レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第10章「亡都の落日」

 メルゴダは嘗て錬金術の都として栄えた都市だ。そこは雲の上に浮かぶ空中都市で勿論地図にも載っていない。一般の覚者や人間からすればお伽噺に出てくるような存在である。

 約三百年前までメルゴダはレスタニアの北部に存在する王都であり、白竜に選ばれた覚者が王となり国土を支配していた。白竜と黄金竜の争いにより地上から消失しメルゴダの深淵と言う大穴が残されたと伝えられている。禁足地であり許可のある者しか立ち入る事ができなくなっている。

 現在のレスタニアにはメルゴダで培われた錬金術の技術はほとんど継承されておらず、隠れ里となったメルゴダとの交流は断絶していると言っても良い。神殿がメルゴダを禁足地とし技術の拡散を防止しているのは権力を持つ者たちの思惑でもあった。

 今でもメルゴダには錬金術士たちの末裔が暮らしている。建築様式は地上のレスタニアと酷似しており、ここが嘗て陸続きであったことを証明している。錬金術士たちは一様に長いローブのような着物を羽織っており、肌や頭髪の色素が薄い事がこの地に住まう人々の特徴である。

 

 メルゴダと唯一繋がりがあるザンドラの最北部の護政区と呼ばれる地域は、険しい岩山に囲まれ嘗てメルゴダに最も近かったことから、その影響を色濃く残している。岩山を丸ごとくり貫いて都市を構成しており、入り組んだ地形や町としての装飾が皆無なことから要塞都市として機能していたことを想起させる。

 現在ではメルゴダに向かうにはこの護政区の最奥にある礎から転移するしか方法がなく、エイミーたちの一行は護政区の関所を通り岩山を北へ向かっていた。

 

「ここに以前陸地があったなんて、信じられんわ」

 夕暮れ前にザンドラから四半日ほど歩いた護政区を見下ろす崖に到着し「地上の傷跡」とも呼ばれる深淵を目の当たりにしたデイビットは肌を粟立たせた。穿たれた大穴の向こう側は流れ落ちる海水が靄を作り遥か視界の奥に霞んでいる。この辺りは年間を通じて晴れる事がほとんど無く、空は低い雲に覆われ淡い陽光が差し込むだけで、廃墟と化した石造りの建物を陰鬱に照らし出していた。流れ落ちる海水により雲が常に立ち込め、その水の爆音と雲の中に発生した静電気により地響きにも似た不吉な音が響きわたっている。

「地形や天候を変えてしまうほどの力を、竜は持っていると言うことの証明でしょう」

 数百メートルの眼下に広がる茫漠たる水溜まりに圧倒されながらジレディーヌが述懐する。

 この地に出没する魔物もメルゴダの影響を受けてか、国土中央以南に棲息する魔物とは明らかに異なり、異形の仮面で頭部を覆った魔物が多い。仮面を叩き割るとその内側には体と繋がる血管が通っている。つまり仮面が魔物の体の一部であるような構造となっているのだ。魔物たちは鱗粉の様な毒素の入った金属の粉を撒き散らし襲ってくる。この地に住んでいない覚者や人間はその粉への耐性が無く、触り続けると体が金属にかわってしまう。そのような特性を持つ魔物は「アルケミー」と総称され、対処法や討伐に用いられる戦術はそれ以外の魔物と大きく異なる。そして何よりも覚者が慣れなくてはならない事は、仮面から血液が飛び散る異常な光景に慣れる事とも言われている。

 遭遇する小型の魔物を討伐し、仮面と繋がった眼球や脳梁を踏み越えて、一行は更に護政区へ向かって先に進んでいく。

 

「世界の因果率さえ変えてしまう可能性がある錬金術は、メルゴダの崩壊と共に封印され、その技術の多くも秘術として隠匿されてきた。権力者たちによってね」

 エイミーが苦々しく呟く。今回の遠征も神殿が自ら失った技術を、自らの都合で復活させたいと望むもので、本来なら受けたくない依頼である。しかし、怪我を負ったルルでも軽く扱いやすい武器であれば前線に戻れる可能性がある。また先日仲間になったリィナは武器の流通を牛耳るディアス家の令嬢だ。この二つの要因がエイミーをメルゴダに向かわせた。

「着きましたでありますな。あれが国土最北の礎ですかな」

 先頭を歩くアンジェリナが足を止めて指差す。神事が行われるような厳かな建物の奥に竜力を放つ礎がたたずんでいた。建物はそこで行き止まりと言うよりそれより先が抉り取られたような印象を受ける。豪奢な装飾は盗掘によって剥ぎ取られ、石畳は隆起や陥没があちこちに点在しており整備されているとは言い難い。完全な廃墟となてしまった嘗ての王都の建物だが、その礎には特別な何かが存在しているようであった。

 本来許可が出たので、この礎への転移も神殿から解禁された。だが、転移は半日に一度程度しか使えない。もしもの時の事を考え、エイミーはここまで徒歩でやって来る選択肢を選んだ。全員にその旨を伝え異議は出なかったが、「もしもの時」がどのような事態を表すのか、一行の中に確認しようとする者もいなかった。

 

「よし。ここで夜営の準備をする。食事の準備、仮眠、偵察の三班に別れて行動します」

 エイミーの指示が出ると一行は速やかに行動に入る。不老の覚者と言えど休息や食事は不可欠である。また疲労は集中力の欠如を招く。高い戦闘力と連携を維持するには心身ともにある程度の余裕は必要だ。

「エイミー。待って。人の気配がする。いや、これは人……。それとも人だったもの」

 九人の中で魔力が一番高い魔術師のシェリーが異変を察知し注意を促す。それを聞いた全員が得物を構え警戒する。薄暗がりの静まり帰った建物の石畳を振動が少しずつ伝わってくる。

「何か来るな。人間の重さじゃない振動だ」

 石畳に剣を突き立てファッツは伝わってくる振動を感じ取った。明らかに人間より大きな何かが近づいていることは間違いなかった。

「ルルは後方の礎まで下がって待機。無用な戦闘には参加しないでください。クックはルルの護衛を優先」

 短剣を持っただけのルルと神官のクックが頷き短い階段を駆け上がって礎まで退く。残りの七人で陣形を組んで警戒する。盾を持ったアンジェリナが先頭、その後ろに剣を携えたエイミーとジレディーヌ、ファッツが控え、魔術師のシェリーを最後方に置き、両脇をディビットとリィナが固める。後方からの不意打ちでなければ磐石の布陣である。

 

「しまった。上か」

 エイミーが気づいた時には遅く、頭上から石の塊が降り注いでくる。流石に下敷きになる者は居なかったが、石畳と共に天井を突き破って落ちてきた金色に輝く大型の魔物に一同は驚愕した。着地と同時に衝撃に耐え切れなかった床が悲鳴を上げて砕け、石畳を崩壊させた。逃げる事も叶わず、ルルとクック以外の七人は崩れた石畳と共に更に階下へと落ちていった。

 




獣待ちの空き時間で執筆する荒業(@_@)
やっぱ、1ヶ月くらい書かないと文章が鈍るね。いや、最初からそんな大層な文章が書ける訳でもないんですが…。

WM今回も5000位は確定かな。防具の強化にまだまだ羽は必要です。
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