レスタニア解放戦記 (ドラゴンズドグマオンライン外伝) 作:岸本 案
グリフィンアルケミーが後ろ足で体重を支え、前足で虚空を掻き毟る。
覚者たちに少しずつ金色の鎧と、その鎧に守られた体を傷つけられたグリフィンの怒りが頂点に達した。喉の器官から覚者の三半規管を揺さぶる鳴き声を搾り出すと、全身の鎧が赤い輝きを放ち大気を鳴動させる。すると、ほんの数秒その場から退避しなかった覚者がいた床に設置魔法が発動した。闇を切り取ったような黒い波動は円を描き石畳に黒い渦を作り出すと、その禍々しい渦を覗いた覚者の視覚を一時的に奪った。
油断していた訳ではないが、初見の魔物はどのような攻撃手段を持っているかわからない。特に大型の魔物は生命の危機を感じたときに発する最終手段を持っているものも少なくない。レスタニア本土にいるグリフィンは魔法攻撃をしかけてこないので、アルケミーとなっても魔法を行使する事はないとどこかで信じていてしまった。戦場ではその一つの思い込みが生死を分けることもある。
「しまった。深入りしすぎたか」
エイミーは軽い身ごなしで床に広がる黒い渦をかわしていく。しかし、数人の仲間は視覚を奪われているようだ。人間は外部からの情報の八割近くを視覚から入手していると言われている。残された二割で未開の地で自らに迫る命の危機を脱する事が出きるか。
答えは否だ。
弓の雨が止んだ一瞬の隙をついて大空に飛び上がったグリフィンが視覚を奪われ地上をさ迷う獲物に狙いを定め、勝利を確信して身を捩らせた。
「眼が見えなくなった間抜けはアタシの所へ来なさい。ルル、アンジェリナ。その間はアンタたちがあの魔物を引き付けるのよ」
後方で支援をしていたクックが大声を出して戦場の中央に向かい、状態異常回復の術式を完成させる。クックを中心に青白い光球が広がり仲間の危機を救おうとする。だが、回復魔法の術式の発動に魔物は敏感に反応する。魔力を高める為のローブしか纏っていない神官は物理的な防御力は皆無だ。その上、術式の展開中は完全に無防備になる。大型の魔物による必殺の一撃を喰らえば、全身の骨が砕けて内蔵をぶちまける事になるのは必至であり、そのような経緯により命を落とす事例も数多上げられている。戦場の中心で回復魔法を展開するのは命を投げ出す覚悟と、仲間との絶対的信頼関係の双方が求められる。
「あの馬鹿。ソリッドもガドビも展開しないで。流れ弾でも当たったら即死するぞ」
ルルは舌打ちしながら左手に填めた籠手に意識を集中した。ソリッドとは覚者の耐久力を高めて転倒や風圧から身を守る術式で、ガドビとは術者の身代わりとなって攻撃を受ける魔法の依代を展開する術式だ。どちらも覚者の間で使われる略称であるが、正式な名称で呼ぶものがいない程、略称のほうが広く認知されている。そしてそのどちらもが、神官を守る命綱なのだ。
「アンジェリナ。ハンズを展開してクックと回りの連中を守れ。アイツは私が引き受ける」
ルルは籠手の力を解放した。飛び上がったルルの直下に目に見えない反重力の力場が形成され、身を捻った反動を使ってルルは更に飛び上がると翼を持ったグリフィンと同じ高さにまで達した。ルルが籠手が填められた腕を振ると何もなかった空中に錬成物質と呼ばれる金属が産み出された。
無から有を造り出す。これが錬金術の基本だ。
産み出された角柱状の錬成物質は怪しい輝きを放ちながら連なって大きな円を空中に描いて回転する。ドルスと呼ばれる錬成物質の罠は地上に狙いを定めていたグリフィンの注意を一気に引き付けた。標的を変更して罠に突進してきたグリフィンの動きを錬成物質が戒め鈍らせる。それを見届けたルルは跳躍の落ち際に左腕を大きく突き出すと、上方のグリフィン向かって錬成物質を放出した。確かな反動が腕を伝わり、錬成物質は空中で罠に掛かったグリフィンの身体中に命中して、みるみる肥大していく。「空中に飛び上がった魔物には覚者は不利」と言う定説を覆すほど、一瞬でルルはグリフィンを手玉に取ってみせた。永くメルゴダで封印されてきた秘術はレスタニアの覚者ルルと言う遣い手を得て、その真価を発揮しようとしていた。
「すごい。あれが錬金術の本当の力でありますか」
ハンズを展開しながらアンジェリナは上空を見上げた。レスタニアにも籠手を遣う錬金術師はいるが、動きの軽やかさと物質の錬成量が比べ物にならないほどの違いであった。
「リリース(解放)」
着地したルルは右手の指を鳴らした。それはグリフィンの体に付着した錬成物質を起爆させるエリクシルと呼ばれる錬金術師の攻撃手段だ。眩い光と爆風を巻き上げて錬成物質が起爆して、遂にグリフィンの体を守っていた強固な鎧を瓦解させた。同時に錬成物質に予め練り込まれていた睡眠の術式が作動して鳴き声も発することができずに空中でグリフィンは意識を失った。他のアルケミー同様に鎧は血管でグリフィン本体と繋がれており、砕けた鎧からは暗褐色の血液が飛び散った。
盾僧兵とは異なる方法で敵の注意を引き、状態異常を起こす。空を舞う様に戦う錬金術師のその姿はアンジェリナにとって驚愕であった。
「落ちてくるぞ。全員攻撃用意」
エイミーが声を張り上げる。視覚を奪われていた仲間も回復し、各々武器を構えてアンジェリナの展開したハンズの光球から躍り出る。地上に落ちた有翼の魔物は覚者の格好の餌食でしかない。墜落の衝撃で目覚めたグリフィンは体勢を建て直そうとするが平衡感覚は失われており、人間の胴周りほどもある四本の四肢で空を掻き毟る事しかできなかった。我が身を守る必死の抵抗だが、鉤爪の届かない無防備な背中や頭部を覚者は狙う。残忍で無慈悲な攻撃が鎧を失ったグリフィンの体に叩き込まれる。一振り、一突き毎に確実に相手の生命力を奪う攻撃は躊躇うことなく続けられる。それは覚者自身の命を守る行動にもなるからだ。
再び立ち上がり空へ飛び上がる事なく、グリフィンはその亡骸を大地に晒した。
流れ出た魔物の血の臭いが部屋中に満ちて、覚者たちは未踏の地での強敵からの勝利の喜びと血の臭いに酔いしれた。
お盆の連休を使って更新(´・ω・`)
今回は何故かTAをやる気が全く起きず、ダラダラとアプデを待っております(゜-゜)(。_。)
シーズン4があることを願って、自分もゲームと執筆頑張ります(@_@)