レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第9章「未踏の禁域」

 エイミーたちのクランが新しい仲間を加えてから初めてグッリデン砦の防衛戦に赴いて数日後、ルルは目を覚ました。傷は癒えており命に別状はなかったが、やはり弱化の症状が出ている。死の寸前まで追いやられた体だと思えば奇跡的な回復力であったが、暫くの間は以前のように前線で体を張るような戦い方はできそうにないのは明らかだった。

 

「おい。あまりくっつくな。猫臭くて敵わない」

 やっと起き上がれるようになったルルにクックが過剰に密着して世話をしている。テルの村から帰還した後、ルルは自宅ではなくレーゼ神殿の商業区に設けられたクラン拠点の二階の一室で療養し、手の空いたクラン員が治療や世話をしている。専らルルの部屋に入り浸っているのはクックであり、神官であり回復魔法を得意とするクックが率先して世話をするのは当然のように思えた。ルルとしては命の恩人でもあるクックではあるが、有難いを通り過ぎて鬱陶しいと感じるほどであった。

 この二人は以前から兄妹のように仲が良く、互いを信頼しあっているのはクランでも有名であった。

「あら、怪我人が偉そうなことを言うんじゃないの。まだアンタは本調子じゃないんだから、黙って介護されてなさい」

 クックは勝ち誇ったような口調でそう言うと、肩を貸してルルを立ち上がらせた。

 クラン長のエイミーは弱化となっているルルを放っておく訳もなく、なにやら神殿に掛け合うため数人の仲間を連れて外出している。先日のテルの戦闘で盾僧兵と魔道弓と言うクランに抜けていた武器の使い手を得たのはクランにとっては僥倖で、今後更に活動の場を広げるためにエイミーは動いているようだ。

 

 

「これが元は片手剣だったって言うんか。魔改造の極みやな」

 ルルが休んでいるクラン拠点の隣の部屋では、アンジェリナが腰に挿しているロッド「ロンバルディア」を眺めてディビットが呟く。元は大陸でも有数の由緒ある剣であったが、持ち主のアンジェリナは盾僧兵であり、剣は振るえない。そこで、雇い主たるリィナがアンジェリナに合わせて生成し直したのである。白と赤を基調としたロッドは所々に金で作られた格式高いレリーフが施され、その高貴さを否応無く主張していた。

「魔改造とは聞き捨てならないですわ。このリィナ渾身の一振りでしてよ」

 鼻を鳴らしてリィナは胸を張る。確かにポーンですらここまで見事に原型を留めておかない改造はしない。ディビットは人間の拘りと言う所業の深さに改めて溜め息をついた。

「宜しければディビットさんの弓もわたくしが改造してさしあげてもいいんですのよ」

「丁重にお断りさせて頂こう」

 神妙な面持ちでディビットが申し出を辞退する。もし任せようものなら、自分の弓がどんな姿になって帰ってくるか知れたものではない。

「あら、そう。残念ですわ。気が向いたら是非お声をお掛けになったくださいまし」

 そう言って慇懃にリィナは頭を下げたが、ディビットの気が向く日は暫くは訪れそうになかった。

「お嬢の腕は間違いないであります。趣味が悪いのが問題でありますな」

 ロッドの持ち主であるアンジェリナが肩を落として述懐する。壮麗な片手剣が過剰な装飾の付いたロッドに生まれ変わって帰って来た日の驚きをアンジェリナは忘れていない。但しロッドとしての性能は申し分なく、今まで振るうことは無くても肌身放さず持ち歩いていた剣なので、しっかりと手に馴染んだ。今度こっそり装飾を取り外そうと考えている事をアンジェリナはまだリィナに告げていない。

「成金主義だとでも言いたそうですわね、アンジェリナ。わたくしの洗練された造形美が解らないなんて、あなたも武器職人としてまだまだですわ」

「お嬢。自分は武器職人になった覚えは一切ありませんよ」

 アンジェリナのにべもない返答にリィナは口を開閉しながらたたらを踏み部屋の柱にもたれ掛かった。

 

「よし。漫才はそこまでかな。聞いてほしい事があるんだ」

 部屋に入ってきたのは神殿から帰って来たエイミーだ。漫才と片付けられたリィナとアンジェリナが顔を見合わせて嘆息する。ここに居ないクランの主力覚者の所へはシェリーが直接招集をかけており、暫く全員の集合を待つことになった。

 程無くして部屋に集まったのはエイミー、ディビット、ジレディーヌ、クック、ファッツ、ルル、シェリー、リィナ、そしてアンジェリナの九人。今はこの覚者たちがクランの主力である。

「みんな揃ったかな。時間もないから手短に話すよ」

 エイミーは勿体ぶらずに話し始める。この部屋に集まった仲間に前置きや体裁は不要。そう言外に付け加えているようだった。

「知っての通り、先のテルの村での戦闘で、我がクランは重要な人員であるルルを前線より退かせる事態になった。それは単(ひとえ)にボクの采配の至らなさが招いたもので、ルルは勿論、戦闘に加わったここにいる皆に迷惑をかけた。全て無能なボクの責任だ。ゴメン」

 自虐的な物言いにジレディーヌが声を上げようとするのを視線で制しエイミーは続ける。

「でも、そこで新たな出会いがあり、助けてくれた二人が仲間となってクランに加わってくれた。その出会いに感謝したい。だが、ルルを置いてボクたちだけで戦うわけにはいかない。ボクたちはクランの仲間だ。誰一人欠くこと無く共に進んでいきたいと思っている。そこで、今のルルの力でも扱える武器を全員で調達しに行こうと思う」

 エイミーはそこで言葉を切って一同を見渡す。深呼吸のあとエイミーは告げる。

「古の都であるメルゴダに向かい、錬金術士の武具の封印を解く。その武器をルルに与え新たな武器としようと思う」

 メルゴダとはレスタニアに存在する嘗ての錬金術士の都であり、許可を得たものしか立ち入る事ができない禁域だ。現在国内に出回っている錬金術士が用いる籠手はメルゴダで生産されたものではなく模倣品であり、本来の力を発揮出来ているとは言い難いものだ。レーゼ神殿は武器としては不十分な籠手を改良したいと言う考えはあったが、メルゴダの技術は難解で純度の高い複製が難しい状況であった。エイミーはそこに目を付け、メルゴダの技術を持ち帰る代わりに護政区への立ち入り許可を得たのだ。

「無論神殿の許可は取り付けたよ。我々が武具の生成方法を持ち帰れば、レスタニアには更なる発展が期待できる」

 エイミーの言葉に一番目を輝かせているのは武器商人でもあり武器職人でもあるリィナだ。生成方法を自分が知ることが出来れば、大きな経験となるのは間違いない。そのリィナの視線を受け止めて、エイミーは微笑んだ。

「リィナ。キミの腕が必要だ。期待しているよ」

「お任せになって。このリィナ、命に換えても錬成籠手の生成方法を持ち帰ってご覧にいれますわ」

 部屋の中の緊張は一気に高まった。これまで数える限りしか覚者が立ち入ることが許されなかった禁域に踏み入る事ができる。それは冒険を生業とする覚者にとって変えがたい喜びであった。

「出発は二日後の早朝。この九人で向かう。各員用意を怠ることがないように」

 エイミーの言葉に恭しく頭(こうべ)を垂れ覚者たちは期待を胸に解散した。

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