レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

18 / 23
第16章「不意の会敵」

 大きく退けぞった後、黒い鎧の大型の魔物はその反動のように前のめりに倒れこんだ。内部機関が活動を停止すると、体の関節部から油の匂いがする白煙を撒き散らして最後に小さな爆発を起こした。

「どうやら、倒したみたいですね」

 エイミーは息を吐き出すと、黒い鎧の魔物、ギガンマキナの亡骸から手際良く機関の一部を構成する漆黒の金属を抜き取った。それから視界の隅に突っ伏している盾僧兵の元に歩いて行く。

「も、もう駄目であります。自分の事は捨て置いて先に行くであります」

 エイミーの到着を待って、絞り出すようにそれだけ口にすると、アンジェリナは鼾(いびき)をかいて眠り始めた。

「なに自分だけサボろうとしてるんだ。マキナの内部機関から取れる稀少鉱物でインゴットができるまで、ボクたちは、メルゴダの入り口で足止めなんだぞ」

 腰に下げた麻の袋から体力回復の薬液を取り出すと、エイミーは気絶したように眠っているアンジェリナの鼻を摘まんで無理矢理飲み込ませる。実際アンジェリナには怪我は無く、只疲労が溜まっているだけだ。苦い薬液を飲み下すと、アンジェリナは体力が回復していくのを実感できた。仰向けに寝転んだまま飲んだので、半分くらい気管に入って吐き出してしまった薬液を拭き取りながらアンジェリナはのそのそと起き上がった。

 その顔には覇気がなく、まるで死んだ魚のような輝きを失った目で落ちている盾を見つけると重い動作で背負い直した。既に三十を越えるギガンマキナを討伐したが、稀少鉱物は一向に集まりそうになかった。

「あの、せめて魔法で回復してもらえないでありますか。朝からガラエキスをがぶ飲みしているので、お腹がたぷんたぷんであります」

 明らかに出っぱった下腹をさすりながら懇願するアンジェリナを無視して、エイミーは次の標的を探している。日が暮れる前に出来るだけ多くのギガンマキナを倒す必要があった。

 

 

 メルゴダに到着したエイミーたちは、領主のベアトリクスの紹介で知り合った錬金術の研究者であるテオドールから交換条件を持ち掛けられた。それは、ギガンマキナと言う魔物から取れる稀少鉱物のインゴットと引き換えに、現存するメルゴダの技術を用いた籠手の生成方法を伝授してもらえると言うものだった。二つ返事で快諾したものの、それがどれほどの苦行であるかエイミーたちは知らずにいた。結果、三日間かけてメルゴダの下層と呼ばれる居住地区に棲息するギガンマキナを根絶やしにする勢いで討伐して回る事になったのだ。

 その間、リィナは工房で錬金術の基礎を学び、ルルは籠手の使い方を一から叩き込まれ、シェリーはメルゴダの歴史書とにらめっこしている。クックとディビットは食糧の確保に向かい、ジレディーヌとファッツが工房の周りを巡回、警護している。

 溢れたエイミーとアンジェリナが素材の調達を任されたのは自然の成り行きであった。尤も、エイミー自身が一番危険な役回りをかって出たのを全員知っていたが、同時に付き合わされるのもごめん被りたいと全員が願っていた。

 

 エイミーが同行者をアンジェリナに選んだのは、盾僧兵がクランで戦う際に最も連携が必要な役割を担うからだ。出来る限り呼吸を合わせて戦いに臨めるよう修練する必要があった。単騎で強いだけではなく、集団の戦闘でこそクランの強さは真価を発揮するのだ。

 相手の懐に飛び込む瞬間を見極め、属性を付与する。エイミーの攻撃の邪魔にならないように敵の注意をひきつける。相手の攻撃が繰り出されるのを予測して拘束魔法を展開し、横倒しになった時に最も効率良く攻撃できる間合いを体で覚えていく。次第に一体の討伐にかかる時間は短縮され、被る被害も少なくなっていくのが実感できた。

 アンジェリナは五十までギガンマキナの討伐数を数えていたが、それ以上は覚えていない。空中に浮かぶ美しい庭園のようなメルゴダの景色を愛でる気にもなれず、過剰な水分を摂取した胃袋を揺らしながらアンジェリナはエイミーの後ろを黙ってついていく。

 

 太陽が西に傾き遥かな雲海に沈もうとしている頃、二人の覚者はやっと必要に足る分量の稀少鉱物を採取することができた。見晴らしの良い草原の木の下で大の字になって倒れこむアンジェリナを横目に、エイミーも腰を下ろした。紅く染まる空と雲を眺めながらエイミーは息を整えた。やはり地上より空気が薄いようだと実感し自分も体を横たえた。

「クランのみなさんは、みんなこうやって連携を深めているのでありますか」

「必要に応じてね。どれだけ強くても、それだけじゃ信用できない。ボクらは一緒に戦う仲間には命を預けている。特に盾僧兵は戦闘の要だ。連携の練習は他のどの武器よりも必要さ」

 平然と言ってのけるエイミーの言葉に辟易しながら、空を見上げたままアンジェリナは嘆息した。

「デイビットもジレディーヌもキミの事は気にかけているみたいだよ。早くクランに慣れてもっと働いてもらわないとね」

「人遣いが荒いクランでありますな。今までこのクランに盾僧兵が定着しなったのが解る気がするであります」

 アンジェリナの皮肉に苦笑いで答えたエイミーは内心驚いていた。最後のほうはギガンマキナを完封と言って良い立ち回りで討伐できた。つい調子に乗って流れに任せるまま戦っていたが、これほど短時間で連携が取れるとは思っていなかったのだ。

 

 その時。

 

 紅い空の大気を切り裂いて一つの大きな影が、かつて王宮があった上層と呼ばれる地区に飛び去って行くのが見えた。雲の切れ間から垣間見る体の大きさは定かではないが、翼膜と呼ばれる背中に生えた羽を大きく広げて飛ぶ姿は……。

「まさか。……あれは竜か」

 二人は飛び上がるように立ち上がり、同じように空を見上げた。ただの竜ではない。あれほど高く空を飛べるのは「魔物」と呼ばれる竜でないのは明らかだった。アンジェリナとエイミーは顔を見合わせ唾を飲み下し、武器を携え仲間が待つテオドールの工房に向かって走り出した。




連休で時間があったので更新。先日推薦文をもらってから初の更新です。
推薦頂けて嬉しいのですが、自分の執筆スピードが上がる訳ではありません(´・ω・`)
お気に入り登録して頂いた皆さんに忘れられない程度に更新して参ります。

ただ、木曜日からWMも始まるし、少し更新滞るかも(@_@)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。