それに、如何なる例外も存在してはならないのだ
えー皆さま如何御過ごしで御座いましょうか
私、南雲ハジメは現在ーー
「グルァァァァァアアアアア‼」
ーー大ピンチを向かえております
~三行で分かる現状報告~
・大迷宮に来た俺たちは難なく20階層まで来る
・珍しいグランツ鉱石とか言うのを檜山が忠告無視して取ろうとする
・バッチリトラップが仕掛けてあってめっちゃ強いモンスター登場
ど う し て こ う な っ た
現れたモンスター、ベヒモスは今騎士団長メルド以下騎士全員が障壁を張って食い止めてはいるが、なんでもあいつ65階層にいるモンスターで昔最強の冒険者を返り討ちにしたそうな
勝てるわけないじゃん今の俺たちで
そんな簡単な事も分からないのか、勇者天之河とそのお供坂上はメルド団長の忠告を無視して騎士団と一緒にベヒモスを食い止めてる
自分達が邪魔なの分かんないの?いたら戦いづらくなるって分かんない?
しかもトラップ発動と同時にどっか別なところに送られたらしく、現在自分を含めたクラスメイトは石造りの橋の上だ。現状地上までの距離が把握できていない
さらに最悪なことにベヒモスの反対側には骸骨のモンスター、トラウムソルジャーが束になって待ち構えている
前門の骸骨、後門のベヒモスで橋の上はもう混乱の極みと言った状況だ
混乱したクラスメイトは大慌てで階段の方へと殺到していた、さながら東京の通勤列車状態である
騎士の一人アランさんが必死になってパニックを押さえようとするが、いきなり転移させられた挙げ句見た感じヤバイモンスターと骸骨の群れを見て、素人ばかりのクラスが落ち着くわけもない
そしてそれは起こった
クラスメイトの一人、園部優花が後ろから来た別のクラスメイトに後ろから突き飛ばされて転倒してしまう
小さく呻き声をあげて、顔をあげたそこにはーー
「ーーあっ」
骸骨のモンスター、トラウムソルジャーが剣を振りかぶっているところだった
絶対的な、死ーー
逃れられないそれに園部は目を瞑りーー
「ーーふざけんじゃ、ねぇぞこの野郎‼」
真横から錬成を使って割り込む
滑り台のように斜めになった床で、振り下ろした剣はそれて床を叩く
そのまま傾斜をあげてやれば、橋の縁から真下へと滑り落ちていった
「はぁ…はぁ…くそっ、大丈夫か」
「あ、うん。ありがとう…」
「お礼なんて…はぁ…言われるほどじゃない…」
今ので魔力の大半を消費した、回復薬を飲みながら眼前の惨状を確認する
(誰も彼も勝手に戦って、連携のれの時もない。これは、不味い…)
橋に描かれた魔方陣からは、次々と新しい骸骨が出てくる
このままいくと物量に押し潰されるだろう
「だぁぁぁ‼お前らいい加減にしろ‼俺より強いくせに狼狽えてるんじゃねーぞ‼」
周りなんぞ見えていないクラスメイトに大声張り上げて罵声を飛ばす、すると聞こえていた何人かが振り向く
「前衛‼バラバラに動くな‼まとまって行動しろ‼中衛は前衛の補助‼後衛と回復はさっさと魔方陣を描け‼死にたいのかお前達は‼」
死にたくなければ訓練通りの行動をしろ
なんでサボってばっかの俺がこんなことしなければいけないのか
指示とも言えない指示を聞いて、若干は落ち着いたのかとりあえず陣形を組始めるクラスメイト
はっきり言って遅すぎる、無理もないこととは言えこれでは死人が出かねない
「致し方ない…この状況打破のためには自惚れ屋にさっさと戻ってもらわねーと…」
本来なら指示を出すべき(出せるかどうかは知らないが)正義感MAXな自惚れ屋の方に、全力疾走する
手遅れになる前に…
ーーーーーーーーーーーー
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
目の前の状況を見て目眩が襲ってくる、こんなときまで自分に酔うのかこいつは
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
声のする方を見ると、八重樫がアホに向かって撤退を進言していた
隣には白崎もいる、もうそいつ放っておいて撤退しない?
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
火に油どころかガソリンをぶちまける坂上、お前は本来止める立場だろうが
「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」
「雫ちゃん……」
まったく同じ考えに至る八重樫、間違いなく頭を痛めてるなあれは
「天之河‼」
酔っぱらいの相手はしたくないが、これしか方法がないのも事実だ
「なっ、南雲!?」
「南雲くん!?」
来たのが意外だったようで、天之河と八重樫が驚きの声をあげる
「お前は周りが見えてないのかこの唐変木‼」
「いきなり何だ? それより、何でこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
そこまで言った天之河の胸ぐらを掴む、ここまで言ってもわからないのかこいつは
「いい加減にしろ‼お前がこんなところで無駄な正義感出している間に、お前の大事なクラスメイトが死にかけてるんだぞ‼」
そういって後ろを見せてやれば、体制が建て直しきれていないクラスメイト達が目にはいる
「お前が自分で馬鹿やって死ぬのはどうでもいい。だけどな、お前が馬鹿やってクラスメイト一人でも死なせてみろ‼お前の事一生恨んでやるからなこの正義馬鹿‼」
天之河にとって普段言われ慣れていない罵倒だが、どうやら響くものはあったらしく二、三度頷く
「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」
「下がれぇーー!」
下がることを伝えようとしたその瞬間、張られていた障壁は木っ端微塵に砕け散った
余波として衝撃波が襲う、錬成で土壁を作るがあっさりと破壊される
そして、もうもうと立ち込める土埃を、ベヒモスの咆哮が吹き飛ばした
メルド団長以下騎士団は全員倒れ、天之河達はなんとか立ち上がっていた
状況は、まったくもって最悪だったーー
「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
こうなったら自分達でどうにかするしかない、そう思い立ったようで天之河は二人に問う
「やるしかねぇだろ!」
「……何とかしてみるわ!」
頼りになる返答が返ってくる
が、正直言ってどこまで通用するのか不安しかない
「香織はメルドさん達の治癒を!」
「うん!」
土壁を使って衝撃波をなんとか防ぎつつ、持っていた鉄塊を錬成で剣にする
昨日の訓練で使った桜吹雪(仮)を使うが、雀の涙もいいところでまったく効いていない
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ! “神威”!」
天之河が今出せる最強の技、『神威』を発動した
構えている聖剣から目映い光が迸る
そのままベヒモスに技をぶつける
詠唱までの時間を稼いでいた八重樫と坂上の二人は、満身創痍になりながらも攻撃範囲から離脱していた
これだけの短時間であれほどのダメージ、いかに相手が強大かが分かる
「これなら……はぁはぁ」
「はぁはぁ、流石にやったよな?」
「だといいけど……」
……
「…やってはいけないことを」
よりにもよってそれを今言うか普通?
立ち込める埃が光と共に消え失せーー
ーーそこには無傷のベヒモスがいた
「最悪な死亡フラグだったよクソッタレ」
ーーやったか?!は、やってないと同意義だ
ベヒモスは先程の攻撃をした天之河を睨み付け、頭部をマグマのように赤く燃えたぎらせる
「ボケっとするな! 逃げろ!」
メルド団長のその言葉に全員が走り始める
ベヒモスは狙いを定めたようで、大きく跳躍し
まさに隕石のごとく石橋に激突した
衝撃波が全員を襲う
砕けた橋の一部が飛び散る
体勢を立て直せていない四人と騎士団は
それをもろに食らう形となった
「ぐっ‼」
土壁で威力を殺ごうとするがあっけなく破壊されて、そのまま吹き飛ばされてしまう
「きゃぁ‼」
そんなときに限って悪いことは重なるもので
「白崎っ‼」
俺と同じように吹き飛ばされた白崎に駆け寄る
「大丈夫か?!」
「う、うん。大丈夫だよ…」
立ち上がりながら返答する白崎、だがこの状況は不味い
「くそっ、八重樫達と離れちまったか…」
火力のない俺と回復役の白崎が、あろうことか孤立してしまった
もしベヒモスに見つかれば、助かる可能性は低いだろう
「…白崎、走れるか?」
「え?」
「走れるかと聞いているんだ、行けるか?」
「…うん、行けるよ南雲くん」
力強く頷き、八重樫達がいる方へと目を向ける
「よし、いいか?脇目も振らずに走れ、何があっても止まるんじゃないぞ」
「分かった」
ちらっとベヒモスを見ると、橋に埋まった頭を引っこ抜こうともがいているところだった
「今がチャンスだ…行け‼」
「っ‼」
掛け声と共に走り出す白崎と俺、見つからないように祈るだけだ
そう見つからないようにーー
「グルァァァァァアアアアア!!」
ーー現実は非情だったようだ
走り出してまだ半分も道のりを行っていないにも関わらず、ベヒモスはその巨大な頭を橋から引き抜いていた
怒りに身を任せ、前足を橋に空いた穴へと突っ込み
瓦礫を一気に投げ飛ばしてきた
「っ‼白崎‼」
「えーー」
一際大きい瓦礫がこちら目掛けて飛んでくる
横を走っていた白崎を抱えて、錬成で壁を作り防ごうとする
しかし、壁なんぞ無いと言わんばかりに瓦礫は飛翔し
俺たちはそれに巻き込まれる形となった
「ガッーー」
横っ腹に衝撃を受ける
そこへ次から次へと瓦礫が突き刺さる
なんとか白崎に当たることなく、俺は地面とキスをした
「はぁ…はぁ…大丈夫だったか白崎…白崎?」
屈みながら白崎の様子を確認するが、返事が返ってこなかった
「…くそっ、最悪だなこりゃあ」
幸い、頭に小さな瓦礫が当たって気を失っているだけのようだが
白崎が行動不能になった、その事実は
「もう、逃げられないってか…」
人一人を抱えて暴れまわる怪物から逃げ切れるとは到底思えない
一人で逃げるか、二人仲良くここでぺしゃんこかーー
「…決まってんだろそんなこと」
そんな格好悪いこと、できないよな
「…“錬成”」
白崎を簡易的な土のドームで覆う、これで多少は大丈夫なはずだ
向こう側とは瓦礫で寸断された、引くことはもうできない
「ばっかみたいだな、散々怠けていた奴がいの一番にこんな役回りさせられるとは」
手持ちの回復薬はあと1つ、それだけあれば
「十分だ‼」
痛みで悲鳴をあげる体に鞭打って、再び頭突き攻撃を繰り出そうとしているベヒモスに向かう
「桜吹雪‼」
剣先から飛び出した小さなナイフは、そのいくつかがベヒモスの目に当たる
痛みからか大声をあげたあと、攻撃した俺に睨みを効かせてくる
「こっちだ化け物‼」
負けじと大声でベヒモスを誘導する、そのまま白崎から距離を開けなければ
目指すは一ヶ所、最初の頭突きで空いた穴と二回目で空いた穴の間
そこにいけば、大した能力でない錬成でも十二分な効果が出るーー
「南雲君‼香織‼何処?!返事をして‼」
瓦礫の向こうから、必死になってこちらに呼び掛ける八重樫の声が聞こえる
「っ‼来た‼」
目の前のベヒモスが大きく跳躍し、三度目の頭突きが突き刺さる
大きく橋が揺れ、瓦礫が飛散する
それをなんとか避け、体勢を建て直す
「しぶとい奴だ、呆れるくらいにな」
いつの間にか額を切っていたらしく、左目に血が流れる
それを拭い、最後の仕上げに取りかかる
「南雲‼そこにいるのかい‼」
そんなときに瓦礫の向こうから今度は天之河の声が聞こえる
「おーう天之河、無事だったのか」
「それはこっちの台詞だ‼香織は?!香織は無事なのかい?!」
「おいおい俺はもののついでかい、白崎は…あー、無事だな、うん」
「南雲君‼本当に大丈夫なの?!」
「あー大丈夫だ大丈夫、今そっち側にいるはずだ」
瓦礫の向こう側でガラガラと土が崩れる音がする、ちょうど錬成の効果が切れたようだ
「香織?!無事かい?!」
「ちょっと待って…大丈夫、気を失っているだけみたい」
ベヒモスの三度目の頭突きのお陰か、塞いでいた瓦礫が上手い具合に崩れて白崎は向こう側へと行けたようだ
「おっし、いいか天之河、八重樫も聞いてくれ」
「なんだい、君も早くこっちにーー」
「俺はあのデカブツをどうにかする、そっちは万が一に備えていてくれ」
「な、どうにかするだって?!」
「ちょっと南雲君?!」
懐から最後の回復薬を取り出し一気に飲み干す
「あのデカブツのお陰で橋の上は穴だらけだ、もう一度頭突きをしたタイミングで錬成を使う」
「錬成だって…?」
「そう、こんだけやって崩壊しないんだ、だったら橋自体の強度を変えるしかない」
錬成を使って橋を柔らかくする、そこに頭突きが決まればジ・エンドだ
「そっちは橋が崩壊しなかったときに備えて魔法詠唱の準備をしていてくれ、全力で叩き込めば崩れるだろうし」
「そ、そんなことしたら南雲が…‼」
「安心しろって、ちゃーんと脱出の方法は考えてあるんだから。魔法撃ったって大丈夫」
心配性だな天之河は、俺がそんな無計画無鉄砲に見えるのか
「頼むぞ天之河、ここでしくじれば全滅だってあり得る」
「わ、分かった。みんなに知らせてーー」
…そうそう、勇者はみんなを引っ張っていかなきゃな
「…嘘よ」
小さく、ベヒモスが頭を引っこ抜こうとする音にかき消されそうな声で、八重樫が呟いた
「魔法を撃てばいいのなら、南雲君がそこにいる理由がないじゃない。あなたの事だもの、本当に脱出できるなら、最初からするはずよ」
…本当にお前は、勘が良すぎて困りもんだな八重樫
「早く、早くこっちに来てよ。みんなで魔法を撃てばーー」
「…無理だ、八重樫」
「え…?」
三度目となる頭の引き抜きを見ながら、俺は剣擬きを構える
「これだけ頭突きして崩れねぇんだ、あと10回したって崩れる可能性は低い。だったら確実に橋を崩壊させる必要がある」
そうでなくとも、あと一押しまで持っていかなければ行けない
「魔法でこの橋が崩壊するなら最初からそうするさ、無理だからやるんだ」
「そんな…そんなのダメよ‼」
「天之河‼どうせ近くに坂上もいるんだろ?白崎と八重樫引っ張って行け‼もう時間がない‼崩壊に巻き込まれるぞ‼」
「な、巻き込まれる?!まさか、南雲‼」
「…八重樫、再戦の約束は守れそうにない。すまないな」
「嫌‼こっちに来て南雲君‼」
「それと白崎が目を覚ましたら伝えてくれ‼そいつはくれてやるってな‼」
完全に体勢を立て直したベヒモスは、四度目の頭突きの準備に入った
「来い、デカブツ」
気分は巨大なタコに丸のみにされる寸前の海賊そのまんま
こうでも言ってないと恐怖で気絶しそうだ
怖い
死ぬのが怖い
瓦礫の向こうのクラスメイトが死ぬのはもっと怖い
こんなあっけなく幕引きするとは考えもしなかった
異世界で死ぬだなんて一月前には想像すらしていなかった
「こんな幕引き、何て言って説明すればいいんだろうな?」
誰に説明するのかとか、今言う必要があるのかとか考えずに
思ったことを口に出して正気を保つ
そしてついにその時は来た
「グルァァァァァアアアアア!!」
大きく跳躍し、四度目となる頭突き
着地するまでの僅かな時間
最後のチャンスだ
「無能でも、やるときはやるもんなんだよ‼」
着地地点付近に走り込み、両手で錬成を行う
ぐにゃりと地面が歪んだその瞬間
轟音と共にベヒモスが降ってきた
左腕に強烈な痛み
吹き飛ばされながら感じる熱波
降り注ぐ瓦礫
意識だけはなんとか保ち
ーーついに崩れだした橋を見届けた
「…あーくそ、格好悪いなぁ…」
背中から橋に激突した次の瞬間
浮遊感を感じる
どうやら自分がいるところも崩れだしたようだ
「…約束破るとか、ほんっと格好悪…」
遠くから聞こえる誰かの声
顔を向ける事もできずに
暗い奈落の底へと落ちていった
ーーこんな終わりでも、満足かなぁ…