レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第15章「無力の悔恨」

 薄暗い視界には崩れた天井と、その先にある曇天が広がっていた。

 どうやら気を失っていたようだと自覚するまで、アンジェリナは数秒の時間を要した。回復魔法の効果だろう、限界まで使い果たした魔力は少し戻ってきたようだったが、それでも気分は冴えなかった。仰向けに寝かされていた体を起こし一つ頭(かぶり)を振る。まだはっきりとしない意識の中で、どうやら仲間たちは自分より様態の悪い覚者の回復を行っているようだと確認する。

 

 アンジェリナは気を失う前の状況を思いだし、眼を見開いた。ゴーレムの魔法に飛び込んだジレディーヌとファッツは無事であったのか。そしてあの後、ゴーレムを倒せたのか。確認しようとして辺りを見回した。

 ゴーレムは部屋の中心近くで分解されいくつもの物言わぬ金属の塊に成り果て、電導液を血液のように流して床にその屍を晒していた。どうやら討伐には成功したと安堵したアンジェリナは自分も仲間の回復の手伝いをしようと立ち上がろうとしたが、膝や腰に力が入らず、体の均衡を崩し尻餅をついてそれ以上動くことが出来なかった。

「あら、アンジェリナ。お目覚めですわね。怪我をしている訳ではないから、あなたの回復は後回しですわ。もう少し、そちらで休んでなさい」

「みなさんはご無事であったのですか」

 当然の疑問を口にして、アンジェリナは盾僧兵としての役割を全う出来なかった自責の念に苛まれる。

「大丈夫。全員無事ですわ。あなたは安心して、自分の身を休める事に集中なさい。こちらの回復が終われば、すぐに出立するそうでしてよ」

 リィナにそう言われてアンジェリナはその言葉を受け入れることにした。無理に動いても周りに迷惑を掛けるのは自明であったからだ。肺の空気を入れ替えて自分の手を見つめた。まだ少し疲労感が残る腕を握りしめ、自分の不甲斐なさを悔いた。護ると決めた仲間を守りきれず、戦闘も最後まで見届ける事が出来なかった。

 アンジェリナは、国内では確かに腕の立つ盾僧兵ではあるかも知れない。だが、魔物相手の実戦では、まだまだ修練が必要で、いざ戦いになれば仲間の足を引っ張らないようにするので精一杯であった。敵の注意を引き付け攻撃を引き受け、敵の戦力を分散、隔離する。戦況に応じて属性強化の魔法を仲間に付与する。守備の要として仲間を支え、機を見て攻撃に参加する。アンジェリナは頭で解っていても体は理想通りには動いてくれなかった。

 一般に盾僧兵になる覚者が少ないのは戦闘に於いての行動が多岐に渡り、優先順位をつけるのが難しく、それ故選択を誤るとパーティーが恐慌状態に陥る可能性が高いためだ。個人の武勇を最大限に生かすために盾僧兵は常に最善の選択を求められる。また、盾僧兵の最大の攻撃手段はロッドから放つ魔法であり魔術師並みの魔力と同時に、重い盾を体の一部として振り回す腕力や体力も必要で、誰でもが志願出来る役割ではなかった。

 自分はどうして損な役回りでしかない盾僧兵を選んだのか。思い出そうとして、アンジェリナはやめた。考え事より己の回復の方が、今の状況では優先されるからだ。

  

 座って落ち着いている以外に特にすることがなく、手持ちぶさたのアンジェリナの隣にシェリーがやって来て腰を下ろす。

「そちらもご無事でしたか。良かったであります」

 床の崩落からどれくらいの時間が経過しているか気を失っていたアンジェリナには正確には判らないが、別れていた仲間とも合流を果たせたようで、取り敢えず事態は好転してきたように思えた。とは言えまだメルゴダに到着した訳ではない。禁足地の戸口に立ったくらいのものだ。これから先程より激しい戦闘が待っている可能性は充分に考えられた。

「これ、なんだか解る」

 シェリーが前触れ無くアンジェリナに手渡してきたのは、小さな髪留めだった。静謐(せいひつ)な輝きを放つ、とぐろ巻くように体を起こし、こちらを睨み付けるように頭をもたげる竜の意匠が施された髪留めは不思議な魔力を内在させているようであった。レスタニアに於いて、竜は神と同等かそれ以上の存在として崇められ、同時に畏怖されてきた。それ故、竜の意匠が施された装飾品を身に付けることができるのは限られた身分の者で、一介の覚者や市民には許されることはない。必然として、シェリーが渡してきた髪留めも然るべき身分の者が身に付けていたことが想像できる。

「少し魔力を含んでいるようですが、詳しくは自分にはこれが何なのか見当がつかないであります。ですが、これがなにか」

 感じたままを答えにして、アンジェリナは髪留めをシェリーに返す。その言葉に落胆の色を隠せないままシェリーは深いため息をついた。眠そうに瞼を擦ると立ち上がった。

「解らないなら良い。休んでるところ、邪魔して悪かったわね」

それだけ言うとシェリーは背を向けて他の仲間の所へ行ってしまった。いつもゆったりと構えているシェリーが忙しそうに他の仲間に話しかけるのを見てアンジェリナは違和感を覚えたが、口に出しては何も言わなかった。

「おかしいやろ。いつもは話しかけても答えへん事もあるあいつが、自分から話しかけてくるなんて。余程あの髪留めが気になるらしいな。まぁ、あいつにも興味を持つ物ができて良かったちゅうもんやな」

 同じ感想を持ったディビットが苦笑いしながら近づいてくる。

 このクランの覚者は年齢が近いと言うだけで、生まれも育った国や環境も違う。互いの私生活に過剰な干渉はしないが、時に本音でぶつかり合うこともある。しかし、それは命を預け合っているのだから当然の事だ。少しでも生き残れる可能性が高い戦術を選び、その中で己の役割を果たす為に切磋琢磨する。それを馴れ合いと呼び、単独で行動する覚者も増えているのが現状だ。だが少なくともアンジェリナは仲間と戦う事を馴れ合いとは思っていないし、力を合わせることでより強大な相手に立ち向かえる事も知っている。

 共に戦うのは大事な仲間だと思う代わりに、その仲間から信頼される自分でありたいと強く願った。

 

「お前が気を失ってからの俺の活躍、見せたかったわぁ。まずな、ジレディーヌがこう魔法を受け止めてやな。その後……」

 所々脚色を交えながら熱心に先程の戦闘の結末を話すディビットの姿にアンジェリナは自然と微笑んだ。

「って、お前聞いとるか。なに一人でにやけとるんや。気味が悪い」

「ええ。聞いてますよ。みんなで倒せて良かったであります」

 囁くような声だったが、ディビットにはアンジェリナのその言葉がはっきりと聞き取れた。

「せやなぁ。ほんま、このパーティーで良かったわ」

 一つしかない目を細め述懐するディビットの表情はついさっきまでのものとは別物で、余人には量る事ができない感情が込められているようであった。

 一瞬の後、それを悟られまいとディビットは振り返り矢筒を背負い直すと仲間の様子を見に行く。丁度エイミーたちの治療は終わったようで、アンジェリナに手招きをしている仲間の姿が目に映った。

 

 一つ息をはいてから立ち上がり、疲労感から解放されたアンジェリナは再び盾を背負うと、仲間たちのもとへ向かった。




レリック集めに飽きたので更新。
来週から仕事が忙しくなるんで、少し更新が滞るかも知れません(´・ω・`)

もうちょっと早く更新できれば良いと自分でも痛感している所存です(@_@)
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