「ーーそいつはくれてやるってな‼」
聞きなれた声が聞こえる
うっすらと目を開ければ、私は誰かに背負われていた
それが光輝くんだって言うのはすぐに気がついた
隣では雫ちゃんを引っ張っている龍太郎くんがいた
泣き顔の雫ちゃんは久しぶりに見た
その時、後ろから轟音が聞こえた
「な、に…?」
小さく呟く
「香織‼気が付いたのか?!」
「こうき、くん?…あれ、私…」
周りを見渡す、後ろには橋の残骸でできた壁
その壁がガラガラ音を立てて崩れていく
「南雲くん…は…?」
「……」
私の問いに顔を歪める光輝くん
そのとなりで雫ちゃんは泣きながら、後ろに向けて何かを言っていた
「ダメ‼離して‼まだ、まだ南雲君が‼」
「無理だ八重樫‼このままじゃお前も巻き込まれちまう‼」
南雲くん?
振り返ってみて
崩れた瓦礫の向こうに
「…ぁ」
信じられないものを、見てしまった
この世界に来て
他のみんなが武器や道具をもらって
適正にあったものがこれしかないって言われて
しっかりと毎日手入れをしていた
茶色い錬成師の手袋
それを着けた
赤黒い、何か
まるで
腕のようなものがーー
「っ‼ダメだ香織‼見るな‼」
光輝くんが大声をあげる
そんな
嘘だよね?
南雲くんはちゃんと避難できたんだよね?
まさか
まさかあそこにいるなんて
言わないよね?
「あ…あぁぁ…」
私のせいで
私があのとき
気を失ったせいで
南雲くんは
南雲くんは…
「いや…いやぁぁ‼南雲くん‼南雲くん‼」
必死になって光輝くんの背中から降りようとする
でも光輝くんはしっかりと私を背負ったまま走り続ける
「戻って‼戻って光輝くん‼」
「…ゴメン、香織…」
「止まって‼お願いだから‼」
泣きじゃくりながら
背中を必死に叩きながら
それでも光輝くんは下ろしてくれなかった
「お前ら走れ‼橋が崩壊し始めたぞ‼」
前の方からメルドさんの声が聞こえてくる
気が付けば橋が大きく揺れ始めていた
「階段前確保ぉ‼」
「全員駆け上がれ‼止まるな‼」
待って
まだ南雲くんが
南雲くんがまだーー
そんな私の懇願も届かず
みんなは一斉に階段を駆け上がる
ダメ
このままじゃ
南雲くんはーー
そこまで考え
私はまた
意識を手放してしまった
ーーーーーーーーーーーー
「……」
「……」
「……」
重苦しい王城の広間
私と光輝と龍太郎の3人は、一言も話さずに座っていた
あの後迷宮を脱した私たちは、ホアルドの宿屋まで戻り翌日の朝一番で王都に帰還した
「…畑山先生は?」
重い口を開いた光輝は、担任である愛ちゃん先生のことを聞いてきた
「…まだ寝込んでいるわ、相当ショックだったみたいで」
「…そうか」
愛ちゃん先生は、予定より早く暗い顔をして帰ってきた私たちに何があったのかを聞いてきた
そこでメルドさんから、南雲君が戦闘中に命を落としたことを聞き、3日ほど寝込んでしまっていた
「無理もないわね。教え子の一人が、ですものね」
元の世界に帰る、全員で
当たり前だと思っていたそれは、私たちの認識の甘さによって意図も簡単に打ち砕かれた
「…だぁぁぁあ‼うだうだしてても仕方がねぇだろ‼」
大声を張り上げて椅子をひっくり返しながら立ち上がる龍太郎
「南雲のことは、割りきるしかねぇだろ‼あの状況でどうにかできた奴はいなかったんだからよ‼」
言ってることは至極正しいだろう、あの状況下で何かできたのかと聞かれれば何も出来なかったと言わざるを得ない
「…それで?トラップを発動させた張本人は、どうしているの?」
「雫」
「…ごめんなさい」
刺のある言い方を諌められる
トラップを発動させた檜山大介は、あの後落ち着きを取り戻したクラスのほぼ全員から非難を受けることとなった
しかし彼は光輝の目の前で土下座をして謝罪し、光輝がそれを受けたことで取り敢えず彼への非難は収まった
「理解はしたつもりよ。でも、心の何処かで納得できていない自分がいるの」
「いつまでも引き摺る訳にはいかないんだ、あれでおしまいだよ」
「…そうね」
その行動が全て計算づくでなければ素直に受け入れられたかも知れないが、幼馴染みの光輝を利用された気がしてモヤモヤしていた
「しばらくは、中止にするべきね」
「もちろんさ、もっと訓練をして…」
「訓練を含めて、ね」
驚いた表情をする光輝に、はっきりと伝える
「武器を持つのが怖くなったクラスメイトもいるのよ?ここは、訓練含めて中断するべき時よ」
「でもそれじゃあ…‼」
「今訓練しても、身に付かないどころかいらない怪我をしかねないわ」
あの日の光景がトラウマになってしまったクラスメイトは、少なくなかった
今まで、目の前で人が死ぬ光景など見たこともないし、それがクラスメイトであれば尚更の事だった
「メルドさんにも、私からお願いしてみるわ。気を紛らせる為でも、今は休息が必要よ」
「…そうかもしれないな」
「ったく、もうちょっとしっかりしろってんだ」
そこまでいって、私たちは部屋から退出した
今後のことを、もっとしっかりと話さなければいけない
もう、二度と起こさないためにも…