レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝)   作:岸本 案

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第18章「天空の王宮」

 ゴルゴランが棲む王宮跡地は下層に位置するメルゴダの居住区から最も離れた場所にある。今までのように拠点に戻りながらの探索は不可能だ。アルケミーと呼ばれるこの土地固有の魔物を討伐しながらエイミーたち一行は最上層を目指すことになる。

 空は白々しい程晴れ渡り、遥か下方にレスタニアの大地を見下ろすことができた。上空であるにも関わらず風はなく、遠征の出立にはこれ以上ない天候である。

「さて、ボクらより数百年年上の覚者にご挨拶に向かうか」

 エイミーは軽口を叩いて伸びをすると肺の空気を入れ換えた。日差しが有るわりには冷えた空気が気管を通って肺に送られるのを自覚すると、後ろに続く仲間たちを振り返った。みなメルゴダに来てから遊んでいたわけではない。各々修練を積み日々強くなっているのは間違いなかった。

「道中気を付けてな。一兵も出してやれん非礼をどうか赦して欲しい」

 建物の入り口まで見送りに来た錬金術師のテオドールが柄にもなく頭を下げる。流刑のような隔絶した土地に押し込められる原因を造ったとはいえ、彼らにとっては始祖とも言えるゴルゴランに会いに行くのだ。場合によっては敵対する可能性もある。メルゴダの住民を連れていては畏怖が勝ってしまい戦闘に貢献できないおそれがあるため、エイミーは地域住民の同行を敢えて要求はしなかった。ただ、領主ベアトリクスと錬金術師テオドールには事の顛末を詳細に話す事を約束し、王宮地区に入る許可を得た。

 約半日かけて小型の魔物を討伐しながら到着したメルゴダ上層区の中央にある広場から見上げる嘗ての王宮は、現存するレスタニアの神殿とは異なる円柱を組み合わせたような建築様式で所々に金の装飾が施されている。

 天井が見えない程の高さの吹き抜けを持つ内部に侵入した一行は自分たちの眼を疑った。視界のいたる所に等身大の金色の人間の形をした像が無造作に打ち捨てられていたからだ。

「あまり趣味の良い御仁ではないようですわね。そのゴルゴランって方は」

 リィナは眉根を寄せて打ち捨てられた像に眼を遣ったが、断末魔の叫びを切り取ったような剰りにも生々しい表情と手足が欠損している残忍な像もあることから、不快感を露にした。

「金ぴかが好きな所は、お嬢と気が合いそうであります」

 と言う言葉を飲み込んだアンジェリナは像がどれも武具を身に付けている事から別の事を想像した。そう、これは置物ではなく嘗て人間だった覚者の成の果てではないのか。ざっと見渡すだけで五十を越える像は戦いに敗れ金にされた覚者の死体ではないのか。これ程の力を持つ相手が近くにいる可能性がある。格上の相手と対峙するときは盾僧兵の果たす役割と責任は大きい。アンジェリナは背負っていた盾を構えると、その手に力を込めた。同じことを感じた仲間が各々武器を手にした瞬間、一行を立っていられない程の疾風が襲う。風は鼓膜を破るような甲高い獣のけたたましい鳴き声も運び、緊張は一気に高まった。

 レスタニアでもよく目にするグリフィンと呼ばれる魔物が全身に金色の鎧を纏い大きく翼をはためかせながら着地して、優雅とも思える動作で長い首をもたげて敵意を剥き出しにして一行を見下ろす。

「まぁ、分かっていたことやけど、只では会わせてくれへんよな」

 デイビットが真っ先に矢筒に手を伸ばして、矢の雨を降らせる。空を飛ぶ翼がある魔物には空中に飛び上がらせないように戦うことが鉄則だ。先手を打って飛び上がらせるのを防いだのは当然の選択だった。先制攻撃をしてきたデイビット目掛けてグリフィンが巨体を揺らせて突進する。その鉤爪が石畳を蹴る度に金色の燐粉が撒き散らされる。

「ダメ。その粉に触れてはいけない」

 エイミーが叫ぶより早く、デイビットは身を翻して一気に距離をとった。弓遣いは軽装な防具を身に付ける事が多く、決して打たれ強い訳ではないので、ほぼ全ての敵の攻撃に於いて防御する事なく回避を優先する。また最も効率よく弓の威力を発揮できる距離を維持するため、遥か東の小さな国で編み出された「縮地」と言う移動技術を身に付けている。文字通り大地の距離を縮めて一足飛びで移動する手段だ。これを会得すれば、常に弓矢の攻撃を最大限で行使することができると同時に、敵の物理的攻撃を被弾することはまずなくなる。

「頭は押さえるで。矢が切れる前に決着をつけろ」

 正に矢継ぎ早に矢の雨を降らし、デイビットは縮地を遣い神速で移動しながら敵の周りを旋回して、グリフィンが飛び上がる機会を潰していく。攻撃は黄金の鎧に阻まれ効いているようには見えなかったが、グリフィンを大地に留めることには成功している。

「あの鎧を壊すしか、突破口は無さそうだな。と、なれば自分の出番ですな」

 ファッツが大剣を横に構えて全速力で突進する。金属が焼ける音がして、グリフィンの足を守る金色の鎧から火花が散った。突進を止めるとファッツは躊躇うことなく大剣を上方に突き上げたが翼をはためかせたグリフィンはファッツの剣を容易く跳ね返した。

「アルケミーにはアタシの魔法は効かない。悪いけど、魔力は温存するわ」

 メルゴダに棲息する多くのアルケミーと呼ばれる魔物の弱点は聖属性であり、固有魔法で聖属性の攻撃手段を持たない魔術師にはアルケミーは天敵であると言えた。シェリーは無理をせずに後方に下がって、討伐を仲間に託した。

「聖魔法ならこのクックさんにお任せね」

 普段攻撃に参加する事が殆どない神官のクックだが、杖から放たれる聖属性を帯びた光球は命中する度にグリフィンの鎧に傷をつけていった。その間アンジェリナはグリフィンの注意を引くようにロッドに光を灯し、相手を壁際に誘導していく。

 これだけの手練れの覚者が集まれば例え初見の魔物だろうと、個々の武勇に任せて力で押しきることができる。エイミーは仲間の連携を頼もしく思い、勝利を確信した。

 しかしそれは予知と言う能力を持たない覚者の奢りでしかなかった。




もはや、誰しもが忘れているであろうところに投稿(´・ω・`)何ヵ月ぶりかは作者でも分かりません。
ですが、ちゃんと生きてますよ。
最近仕事も忙しく、何よりゲームする時間を優先するため更新が滞りました(@_@)
今週はwmもなく、イベントと言う名のゴミ拾いは積極的には参加しないので、執筆する時間が久々にありました。
誰だ?この読み物始める時に週1で更新するとか言ってたのは…

話は変わりますが、大雨に見回れた西日本の方々の生活が一日も早く元に戻る事を心からお祈りします。

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