レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝) 作:岸本 案
レーゼ神殿の宿場区にある酒場「竜の胃袋」では、近年レスタニアで流行を始めた祭りが開催されている。ハロウィーンと呼ばれる遥か西方の国の収穫を祝うこの祭りは、各地に伝播するにつれて姿を変え、ここレスタニアにはお菓子を配る祭りとして定着しつつある。その際、吸血鬼や魔女、南瓜のお化けと言った仮装をするとより縁起が良いとされ、レーゼ神殿には思い思いの仮装をした覚者や人間が溢れていた。
「トリックオアトリート」
内海に面した卓で食事を取っていたアンジェリナとリィナに一人の少女が声を掛けてきた。紫色の先の尖った帽子に全身を覆うクロークを纏い悪魔の羽と尻尾に似せた着飾りは異形としか表現できない姿であるが、ここ数日のお祭り騒ぎでアンジェリナとリィナもすっかり慣れてしまった。少女の口にした言葉は「お菓子をくれないと悪戯するぞ」と言う意味で用いられ、言われた大人は相手の子供にお菓子を渡す習わしになっている。
「ハッピーハロウィーン」
教わった通りの挨拶をして、アンジェリナは幼子に卓に置かれた紙の小袋を渡す。小袋の中には小麦粉と砂糖で出来た焼き菓子や、カカオと言う木の実を原料とした甘いチョコレートと呼ばれる菓子などが入っている。このチョコレートの製法も南蛮と呼ばれる地方から入ってきた技術である。ポーンによるチョコレート生成は非常に好評で、栄養価が高く保存が効くチョコレートはレスタニアでは常に作られるようになり、覚者も戦闘時に非常食として利用するなど食文化の発展に貢献していた。
少女は小袋を開けると焼き菓子を頬張り、その芳ばしさと甘さに破顔する。「ありがとう」とお礼を言って去っていく少女に手を振りながらアンジェリナは卓上の葡萄酒を口にした。
「ハロウィーンをお楽しみ頂いているでしょうか」
橙色の吸血鬼の衣装を纏った大男がアンジェリナたちの卓にやって来て低頭する。大男は魔女の格好をした妖艶な雰囲気の美女をつれており、その美女もまた非の打ち所がない所作で一礼した。
「アンジェロ殿。それにシスティ殿」
アンジェロとシスティはレスタニアにハロウィーンを持ち込んだ異邦人であり、他にも国外の風習をレスタニアに根付かせようと模索している人物である。アンジェリナは名前が似ていることもあり、すぐに打ち解けて祭りに必要な素材を集めるのを手伝ったこともある。その度に過激な衣装を貰ったりするのだが、アンジェリナは受けとるだけで実際に着てみる勇気はなかった。
リィナは自分たちの卓に二人に座ることを薦めたが、丁重に断られた。これから国内の他の村や町にもハロウィーンの祭りの紹介にいくところだったようだ。
「折角のお誘いですが申し訳ない」
と詫びをいれるとアンジェロは再び一礼した。時間が無いなか声を掛けてくれた気遣いに感謝し、アンジェリナたちも礼を返した。
「お二人のクランには感謝してります。こうやってレスタニアの皆様がハロウィーンを受け入れてくださったのも、あなた方のクランの協力があってこそ。ご恩は決して忘れません」
「とんでもないことであります。お二人の熱意にレスタニアの民が心打たれただけのことで、我々のお手伝いなど微々たる労力に過ぎないであります」
手伝ったのは事実だが、いつも討伐してる魔物の素材を提供しただけなので、畏まって礼を言われる事の程でもない。と言うのがアンジェリナとリィナの正直な気持ちだった。
「お二人はなぜ、この地に祭りを広げようと思われたのですか」
引き留めては悪いと思いながらリィナは問うてみた。流転の民となっているアンジェロとシスティがどんな思いで行動しているかリィナは知りたかったのだ。
「残しておきたかったのです。我々の国にあった風習を」
立派な口ひげを擦りながら、アンジェロは遠い目をして答えた。
「お恥ずかしい話ですが、我々の住んでいた国は魔物の襲来ではなく、人間同士の争いによって滅びようとしています。技術の革新は格差を産み、格差が差別を産む。虐げられた者たちが武力で虐げてきた者たちを屈服させ主従が逆転して、また新たな差別が生まれる」
内省を込めたアンジェロの言葉はやがて熱を帯びていった。
「この国にはまだ希望があります。あなた方覚者と言う希望が。僭越ながら我々は期待しているのです。力を持ったあなた方がその力を正しく遣い、より良い国や世界を作ってくれるのを。その国に我らの祭りが残せたら本望です」
「買いかぶり過ぎです、アンジェロ殿。この国も緩やかに衰退の道を辿りつつあります。他ならぬ神殿の手で」
神殿の拝金主義が進み覚者たちの倫理観が失われてからレスタニアの人心は最早語ることも出来ないほど地に落ちた。相手を騙すことが日常的に行われ、騙された方は泣き寝入りするしかない。どんな形であれ利益を得たものだけが優遇され、その方法は問われない。法の改悪ばかりが進み不正が横行している現状に希望を見いだせる人間は少なかった。多くの志をもった者たちがこの国を去って行くのをアンジェリナたちは見てきたのだ。
「言ったはずです。我々が期待しているのはあなたがた覚者です。レスタニアという国ではありません。あなたがた覚者は多くの困難をはね除け、理不尽な神殿の要求に屈せず、この国を存続させてきた。これほど我慢強い民は周辺諸国には居りませんよ。それこそ国を去った者も多く居るはずですが、あなたがたのような人も残っている。あなたがたこそ、この国の希望なのですよ」
それだけ言うとアンジェロとシスティは再び礼をすると踵(きびす)を返し足早に酒場を出ていった。転移を使えない彼らは徒歩で国を回るのだ。並大抵の労力ではない。アンジェリナは二人の旅の無事を祈って胸の前で十字を切った。
そこへ先程菓子の入った袋を上げた少女が二人の卓に走りよってきた。
「覚者様。いつもレーゼ神殿を守ってくれてありがとう」
そう言うと悪戯っぽい笑顔で少女は手にした一輪の花をアンジェリナに差し出した。路傍に咲く名もない花だが、今のアンジェリナたちにはどんな報酬にも換えがたい価値のある花であった。飲み干した葡萄酒のグラスに水を注ぎ受け取った花を注す。
「ありがとう。こんな綺麗な花、初めて見たでありますよ」
世辞ではなくアンジェリナはそう思った。その言葉を聞いた少女は照れ臭そうに下を向くとそのまま走り去っていく。内海から吹き上げる風が卓の上に注された花を小さく揺らした。
「お菓子のお礼に、素敵な悪戯をいただきましたわね。それにしてもほんと、あなたは小さい子から好かれますわよねぇ。アンジェリナ」
リィナの言葉にアンジェリナは苦笑して答える。国を救いあるべき姿に変える。そんな大それた事は想像もできない。だが、今の少女の日常を護る事は自分でも出来る筈だとアンジェリナには信じることができた。歩いて行こう、どんな道であっても。すでに血塗られた道であるかも知れない。その先にあるものを見届けるまで自分から歩むことを辞めたりはしない。その為に力を遣い、その為にもっと強くなろうとアンジェリナは口に出さずに誓いを立てた。
その心に答えるように小さな花がもう一度風に揺れた。
エピタフ三週やって、三種類しか武器が出てない引き弱覚者です。
カトブレさんと災厄周回にも飽きたので更新しましたよ。
アンジェロが連れてるのはホントは「シェリー」なんですけど、シェリーは既に登場人物に使ってるんで勝手に改名。
外伝では、ゲーム内やリアルでの季節やイベントに合わせて話を書いて行く予定です。
本編で書ききれない覚者たちの日常なんかも書けたらと思います。
さぁ、明日はまたエピタフガチャがリセットされる日。一つで良いからおニューの武器が欲しい所だね。