レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝) 作:岸本 案
昔の事はよく覚えていない。
白竜に心臓を奪われるまで、私は何者であったのか。
何故闘い、そして何処に行こうとしているのか。
誰かお願い。……教えて。
光の壁の中心で盾を構えるアンジェリナに、祈りにも似た自分の声が心の中に響き渡る。目の前には機械仕掛けの大型の魔物が雷の魔法を吹き出し続け、後方には足を負傷したエイミーを治療する仲間がいる。通称「ハンズ」と呼ばれる盾僧兵が作り出す守備の絶対領域は、術士の精神力が継続する限り決して破られる事はない。物理、魔法、状態異常、いかなる攻撃に曝されても光の壁に守られた半球の中に居れば傷を負うことはなく、身を護る術としては万能と言ってよい魔法だ。だが、時間の経過と共に消費される精神力は増大し、通常であれば最大で二十秒程しか展開することができない。神官の回復魔法の力を借りれば、展開時間の延長も可能だが、一行の中で唯一の神官であるクックは、今この場にはいない。魔法の行使が得意なリィナはエイミーの治療に専念している。畢竟(ひっきょう)、アンジェリナは自分の精神力のみでこの状況を乗り切らなければならなかった。
「我慢比べやな。頼むでアンジェリナ」
ディビットは光球の中から矢を射るが、吹き付ける雷の魔法に悉く弾き飛ばされている。ジレディーヌもファッツも光球から一歩でも踏み出せば丸焦げになると判っているので、ゴーレムの魔法が止まるのを待つしかなかった。だが機械仕掛けのゴーレムの魔力は無尽蔵に近い。それ故アンジェリナの精神力が途切れるまでに打開策を考える必要があった。エイミーの治療が終われば、光球の展開を解除したと同時に全員が魔法の範囲外まで避難することも可能かもしれない。だが、治療より先にアンジェリナの精神力が切れるのが先なのは、誰の目にも明らかだった。
「こんな所で、負ける訳にはいかないのであります。自分はまだ何も成し遂げていない。こんな空っぽのまま、自分が誰であるかも解らぬまま倒れるわけにはいかないのであります」
途切れそうな意識の中、アンジェリナは辛うじで自我を繋ぎ止める。
視界が歪み靄がかかる。そこにない景色がアンジェリナの網膜に照らし出され脳に送られる。
今より若いアンジェリナは同じように守りの光球を展開していた。周りには覚者ではなく、薄汚れた服とさえ呼べない布切れを纏った子供たちが泣き叫んでいた。迫りくる何かに怯えアンジェリナの足に抱きつきすがる幼子たち。
「護ると決めたのだ。誰にも傷つけさせないであります」
固く誓い、アンジェリナは精神を集中する。
「お前には何も守れなどしない。穢れた血を継ぐ忌むべき魂を持つものよ」
突如アンジェリナの脳に何者かの声が届く。怨嗟に満ちた声の語尾に狂気が重なる。
「違う」
アンジェリナは叫ぼうとしたが、喉から声が出ることはなかった。
「お前には何も守れなどしない。世界から厭まれた大罪を背負いし魂を持つものよ」
嘲笑うような声は次第に大きくなり、アンジェリナの意識を絡め取ろうとする。
「違う。違う。違う……」
何度試みても喘ぐような息しか吐くことができない。
アンジェリナが閉じていた眼を見開くと、自分の足にしがみついていた幼子の頭が髑髏に変わる。乾いた音を立てて頤(おとがい)を鳴らし、穿たれた二つの眼窩(がんか)から仄暗い紫色を帯びた光が溢れてくる。
「他の誰が赦しても、私だけはお前を赦さない」
髑髏が絶叫しその姿が灰塵に帰す。幻だと言い聞かせながらアンジェリナは奥歯を噛み締めその場から逃げ出したい恐怖に耐えた。精神を集中させるためもう一度眼を瞑る。
「違う。私は咎人ではない……」
「方法はある」
ジレディーヌが低い声で告げる。夢と現を行き来していたアンジェリナは我に還った。明らかに息が上がっている。術式の展開の限界が近い事は間違いなかった。
「アンジェリナ。ハンズを解除してアース・シェイクを発動するまで何秒必要だ」
「待て。この状況でハンズを解いたら全員丸焦げやぞ。どうする気や」
ディビットが当然の疑問を投げ掛ける。その声に耳を傾けず、ジレディーヌはアンジェリナを見つめ続けた。その真摯な眼差しを受け、アンジェリナは意識を振り絞って答える。
「二秒もあれば……」
「よし。ハンズ解除と同時に私とファッツが凌魔の体術で一秒ずつあいつの攻撃を引き受ける。そこへアンジェリナのアース・シェイクで体勢を崩させ術式に数秒間干渉する。後はディビットの弓で弱点を破壊すれば我らの勝利だ」
「そないな無茶な作戦聞き入れられるか。お前ら一秒保つかもわからんやろが」
「ここで言い争っている時間はない。座して待てば全滅なのは明らかだ。他に方法があれば名乗りでよ」
ディビットは唇を噛んだ。前もそうだった。大事な時に自分は何も言い返せない。危険な目に合うのはいつも自分以外の仲間だ。その現状を受け入れてしまっている自分が赦せなかった。
「人の気も知らんと勝手に決めよってからに」
苦々しく吐き捨てたディビットの肩にジレディーヌが手を置いた。微かに震えている手の振動に気づき、ディビットは顔を上げ、ジレディーヌを見つめた。気丈な態度とは裏腹にジレディーヌの額には脂汗が滲んでいた。
「背中は預けた」
ディビットにだけ聞こえる声でそう呟くと、ジレディーヌは剣を構えアンジェリナの傍らに立った。
「私が飛び出すと同時にハンズを解除。すぐにアース・シェイクを発動だ。出来るな」
ジレディーヌの問いに無言を答えとして返し、アンジェリナは息を呑んだ。
「行くぞ」
大きく飛び上がったジレディーヌの後ろ姿を視認して、アンジェリナは盾の構えを解いた。朦朧とする意識の中で再び印を結びアース・シェイクの術式を完成させる。なけなしの力を振り絞ってアンジェリナは楕円形の盾を石畳に突き立てた。
衝撃波と共に大地が鳴動するのを感知した瞬間、アンジェリナの意識は途絶えた。
まさかのインできない不具合発生。もう八時間くらい経ったけど復旧せず。
そんな中、最新話を更新(@_@)
前回の後書きで書いたタイムアタック。結果は12位でした。最高は7位まで上がったんだけど…。残念ながらトップ10入りの野望は砕かれましたが、そこで色んな経験できたから良しとします。
あ、遅れましたが、今年も宜しくお願いします(・ω・`人)
執筆もゲームもほどほどに頑張ります(@_@)