夏が近づいてきて暑くなってきましたね…。
今回は2部構成で珍しく後書きもあります。少し長めですが読んでいただけると幸いです!
◆やはり比企谷八幡は先輩である。
「うーむ……OK!八幡終わったよ」
後ろの席の八神から声がかかる。見てみると涼風の村人の3Dモデルを確認していたようだ。
「わかった。ふむ、これで涼風に頼んだ村人の仕事は全部終わったな」
「大変でしたほんと…」
見ると涼風はいかにも疲れきってます…って姿をしていた。まぁ新人にしては結構量あったし、慣れないことも多くて疲れるもわかる。さて、だがそんな涼風には朗報だな…
「おつかれさん。じゃあ次は一体キャラデザしてもらうから、ほい仕様書。」
「えーーーーーーーーー!」
涼風は自分がキャラデザの仕事を貰えたのが嬉しいのか仕様書を受け取るとそれに目を落とす。
「えっと、『サーカス団に入団したばかりの18歳の女の子、明るい色の髪のツインテールが特徴、真面目で元気だが少し天然なところがある』…あれ?どこかで…」
「(青葉じゃん…!)」プッククク
涼風が口にする仕様書の内容を聞いて八神が笑いをこらえる。まぁそういう反応になるよな…
「『主人公一行を次のダンジョンへ案内する途中に……盗賊に襲われて死んじゃうんですか…!?』」
「ま、まぁな」
「な、なんか可哀想ですね…で、でも頑張ります!」
そう意気込むと涼風は軽い足取りで自分のデスクへ戻って行った。
「な〜んか楽しそうじゃん?」
「まぁ多かれ少なかれあいつはキャラデザに憧れがあっただろうからな、嬉しいんじゃないか?」
「でもそのキャラデザの指定が自分って…ぷふっ!」
「まぁそっちの方が印象に残っていいじゃないか」
だからそんなに笑ってやるなって…
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さて、涼風の様子はどんなもんかな…
「お、どこ行くの?」
席を立つ俺に八神が聞いてくる。
「ちょっと涼風の様子を見にな」
「ほーん、行ってらー」
さて、進んでるといいが…
涼風のデスクまで行くと涼風は資料を調べようとしているようでパソコンに向かっていた。何を調べてるかと思い覗いてみると…
『ツインテール』
「いや、頭についてんだろ…」ポスッ
「えひゃ!?」
持っていた書類を丸めて涼風の頭を叩くと驚いたのか変な声を上げる。ふと疑問に思ったがこれってパワハラにならないよね?叩いたって言ってもすごい優しくだし、ツッコミみたいなものだし…まぁそんなことはどうでもいいか
「どうだ?調子は。」
「まだ全然です…」
「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「は、はい!」
涼風から下書きの紙を受け取るとそこにはまだ抽象的なキャラクターと悩んで消したであろう跡が沢山あった。
「あー、なんだ?まだ迷走中か…」
「なかなか自信を持って描けなくて…それに最近仕事でいっぱいいっぱいで絵も描いてませんでしたし、キャラデザをさせてもらえるってわかってたら…!」
「言いたいことはわからんでもないが…」
「いや、わかってます。言い訳ですよね…はい…」
涼風の言いたいことも分からんでもない。が、俺は言い訳することが必ずしも悪い事だとは思わない。これが八神だとキッパリ言うんだろうがな…
「まぁ別に今は特別忙しい訳でもないから、涼風のペースで描けばいいさ。…焦って描いて中途半端な絵を持ってこられても困るしな」
「…はい!あ、そういえば…比企谷さんや八神さんも最初はコンペに参加したんですか…?」
「…あーそうだな、まぁテキトーに」
涼風の言うコンペはゲームに対してどんな絵がいいか1回みんなで描いて持ち寄るものだ。去年なんかは篠田が行き詰まってパンクしていたのを覚えてる。
「て、テキトーに!?…それでメインのキャラデザを勝ち取ったんですか!?」
「まぁメインっつってもコンセプトや絵の感じが似てるってのと新人ってのもあって八神と合同だったけどな」
「あ、それで八神さんもメインのキャラデザだったんですね!」
まぁあの時はあの時で一悶着あったが…ここで話すことではないだろう。でもそうか、涼風の年の頃にはもうメインのキャラデザやってたんだなぁ俺
「…まぁでも涼風の時には、八神って壁を超えなきゃ行けないから覚悟しておいた方がいいな」
「…う」
「えーなになにーなんの話〜?」
自分の名前を呼ばれて気になったのか八神がこっちへ来る。
今まで話してた事を八神にも伝える。
「えー、でも壁って言ったら八幡もでしょ?」
「俺っつっても次のコンペに出るかもわからんからな…めんどいし」
「え…それって…」
俺の言葉を聞いて八神はあの時のことを思い出したのか少し声のトーンが下がる。
「別にあの時の事は気にしてねぇよ。普通にめんどいからだ、今でさえ仕事ばっかで大変だっつーのにこれ以上増やしてたまるかっての…」
「……ふふ、なにそれ」
俺の軽口に八神はそっと微笑む。…そうだよ、お前はそれでいいんだ。お前に泣き顔は似合わない。
「あ、えっと…」
俺らの話についていけない涼風があたふたと困っていると後ろから遠山さんが来る。
「でも、そのキャラデザ勝ち取った時は八幡くんもコウちゃんもよくそのせいで先輩達に目をつけられていびられてたのよ?」
「え、どういう事ですか?」
「突然入社してきた新人にメイン持っていかれたら面白くないじゃない?」
そう、あの時は俺らが目立ってしまったせいで先輩達にいびられて半ば孤立していたことがあった。まぁ孤立と言っても俺と八神は嫌でも話し合わなきゃいけない状況だったからふたりぼっちみたいな感じだったけど…そんな中俺らに普通に接してくれていた遠山さんには今でも感謝していたりする。
「あ、あれは私達も生意気だったし…!」
そんな遠山さんの言葉に八神は異を唱える。え、私達って俺も入ってるのん?いやまぁ確かに褒められた態度ではなかったもしれないが…それでも俺は俺らをいびるだけいびっておいて他社に引き抜かれた大石、あいつだけは絶対に許さない…
「それで毎日毎日、私と八幡くんが愚痴聞かされてたんだから」
「りんやめてよ!」
先輩の面目、丸潰れである。
「…でも少しわかります。」
「「「?」」」
涼風が神妙な面持ちで話し始める。
「…私も今…比企谷さんと八神さんが私と同い年にはもうメインをやってたって知って、ちょっと悔しいっていうか妬ましい気持ちがあって……ってダメですね!いつまでも子供っぽくて私!」
「「………………………」」
涼風が思ってることはきっと誰でも思うことだろう。あいつが妬ましい、くやしい。そんな気持ちはきっと誰でも持っているものだと思う。
「…俺や八神が同じ立場でもきっと同じことを思うとおもうぞ。だってこの仕事を好きでやってんだ。」
「「八幡(くん)…」」
まぁ働くのは辛いけど
「涼風は村人の作ってて楽しかったか?」
「え?あ、はい!端っこのお仕事だとは思ってますけど楽しかったです。」
「そりゃよかった。さっきの村人たちがマップに乗ってる。サーバーに上がってるから見てみるといい。」
「は、はい」
涼風は返事をすると自分のパソコンからサーバーにアクセスする。するとそこには先程涼風が作成していた村人やその他の色々なキャラクターがいる街が映し出される。
「わぁ……!凄いです!ゲームに乗るとこんな風に見えるんですね…!」
「「…」」
涼風の反応を見ると俺と八神は顔を合わせる。すると今度は八神が喋り始めた。
「悔しいって気持ちも大事だけど、やっぱり楽しいって気持ちはこうやって伝わると思うんだ…それが一番大事なんじゃないかな」
「はい!」
「私も青葉ちゃんの村人に動きを入れてて楽しかったよ!」
八神の発言に涼風が返事をすると、今度は後ろからモーション班である篠田がそんなことを言ってくれる。
「そう、この画面を作るだけでもモーション班や背景班、企画やプログラマー。いっぱい関わっているのよ」
「そうだ、俺たちの仕事は目立つ位置にあるが1人じゃ作れないんだよ」
「青葉の今のキャラデザもそのことは忘れないようにね」
「な、なんだか今度は責任重大すぎて緊張してきました…!」
「ははは」
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「八神さん描いてきました!」
後ろからそんな声が聞こえて来たので俺も八神の方へ行きキャラデザの確認をする。
「うんいいんじゃないかな。ね、八幡。」
「ああ、名前は考えてきたのか?」
「い、一応考えては来たんですけど…えっと、えっと…なんか名前言うのすごく恥ずかしいですねこれ//」
「「躊躇ってるとどんどん恥ずかしくなるぞ」」
自分が描いたキャラに自分で名前つけるって恥ずかしいよな。うんうん、わかるぞその気持ち。今まで嫌という程やってきたからな。まるで中二病が再発したのかと思ったくらい黒歴史が刺激され恥ずかしかった…
「ソフィアちゃんです!」
俺が過去を思い出し内心悶えていたら涼風が思い切って名前を叫ぶ。
「ソフィアちゃんだって」 「ソフィアちゃんか…」
俺らは2人揃って名前を呟きながら涼風が持ってきたキャラデザの用紙と涼風を見比べる。その動きで涼風が気づく。
「あ!これ私ですか!?」
「へ、今気づいたの?」
「まぁ涼風は真面目で元気だが少し天然なところがあるからなぁ」
「最悪です!比企谷さんキモイです!八神さん大嫌いですー!」
き、きもいって…
「怒らないでよソフィアちゃん」
「まぁそう怒るなよソフィアちゃん」
「もーーーーーーーーーーー!!」
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◆やはり残業するのは間違っている。
「涼風、次の仕事はこのソフィアの3Dモデル製作な。ソフィアはイベントにも登場する重要NPC扱いだから、村人よりも少し豪華に作ってくれ」
「豪華…?」
ここら辺の話は少し難しいんだよなぁ…
「ゲーム画面に1度に表示できる総データ量は決まってるから重要度に合わせて密度を調整してるんだ」
「でも…死んじゃうんですよね。ソフィアちゃん」
「まぁそこはどうしようもない」
だから俺をそんな目で見ないで…!
と、そこに遠山さんから声がかかる。
「八幡くん、コウちゃん。そろそろ会議よ」
「「あ、了解」」
2人して返事をして会議の用意を始める。俺は使うであろう書類とメモ、筆記用具を手に持って席を立つと涼風が遠山さんと八神を交互に見ていた。
視線の先には会議に参加するために持っていく手荷物があった。遠山さんは予め用意してあっただろうクリアケースを持っていて八神は恐らくメモをするために紙とペンだけ持っている。
いやまぁそんな堅い会議じゃないけど流石に八神のそれは少なすぎやしないか?
と考えていたら最後に涼風が俺に視線を向ける。
「私間をとって比企谷さんを目指すことにします!」
「何言ってんだ?」
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ー会議中ー
モブ「あの、キャラ班の残りキャラ数と残り日数って合ってますか?自分の数え間違えならいいんですが…」
「あぁ!ほんとだわ!?どうしようコウちゃん!八幡くん!」
「ああホントだ。こりゃ忙しくなるな〜」
「残業…かもな」
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と、言うわけで会議終了後。俺ら3人はブースに戻ると他のキャラ班の3名に事情を説明する。
「ごめんなさい!私の計算ミスなの…キャラ班にはお泊まりか土日どちらか来てもらうことになると思うけど…」
遠山さんは終始申し訳なさそうにしていた。
「ちなみに会社命令の休日出勤は有給が増えるのでちょっとお得です。」
「んな悠長な…ほんなら私は休日に来ます」
「私も…」
飯島とひふみは休日出勤するようだ
「涼風はどうする?」
「…有給ってなんですか?」
「「そこからかよっ」」
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「買ってきました!寝袋!」ジャ-ン
涼風は買ってきた寝袋を自慢げに掲げて見せてくる。
「さっそくやる気だな、残業も休日出勤もだなんて」
「最初だけですよ、ソフィアちゃんに時間をかけたいので!…ついでに着替えもあります!」
「いや、楽しそうだけどこれ残業だからな?」
この子ちゃんとわかってる?
「そういう八幡は残業なんだね、疲れたから帰るっつって休日出勤しそうもんだけど」
「ばっかお前休日くらい休まないとやってられないだろ。そのために残業しなくちゃいけないなら誠に遺憾であるがやるしかない…。」
休日くらい寝かせてくれ…それに休日出勤して有給増えたところで結局滅多に使わないからなぁ。
「え、比企谷さんもお泊まりするんですか!?」
「ん?あ、あぁ…安心しろ。俺は会議室使って寝るから」
「そ、そうですか…なんかすみません」
「気にすんな」
こういう職場だ、男が会議室使って雑魚寝してたり女が会議室使って雑魚寝してたり、マスター前なんかは男女関係なく自分のデスクで爆睡してたりするからなぁ…
残業する時のルールとかは八神に任せて、仕事しますかねぇ…
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「……………………………」
もう寝ようかと思って会議室向かおうとしたところ自分のデスクで寝ている涼風を見つけた。…さて、起こすべきかそのまま寝かせておくべきか……まぁせっかく寝袋買ってたしこのまま寝て体痛めてもあれだしな、起こすか
「おい、おい、涼風…起きろ」ユサユサ
「は!ここどこ!?」
「いや会社だわ…寝袋があんならそっちで寝た方がいいぞ。体痛めてもあれだし」
「あ…そうでした。?……どうしたんですか?」
しまった、涼風のラフな格好が意外で見てたらバレてしまった。だってこいつ私服でいいって言ってんのに毎日スーツで来るからこういう姿をしているのが珍しいのだ。
「いや、なんだ。いつものスーツ姿じゃないから目にとまってな……その、いいんじゃないか?」
昔から小町に女の子の変化には褒めろと言われてきたから褒めてみたが、これでいいのか?いいんですかね!?小町ちゃん!
「!?…………………もう!ここの先輩方はなんでそう…!//」
「え…す、すまん…。」
怒られてしまった…勇気出したのに…八幡頑張ったのに。ぐすん…戸塚に会いたい…。
「そ、そういうことじゃなくて…!あー、もう!あ、ありがとうございます!もう寝ます!おやすみなさい!///」
「お、おう…おやすみ」
なんか理不尽…
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ドンドンドン!!ドンドンドン!!
「青葉!起きろ!みんな出社してきてるぞ!」
「う、うーーん。なんだ…?」ゴンッ
「……………………zzZ」
朝、騒がしいノックで起きたら、横に熊の皮を被った涼風がいた。
もう一度言おう。
朝、起きたら、横に、涼風がいた。
いやなんで?え、俺ちゃんと会議室で寝たよね?てか八神が明らかに俺じゃなくて涼風を呼んでるあたり涼風も会議室使おうとしてこっちで寝たのか…?なぜいくつかある会議室からこの部屋を選んだ…。
これ見られたら誤解されるかなぁ、いやてか八神なら昨日いたし信じるだろ…
そう願って俺はまず会議室の扉を開ける。
「青葉ー!」
ガチャッ
「お、おう…」
「あれ?なんで八幡が…?」ヒョコ
八神が俺の後ろの涼風を見て状況を把握する。
頼む八神、お前が頼みの綱だ。誤解を解いてくれ…!
「…………………八幡、説明。」ハイライトoff
神はいなかった…。
やはり俺が残業するのは間違っている…。
※この後ちゃんと涼風を起こして誤解を解きました。
はい!どうもニケです。
今回で原作1巻分が終わりました。大した話数もないのに約3年もだらだら書いていたこのシリーズもひとつの節目を迎えることが出来たのはひとえに皆様の応援のおかげです!
ありがたいことにUAは60000を超え、お気に入り登録数も1,100を超えていて、なんだかんだこの作品を愛していただいているんだなぁと実感して涙がちょちょぎれんばかりです!
改めて、今まで応援してくれている読者の皆様、大変ありがとうございます!作品自体はまだまだ続ける予定ですが節目として御礼申し上げます!
また、感想や高評価をいただけると次回へのやる気に繋がります!
これからもこの作品共々是非ともよろしくお願いいたします!