レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝) 作:岸本 案
シェリーの展開した浮遊の術式によって、重力を減殺された大気の膜に包まれたクック、ルル、シェリーの三人は、エイミーたちが落ちた床の穴とは逆方向に口を開けた「地上の傷跡」と呼ばれる大穴へゆっくりと降下していった。流れ落ちる水が作り出す飛沫はお世辞にも心地よいとは言えず、髪の毛から武器の先端までずぶ濡れになりながら三人は足場を探した。
「今、雷の魔法を喰らったら、みんな仲良く感電だな」
ルルが軽口を叩きながら身を乗り出して遥か下方を覗き込む。まだまだ穴は下へ続いているが、雲の切れ間から差す細い光は二十メートル程降りた地点の岸壁に開いた横穴の入り口を照らしていた。術士二人に手負いの覚者一人を倒すだけならこんな搦め手を労する必要もない事は明らかで、罠とは別の何かがあると確信した三人は本体との合流より自分たちの直感を信じて行動を起こした。
浮遊の術式を解除して足場に降り立つ。進入した穴は大人三人が余裕をもって通れる広さがあり、やや上方に向かって傾斜しているようだった。明らかに自然に出来たものではなく、通路として利用するために人為的に掘られたものであるのは、所々に蝋燭を燃やして明かりを採った跡が残されていることが証明していた。通路を奥に進むにつれて傾斜は急になり、通路には壁画が施されるようになった。遥か南方の砂漠の国の文明が遣うヒエロスグリフと言う名の象形文字に酷似した文面と、「アーク」と呼ばれる未知の建造物や「竜」が描かれ、辺りは神事を行う神殿の様相を呈してきた。濡れてしまった火種の代わりにシェリーが炎の魔法で道を照らしながら三人は更に進み広間のような空間に出た。
「ちょっと、何よあれ」
クックが声を裏返して指差す先には、六方をオベリスクで囲まれ、魔術の氷で保存された一人の少女の姿があった。白い装束の少女は両腕を広げ、まるで磔(はりつけ)にされたような姿で氷漬けされ、薄緑色の長い髪は無造作に広がり、頭部は金色の仮面で覆われていた。
「これが、さっきの幻影の正体……」
シェリーが氷柱に触れようとした刹那、広間に声が木霊した。
「その娘は我が新しき憑代(よりしろ)。眠りを妨げること罷りならん」
語尾に殺気が重なり、広間の闇が渦を巻いて実体化し、いくつもの狼の形となる。数秒で群れを成すほどまでの数に増えた影の狼は咆哮を上げて三人に襲いかかってきた。
「シャドー」と呼ばれる肉体を持たない魔物は総じて聖属性の攻撃に弱い。瞬時にクックは刻(とき)の女神の祝福を受けた杖で魔力の光球を放つが、狼の動きはクックの術式の追尾能力を凌駕していた。杖から放たれた五つの光球は悉くが的を外した後、壁に命中して無惨に碎け散った。ルルは軽い身ごなしでシャドーの攻撃をかわしているが、手にする得物は十センチにも満たない短剣だ。とてもではないが、攻撃に転じる余裕はない。
聖属性の術式が使用できない魔術師であるシェリーは相手の動きを牽制する設置魔法を唱えるのが精一杯で、狼を殲滅するだけの魔法の術式を完成させる詠唱時間を稼ぐことができないでいた。
「覚者が三人もいて、揃いも揃って狼ごときに手も足も出ないなんて、ウチらはとんだ能無しって事かしら」
クックが悪態をつきながら諦めずに光球を撃ち出す。肉体がないシャドー相手では魔法が命中しても手応えが少ない。自分の攻撃が果たして効いているか定かではない焦りから、クックは唇を噛んだ。その間にも影の狼は数を増し次々と殺到してくる。
「相手が悪い。ここは一旦退くしかないぞ」
牙の攻撃を短剣で受け止め、飛びかかってくる相手を跳躍してかわしながら、ルルが残りの二人に提案する。
倒せない場合は撤退する。これは覚者に於いては当たり前の事で特に恥じ入る行為ではない。未知の魔物相手の戦闘では用意、準備が重要であり、それを怠れば死が待つのみである。
「何も得ずに退く訳にはいかない」
「ここで見聞きした事をエイミーたちに伝える事が出来れば充分な収穫だ。功を焦ってはいけない」
シェリーの言葉をルルが正論で諭そうとする。頭では解っていても目の前にある氷漬けの少女への不可思議なほど己の執着心が、シェリーに撤退を安易に受け入れられずにさせた。
「違う。アタシは功を焦ったりしてない。あの娘が喚んだから……」
そこまで言いかけたシェリーの足元に、乾いた音を立てて金属片が転がり落ちて一度だけ輝いた。狼の攻撃をかわしながら素早く拾いあげると、それは稀少鉱物で出来た円形の髪止めだった。
「持っていけ、と言うの」
仮面を被らされた白装束の少女を見上げてシェリーは呟いた。
「限界よ。ウチは離脱するわ」
シェリーの返事を待たずにクックが広間を駆け抜けて、先程入ってきた通路と逆の扉を蹴破るようにして魔物の攻撃範囲から逃れていく。その後を追ってルルも離脱していく。二人とも怪我は負っていないようだが、体力は消耗しているようである。
「もう、二人とも……。後で泣きつかないでよね」
捨て台詞と共にシェリーも炎の魔法を目眩ましに使い広間を横切った。後ろ髪を引かれる思いで振り仰いだ少女の表情は、仮面に隠れてやはり窺い知ることはできなかった。
「この娘は我が新しい憑代。我が名はディ……ン……ス。大い……覚……の王な……。我が……活の……は近……」
通路を駆け氷柱から遠ざかって行くシェリーの耳に微かに先程の広間に木霊する不吉な声が届くが、反響と自分の息遣いで明瞭に聞き取ることは出来なかった。
大雪のため早く帰宅できたので更新(゜-゜)(。_。)
前回、今回は明らかなフラグ建ての回となりました。果たして回収するには、あとどれくらいの時間が必要なのか…(@_@)
書きたい話があっても、まとまった時間がないとなかなか書けないんですよねぇ(´・ω・`)
そんな中、先日作中の「シェリー」の中の人に、ゲーム内のアバター名で書いて良いと言う許可を頂きました。今度一斉に代えないとな(@_@)