」

 

 上目使いでそういってくる、その格好で他の男に言ってはいけませんよ?

 

「うんにゃ別に、ただまあ、なんと言うか」

 

 このまま部屋にあげたら色々と不味い気がするので

 

「外でも大丈夫か?」

「う、うん」

 

 宿の外で話でもしましょうかね

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 青白い月明かり、こちらの月もあっちと同じように輝いていた

 

「この辺にするか…で、話って言うのはやっぱり明日のことか?」

 

 宿から少し離れた小川沿いで立ち止まり、改めて用件を聞く

 このタイミングで話があると言われればある程度の予想はできるものだ

 

「明日の迷宮だけど……南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから!お願い!」

 

 …やーっぱりそう来るか、そうだよな白崎

 お前は、『いい子』だもんな

 

「…悪いがそいつは聞けないね」

「で、でも…」

「分かってるって、別に足手まといだからとかって訳じゃないんだろ?」

 

 普段周りのやつのために色々とお節介焼く白崎のことだ、特にこんな状況になれば当然ーー

 

「嫌な予感がする、ってことだろ?」

「っ…」

「心配性の白崎らしいけど、ここまで来たんだ。いまさら引き返す訳にはいかないのさ」

 

 無能一人がいなくともなんとでもなるだろうが、クラスがまとまって行動しようとしているときに途中から抜けるなんて前例作りたくはなかった

 それに足手まといでもできることはあるんだ、なけりゃ探すまでだ

 

「じゃ、じゃあせめて私が」

「おっと白崎、例えお前でもその先は言わないでくれ」

 

 意志が硬いと感じたのか、今度は妥協案を提示しようとするが

 そいつは聞けない相談だ

 

「な、何で南雲くん?」

「八重樫には言ったけどな、俺のために誰かが傷付いたりするのは許せないんだ。特にお前は治癒の能力持ちだ、お前がいなきゃ勇者パーティーが不完全になる」

 

 流れる小川を見ながら、理由を他のやつに押し付ける

 1のために10を捨てるわけにはいかないんだ

 

「……」

「それに、譲れない一線もあるしな」

「…譲れない、一線?」

「そ、くっだらない一線がな」

 

 足元の小石を拾って小川めがけて投げる、お2回くらい跳ねたな

 

「『格好悪いくらいに格好付ける』」

「?」

「女子に守ってもらって、自分は安全圏?生憎とそこまで格好悪くなるつもりはないな」

 

 男らしいバカな理由だ、笑われるようなものだと言うのも理解しているつもりだ

 

「どうだ白崎?格好悪いだろ?格好付けるためだけに、俺は危なっかしい橋渡るんだからさ」

「…ふふ、そうだね。女の私にはよく分からないけど」

「そんなもんさ、俺だって女子の考えはよく分からんし」

 

 もう片方の考えなんて分かるわけもないんだから、それでいいのさ

 

「…やっぱり、南雲くんは南雲くんだね」

「んー?まあな」

「ねぇ南雲くん。私ね、高校に入学する前に一度南雲くんのこと見たことがあるんだよ」

「え、そうなのか」

 

 突然昔話に入ってしまったが、それ以上に白崎が俺のことを知っていた事実に驚かされた

 

「中学二年の時にね、覚えているかな?小さな男の子とおばあさんが、不良っぽい人たちに囲まれてたときに」

「あー、そんなこともあったなぁ…たこ焼きぶちまけられて、おばあさんから財布ぶん取ろうとしてたっけ確か」

「あのとき南雲くん、そこにいないのに『お巡りさん‼こっちでカツアゲしてる人たちがいます‼』って大声出して、あわててその人たち逃げ出しちゃって」

「うん、まぁそこそこ人通りも多かったし。大声出せばもしかしたらとは思ってた」

「そのあと男の子に、たこ焼き買ってあげたりして」

「踏んだり蹴ったりだったからなぁあの子も、それくらいしたってバチは当たらないと思って」

「そのときから、かな。私のなかで何かが芽生えたのは」

「……」

 

 小さく鳴く虫の声を聴きながら、いつのまにか横にきていた白崎と目が合う

 仄かに赤くなった頬、若干潤んでいる瞳

 学年中の男子が夢中になるわけだ

 

「あのとき私は、なにもできなかった。ううん、なにもしなかったの。南雲くんみたいに、たった二言言えば助けられたのに。私はできなかった」

「……」

「光輝君とか雫ちゃんとか、強い人はそんな状況でも飛び込んで行って助けてくれる。私、それしか知らなかったの。強い人の助け方しか」

「…それだって立派な方法だろ?」

「そうだね、でも私にはできない方法だったの。南雲くんは、言い訳ばっかりしていた私を叱ってくれたんだよ?『こんな簡単なことできないのか』って」

「はは、俺が説教ね。笑える話だ」

「それからだよ、私のなかで一番強い人が南雲くんになったのは」

 

 聞いていて、むず痒くなってくる

 正直そこまで大したことやったつもりがなかった

 今の今まで忘れていた位だ

 

「ーー死なないで、南雲くん」

 

 正面に回り込んで、両手で俺の手を包む

 不安にまみれたその声は、いつも元気な彼女らしくなかった

 

「不安で仕方ないの、南雲くんがどこか遠くへいってしまいそうで。二度と、会えない気がして」

「……」

「本当は、この世界に来たときも不安だった。右も左も分からなかった。突然世界のためになんて言われても、頭のなかこんがらがっちゃって」

「……」

「でも、でも南雲くんはいつもみたいに笑っていて。みんなから冷たくされても、いつもみたいに笑ってくれて」

「……」

「だから…だからね…」

 

 感極まったのか、ポタポタと涙を流す白崎を見て

 どこまでも『いい子』だなと改めて実感させられる

 

「心配しなさんな」

「うん…」

「そう簡単には死なないさ、もとの世界に帰るんだろ?だったら生きるさ」

「そう、だね。みんなで、一緒に」

「ああ、約束だ。全員一緒に帰ろうな」

 

 何だか居たたまれなくなってきて、何の気なしにポケットを探ってみると

 ーーまたお誂え向きのものを持っていたもんだ

 

「んじゃ、心配性の白崎に俺からの贈り物だ」

「…ふぇ?」

 

 さっと白崎の手にそれを握らせる。

 

「…これ」

「母さんがさ、お守りってことで持たせてくれたネックレス。俺付ける趣味無いって言ったんだけどな」

「四つ葉の…クローバー…」

「幸運の証、きっといいことあるさ」

「でも…これ…」

「もとの世界に戻ったときでもいいから、そんとき返してくれれば」

「…ありがとう」

 

 …泣いている女の子には弱いんだよ、察せよ

 

「明日も早いだろうから、そろそろ戻ろうか」

「……」

「おい白崎?…おーー」

 

 明日に備えて早く戻ろう、そう声をかけたのに

 おかしい、なぜ自分は白崎に腕を絡まれているのだろうか

 

「……あー」

「…ごめんね南雲くん、でももう少しだけこうさせて?」

「…ハイハイ、いいですよ」

 

 ーーいつまでも逃げるなんて、格好悪いわよ

 

 ついこの前八重樫に言われた言葉

 いいのさ、白崎が今どう思っているのかも

 この先変わらない保証はないのだから

 今は、この関係で十分さ

 

 ーーどこまでもヘタレな自分に嫌気はさすけども




(こ、これいつまで続くんだ…)
(うぅ…改めて考えるとすごく恥ずかしいよぉ…)
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